東京モーターショー2017

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く

2019年発売の「SKYACTIV-X」搭載車のサキガケ?

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く マツダが東京モーターショー2017で世界初公開した「魁 CONCEPT」。デザイナーはマツダ株式会社 デザイン本部 チーフデザイナー 土田康剛氏
マツダが東京モーターショー2017で世界初公開した「魁 CONCEPT」。デザイナーはマツダ株式会社 デザイン本部 チーフデザイナー 土田康剛氏

 マツダが東京モーターショー2017で世界初公開した「魁 CONCEPT(カイ・コンセプト)」。次世代ガソリンエンジン「SKYACTIV-X(スカイアクティブ・エックス)」を搭載するというデザインコンセプトカーで、ハッチバックデザインを採用し、デザインテーマ「魂動-Soul of Motion」の深化がうたわれている。

 この「魁 CONCEPT」をデザインしたマツダ デザイン本部 チーフデザイナー 土田康剛氏に、デザインに関する話を伺った。コンセプトカーに関しては土田氏が答え、途中生産車に質問が及ぶと広報部が回答するという形になっている。


──基本的なことからお聞きしたいのですが、「魁 CONCEPT」というクルマの読み方は、なぜ「カイ・コンセプト」なのでしょうか。自分は初めてこの文字を見たときに「さきがけ」と読んでしまいました。この名前について教えてください。

土田氏:“カイ”で決めたのは、質問されているように「次世代へ先駆けていくぞ」という意味を込めて魁としています。読みとして、“サキガケ”ではなく“カイ”としたのは、メッセージがクリアでシンプルになると考えたからです。これも今回のデザインメッセージである「引き算の美学」に沿ったものとなります。

 また、言葉の勢いや響きを意識して“カイ”としたところもあります。

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く 「魁 CONCEPT」は「引き算の美学」でデザインされた
【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く 「魁 CONCEPT」は「引き算の美学」でデザインされた
「魁 CONCEPT」は「引き算の美学」でデザインされた

──東京モーターショー開幕前日にマツダは「MAZDA DESIGN NIGHT 2017」を開催しました。そこでマツダ 常務執行役員 デザイン・ブランドスタイル担当 前田育男氏がもう1つのデザインコンセプトである「VISION COUPE」を紹介。前回の東京モーターショーで発表した「RX-VISION」を“艶(つや)”、「VISION COUPE」を“凜(りん)”とし、「艶と凜」というデザインテーマに触れていました。この「艶と凜」と「魁 CONCEPT」の関係を教えてください。

土田氏:「RX-VISION」と「VISION COUPE」は次世代のデザインの幅を表現したものとなります。そのうえで、「魁 CONCEPT」は「RX-VISION」よりの艶やかで色気の方向にハッチバックとして持っていきました。

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く 「魁 CONCEPT」とともに世界初公開された「VISION COUPE」。“凜”が込められている
【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く 「魁 CONCEPT」とともに世界初公開された「VISION COUPE」。“凜”が込められている
「魁 CONCEPT」とともに世界初公開された「VISION COUPE」。“凜”が込められている

──「魁 CONCEPT」のボディカラーは赤ですが、艶やかとなると赤のボディカラーになるのでしょうか?

土田氏:(艶やかを)表現はしやすいので、赤を一番体現する色として選んでいます。この赤は「RX-VISION」と基本は同じ赤となりますが、「RX-VISION」はより濃く、「魁 CONCEPT」は若干明るめとなっています。この色の調整はボディの抑揚の違いにあり、「魁 CONCEPT」は「RX-VISION」より上向き面が狭いので、それに伴ってベストなチューニングをしています。

──近年のマツダデザインは、デザインの元となる原器があって、それを各カテゴリーのクルマに展開しています。この「魁 CONCEPT」をカテゴリーに展開するにあたって気を配られたことや、難しかったことはありますか?

土田氏:一番はボディサイドだと思っています。今回キャラクターラインを使わずにリフレクション(反射)だけのコントロールで生命感を表現しています。そこに一番時間を使いました。リフレクションの部分ですがネガ(凹面)でコントロールしています。

──ネガでコントロールされているとのことですが、「VISION COUPE」も同様にネガでコントロールされています。「魁 CONCEPT」のネガと「VISION COUPE」のネガは同じものなのでしょうか?

土田氏:考え方自体は一緒になります。今回「魁 CONCEPT」でやっているのは、Z(ゼット)を描かしています。フロントフェンダーから入ってきたものが1度折り返して抜ける、そういうドラマチックな表現をしています。結構このクルマで、セクシーさとか妖艶さを表現するところになっています。

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く Zを描くというサイドの表現
Zを描くというサイドの表現

──「魁 CONCEPT」ですが、Car Watchの記事でもとてもアクセスが多く、私自身も非常にかっこよいデザインだと思いました。これだけかっこよいと市販車を期待してしまいますが、このデザインは実際に市販車に持っていけそうですか?

土田氏:そこはお答えできないこととなっています。

──とくにヘッドライトや、リアのテールランプあたりの細部までデザインされた感じとか素晴らしいと思ったのですが。

土田氏:お気づきいただけたかどうか分かりませんが、とくにターンランプにはこだわって作っています。ターンランプの流れる様子は人の息づかいを表現しています。魂動デザインのクルマということで、このような光り方を作りました。

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く ヘットライトやリアコンビランプまわり
【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く ヘットライトやリアコンビランプまわり
【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く ヘットライトやリアコンビランプまわり
ヘットライトやリアコンビランプまわり

──今、魂動デザインという話がありましたが、この「魁 CONCEPT」や「VISION COUPE」も魂動デザインの流れの中にあるのですか?

土田氏:魂動デザインです。魂動デザインは不変、変えません。ただ、次世代へ向けての進化をさせていて、その進化のポイントが「引き算の美学」です。ラインをなくす、よりシンプルにしていくのですが、より豊かな美しさを表現しています。それが今回は映り込みになります。

──ラインをなくすという話がありましたが、ラインをなくすと生産が難しくなると思います。鉄の強度を出しづらくなりますし、今回のデザインでは映り込みをコントロールするために凹面が積極的に使われています。これなどは、生産コントロールや、塗料のコントロールが非常に難しいのではないでしょうか?

土田氏:生産に関しては、お答えできないこととなっています。

──今回の「魁 CONCEPT」はSKYACTIV-X搭載となっています。一方でマツダはSKYACTIV-X搭載車を2019年に発売すると発表しています。するとこの「魁 CONCEPT」をベースにした生産車は2018年には設計を完了する必要があり、凹面コントロールの生産技術確立のめどがすでに必要な時期となっているのではないでしょうか?

広報:これはデザインのコンセプトモデルとなります。もちろん、このデザインのコンセプトが反映された量産車が2019年に出てくるというのは公表しています。ただ、どの車種かというところは公表していません。デザイナーとしてもこのコンセプトを量産車種に持っていきたいというところはあると思いますので、そこに関してはご期待いただきたい部分ということで。

──はい、では量産車を楽しみにしたいと思います。質問を変えます。今回「魁 CONCEPT」はハッチバックデザインで登場しましたが、このハッチバックデザインという部分にこだわりはあるのでしょうか? セダンでもよかったのではないでしょうか?

土田氏:あえてハッチバックを選んだのは、僕はハッチバックはグローバルでクルマのベーシックだと思っています。ど真ん中というか。そこでいかに、どこまで魅力的なデザインを作れるかという挑戦をしていきたかった。その思いがあってハッチバックを選んでいます。我々のエンジニアのSKYACTIV-Xにしても、クルマの内燃機関であるガソリンエンジンを愚直に研究し続けるという。マツダのクルマ作りの愚直さとか、挑戦する志とか。マツダとしてありますという。そういった意味で、クルマとしてのセンターであるハッチバックを選んだのがポイントです。

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く ハッチバックがクルマとしてど真ん中という
ハッチバックがクルマとしてど真ん中という
【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く 美しいリアまわり。リアのハイマウントストップランプは縦型。ローマウントも縦型のものがデザインされており、これはトレンドになるかも
美しいリアまわり。リアのハイマウントストップランプは縦型。ローマウントも縦型のものがデザインされており、これはトレンドになるかも

──「魁 CONCEPT」のデザインにあたって、次世代内燃機関技術「SKYACTIV-X」は影響しているのですか? たとえば「魁 CONCEPT」のフロントグリルは非常に大きいのですが、これはSKYACTIV-Xの吸入空気量を表現しているとか?

土田氏:していません。思いとしてはありますが、技術要素としては影響していません。

──ハッチバックということでリアも特徴的となるのですが、非常に丸みを帯びたリアデザインというか。テールランプまで一体となってリアの丸さを表現しているように見えます。この丸さの表現とは?

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く

土田氏:非常にうれしい質問です(笑)。今回はキャビンとボディをあえて一つに捉えています。後ろから見ていただくと、通常は(とリアピラーの付け根辺りを指しながら)この辺りにショルダーという肩を作ってブレイクさせるのですが、今回すごく強い塊を表現したかったので、キャビンとボティをチャレンジャブルな造形としています。

 そうするとシンプルになりすぎて、面白くなくなると思うのです。それをここに(と、リアまわりを指し)リフレクションが入るようにコントロールすることで、ずっと見ていて楽しめるようにしています。このコントロールはすごく苦労したところです。

──インテリアデザインについて意識した部分はありますか?

土田氏:インテリアのこだわりのポイントは、我々が人間中心の思想を持っていることにあります。今回の「魁 CONCEPT」でも人間を(ドライバーシートの)センターに座らせて、左右すべての要素をシンメトリー、左右対称になるようまずレイアウトしています。それは人馬一体とか、走る歓びとか、我々が一番大事にしていることを、空間の要素として大切にしました。

 ほかの要素は極力ノイズを排除してコクピットだけが引き立つようにしています。これがインテリアの一番のポイントです。

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く

──メーター部から助手席のほうまで横に走る部分は、液晶ディスプレイですか?

土田氏:これは液晶ディスプレイですね。現在、液晶ディスプレイはクルマのインテリア空間の中でどんどん大きくなっています。お客さまの要望によって、独立タイプで大きくなっています。液晶ディスプレイに関しては、これは提案なのですが、大きいものも使うのですが(インテリアデザインとして)インテグレーションすることで、我々の目指したい「引き算の美学」、日本の美意識を表現できるのではないかということです。


 土田氏が述べているように、この「魁 CONCEPT」はマツダのデザインテーマ「魂動-Soul of Motion」が深化したものになる。その深化のキーワードが「引き算の美学」。キャラクターラインによる表現を廃し、面の変化で表現。その代表的な部分が、リフレクションがZの字を描くというフロントドアまわりになる。

 実際、モーターショーの会場ではこのリフレクションが分かりやすいようなライティングがされており、固定展示されているときはもちろん、展示台で「魁 CONCEPT」が回っているときには、その美しいリフレクションと変化を楽しめる。

 一方、このような3次元的な凹面(土田氏はネガと表現)は、鉄板のプレスがしづらく、さらに塗装においても均一な塗装面を生成していくのは難しい。リフレクションがZの字を描くということは、Zの字状に(しかも緩やかな曲面変化を伴いつつ)盛り上がっていることを示し、メタリックカラーを構成するアルミフレークなどの均一な生成、クリヤー層の均一な生成&仕上げが難しいことが予想される。

 SKYACTIV-X搭載車は2019年の発売が予告されており、「魁 CONCEPT」がどのような量産デザインとなって登場するのか非常に楽しみだ。先代CX-5から始まったSKYACTIV搭載車が、デザインコンセプトカーを非常にうまく量産デザインとしていただけに、「魁 CONCEPT」の量産版にも期待したい。

【東京モーターショー2017】世界初公開されたマツダの次世代デザインコンセプト「魁 CONCEPT」についてチーフデザイナー 土田康剛氏に聞く

編集部:谷川 潔

Photo:堤晋一