F1カメラマン熱田護の「気合いで撮る!」

特別編:こまっちゃんに聞いてみよ~! 第2回

 皆さま、お待たせしました! 先日、こまっちゃんに聞いてみよ~!の第1回をお届けしましたが、その第2回をお送りします!

 今回も濃厚な質問&回答がたっぷりです。ぜひじっくりお読みください!


渡邊宗誉さんからの質問

 300km/hを越える世界で自分の手足ではないクルマを手足のように操り技術を競い合うスポーツにおいて、トップドライバーが持つ何者にも負けない一番の強み・資質ってどんなことでしょうか? 私は「若さ」ではないかと思っております。若さがもたらす、パワー、メンタル、フィジカルは経験も凌駕するものであると30歳ながら感じることがあるからです。F1の最前線でエンジニアとしてさまざまな状況や情報を肌で感じている小松さんから見る、F1ドライバーの中でもトップに君臨するような人が持つ強み・素質とはどのようなものであると感じますか?

小松さん:若さは必要だとは思うけど、若さが全てを凌駕するとは思えません。今年のフェルナンド・アロンソ選手を見てください。すごいですよ!

 2006年、17年前に一緒に仕事をしたんですけど、今でも恐ろしくすごいじゃないですか。フィジカルはもちろんある歳を越えたら落ちてきますが、メンタルに歳は関係ないですからね。

 フェルナンドの何がすごいかというと、やっぱり技術、メンタル、今までの経験値を全部活かしていますよね。ドライバーというのは、総合力だと思うんです。技術的な運転能力というのは最初から高くないとお話にもなりません。純粋な速さというのは教えられるものではないので、資質として持っていなくてはなりません。F1の世界で通用するドライバーであれば、あとはどれだけ本当に好きでやっているか、どれだけハングリーでやっているのかだと思います。

 F1に来て、派手で、お金が潤沢にあって、見た目がよくて、フワフワした世界でやっているのか、それとも本当にレーシングが好きなのかという違いで大きく差があると思います。

 フェルナンドってよくないところはいっぱいあるけれども、ドライビングはもちろんすごいし、やっぱり彼は好きなんですよね。だからあの歳になってもあのパフォーマンスを出せるわけですし、ときには乗っているクルマ以上の成績を収めるわけです。

 このレベルまでくると天性の才能だけでは勝てません。全てを出し切る、もっと速くなるためにどれだけ努力しているのかが違いを生みます。今いるF1ドライバーたちの中でどれだけの人がレースウィークエンドで自分の能力の100%を発揮するために全てをつぎ込めているか。そんなに多い人数ではないと思いますよ。

 マックスなんかにしてみても、僕は全く接点ありませんけれど、能力はピカイチ。速さも、ハングリー精神も同じく群を抜いている。引かない精神力も素晴らしいです。同時に、シムレーシングをやっている姿を見ると、オタクで好きでしょうがない感じがあふれているじゃないですか。だから全てのパッケージなんですよね。

 F1にまで来るようなドライバーは、全員すごい能力を持っているんです、そんな強豪ひしめく中で相手を倒し上を目指すには、常に努力を怠らないということ。そしてその努力を楽しめるドライバーではないと結果は出せないです。

ニコたくみんさんからの質問

 ハースとニコが見せつける驚異的な一発の速さのように、F1レース現場で瞬発的に物事を決断するプロセスで意識すること、「決断の流儀」があれば教えてください。

小松さん:全てのデータ、数字で出ることはなるべく多い方がいい。でもそのデータの質もありますよね、集まってくるデータの中で切り捨てるものもあります。切り捨てるためには自分の経験値から決めるわけです。

 目の前にあることを全身全霊で把握し、目の前でこの瞬間に起こっていることを見て、瞬時に判断を出す。余計なことを考えないで自分の直感を信じる。直感と言うと誤解があるかもしれませんが、例えば先日のモントリオールの予選で、ニコをピットに入れるタイミングもあれ以上遅らせられないと思いました。でもそれが100%正しいかとその瞬間に聞かれれば、それは100%とは言えません。なぜならば10秒後の雨の状況など誰にも分からないから。だから、その瞬間に何が白黒ついているのか、どこがグレーなのかを認識して、そのグレーなところは自分の経験値を総動員して、最後は直感です。

 もちろん、データの量が多くて正確なほど判断は簡単です。逆にデータが少なく信用性が低い場合は当然難しくなってきます。

 流儀と言うならば、余計なことを考えないで、とにかく全身全霊で目の前に起こっていることだけに集中し、結果を考えないでやることです。結果なんて考えては、ダメです。結果なんてあとから付いてくるものですから。そのときに正しいと信じたことをやるしかないんです! 前にも書きましたが、結果を考えて失敗した例が去年の日本GPです。

ハムさんからの質問

 クルマをセッティングする上で理論上のベストなセッティングとドライビング方法、ドライバーの好みのセッティングとドライビング方法がそれぞれ異なってしまう場合が出てくると思います。そういった場合はドライバーにドライビング方法の指示を出してドライバーがクルマに合わせた乗り方をするのか、クルマをドライバーの好みに合わせたセッティングにしていくのかどちらなのでしょうか。フリー走行などでどのように最適値を導き出してレースに挑まれるのか教えてください。

小松さん:これも先ほど話したのと同じで、白黒ではないんですね。クルマを合わせるのか、ドライビングを合わせるのかというのは、どちらかではないんです。どちらも必要なんです。

 このクルマが理論上ベストだから、君はこのクルマを運転してタイムが出ないとダメだとか、チームメイトがこのクルマでこのタイムを出しているんだから同じことができなきゃダメだとかっていうのは違うんです。

 逆に、ドライバーの意見だけでクルマをセットアップするとかえってクルマを遅くしている場合が多々あります。だから重要なのは、いい妥協点を見つけるということです。

 セットアップというのは全て妥協の産物なんです。これはハッキリ書いた方がいいと思うんですけど、セットアップって何かをよくすれば、絶対何かがわるくなるんです。

熱田:おお~~、面白そうな話だぞ!

小松さん:例えば、高速コーナーでアンダーステアが出ています。じゃあ、空力バランスを前寄りにしたいです。ではそのようにセットアップを変えます。結果、もちろん高速コーナーではアンダーステアが減ります。

 同時に、空力バランスが前寄りになるということは、高速でブレーキングのときの安定性が減ります。横Gがかかったままのブレーキングではリアが不安定になりやすくなるわけですからね。

 もし高速コーナーで0.3秒ロスしていて、エアロバランスを変えて0.2秒速くなっていれば、たとえブレーキングのロスが0.1秒あったとしても、これはいいセットアップ変更だったということになります。

 何かを変更すれば必ずどこかで失うものが出てきます。1か所の変更を加えることで、全てがよくなるということはありえないんです。ですから妥協なんです。

 また、シミュレーションで、あるサーキットで最適なセットアップを見つけたとします。でもそのセットアップをそのままドライバーに与えるのが正解ということはほとんどありません。自分の行なったシミュレーションの仮定や限界をしっかりと把握した上で、ドライバー自身の特性を考慮しなければ総合的に速いセットアップは導き出せません。

 例えばどんなにシミュレーションで速いセットアップでも、それでドライバーが自信を持って走れなければクルマの限界には近づけません。そのドライバーに自信を与えるためにはどういうクルマが必要かということを理解していなければいけないんです。ドライバーによってブレーキの踏み方だったり、アクセルの踏み方、ステアリングの切り方が変わってきます。そうするとおのずから必要となるセットアップも違うんです。

 ドライバーとマシン、その両方が必ず要素として入ってくる、そのときには相容れない2つの要求の中で、どれだけ一番いいスポットを見つけられるのか。それにはやはりエンジニアの経験値が重要になってくるわけです。なぜなら、データだけでは見切れないことが多々あるからです。

 いい例があります。昔、ロマンの要望でセットアップの変更をしたことがありました。僕も了承してメカニックに伝えて同意したセットアップの変更をして走り出したんです。

 そして彼は素晴らしいタイムを叩き出しました。しかし直後にメカニックから僕に、指示したセットアップと違う仕様にしてしまったという謝罪がありました。ロマンは、クルマから降りて、超笑顔で「変更は大正解だったろ!」って言うんですが、いや実は……ということもあるんです。

 ロマンは、走り出したとき、クルマの感触がよかったんでしょう。それが自分の考えたセットアップ変更がよかったと思って、さらに自信にもなったわけです。結果、いいタイムが出ました。その自信に起因するタイムのゲインは、シミュレーションでは出ないですからね。

 ですからシミュレーションで出るベースセットアップを基本にして、そのドライバーに合わせたクルマをレースエンジニアが考え用意して走り始めるということになります。

てらやんさんからの質問

 F1の世界は欧州のものだと思いますが、小松さんがチームに所属してからこれまでに日本的なやり方などを取り入れたりして改善したりしたことはあるのでしょうか。

小松さん:それは意識的にはないですね。そもそも、日本的だとか欧州的だとかという、そういう感覚は僕の中にはないです。

 目の前に起こっている事象を見て、なぜうまくいかないのだろうと、一生懸命考えてその解決方法を探すということ。そこに日本式、欧州式、南米式などないわけですよ。

 僕は国際的なことをやりたくてこの世界に来たので、仕事の進め方を国別で分けることがナンセンスだと思います。もちろん、国民性っていうのはあります。フェラーリの仕事の仕方はイタリアの国民性とは切り離せません。それでもやはり「じゃあ日本式にやろう」とか考えるというよりは、「この問題を解決するにはどうしたらよいだろう」とシンプルに考えています。

 もちろん、その際、関わっているメンバーの人となりは考慮しますよ、でもそのときに何人だからとくくることは僕はしません。

ゆにゃさんからの質問

 鈴鹿に戻ってきたときから食べたくなるものって何ですか?

小松さん:(超笑顔で!)やっぱりお寿司屋さんのお寿司と、いつも行く料理屋さんの日本食ですね。鈴鹿はお魚おいしいですよね。秋で新鮮なサンマはハラワタも食べられるし(笑)。

 でも、僕はどこに行っても、その地元のものを食べたいんですよね。一番信じられないのは、日本人でどこに行っても日本食を探す人とか、イタリア人でどこに行ってもスパゲティを食べている人。ドイツに行ったらソーセージを食べればいいし、オーストリアに来たらウインナーシュニッツエルを食べればいいと思うんだけどなあ(笑)。とにかく、僕の楽しみはそれぞれの地元特有で旬なものを探して食べることです。

はやたろーずさんからの質問

 戦う中で思い通りにならないことや悔しいことがあったときに、頭や心の切り替えをしないといけない場面もあると思いますが、どのように心がけていますか? 普段から実施されているメンタルトレーニングはございますでしょうか。

小松さん:メンタルってすごく重要だと思うんです。僕が物事がうまくいくとき、いかないとき、いろいろ考えてみると、突然今までできていたことができなくなるわけないし、逆もそうですよね。もちろんフィジカルの影響もあるけれど、メンタルの影響は大きい。

 ですから心がけているのは、いい意味で自分がメンタル的にどういう状況なのか、自分が何を必要としているのかということを把握することです。

 体と精神て、つながっていると思うんです。自転車に乗ったり、走ったり、クライミングしたりします。とくにクライミングしているときには、ほかのことは何も考えられなくなります。目の前の課題に100%集中していないと、自分ができるはずの課題もクリアできなくなりますからね。焦っていてもダメですし、フラストレーションがたまっていたりしてもダメです。

 そういう意味でもクライミングはメンタルをリセットするのに非常に役に立っています。もう3年くらいクライミングをやっています。レースで全てを発揮するためには、レースのことを忘れる時間を作ってリフレッシュするのが僕には必要です。そのためにクライミングが僕にとっては大事なので、どんなに忙しくてもやるようにしています。

 ちょっと矛盾しているととられるかもしれないけれど、僕は自分で自分の限界を決めてはいけないと思っているんです。なぜなら、やれると思ってないと絶対やれないわけですから!

 でも、仕事は山のように目の前にあるわけじゃないですか。でもずっと続けていれば、どうしてもその効率は落ちてくる、ハッキリと物事を考えられなくなる。そこで自分の限界をいい意味で把握していれば、自分をリセットしなければいけないと認識して、それなりの行動をとることができる。そこで切り替えることができれば、次に万全な状態で向かえますからね。

 逆に、例えばF1を仕事にしたいと考えている人がいたとすれば、いろいろ考える前に、根拠のない自信を持って行けと思うんです。

 ですからいい意味で自分の限界を知るということも、挑戦をしたいことに対しては自分で限界など作ってはいけないというのも、どちらも大切だと思うんです。矛盾しているように聞こえるかもしれないけれど、何ごとにも二面性があるということだと思います。どう思います?

熱田:う~ん、多くの人は、そうと分かっていても、一歩踏み出せない、現状で十分と言い訳をしてその勇気が持てないという人は多いと思うけどなあ。

小松さん:言い訳っていくらでもできるとは思うんだけど、人生って一度きりじゃないですか。だから何でもやりたいことがあったらやってみればいいと思うんです。たとえ失敗したとしてもそこから学べることは多いわけで。

 僕は好きでこの仕事をやっています、少しでもこのハースというチームをよくしようとしています。昨年もあの鈴鹿での大失敗があって、その後にかなりいろんな面で考えさせられました。幸いだったのは、よい友人に助けてもらえたことです。それでもう一度、切り替えてスイッチを入れ替えて、次のレースに臨み、ポイントを獲ることができたわけです。

 とにかくやりたいことに、一歩踏み出さないなんてもったいない! みんなに可能性があると思うので。

河本功史さんからの質問

 ブリヂストンがタイヤサプライヤーに入札するという報道が見受けられますが、仮にピレリとのタイヤ競争がありえるとしたら小松さん的には歓迎でしょうか? また、ハースのクルマに合わせるならどちらのタイヤで戦いたいと思われますか?

熱田:ハッキリ言いましょう。

小松さん:ハッキリ言いますよ、全然相手にならないと思う。ブリヂストンでしょ!

 僕はタイヤ戦争のときにミシュランともブリヂストンとも仕事をしてきましたが、とくにミシュランとは2年間びっしりやりました。

 ミシュランと仕事しているときはとにかく楽しかったですね。解析方法もいろいろと開発して理論的に理解を深めようと努めていました。そうやって開発した解析方法で方向性を決めて、テストして、レースタイヤを選んで、最終的にチャンピオンを獲れたときはホントに嬉しかったです。

 また、外からの見た目で言うと、ブリヂストンはとにかくいろいろなスペックのタイヤを用意して取捨選択をしながら戦うという印象でした。

 そんな2社と仕事をしてきたあと、ワンメイクになってからですがピレリと仕事をするとやはりちょっと物足りないですよね。そんなこともあって僕は自分のクルマに付けるタイヤは、ほぼミシュランかブリヂストンに決めています(エキシージのセミスリックは特別に横浜ゴムのいいのがあるのでヨコハマですが)。

 ただ、レギュレーションで供給は1社になるわけなので、タイヤをハースのクルマに合わせて作るのではなくて、そのタイヤに合わせてチームがクルマを作るということになりますね。タイヤ戦争だったときには、ミシュランはルノーのためにタイヤを作り、ブリヂストンはフェラーリのためにタイヤを作っていました。ですからルノー対フェラーリの構図しかありえなかった。とんがっていた時代です。だから面白かった。その中でルノーのタイヤエンジニアとして戦えたことは今ではとてもいい思い出です。

ティフォシさんからの質問

 レースウィークで一番楽しい、または面白いことはなんですか?

小松さん:僕は雨の予選が楽しい!

 理由は、レッドブルやフェラーリにドライでは勝負にならないけれど、雨であればこちらがうまくやれば、クルマの実力以上の結果を得られる可能性があるから楽しいですね。去年はそれでブラジルでポールを獲れました。最高でした。

 僕は、予選の緊張感、短期決戦の凝縮されたプレッシャーが大好きです!

ライトさんからの質問

 セットアップについての質問です。よくメディア上では「持ち込みセットアップが外れた」と見かけることが多いですが、実際に想定して持ち込んだセットアップが外れた際は持ち込んだものをベースに徐々に修正するのでしょうか? それとも思い切って振り切ったセットアップを試してみるのでしょうか。

小松さん:それはどれくらい持ち込みセットアップが外れているかによりますよね。

 FP3に入るときには、セットアップが決まっていないといけませんから、実際にはFP1とFP2で決めなくてはいけません。その2時間のセッションが終わったあとの夜に決めることになります。

 まずはFP1の走り出しを見て、セッション中でやれる変更をかける。FP1走行後に問題の深刻さによってどれくらい大きく振るか・方向性を変えるか決めて、FP2で走ります。そして最後に大きく変えられるチャンスは金曜の夜なので、ファクトリーのエンジニアたちも動員してできるだけ解析・検討を重ねます。

ライトさんからの質問

 初めて今年からヒュルケンベルグ選手が加入されました。予選での一発の速さは驚くべき結果と認識していますが、決勝のペースが上がらないのはマシンの問題なのでしょうか? または、タイヤの変化にまだ対応しきれていないから後半戦は改善できる見込みなのでしょうか?

小松さん:ドンピシャな質問だと思います。クルマがよくないですね。

 予選でクリーンエアで走って、ドライバーが100%で走れば速いのですが、とがったクルマなので、レースの状況によって前にほかのクルマがいるような状況で自車のダウンフォースが減るとタイヤの劣化が進んでしまうことが原因です。

 さらに、ヒュルケンベルグ選手のレースにおけるタイヤマネジメントがまだよくないということも大きくあります。クルマの方は、夏休み以降のアップデートで改善する予定です。


 皆さんの質問に、隠すことなく答えてくれる小松さんに感謝すると同時に、こういう話を聞けるとチームもドライバーも必死でクルマを開発し、上を目指して戦っているのだと身近に感じてもらえると感じました。

 今回の質問コーナーへの応募ありがとうございました、応募いただいた方の中から、日本GPガレージツアー当選者を発表したいと思います。

熱田 護

(あつた まもる)1963年、三重県鈴鹿市生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1985年ヴェガ インターナショナルに入社。坪内隆直氏に師事し、2輪世界GPを転戦。1992年よりフリーランスとしてF1をはじめとするモータースポーツや市販車の撮影を行なう。 広告のほか、「デジタルカメラマガジン」などで作品を発表。2019年にF1取材500戦をまとめた写真集「500GP」を、2022年にF1写真集「Champion」をインプレスから発行。日本レース写真家協会(JRPA)会員、日本スポーツ写真協会(JSPA)会員。