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三菱自動車、岡崎工場の新生産ラインを公開

“畳コンベア”などの採用により、2014年度は前年比122%となる21万2000台の生産を目指す

公開された名古屋製作所 岡崎工場の新生産ライン
2014年6月16日公開

名古屋製作所

 三菱自動車工業は6月16日、愛知県岡崎市にある名古屋製作所 岡崎工場の新生産ラインを報道陣に公開した。この公開に伴い、同社の常務執行役員 名古屋製作所所長 安藤剛史氏が新生産ラインについての解説を行った。

 岡崎工場と技術センターからなる岡崎地区は、総面積約100万m2(東京ドーム約22個分)を誇る同社の主力工場。岡崎工場は大きくプレス工場、ボディー溶接工場、塗装工場、組立工場、バンパー工場、バッテリー組立、完成車検査ライン、モータープールで構成。岡崎工場が完成したのは1977年のことで、以降「ランサーセレステ」「スタリオン」「ギャラン」「レグナム」などの生産が行われており、現在は「RVR」「アウトランダー」「アウトランダーPHEV」の生産を担っている。

 岡崎工場における2013年度の生産実績は、アウトランダーが8万台、アウトランダーPHEVが3万台、RVRが6万4000台の計17万4000台となっているが、2014年度はアウトランダーが6000台増の8万6000台、アウトランダーPHEVが2万台増の5万台、RVRが1万2000台増の7万6000台を計画しており、トータルで21万2000台(前年比122%)の生産を目指すという。

三菱自動車の常務執行役員 名古屋製作所所長 安藤剛史氏

 そもそも今回生産ラインを刷新した理由としては工場の老朽化が挙げられる。先に触れたとおり岡崎工場は1977年から生産を開始するなど歴史が古く、これまで小規模の改善で生産を継続してきた。しかし、塗装工場の老朽化に伴う既存の塗装工場に代わる「岡崎新塗装工場」の建設(2011年2月竣工)を契機に、その跡地を活用した塗装・溶接組立ラインの物流改善、生産ラインの新世代化に取り組んでおり、その結果が今回公開された新生産ラインとなる。

 従来の生産ラインは、全部品をメインラインで取り付けることを前提に計画された37年前のレイアウトとなっていることから、物流エリアとサブラインエリアが狭く、メインラインが長大(部品搬送距離が長く効率がわるい)、天井からワイヤーで機器を設置する吊り設備が多い(レイアウトの変更が困難)、メインラインでPHEV電動コンポの搭載ができないなどの問題があった。

 なかでもアウトランダーPHEVに搭載するPHEV電動コンポの組み付け作業に関しては、当初は2万1000台/年という少量生産の計画だったためライン外で専用工程を追加することで対応してきた。しかし、2014年度は5万台の生産を目指していることから、専用工程を止めてメインライン内にPHEV電動コンポの組み付け作業を取り込む必要があるという。

岡崎地区の概要。開発部門と生産工場に分かれている
岡崎工場の沿革。現在は「RVR」「アウトランダー」「アウトランダーPHEV」の生産を担っている
2013年度の生産実績と2014年度の生産計画
塗装工場の老朽化に伴い、既存の塗装工場に代わる「岡崎新塗装工場」を建設
塗装ラインの新世代化
塗装工場跡地を活用して、分散していた溶接ラインを集約
ラインの集約により物流費用の抑制を図った
岡崎工場は1977年から生産を開始するなど歴史が古く、これまで小規模の改善で生産を継続してきたが、岡崎新塗装工場の建設を契機にその跡地を活用した塗装・溶接組立ラインの物流改善、生産ラインの新世代化に取り組んだ
設計が古いためさまざまな課題が存在
当初は2万1000台/年という少量生産の計画だったアウトランダーPHEVは、2014年度に5万台の生産を目指している。この生産台数の増加に伴い、さまざまなロスが生まれる可能性があり、そのため専用工程を止めてメインライン内にPHEV電動コンポの組み付け作業を取り込む必要がある
新世代化に向けた4つの狙い

 こうした課題を解決するべく、同社は「生産ラインのフレキシブル化・スリム化」「SPS(Set Parts Supply system)導入」「AGV(無人部品搬送用台車)による物流の無人化」「PHEV作業のインライン化」の4点を導入。フレキシブルな生産ラインにするとともに生産コスト(工費・構内物流費)の大幅低減(30%減)という目標を掲げ、従来以上に競争力のある組立ラインを目指したという。上記4点の導入により、大きくメインラインのスリム化に成功しており、これによって物流エリアの面積が従来の1万800m2から2倍以上となる2万2800m2の面積を確保することに成功している。

 とくにメインラインに新たに採用された「畳コンベア」は大きな特徴となっている。これは、従来の天井から車両を吊るして搬送する「オーバーヘッドコンベア」と異なり、“畳”と呼ばれる大きなプレートに支柱を立て、その支柱の上にクルマをセットして搬送するというもので、「畳コンベアは床置きタイプなので自由に動かせるし、畳を追加することで生産能力を高められるという、非常にフレキシブルな方式」と安藤氏はいう。この畳コンベアでは、車両が縦に流れてくるオーバーヘッドコンベアに対して車両が横に流れてくる「横流し方式」が採用され、これによりラインで流れてくる車両間の距離を5.6mから3.2mとし、作業者の歩行時間の短縮(作業時間の短縮)に成功した。

 また、サブラインにも畳コンベアは採用されていて、従来のチェーン駆動コンベアではコンベア自体で作業者が左右に分断され、例えばエンジンを組み立てる際に作業者は片側しか作業を行うことができなかった。しかし畳コンベアでは360°自由にアクセスすることができ、最適な姿勢で作業を行えるようになったという。

 さらに1台分の部品を台車にセットし、ラインに供給するというSPSの導入以前は、ラインの両側に部品棚が並べられ、どの部品を取り付けるかが書かれた指示票を確認しながら部品を組み込む必要があった。導入後は畳1枚に対してSPS台車1台がセットされ、SPS台車には組み立てに必要な部品だけが用意されることから指示票の確認をする必要がなく、部品の取り間違えといったミスをなくすことに成功。加えて「異品・欠品の撲滅とともに、正しい部品を正しく取るというのは訓練が必要だが、(SPS導入により)習熟期間を短縮することができる」と、安藤氏はSPS導入のメリットを語った。

 なお、今回公開されたのはパワートレーンなどを取り付けるシャシーラインで、同ラインは2014年1月に完成している。今後はインパネまわりなどを取り付けるトリムラインが2014年8月に、完成車に向けその他部品などを取り付けるファイナルラインが2015年1月に新世代化され、完成車の検査を行うテスターラインを設置する2015年5月の完成を持って岡崎工場の改善が終了する予定になっている。

生産工場のレイアウトを大幅に変更。メインラインのスリム化によって物流エリアが大幅に拡大された
“畳”と呼ばれる大きなプレートに支柱を立て、その支柱の上にクルマをセットして搬送する畳コンベアを採用
畳コンベア+横流しの導入でラインに流れる車両間の距離を短縮
サブラインにも畳コンベアを採用し、作業者は360°自由にアクセスすることができるようになり、最適な姿勢で作業を行えるようになった
畳1枚に対してSPS台車1台をセット。SPS台車には組み立てに必要な部品だけが用意されることから指示票の確認をする必要がなく、部品の取り間違えといったミスをなくすことに成功
SPSの導入により作業者の負担を低減することができた
部品棚の廃止でラインサイドがすっきりした
AGV(無人部品搬送用台車)は主に4個所で活用される
屋内搬送用AGVはi-MiEVのリチウムイオンバッテリーを再利用
新世代化によってPHEV電動コンポの組み付けをメインラインで作業することが可能に
岡崎工場における組立ラインの新世代化のスケジュール。2015年5月に完成予定

 以下、今回公開された岡崎工場のシャシーラインと塗装工場の写真を掲載する。

シャシーライン周辺で活躍していたAGV
シャシーラインの作業の様子。畳コンベアによって車体が運ばれてきて、リアサスペンションやPHEV電動コンポなどの組み付けを行っていた。車体に組み込まれる部品はAGVによって運ばれてくる
SPS(Set Parts Supply system)エリア。このエリアでラインに流れる車体の組み立てに必要な部品を台車に振り分けている。これまで作業者は部品の組み付け、部品棚から部品を取る必要があったが、SPSの導入により作業者のミスがなくなったという
岡崎新塗装工場では溶剤塗装から水性塗装に変更し、VOC(揮発性有機化合物)の排出量を削減。また中塗り・上塗りのカラーベースとクリアの3層を連続して塗り重ねた後1回で焼き付ける「3WET塗装」と呼ばれる塗装技術を採用し、乾燥炉の通過回数を従来の2回から1回にすることでCO2排出量を削減。環境に配慮した工場となっている。一方、下塗り時には「E-DIP」と呼ばれる新方式を採用。これは下塗りにロボットタイプの新コンセプト電車搬送方式を採用し、車種ごとの形状に合わせて前処理剤が溜まった水槽への入槽角/出槽角を自由に設定できるようになった。これにより、車体内部の空気の溜まりをなくすなどして防錆品質を高めているという

(編集部:小林 隆)