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三菱ふそう、18年ぶりにフェイスリフトした新型大型路線バス「エアロスター」説明会

「快適性」「経済性」「安全性」を軸にHIDやECOモードなど採用。製造現場も公開

2014年8月6日開催

新型大型路線バス「エアロスター」(プロトタイプ)

 三菱ふそうトラック・バスは8月6日、6月19日に受注開始した新型大型路線バス「エアロスター」の説明会を開催した。

 新型エアロスターでは、乗り降りを容易にしてバリアフリー設計が施された路線バス・都市ラッシュ型/郊外型の「ノンステップ」、優れた乗降性と快適な乗り心地を両立させた路線バス・都市型の「ワンステップ」、自家用バスとしてさまざまな用途に対応する「ツーステップ」の大きく3モデルを用意。これに加え、それぞれのモデルにホイールベースが異なる仕様(車両型式の末尾に入るアルファベット文字で分類され、同社ではホイールベースの短い順に「K尺」「M尺」「P尺」型と呼ばれている)が設定されるとともに、優先席の向き、乗車定員数などが選択可能になっており、多岐にわたるモデルが用意されている。

路線バス・都市ラッシュ型/郊外型のノンステップ車。ホイールベースがもっとも短いK尺(4995mm)モデルで、1万705mm×2490×3070mm(全長×全幅×全高)というスリーサイズ。客室内寸法は9305×2305×2460mm(室内長×室内幅×室内高)

 パワートレーンは共通で、エンジンはOHC・4バルブの直列6気筒7545ccディーゼルターボ「6M60(T2)」にトルコン式6速ATを組み合わせ、最高出力199kW(270PS)/2500rpm、最大トルク785Nm(80.0kgm)/1100-2400rpmを発生。アイドリングストップなど燃費性能を高める機構も備えられ、燃費(重量車モード)は14t超のノンステップ/ワンステップ車が4.30km/L、14t超~16t以下のツーステップ車が4.25km/Lとなっている。また、再生制御式DPFと排気後処理装置(尿素SCR)からなる「BlueTec(ブルーテック)」システムを採用し、ポスト新長期規制(平成21年度、平成22年排出ガス規制)と平成27年度重量車燃費基準に適合したことでエコカー減税の対象車となり、自動車取得税が60%、重量税が50%軽減される。

 価格はノンステップ車が2908万3320円~2932万920円、ワンステップ車が2467万1520円~2489万1840円、2ステップ車が2319万7320円~2376万6980円。

 この新型エアロスターでは1996年の現行モデル発売以来初となるフェイスリフトを受けており、認性を高めるディスチャージヘッドランプを標準装備するとともに、コーナリングランプの追加や路肩灯のLED化など、安全装備を高めた仕様になっている。

今回の改良で苦労した点の1つと説明されたフューエルリッドの位置
安全性を高めるためディスチャージヘッドランプを標準装備化
直列6気筒7545ccディーゼルターボ「6M60(T2)」は最高出力199kW(270PS)/2500rpm、最大トルク785Nm(80.0kgm)/1100-2400rpmを発生
ドライバーが交差点などを曲がる際に目安とする路肩灯がLED化された
運転席まわり
スイッチ類の下段に新たに「ECOモードスイッチ」を設置
「エアコン・エコスイッチ」も新設定
ノンステップ車(K尺仕様)の室内。優先席は横向き仕様
室内後方部。後方部への通路幅が拡大され、車内移動がよりスムーズに行えるようになった
ホイールハウスの後方に樹脂製の大型燃料タンクを配置
広いスロープ幅と緩やかな設置角度とした反転式スロープ板を標準装備。中扉床面に埋め込まれている

明るいランプを付けて安全なバスに貢献

 このに新型エアロスターついて、三菱ふそうバス製造の取締役社長 最高経営責任者(CEO)村山節男氏、三菱ふそうトラック・バスの開発本部 バス開発統括部長 櫻田徹氏が改良ポイントについて紹介を行った。

三菱ふそうバス製造の取締役社長 最高経営責任者(CEO)村山節男氏
三菱ふそうトラック・バスの開発本部 バス開発統括部長 櫻田徹氏

 新型エアロスターの発表にあたっては、年間約40個所の路線バス会社を訪れた中から聞こえてきた要望に応えるべく「快適性」「経済性」「安全性」を軸に改良が行われた。主だっては「フロントデザインの変更(ディスチャージヘッドランプ/コーナリングランプの採用)」「燃費改善」「新ノンステップバス標準認定の先取り」「反転式スロープ板の採用」「室内灯・路肩灯のLED化」「給油の容易化(適正高さ)」の6点が主要変更点になるが、櫻田氏によれば「我々の本当の目的は明るいランプを付けて安全なバスに貢献しようというもので、それが今回の改良の主たる狙い」と、今回の改良は安全面を中心に行われたことが説明された。

 まず燃費面に関しては、主なバス会社の協力を得て実際に路線を走ってデータ取りを行った。そのデータを元に、「燃料噴射MAPの変更」「新ATシフトMAPの採用」「ECOモードの設定(燃料噴射制御)」「エアコンコンプレッサ制御」「冷却ファン特性変更」を行い、結果として実用燃費を5%改善することに成功したという。

 今回新たに加えられた「ECOモードスイッチ」は運転席右側に設置され、スイッチONである程度の車速からの加速度を制限するというもので、「路線バスなのでそこまで加速する必要がないと思っているので、不必要に加速しないよう制限を行うデバイスを用意した。今までゆっくり加速をしていたドライバーには効果がないが、多少荒い運転をされるドライバーには制限が入ることでその分燃費改善が期待できる」(櫻田氏)。この「ECOモードスイッチ」に加え「エアコン・エコスイッチ」も新設定されており、アクセルを踏み込んだ際に一時的にエアコンコンプレッサの稼働を停止させる仕組みも導入している。

新型エアロスターは「快適性」「経済性」「安全性」を軸に改良が行われた
新型エアロスターの主要変更点
実用燃費を5%改善した主な要因
「ECOモードスイッチ」に加え「エアコン・エコスイッチ」も新設定した

 安全面では、先に述べたとおりディスチャージヘッドランプ/コーナリングランプの採用がハイライトとなり、新型エアロスターでは従来(H4のハロゲンランプ。1900lm/約3200K)から約1.5倍の明るさとなる2800lm/約4100KのHIDを標準装備。HIDの標準装備化について、櫻田氏は「ある東海地区のお客様のところをお邪魔させていただいたとき、その直前に暗いところから歩行者が飛び出し、残念ながら事故になるという不幸があったことを聞いた。もしヘッドランプが明るければ気づけていたかもしれないと聞き、路線バスに関しては明るいランプを付けたいと強く思った」と、採用への背景を語った。

ディスチャージヘッドランプやコーナリングランプの採用とともに、路肩灯をLED化。そのほか後方からの突入を防止するためリアアンダープロテクションを装備

 一方、快適性についても注力したとし、通常ノンステップバスの優先席は横向き仕様が多いところ、K尺/M尺では燃料タンクの配置を見直して前向き仕様も設定し、座る人の足が立席の邪魔にならないよう工夫された。中でも燃料タンクの配置に苦労したといい、「一般的に考えられるのはフロントのホイールハウスの上に持ってくることだが、そうすると給油口の位置が高くなるとともに、一番人気のある左側の最前列シート(第1席)が置けなくなる。そこでホイールハウスの後方に樹脂製の大型タンクを付け、給油口の高さも抑え、左側の最前列シートも置くことができた」。しかしホイールハウスの後方に燃料タンクが配置されたことで優先席のスペース確保が厳しくなったため、ホイールベース自体を約200mm伸ばして解決している。

 そのほか、左側第1席ステップの拡大や左右第1席の座面高を30mm減少させ使い勝手を高めるとともに、左側第1席前部の手すりにラバーを巻いたり、右側第1席前部の手すりを延長して万が一の際に手すりをつかみやすくしたりするなど安全面も向上させている。

 櫻田氏は最後に「(今回の改良においては)お客様とともに開発を進めてきた。色々な声を具現化できたバスになったと思っている」と改良への手応えについて語っている。

K尺/M尺では燃料タンクの配置を見直して前向き仕様も設定
給油口の高さにもこだわった
反転式スロープ板を標準装備
簡単に車椅子スペースにできるよう折り畳めるシートを採用。車椅子を固定する金具やベルトも備えている
左側第1席ステップの拡大や左右第1席の座面高を30mm減少させ使い勝手を高めた
左側第1席前部の手すりにラバーを巻いたほか、右側第1席前部の手すりを延長してつかみやすくした
左側第1席の足下も拡大。加えてリュックなどを背負った人がいても通路を通りやすくするため手すりの形状にも工夫が施された
室内灯は従来の蛍光灯からLEDに変更
運転席ではアクセルペダルが従来のオルガン式から吊り下げ式に変更。さらに扉が開いているときなどにアクセルが踏み込めないようにする安全装置「アクセルインターロック」も、従来の機械式から電子制御式に変更を行っている
サブバッテリーの規格変更も行われている
バッテリーリッドの跳ね上げ角度が増大するオプションも設定

三菱ふそうバス製造の生産工場を公開

 なお、今回の説明会では三菱ふそうバス製造(富山県富山市婦中町)の工場見学会も行われた。

 三菱ふそうバス製造は、1950年に呉羽自動車工業としてリアエンジンバスの製造を開始し、1993年に三菱自動車バス製造として富山県富山市に社屋・工場を建設。2003年に社名を三菱ふそうバス製造に変更し、現在は三菱ふそうのバスメーカーとしての役割を担っている。

三菱ふそうバス製造の歴史
三菱ふそうバス製造で生産されるモデル一覧
バスの生産工程について

 製造ラインは大型バス(エアロクイーン、エアロエース、エアロスターなど)用と小型バス(ローザ)用に分けられ、電着塗装については大型と小型を問わず1個所に集約して行われていた。大型バスの製造順としては、サイド部や屋根といったバスの六面体骨格の形成に始まり、次に治具内でできないボディー外側の溶接を行うとともに、側面に側面外板をスポット溶接。さらに入口扉や非常口が取り付けられ、最後にシャシーとボディーをドッキングさせて完成となる。

 見学当日は大型バス5台、小型バス28台の生産が行われていたが、その日によって大型バスの製造台数が増加すれば小型バスの製造台数が減少、大型バスが減少すれば小型バスが増加するといった調整が行われるという。乗用車などの製造ラインと異なり、システマチックに行われているというよりも人間の技術力がより介入している雰囲気だった。中でも同社では溶接の技術力に応じて番付を行っているのが特徴で、Bランク、Aランク白帯、Aランク黒帯、マイスター候補者、マイスターと5段階に分類している。現時点でマイスター1名、マイスター候補者2名となっており、より高いレベルの溶接技術者を育てていくことが今後の課題であることが紹介された。

まずはバスの骨格を形成する角パイプの切断・加工が行われる
バスの骨格
シャシーまわり
電着塗装は大型と小型を問わず1個所に集約して行われる
シャシーとボディーをドッキング
エンジンまわりをボディーサイドから
各バス会社のカラーリングが施されると完成が間近
バス用タイヤ
こちらは小型バスのローザ。世界各地に向けさまざまな仕様が生産されている
溶接の技術力に応じて番付を行っていて、Bランク、Aランク白帯、Aランク黒帯、マイスター候補者、マイスターと5段階に分類している。より高いレベルの溶接技術者を育てていくことが今後の課題という

(編集部:小林 隆/Photo:安田 剛)