まるも亜希子の「寄り道日和」

「実効空力」を体感するデバイスの手作りに挑戦

まさか自分の愛車・MINIクロスオーバーでこんなにかっこいい走りの写真を撮っていただける日がくるとは、夢にも思わなかったんですが(笑)、ホンダアクセスの実効空力ワークショップで、テストドライブをしてきました

 自転車レベルの速度でも空力効果はしっかり実感できることを提唱し、さまざまなModulo(モデューロ)パーツやコンプリートカーのModulo Xに取り入れられている、ホンダアクセスの「実効空力」。それを実際に体感できるワークショップが新人・若手ジャーナリストおよび編集者に向けてモビリティリゾートもてぎで開催され、私も参加してきました!

「お前、新人じゃないだろ〜っ」というツッコミが360度から聞こえてきましたが(笑)、ごもっともでございます。でも、いつもModuloのイベントでMCを務めさせていただいている身として、あらためて勉強させてもらってより深く理解することが、もっともっとお客さまに魅力を伝える助けになると思い、恐る恐る参加させていただいたというわけです。

 この日、一緒に参加した若手ジャーナリストの皆さんは、人懐っこくてやる気にあふれている自動車ジャーナリストの西川昇吾さん、クルマもいじれるリケジョでMCもこなす矢田部明子さん、車中泊で日本一周などチャレンジングな自動車系YouTuberの黒木美珠さん、現役大学生でベストカー編集部に所属する大坂怜央さんというフレッシュなメンバー! 楽しい1日になりそうな予感です。

 まず最初は座学として、ホンダアクセスのエアロパーツの歴史を振り返りながら、実効空力が生まれた背景やその進化を、Modulo開発ドライバーの土屋圭市さん、元Modulo開発統括の福田正剛さん、各種実効空力デバイスの開発に携わっていた岩沢勇夫さん、CIVICテールゲートスポイラーの開発に携わっていた小野内唯人さんのお話とともに勉強しました。「クルマはバランスで走るものである」という考えのもと、実効空力によって4つのタイヤとサス本来の性能を最大限に引き出すことで、あらゆる路面で安定したしなやかな乗り味と、意のままに曲がれるHonda車らしい“FUN"を目指す。そのために、高鷲テストコースや郡サイなどの走行テストで何度も何度も試行錯誤して作り上げていくプロセスは、いつ聞いても感心するエピソードです。座学のあとの“ワイガヤ”ことディスカッションでは、熱心に質問していたのが矢田部さん。やはりメカニズムへの探究心がすごいなぁと感心しました。

ホンダアクセスOBで元Modulo開発統括の福田さんに見守られながら、シェブロン形状の実効空力デバイスを手作り中。クルマへの愛情があっても、手先が器用でないと開発は務まらないかもしれませんね……

 そして、いよいよ実効空力ワークショップの時間です。机の上には、ハサミ、カッター、定規に加えて……ギザギザの模様が描かれた謎の板が3枚? これは、実際にホンダアクセスの開発現場で行われている作業の一部を体感してもらおうという企画で、謎の板は「スチレンボード」というそう。なんでも、シビックのテールゲートスポイラー(ウイングタイプ)にも採用された、シェブロン形状の実効空力デバイスも最初はここからスタートしたというんですね。エンジニアの皆さんの経験から、1辺が30mmの正三角形で厚みは5mmがベストということが導き出されているので、私たちはまずカッターを使ってその形に切り出していきます。本来ならここにたどり着くまでにも相当な時間と労力を要するのだと想像すると、開発現場の過酷さがじんわり伝わってきますよね。

危なげな手つきでカッターを使い、なんとか切り出したシェブロンに色を塗って完成! この3枚を愛車のどこに貼ろうか、考えるところから始まります

 手先の不器用さを自覚している私はさっさとカッターで切り出しを始めたのですが、いや〜、3枚終えるだけでもけっこう大変。ちょっとガタガタになっちゃったところもあるけど、福田さんから「それでも大丈夫」とお墨付きをもらったので安心して色付けに入りました。せっかくならカラフルな方が楽しいかなぁと思ったのですが、若手の皆さんは誰も色塗りはせずシンプルな方が好みのようですね(笑)。

 昼食をはさみ、いよいよテスト走行開始です。まずは、Moduloのイベントでも好評の比較試乗プログラムとして、シェブロン形状の実効空力デバイスをリアウイングのあたりに貼ったN-BOXと、ノーマルのN-BOXを運転席と後席の両方で体験しました。そして今度は、先ほど手作りしたシェブロンを自分のクルマに貼って、実効空力を試します。私はいつも乗っているクルマの方が違いが分かりやすいと思い、MINIクロスオーバーで行ったのですが、夫にこの取材でMINIを使うことを言い忘れていたため、ちょうどタイヤ交換したあとのタイヤが積みっぱなしになっているではないですか。自分では重くておろせないので、仕方なくそのまま試すことに。もともとルーフボックスはついてるし、「こんな状態でも実効空力って効くのかしら」と一抹の不安がよぎります。

手持ちの3枚のシェブロンでトライしたのはここ。貼り方にもコツがあって、なるべく車体との段差ができないよう、継ぎ目を養生テープでふさぎます。風が流れていく方にとんがっているところを向けるのもお約束

 この愛車での体験では、空気が大きく流れるところを予想しつつ、自分が「ここなら効くのでは」というところに自由に貼って、何度も試すことができました。私はまず、リアウイングのところに貼ってみようと思っていたのですが、福田さんにアドバイスを求めたところ、「そりゃ、まずルーフボックスの後ろでしょう」とひとこと。えーっ、そうなのと思いつつ、一度ノーマルの状態で走行したあと、ルーフボックス後端にシェブロン1枚を貼って同じコースを走ってみたのです。

 するといや〜、びっくり! パイロンのまわりを旋回する区間で、ノーマルでは外に外にふくらもうとしていたフロントが、内側にスッスッと入るようになったではないですか。ここに貼っただけで? ウソでしょ? と、たぬきに化かされたような感覚です。続いて、リアウイングのところにも左右に2枚、貼ってみました。するとまたしても! 先ほどの旋回性のよさがさらに顕著になり、重さと重心の高さのせいで失っていた、MINIらしいゴーカートフィーリングが戻ってきたではないですか。またしてもウッソでしょ? と口アングリ。福田さんがしてやったりとばかりに、「まだまだやれるよ」とささやいてきます。なんと、切り出したときに余った三角形を、左右のサイドミラー上に貼れというのです。

 こうなったら私も欲が出てきまして、MINIがどこまで変わるのか見届けたいと鼻息荒くなってきますよね。いざ、サイドミラーに貼って走ってみると、ウッソー、今度は音が静かになっているんです。車内に入ってくるエンジン音やタイヤのパタンノイズなんかが、控えめになっていると感じました。福田さんいわく、人の耳に不快な高周波が消えるということなんですね。いやはや不思議ですよね〜。

 さらに「師匠、次はどこでしょう!」とお伺いを立てると、フロントスポイラーの下かなということで、おかわりのシェブロンを2枚追加。もう、わんこシェブロン状態になってきましたが(笑)、走ってみると今度は4輪がしなやかに接地する四駆らしい上質な乗り心地に変化。凹凸の乗り越しでドタバタしていたところも、一発で収束するようになりました。

 ここまで書いてくると「コイツ、どこまで大袈裟に書いてるんだ」と思われる読者の方がいらっしゃるんじゃないかなと思います。自分でも嘘っぽくてイヤになっちゃいますが、ホントなんだから仕方ないんですよ〜。さらに、フロントガラス両端の段差を養生テープでふさぐだけでも効果が出ると聞き、そのようにして走ってみました。さすがにこれは効かないでしょうと思ったものの……。あれ? 直線に入るところで加速がよくなったように感じるんです。そしてタイムリミット10分前。これが最後とばかり、ホイールのスポーク1個1個に小さな三角シェブロンを貼っていくという、前代未聞の作業を行いました。こうすると、ホイール内の乱気流を細かく砕いて引き出してくれるそうで、走ってみると今日イチの状態がコンプリート! 運転していて楽しいゴーカートフィーリングがありながら、乗り心地も安定しているという最高のバランスを引き出すことができました。安全上、貼り付けたシェブロンはすべて取り外してから公道に出なければいけない約束なのが残念無念。「このまま帰りたい〜」と切に思ったできばえでした。

 それにしても、こうしていろいろと試しているとあっという間に時間が経っていたことにも驚きです。開発現場の皆さんが「いいものを作りたい」ということで、ついつい熱中してしまう気持ちが少し分かった気がしました。本当におもしろかったです。

 このあと、シビックの実効空力テールゲートスポイラーのあり・なしでの比較試乗や、土屋さんの愛車のAE86に同乗走行させてもらえるサプライズなどがあり、実効空力ワークショップは無事終了。若手の皆さんもそれぞれ楽しんでいた様子で、こういう体験をさせていただけるのは本当にありがたいなと思います。今は、なんでも机上で結論を早く出してしまうことも多いご時世ですが、人の感覚と開発プロセスを大事にするホンダアクセスという会社の希少性を、あらためて実感できた1日でした。また2025年4月20日には、富士スピードウェイでModuloのイベントが開催されます。よかったら遊びに来てくださいね。

最後に、土屋さんの愛車としてバリバリに仕上げてあるAE86にもシェブロン実効空力デバイスを貼って、ドリフト走行を披露してくれました。迫力満点!
まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラス、スズキ・ジムニーなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSD。