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三菱自動車「アウトランダー PHEV」の電池パック交換作業を見る
生まれ故郷に帰ったクルマを大手術し、リコール改修
(2013/7/17 00:00)
三菱自動車工業は7月8日、名古屋製作所 岡崎工場(愛知県岡崎市橋目町字中新切)において、プラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」のリコール改修作業に関する記者会見を実施。あわせてリコール改修作業の一部を報道陣向けに公開した。
記者会見冒頭の三菱自動車工業 代表取締役社長 益子修氏の挨拶は先の記事に掲載したとおりだが、ここではリコール改修作業の一部を紹介していく。一部とはいえ、今回のリコールの主問題である電池パック交換作業については、そのほとんどの撮影が許されており、同社がPHEVをより理解してほしいとの思いが見て取れた。
電池パック交換作業の見学に先立ち、常務取締役 相川哲朗氏から作業概要についての説明があり、常務取締役 中尾龍吾氏からPHEVの安全性についての説明があった。
電池パック交換作業概要
Car Watch本誌でも何度か掲載しているように、今回のリコール改修作業はアウトランダーPHEVの駆動用リチウムイオンバッテリーが溶損・短絡した不具合が見つかったことにある。三菱自動車の解析によるとその原因は、電池セル製造工程の一部となるスクリーニング工程(電池セル内の異物検出性向上のため実施している工程)で、作業者が誤って電池セルを落下させることで発生している。
アウトランダーPHEVは、この電池セルを8つまとめたモジュールを10ユニット搭載しており、結果として80セルが1台に積まれていることになる。リコール時点で4313台のアウトランダーPHEVが販売されており、80×4313=345,040、つまり約34万5000個の電池セルが市中に存在した。溶損・短絡したセルは、都合3セルだったが、問題はほかの電池セルに製造工程でのエラーがないとは言い切れないこと。たとえ1セルでもエラー状態にあれば溶損・短絡の可能性があり、購入者や購入検討者の不安を払拭できない。
そのため決断までに時間はかかったものの、1度販売したアウトランダーPHEVを全数回収。生産工場である岡崎工場に全国から集約し、再度ラインに流すことで、リコール改修作業を行っている。
相川氏によると、このリコール改修作業をするラインは、本来電池パックを製造して組み付けるライン。そのラインを変更して、電池パックを取り外す、取り外した電池パックを解体する工程を追加することで、市販車の量産と同じ工程・品質でリコール改修作業を実施している。
また、今回の問題を受けて量産工程も変更。電池を落とした衝撃がきっかけとなっているため、電子部品の落下に配慮すると同時に、一度落下した電子部品は使わないことを徹底教育。作業記録するカメラを10個所に設置し、万が一にもそのようなことが起きていないことを映像によって確認しているという。アウトランダーPHEVのラインは2直(1日2交代)となっており、直の終了後映像確認をしているとのことだ。
PHEVの安全性について
常務取締役 中尾龍吾氏からは、改めてPHEVの安全性についての説明があった。PHEVのコアとなる電池パックについては、各電池セル単位で状態をモニターしており、電池パックでの水没試験や、車両搭載状態での衝突試験も実施しているとのこと。今回の問題を受けて新たに実施したのは、内部短絡をあえて発生させる釘刺し試験。この釘刺し試験において、安全弁が開放し、発煙はともなうものの、発火に至らないことを確認できている。
リコール改修作業
リコール改修作業は、全国の販売店から集められたアウトランダーPHEVの受け入れから始まる。工場の受け入れ駐車場にアウトランダーPHEVを搭載したキャリアカーが到着すると、1台ずつ外観検査などを実施してクルマを受け入れ。その後、内装やエンジンルームの点検を実施しているようだった。
受け入れ後、アウトランダーPHEVは工場の中で作業を開始。まず初めに、エアコンのガスを抜く。これは、エアコンのガスを使って電池パックを冷やしているため。電池パックを取り外すので、事前にエアコンのガス抜きが必要となるのだ。
その後、作業ピットにおいてアウトランダーPHEVをジャッキアップ。作業スタッフがクルマの下に立ち、8個所の取り付けボルトを決められた手順で緩めていた。次に電池パックを受け止めるための台車をクルマの下に入れ、台車の電池パック受けを上昇させる。この状態でボルトを完全に外し、電池パック受けを下降させると、電池パックを回収できたことになる。
この段階で外したボルトなどは破棄。また、電池パックと接続されている高電圧ケーブル(オレンジ色の外装)などの端子はカバーをかけられ保護される。現場では「ケーブルを養生します」との用語を使っていた。
取り外した電池パックは解体工程に運ばれる。この解体工程は、本来電池パックの生産工程だった個所を、一部変更したもの。電池パックの解体・不要部品の破棄、新電池モジュールの取り付け、電池パックの検査などからなる。
電池パックは、おおよそ100の部品から構成されているが、そのうち70の部品を破棄、30を再利用するという。再利用するのは、電池パックの外装や電池モジュールを支える構造部品で、高電圧のかかる部品類はすべて破棄される。リサイクルはされるものの、リユースはされない。実際電池モジュール同士をつなぐ金属のプレート(構造材ではなく、許容電流の関係もしくは生産工程の単純化のため金属プレートでモジュールを接続していると思われる)は、外したそばから破棄ボックスに入れられていた。もちろん、電池モジュール、電気の流れる個所のボルト・ナット類や金属部品、シール材なども同様の措置が取られている。大きな部品では、電池パック上部のカバーは破棄、下部の構造材は再利用となっていた。
次に、下部の構造材に新しい電池モジュールをセットしていき、電池パックを作り上げていく。実はこの工程は、これまでの電池パックの生産ラインそのもので、量産工程の品質で電池パックを組み上げていく。組み上がった電池パックは、通常の生産と同様、各種試験、充電検査などを経て、アウトランダーPHEVに取り付けられることになる。違いは、電池パックの生産ラインに記録カメラが10個所設置されたことぐらいだろう。
その後、リコール改修作業(というより実質的には再生産)を終えた電池パックをアウトランダーPHEVに組み付ける。この手順も通常の生産時と同様になっており、生産車と同様のクオリティの仕上がりになるというわけだ。
リコール改修作業を終えたクルマは、再び工場の外へ移動し、一旦プールされてからオーナーの手元に戻っていく。バッテリーなどはまったく新品となっており、以前との違いはリコール改修作業を終えた車両であることを示すためのステッカーがBピラー下部のドア面に貼られていることぐらいだ。
三菱自動車側が公開可能な範囲で、リコール改修作業をご紹介したが、これだけの体制を敷いて改修を行うのは異例のことだ。それだけ、三菱自動車の危機感が表れていることに外ならないだろう。電気自動車をいち早く量産化し、SUVでのプラグインハイブリッドを実現するなど三菱自動車の技術力は非常に高いものがある。今回のリコール改修作業の報道公開に関しても、「お客様視点での……」という言葉が繰り返し出ており、すでにアウトランダーPHEVを購入した人に取ってもある程度満足できる対応がなされているのではないだろうか。
ただ、少し気になったのは作業の進捗スケジュール。「夏期休暇(8月10日~18日)までに完了」としているが、これはあくまで三菱自動車側の夏期休暇を指している言葉。完全なお客様視点とするならば、夏期休暇までに購入者のもとに届けていただきたいところだ。この点を三菱自動車の幹部に確認したところ、「アウトランダーPHEVを全国から集めて、全国へ返しているため、船便の手配など完全に詰め切れていない部分があるため」とのこと。三菱自動車がこれらの問題を解決し、多くの購入者が安心して充電し、プラグインハイブリッドのよさを満喫できる日が前倒しになることを期待したい。
三菱自動車は、夏期休暇前にリコール改修作業を終え、以降はアウトランダーPHEVの増産体制構築に入る。その後、ロシアや欧州などへの輸出体制を作り、大規模な量産体制が確立できたら北米での販売を目指す模様だ。