イベントレポート CES 2020

Mobileye、自動高精度地図生成システム「REM」の最新情報

Mobileyeの完全自律運転を自動運転開発ボードに搭載されているEyeQ5、このEyeQシリーズのADAS/自動運転のシステムを搭載している自動車を製造するメーカーとの共同の取り組みがREMとなる

 Intelの子会社で自動運転・ADAS向けの画像認識システムを提供するイスラエルのMobileye(モービルアイ)は、「CES 2020」に出展し同社の最新ソリューションなどを展示した。また、報道向けに同社が自動車メーカーと協同で行なっている高精度地図(HDマップ)を自動で生成する仕組み「REM(Road Experience Management)」の現状を説明した。

 Mobileye REM共同事業部長 兼 マッピング・ローカライゼーション担当副社長 タル・ババイオフ氏によれば、REMはMobileyeと自動車メーカーの共同事業になっており、Mobileyeのシステムが搭載されている車両が生成する走行データ(GPSによる軌跡や走行時にカメラが撮影している標識のデータなど)をユーザーや車両が特定できない匿名のデータとして収集し、それを元にしてリアルタイムにHDマップを作成していく仕組みだという。

 これにより、最新の高精度地図がない地域でもいち早く高精度地図を作成したり、ユーザー車両に対して日々追加される新しい標識のデータなどの形でデータをフィードバックしたりして、常に最新のデータを提供することが可能になる。

Mobileyeと自動車メーカーが共同で取り組んでいる自動高精度地図作成システム「REM」

Mobileye REM共同事業部長 兼 マッピング・ローカライゼーション担当副社長 タイ・ババイオフ氏

 MobileyeはEyeQ(アイキュー)シリーズなどの半導体やカメラユニットを統合したADASや自動運転向けのソリューションをティアワンの部品メーカーや自動車メーカーなどに提供している。Mobileyeの強みは、比較的小さい消費電力で高精度な画像認識ができることで、その点が評価されて自動車メーカーがすでに販売しているレベル2自動運転システムなどに採用されている。

BMWに採用されているレベル3自動転を実現するECU。EyeQ搭載

 そうしたADASや、レベル2+、レベル3、レベル4といったより高度な自動運転で重要になるのは、高精度3次元地図だ。現在世界中で、地図ベンダがそうした高精度3次元地図のデータを作成しているが、地図ベンダの地元のデータは強くても、他国のデータは充実度がイマイチだったりすることも少なくない。

REMのコンセプト(出典:Mobileye、REM Mapping Revolution)

 MobileyeのREMはそうした問題をカバーすることができる仕組みだ。具体的にはMobileyeのカメラシステムを採用している自動車メーカーと協力して、Mobileyeのカメラシステムが捉えた標識のデータや道路のデータをMobileyeのクラウドサーバーへアップロードする。そして、そのデータを元にして新しい地図を作成したり、地図データを日々更新していく仕組みとなっている。これにより、Mobileyeのパートナー企業が地図データを持っていない国でも地図データを作成したり、標識のデータなどを充実し、自動車メーカーが利用している地図データを動的に更新して、自動運転時の安全性をより高めることが可能になる。

カメラを利用して標識などを認識する(出典:Mobileye、REM Mapping Revolution)
撮影したイメージのデータすべてをアップロードするのではなく、1kmあたり10KBという極めて小さいデータに縮小する(出典:Mobileye、REM Mapping Revolution)

 Mobileye REM共同事業部長 兼 マッピング・ローカライゼーション担当副社長 タイ・ババイオフ氏は「例えば雨の日などに標識情報が最新になっていればより安全に自動運転が可能になる」と述べ、高精度地図を動的にかつ自動的に更新するREMの機能は、自動運転車の安全を高めることに貢献すると強調した。

 ユーザーが走らせている車両からのデータをアップロードするというとプライバシーの懸念があるが、ババイオフ氏によれば「アップロードされるデータがどのクルマから来ているのかは決して紐付かないので、プライバシーの懸念はない」とのことで、欧州のデジタルデータのプライバシーの取り扱いに関するルールであるGDPR(General Data Protection Regulation)も満たしていると説明した。

すでにBMW、日産、フォルクスワーゲン、フォードなどが参加している(出典:Mobileye、REM Mapping Revolution)

 ババイオフ氏によれば「クラウドにアップロードされるデータは、画像そのものではない。画像を車両側で処理を行ない、現在の地図の差分などだけをアップロードする仕組みになっている。このためデータ量は1kmにつき10KB程度であり、年間にならしても200MB程度。音楽ファイル6曲分ぐらいだ」と述べ、自動車メーカーが提供するセルラー回線を利用したインターネットへの圧迫もないと説明した。

REMはすでに欧州、米国、日本などで稼働しておりデータは日々増えている

グローバルのカバー状況。参加している自動車メーカーが日米欧がメインということもありまずは日米欧が先行(出典:Mobileye、REM Mapping Revolution)

 このREMのシステムはすでにグローバルで稼働しており、欧州、米国、日本、豪州などでREMを利用した高精度地図の自動アップデートが提供されているという。例えばドイツでは、フォルクスワーゲン、BMWのシステムとして採用されており、それらのMobileye搭載システムからデータが採れているという。日本では日産の「プロパイロット 2.0」などに採用されており、すでに日本の高精度地図の更新にも利用されているとババイオフ氏は説明した。

欧州の状況、欧州のほぼ全域のカバーは今年の第1四半期(1月-3月期)に終わる見通し(出典:Mobileye、REM Mapping Revolution)
米国の状況(出典:Mobileye、REM Mapping Revolution)
日本でのREMのマップ作成状況、高速道路からカバーが進んでいる(出典:Mobileye、REM Mapping Revolution)

 なお、すべての国でこうした取り組みができるかと言えばそうではなく、例えば中国や韓国ではこうした取り組みが法律で禁止されているため、現在両国はREMの空白地域になっていると説明した。

 また、こうしたシステムを採用する自動車メーカー側のメリットについてババイオフ氏は「自動車メーカーとはレベニューシェア(売り上げを分け合うこと)を行なっている」と述べ、自動車メーカーに対しては動的に作成している地図を利用することだけでなく、地図のデータを販売した場合にはその売り上げをMobileyeと自動車メーカーとで分けるというビジネスモデルになっていると説明した。

 ババイオフ氏は「自動車メーカーにとってのもう1つのメリットは、世界中でこのシステムを利用できること。本拠地のある国だけでなく輸出先のデータを日々更新したりという作業は自動車メーカーにとっても負担が大きい。しかし、REMを使うことができれば、その心配がなくなるため、それもREMのバリューだ」と述べ、グローバルにビジネスを展開する自動車メーカーにとってメリットが多いと強調した。

タイ・ババイオフ氏のスライド(出典:Mobileye、REM Mapping Revolution)
CESでのMobileyeブース

笠原一輝