まるも亜希子の「寄り道日和」

「シビックe:HEV」で7時間耐久レース“Joy耐”に挑戦

ホンダの2モーターハイブリッド「e:HEV」の新世代となるプレリュードが発売されたばかりということで、シビックe:HEVのマシンと並べてみました。そのままピットに展示していたプレリュードは参加者や来場者から大注目で、常に人だかりができているほどでした

 モビリティリゾートもてぎで開催される夏のenjoy 7時間耐久レースこと“Joy耐”は、2025年は初めて「6時間30分」「6時間45分」「7時間」のうちどれになるかをくじ引きで決めるという、ちょっとビックリな試みが取り入れられたんです。かなりドキドキしたのですが、結局は「7時間」を引き当てて例年通りとなりました(笑)。

 モータージャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」とホンダの若手エンジニアがタッグを組み、2モーターハイブリッド「e:HEV」の走りを鍛えるプロジェクトでは、「シビックe:HEV」での7時間レース参戦は2年目。エンジニアには新たなメンバーも加わって、人材育成という点でも少しずつ活動が広がっているなぁと感じています。

 マシンは、2024年の7時間レースや2時間レースのミニJoy耐でのデータ解析、課題出しとその対策がコツコツと行なわれてきました。燃費を維持しながら、欲しいところでいかにモーターの強みを出すか。もてぎフルコースの特性に合わせたエネルギーマネジメントや、他車と競っているときにドライバーが任意で使えるオーバーテイクモードといった、思い通りの速さを実現するための工夫の数々。そしてこの猛暑はもちろん、速くなればなるほど発熱も増えていくバッテリの熱対策などなど。今考えられること、できることはほとんどやり切ったと思われる状態でレースに臨みました。

真剣な表情でデータとにらめっこしている、わがチームの頭脳、若手エンジニアたち。「レースが好きで、やってみたかった」と自ら志願した新メンバーも入ってくれて、さらに賑やかになりました

 さらにレースの組み立てとシミュレーションの緻密さも、2年目ともなるとすごく進歩していることを感じました。あらゆる事態を想定して、二重の確認と取り決めを行なっておくことで、いざ不測の事態が起こっても慌てずに対処できるという、耐久レースに臨む上でとても大事なことをしっかり実践できているという手応えがありました。あとは、本番で私たちに必要なのは「決断」と「信頼関係」。そんなことを思いながら、まずは予選です。

 朝起きたら、外は雨。予選アタックまでに止むかと思いきや、出走直前にどんどん強くなってきて、路面は完全ウェットになってしまいました。われらが#29 TNS CIVIC e:HEVが属するclass0は、最初に出走する組に入っていたので、タイムは必然的にスローペースに。でもそんな中、Aドライバー橋本は前回のウェット走行で分かった「モーターは雨に強い」という特性を活かし、トップから4番手につけます。そしてBドライバー・桂伸一がコースインするころには雨が止み、路面は一転してほぼドライに。ここでも2分22秒台に入る速さを見せ、A・B両ドライバーのタイム合算で決まるグリッドは19番手と、2024年の24番手を上回る好発進となりました。

 そして迎えた決勝は、なんとJoy耐では珍しく朝から雨が降っており、路面はウェット。そのためタイヤなどウェット用のセットでグリッドについたわがチームでしたが、スタート直前になって雨が小ぶりになり、このまま止むのか、再び降り出すのか、悩ましい状況となってしまいました。しかし、一か八かの賭けでタイムアウトギリギリのところでドライ用のセットに速攻で交換! 水しぶきがあがるなか、7時間の闘いが幕を開けたのでした。

Joy耐では過去に記憶がないくらい珍しい、ウェットでの決勝レーススタート。難しいコンディションの中、モーターの強さを活かしてどんどん抜き去っていく姿はかっこよかったです!

 のっけから「決断」を迫られたわけですが、その後コースはどんどん乾いていき、見事大当たり。第一ドライバーの橋本はスタート直後から6台を抜いて13番手にジャンプアップすると、モーターの強さを見せつけるかのようにじわりじわりと順位を上げていきます。しかし、当初の予定では橋本が35ラップほどを走るはずでしたが、コースアウトしたマシンの救助のためイエローコーションでセーフティカー導入となったため、すかさず27ラップでピットイン。給油を済ませ、第二ドライバーの桂にバトンタッチします。そして桂も順調な走りで周回数を重ねていきますが、わずか10ラップもしないうちにまたしてもセーフティカー導入でピットイン。3番手の石井昌道にチェンジします。

 でもこれは、あらかじめそれぞれのドライバーに、特定の周回数を境にそれ以前ならセーフティカー導入でもステイアウト、それ以後ならすぐさまピットインするように、とシミュレーションしていたため、すべて想定内の給油とドライバーチェンジだったのです。慌てず、すぐに作戦を切り替えて続行することができたのは、これまでの経験の賜物。マシンの進化だけでなく、レーシングチームとしても進化していることを実感して嬉しくなりました。

スタートから1時間もすると路面はドライになり、太陽が顔を出して一気に暑くなってしまいました。今回、量産車のフェイスリフトに伴いマシンのグリルも変わっています

 しかし2025年はとにかくセーフティカー導入が多く、その後石井から再び橋本、桂とバトンをつないだところで、2度あることは3度ある! 桂が3周ほど走ったところでダメ押しのセーフティカーが。レースは残り2時間。ここはもう、最終ドライバーの石井が走り切るしかないということで、石井にとっては試練のロングスティントとなってしまいました。この頃には暑さが復活していて、チームとしても体力的な部分やタイヤの状態などにやや不安を抱えながらではありましたが、あとはもう、走り切ってくれることを信じるしかないと、石井を送り出したのでした。

 そしてピットからみんなでドライバーを励ましながら、無事ゴールを願ったラスト2時間。順位もじわじわと上がっていき、チェッカーを受けることができました。結果は7時間では最高位となる12位、クラス優勝。今回もさまざまなデータが収集でき、有意義なレースだったと思います。ですが、なぜかピットはちょっと悔しさがにじんだ空気になっていて、誰もがすでに「次こそは」と闘志を燃やしているように感じました。ホームストレート上に戻ってきたマシンを止め、長丁場を走り切った石井は満身創痍のフラフラ状態でしたが、「こんなに長く走れて、あー楽しかった」なんて笑いを誘うところはさすがのベテランですね。

ラスト2時間のロングランを走り切り、拍手喝采で出迎えられた石井昌道選手。マシンの車内ではエアコンの風をドライバーにも送るようになっていますが、それでも滝のような汗で頑張ってくれました

 雨とセーフティカーに翻弄され、寒さと暑さの両方を味わうこととなった2025年のJoy耐。マシンも人もまたひと回り、強くなったのではないかと思います。ただ1つ心残りはベストラップ更新がならなかったことなので、2025年度中にタイムアタックだけ再度挑戦したいね、なんて話しています。いよいよ集大成の3年目に向けて、すでに気持ちは動き出していますのでまたレポートします!

まるも亜希子

まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト。 映画声優、自動車雑誌編集者を経て、2003年に独立。雑誌、ラジオ、TV、トークショーなどメディア出演のほか、エコ&安全運転インストラクターなども務める。海外モーターショー、ドライブ取材も多数。2004年、2005年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。2006年より日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ジャーナリストで結成したレーシングチーム「TOKYO NEXT SPEED」代表として、耐久レースにも参戦。また、女性視点でクルマを楽しみ、クルマ社会を元気にする「クルマ業界女子部」を吉田由美さんと共同主宰。現在YouTube「クルマ業界女子部チャンネル」でさまざまなカーライフ情報を発信中。過去に乗り継いだ愛車はVWビートル、フィアット・124スパイダー、三菱自動車ギャランVR4、フォード・マスタング、ポルシェ・968、ホンダ・CR-Z、メルセデス・ベンツVクラス、スズキ・ジムニーなど。現在はMINIクロスオーバー・クーパーSD。