インドネシア国際モーターショー2014

三菱ふそうトラック・バスのインドネシア販売を支える現地生産会社を訪ねて

自動車組立会社「KRM」、エンジン組立・部品生産会社「MKM」

三菱ふそうトラック・バスがインドネシアで現地生産している中型トラック「FUSO」

 三菱ふそうトラック・バスは、インドネシアでの販売シェアが2013年は47%と、インドネシアに進出して以来44年間1位を維持。インドネシアの経済成長とともに販売台数も増加し、今では三菱ふそうトラック・バスの中で最大の販売台数を誇る国になっている。その販売台数を支えるのが、インドネシアで現地生産をしている中型トラック「FUSO」、小型トラック「Colt Diesel」(日本名:キャンター)だ。

 インドネシアでの現地生産は、エンジンや部品のプレスをエンジン組立・部品生産会社PT.MKM(Mitsubishi Krama Yudha Motor and Manufacturing)が行い、完成車の組み立てを自動車組立会社PT.KRM(Krama Yudha Ratu Motor)が行う。その完成車をPT.KTB(Krama Yudha Tiga Berlian Motors)が、別記事で紹介したスリカンディグループのような各ディーラー会社に販売している。

 そのインドネシア国際モーターショーの期間中にKRMとMKMを取材する機会を得たので、ここに紹介していく。

 KRMおよびMKMの概略を説明していただいたのは、KRM社長Lambertus Hutauruk氏と、同副社長 秋元国俊氏。KRMおよびMKMの設立にはインドネシア政府の施策が大きくかかわっているという。インドネシアは1945年8月17日に独立宣言。現在も8月17日が独立記念日となっている。

 歴史に詳しい方はこの日付から分かるようにインドネシア独立には日本が大きくかかわっているのだが、本記事では割愛する。

KRM社長Lambertus Hutauruk氏
KRM副社長 秋元国俊氏

 インドネシア独立後の初代大統領となったのはスカルノ氏。スカルノ大統領時代は国内資本による産業振興政策が採られ、いわゆる共産主義的な政策となっていた。1967年に第2代大統領スハルト氏が就任すると、この政策を転換。積極的に外資を呼び込み、現地資本との合弁会社が設立されるようになった。

 販売を行うKTBは1970年に設立、生産会社となるKRM&MKMは1973年に設立されている。当初は現地資本比率の高かったKRMだったが、2011年からは三菱商事の資本が積極的に投入され、現在は外資の会社となっている。

 このKRMで組み立てている車体は、三菱ふそうトラック・バスの中型トラック「FUSO」(型式:FM/FN)、小型トラック「Colt Diesel」(型式:TD)と、三菱自動車工業の小型トラック「Colt L-300」(型式:SL)、小型トラック「Colt T120SS」(型式:CJM)、乗用車「Outlander Sports」(日本名:RVR、型式:ZC)の5形式。2013年の製造台数は13万799台になる。

 場所はジャカルタ市内にある独立記念塔から約20kmのところに位置し、インドネシアにある自動車生産工場としては比較的市内に近い位置にあるとのこと。現在、日本の自動車会社がインドネシアに積極的に進出しているが、それらの工場は東に延びる高速道路沿いにあり、インドネシア政府による自動車の積み出し港の増設計画が検討されているとのことだ。

インドネシアの歴史
初代大統領と第2代大統領
KRMの概要
役員構成
工場の位置
自動車メーカー工場の位置。高速道路沿いに設立されているのが分かる
工場のレイアウト
生産プロセス
KRM工場内レイアウト。4本の組み立てラインをもつ
ビジネスフロー
生産台数推移
略歴
株主構成。MCが三菱商事、MFTBCが三菱ふそうトラック・バス
組織図
三菱ふそうトラック・バスの生産車両
三菱自動車の生産車両
部品現地化について

 トラックの組立生産ラインは3本、乗用車の組立生産ラインは1本あり、そのほか溶接用のラインを各型式ごとに用意している。

KRM外観
組立生産ライン。右が三菱自動車の小型トラック、左が三菱ふそうトラック・バスの中型トラック。左のラインを紹介していく
組立ラインはシャシーに各部品を取り付けるところから始まる
リアサスペンションの取り付け
サスペンションの次はリアアクスル
MKMであらかじめ組み立てられたエンジンの取り付け
排気管やプロペラシャフトを取り付けているようだ
キャビンの取り付け
配線類は事前にすませておく
タイヤの取り付け
タイヤ取り付け後は自走してチェックエリアに
車体溶接エリア。車体溶接エリアの撮影は制限されていた
完成した中型トラック「FUSO」
小型トラック「Colt Diesel」
手前が三菱自動車の「T120SS」

 組立生産ラインの写真を見て分かるように、多くの部分を人手に頼っている。これはインドネシアの安価な労務費を前提に組立ラインが設計されているためで、現地生産の最大のメリットもそこにある。しかしながら、インドネシアの経済成長および自動車工場の大量進出によりその環境も変化。労務費が上昇しつつあり、現在はロボット導入との分かれ目にあるという。精密な曲げ加工を行うところではロボットがすでに導入されており、ロボット導入に対する投資を回収できるのか、それとも人手で組み立てた方がよいのかという判断を迫られているようだ。

 一方、MKMのほうは精密加工や組み立てが前提となるためか、機械が大量に導入されている。人手による組み立てが行われているが、人の力を使うというより、人が機械を操作している。エンジン組み立ては各種の電動ドライバー、機械加工は各種のNC旋盤などだ。ロボットはプレスラインに入っており、人では持ち上げることの難しい、大型の板をプレス機にセットするために使われていた。

MKM外観。MKMはエンジン組み立てや、プレス部品の成型を行う
MKMは第1工場と第2工場があり、第1工場がプレス部品生産、第2工場がエンジン組み立てを行っている。写真は第1工場のレイアウト
MKM第1工場の生産品
写真撮影をしていると猫がいるのに気がついた
猫はあえて放し飼いにしているそうで、ケーブルをかじってしまうネズミを駆除してくれる
第1工場のプレス機。プレス機は19台あり、5ラインで配置されている
第1工場内で最大のプレス機
プレス材料が大きいため、ロボットで移動
プレスした製品のチェック工程。抜き取り検査をしている
プレス用の型は消耗品のため、定期的にメンテナンスを行う必要がある。ちょっとしたものなら、工場内で型から生産しているとのこと
こちらはスポット溶接ライン
治具などで固定して
スポット溶接
ロボットライン。シーリングなどを行う
シール剤が塗られたドアを、ベンディングすることで1つの部品に
人でもできる加工だが、曲線部のベンディングとなるため、ロボットのほうが仕上がりが安定しているという
「ここの部分になります」
折り曲げ加工部分がロボットの作業個所

 機械加工は、たとえばリブの少ないトランスミッションケースなどはMKM内で行っており、KD(ノックダウン)部品と組み合わせつつ、トランスミッションを組み立てている。なお、MKMではトラック用エンジンの生産のほか、スズキからの生産委託も受けており、年産15万台程度の能力。これを拡張する予定はあるが、年産20万台を目指すのか、さらに大きな年産25万台を目指すのか、その辺りの目標設定が難しいという。生産能力を上げればコスト効率はよくなるものの、投資額が大きくなり、稼働率が落ちると一気に数字は悪化する。インドネシアはタイを超える自動車生産国になりつつあるが、どの程度まで伸びるのか予測は難しいのだろう。

エンジン組み立てを行うMKM第2工場
MKM第2工場のレイアウト
生産部品など
生産に必要な資材が運び込まれる
シリンダーブロックなどは、あらかじめ加工済みのものがKD部品として搬入される
部品の洗浄から組み立ては始まる
洗浄の終わったピストン
シリンダーに生産用の刻印を行う
これで生産トレースができるようになる
コンロッドなどの組み付け。必要な個所では、専用工具によって精度を保つ
組み立て前半は、エンジンを逆さにして作業。途中で正立状態にする
カムシャフトなどを取り付けシム調整
補機類の取り付け
ヘッドカバーを締め付けているようだ
完成したエンジン。エンジンは全数始動テストが行われていた
旋盤が立ち並ぶ機械加工ライン
トランスミッションの組み立てライン

 三菱ふそうトラック・バスは2003年に三菱自動車工業と分かれた会社で、三菱自動車工業もインドネシア進出をした時期は、三菱重工業の一部門だった。そのため、インドネシアでの生産・販売においては、三菱商事とともに歩みを進めており、KRMやMKMでは三菱ふそうトラック・バスと三菱自動車工業の製品を生産している。そのためマザー工場としては、三菱ふそうの川崎工場、三菱自動車の岡崎工場などがあり、以前紹介したそれらの工場と見比べていただければ、自動化割合の違いが分かりやすいかと思う。

●三菱ふそう、18年ぶりにフェイスリフトした新型大型路線バス「エアロスター」説明会
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140811_661745.html

●三菱ふそう、「実燃費」のよさを強く訴えた大型トラック「スーパーグレートV」商品説明会
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140624_654839.html

●三菱自動車、岡崎工場の新生産ラインを公開
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140617_653693.html

●三菱自動車「アウトランダー PHEV」の電池パック交換作業を見る
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20130717_607870.html

 三菱ふそうトラック・バスは、FUSOブランドにとって最大市場となったインドネシアのほか、インド オラガタム工場(Daimler India Commercial Vehicles Private Limited)、日本 川崎工場でトラックを生産していくことで、アジア地域のトラック販売を伸ばしていこうとしている。

編集部:谷川 潔

http://car.watch.impress.co.jp/