イベントレポート

小糸製作所 勝田隆之技術本部長にデンソーとの協業などについて聞く

一般公開日:2023年10月28日~11月5日

入場料:1500円~4000円

株式会社小糸製作所 専務執行役員 技術本部長 勝田隆之氏

「ジャパンモビリティショー2023」(一般公開日:2023年10月28日~11月5日、場所:東京ビッグサイト)に出展している小糸製作所は、プレスデー2日目となる10月26日に西展示棟4階 3~4ホール・W3303の同社ブースでプレスブリーフィングを実施した。

 ブースでは1万6000個のLEDをハイビームの光源として使う「高精細ADB」など、「光」技術の創造を会社の理念とする小糸製作所らしい多彩な技術を初公開しており、展示内容については関連記事「1万6000個のLEDを使う「高精細ADB」を初公開した小糸ブース デンソーとの協業で「1秒先を知るライティング」を実現すると勝田技術本部長」でも誌面掲載しているが、当日の会場ではプレスブリーフィングにも登壇した専務執行役員 技術本部長 勝田隆之氏にインタビューする機会を得たので、本稿ではインタビュー内容について紹介する。

1万6000個のLEDをハイビームの光源として使う「高精細ADB」

自分たちで「ランプ屋だ」と定義してしまうとランプで終わってしまう

勝田隆之氏は1985年4月にトヨタ自動車に入社してレクサスセンター チーフエンジニアなども務めた人物。2016年4月から小糸製作所の常勤顧問に就任し、現職に至る

――初開催となったジャパンモビリティショーでは6種類の技術が御社ブースで初公開されています。これは偶然なのでしょうか、もしくは今回のジャパンモビリティショーに向けて、とくに気合いの入る理由などがあったのでしょうか。

勝田氏:われわれは以前から、モビリティショーなどがないときでもお取引のあるカーメーカーさまなどに向けた商談会を定期的に行なっています。新技術がある程度の数まとまったら、まずはカーメーカーさまに対して内見会のようなイベントを数年に1回といったスパンで定期的に開いているので、こういった新しい製品のイメージを造るといった作業をコンスタントに続けているのです。

 今回のジャパンモビリティショーの会場で展示している技術については、ほとんどをカーメーカーさまなどには1度提案をしております。ものによっては検討中になっていたり、すでに量産に向けて動き始めていたりといろいろなフェイズになっています。われわれとしてはモビリティショーはセカンダリーという位置付けで、カーメーカーさまに内見というような形でお話しするのが一番最初になります。

 今年は新しい技術としてLiDARなどにも取り組んでいるので、そこの関係と、コロナ禍のころに出せないでいたネタなどもありまして、全体としては少し多めになっているのかもしれません。ただ、これぐらいのネタの仕込みには常に取り組んでいないといけませんので。

 この理由としては、競合他社さまやカーメーカーさまの動きが変わっていくところがあるのです。少し前までは「CASE」や「MaaS」だと言われていたのが、最近はエレクトロニック一辺倒で、あとは水素であるとか。コロナ禍の前と後でカーメーカーさまの指向も違ってきています。そこでわれわれも、以前はコミュニケーションかなと考えていたのですが、最近は「それなら電費だよね」といった方向になっていますね。自分たちのやれる範囲で、今のトレンドで何が求められているのかというところにフォーカスを絞り直してご説明していくようなこともよくやっています。

――御社の事業で中心になるライティング関係だけではなく、LiDARや電費向上といった新しいジャンルに挑戦しているので、初公開する技術が増えているということでしょうか?

勝田氏:自分たちで「ランプ屋だ」と定義してしまうとランプで終わってしまうのですが、われわれはその前に「光」を扱える会社だよね、ということです。そこで光を使ってどんなものが造れるのか、何があったらうれしいかなと考えるなかで、今回のブーステーマのように、ランプはドライバーのためにあって、今はそのドライバーの隣には自動運転やADAS(先進運転支援システム)がいるから、そのシステムやセンサーのために何ができるのか。クルマでの対応が済んだら交通参加者のために何ができるのかと、思考を広げていくと光でできることがいろいろとあるんじゃないかという感じで整理していって、今日お見せしている内容になったかと思います。

小糸製作所は2007年にレクサス(トヨタ自動車)の「LS600h」で世界初のLEDヘッドライトを実用化。現在は軽自動車向けまでラインアップを拡大している

――初公開の高精細ADBはハイビームの照射範囲を1万6000個に分割していますが、この1万6000という数はどのような理由からできているのでしょうか。

勝田氏:分割数やどれぐらいの数が必要なのかといった点は、多数ある光源メーカーさまで各社いろいろなタイプを用意されています。今回発表させていただいた高精細ADBで使っているチップは日亜(化学工業)さんの特殊な製品で、日亜さんはわれわれが世界で初めてLEDヘッドライトを導入したときからのお付き合いで、親密にお付き合いさせていただいています。彼らが今考えるなかで、分解能として最小限必要な数字と作りやすさといったバランス。それから縦横比についても問題になる部分です。画素数よりもランプの場合は横に長くて縦は狭くてもいい、横に広い方が使い勝手がいいところがあるので、そういった要素からあのサイズのチップが開発されています。

 チップはチップとして、あれをどうやって使い切るかというのが灯部の問題です。あまり小さいところでヘッドライトのような明るい光が出るということは、当たり前ですが熱くなるんです。そして熱くなり方も周辺とまん中でまったく温度が違います。このあたりをきちんと冷却してチップを使い切るという部分がわれわれが持つ回路設計の技術で、ランプ全体の冷やし方の技術という点になります。チップと灯体をコラボレーションさせながら、今日お披露目した高精細ADBのような“新しいうれしさ”として作っています。

 LEDがヘッドライトで初めて採用されたのが2007年のことで、もう15年以上が経過していて、その間に1Wあたりの明るさもどんどん進化しています。進化のペースは以前ほど劇的ではなくなっていますが、それでもまだまだ効率が高まっているので、その点でも日亜さんやそのほかの光源メーカーさまが切磋琢磨を続けています。われわれもいろいろな光源メーカーさまとどうやってチップを使い切るのかという開発をやりながら、もっとうれしい配光制御を提供できるようにしたいと思っています。

LiDAR製品は北米のベンチャー企業セプトンと共同開発

――LiDARなどADAS関連のセンサー製品は将来的に大きな市場になると想定される有望な分野ですが、それだけに国内に止まらず大小さまざまな競合企業が存在しています。この分野における御社のアドバンテージ、特色などはどのようなものがあるでしょうか。

勝田氏:まず、われわれは世界的に見ても何本かの指に入るランプメーカーです。その面でほぼ全方位でカーメーカーさまとお付き合いがあり、長年に渡ってランプをきちんと決められた数、決められた日程でデリバーしてきたというサプライヤーとしての安定度、品質の高さをベースラインとして信じていただけるようになっています。その小糸製作所が新しい技術として(センサー製品を)やっています。しかも、ランプと同じ光の技術の延長ですということで、とんでもなく無理なことをしているわけではありません。われわれができる範囲でしっかりやっている技術で、性能は負けていませんといったところが強みになっています。

 もう1つ、そうは言っても、小糸製作所だけだとLiDARは素人でしょという話になるので、創業5年ぐらいになるセプトンという北米のベンチャー企業といっしょにやっています。彼らはとくにソフトウェアが優れていて、彼らのソフトウェアやアイデアを、われわれの生産技術や量産技術でしっかりと下支えして、お客さまに責任を持って提供するという関係です。とてもカッティングエッジなセプトンのみんなと、コンサバすぎるのかもしれませんがちゃんとしたもの作りをするわれわれのようなペアは、実は世界中を見てもあまり存在していません。ここが一番の強みで、先端技術でも安心感でも、どちらでも買っていただけますということで各カーメーカーさまにお話をして、それなりに皆さんから「そうだね」と言っていただいています。

――その実例というのが、ブースで展示されているヘッドライトですね?

勝田氏:あそこにあるフォードの「F-150」の(LiDARセンサーを組み込んだ)ヘッドライトですが、なぜならあれはもともとわれわれが作ってきたヘッドライトだからです。以前からわれわれの子会社である「ノース・アメリカン・ライティング・インク」が生産しているヘッドライトで、改造しやすかったので使っているだけです。もちろん、中身についてもよく分かっています。北米ではいわゆるビッグ3のフォードさん、GMさん、ステランティスさん、こういった大手カーメーカーさまがADASはどうするんだろうというお話を個別に聞きながら、各社さまのニーズに合う製品を提供できるようやっています。実は日本でカーメーカーさま相手よりもさらに活発に欧米のカーメーカーさまとやり取りしています。

――セプトンにとっても、御社が自動車メーカーとのパイプ役を務めてくれて助かるというところでしょうか?

勝田氏:ADAS関連はセンサーが特殊なので、自動運転ベンチャーというような会社がいろいろと出てきていて、われわれのパートナーであるセプトンともベンチャー同士のつながりで自動運転業界といったものができてきています。そんなベンチャーの人がカーメーカーさまのところに行くと、やはり「ちょっと怪しい」と思われてしまうようなんですね。それは財務体質もそうですし、品質や納期など、いろいろと心配になるところがあるのだろうと思います。ですから、セプトンについてはわれわれが一緒にやってちゃんと責任を取りますと言うと、そこから対応が変わることが実際にあります。

米セプトンとの協業で生み出されたLiDAR製品。ヘッドライト内蔵型は小糸自慢の強力なクリーナー機能もアピールポイントの1つ

――商用施設などさまざなシーンでの活用を目指すという移動体検知システム「ILLUMIERETM(イルミエル)」ですが、こちらで使用している御社のLiDARは、従来(または他社)のLiDARとはどんな違いがあるのでしょうか? 特徴やメリットについて教えてください。

勝田氏:もともと中距離向けLiDARをわれわれがオリジナルで作っていて、そこにパートナーのセプトンが持っている一定の範囲をスキャンしていくステアリングという独自の技術を組み合わせています。今回は(LiDAR製品の)中身をお見せしてはいないのですが、セプトンの構造は非常に信頼性が高いものです。“象が踏んでも壊れない”ではないですが、かなり厳しい状況下でも安定して動作するタフネスさを持っていて、クルマに車載して使うには過剰すぎるほどの性能です。逆にインフラで設置する場合には、メンテナンスフリーで使い続けられるよさを持っているので、それならこれをインフラ系で、となりました。

 そしてかなりの情報量を得ることができて、連携させると広い範囲の情報把握ができるようになるぞというコンセプトで今回の提案になった次第です。イルミエルはまだご提案という段階で、「これってアリだよね」と言っていただけるか、「いかがなものか」という意見になってしまうか、見ていただいた感想をいただきたいと思っています。

LiDAR技術を移動体検知システムに応用する新発想の製品「ILLUMIERE(イルミエル)」

――イルミエルのような製品は、どのような相手に売り込んでいくことになるのでしょうか。

勝田氏:今回のように大きな会場で行なわれるイベントの人流把握であるとか、この人流把握でもリアルタイムの人流だけではなく、例えば瞬間最大風速のようなところでどうなるのか、逆に1週間での周期性ではどうかとか。もしくは、どんなところで人が立ち止まっているのか、動きが遅くなっているのかなど、人の移動を把握して傾向を掴むと、例えば広告を出す、商品を並べ替えるといった作業に利用できます。このあたりは物流業界で注目されている技術らしいですね。

 いわゆるショッピングモールなどの店舗が多数存在するところや広場などで、災害発生時に出入り口に人が密集してしまうのではないかといった懸念ですね。監視カメラの映像では人が集まっていることを漠然と把握できるだけですが、これがLiDARを使った製品なら個々を追うことが可能で、正確な人数や時間ごとの増減を定量的な情報として提供できるようになります。監視することで分かるようになる情報のレベルがLiDARを使うとまったく違ってきますので、ぜひどこかで試させていただいて、便利さを評価していただいたり、使い方のご提案をいただいて伸ばしていきたい領域だと考えています。

――これまでお付き合いの深い自動車メーカー以外の販路が必要になるわけですね?

勝田氏:小糸製作所ではカーメーカーさま以外にも小売り販売を行なっています。また、関係会社のコイト電工は信号機や高速道路の表示板などを作っている会社なので、お客さまは警察や道路会社といったいわゆるインフラ系のパスを持っているビジネスをしています。ですから、企業集団としての小糸グループではインフラ側に売り込むパスを実際に持っています。

 ほかにも「PayPayドーム」「京セラドーム大阪」といったドーム球場の照明も小糸製で、照明製品としても施設に販売しているパスも持っていますので、例えばドーム球場のスタンドに渋滞状況を見るような仕組みはいかがですか?といった形でわれわれの営業スタッフがご提案することも可能ではないかと考えています。

自分たちができる範囲を“夜の会社”としてやっています

デンソーとの協業開始はプレスブリーフィングでも紹介された

――10月19日にデンソーと「夜間走行時の安全性向上」に向けた協業開始を発表されましたが、協業することになったきっかけなどはあるのでしょうか?

勝田氏:理由はいろいろとありまして、ちなみに私も小糸製作所の前はトヨタ自動車で働いていたので、知り合いがトヨタにもいて、ほかの役員同士でも知り合いがいたりとか、トップ同士が紹介を受けていたりとか、部品工業会で顔合わせするような機会で話をして馬が合うといろいろ盛り上がったりします。そんな流れで、今回はたまたまデンソーさんだったという感じです。デンソーさんと何がしたいかというより、デンソーさん“とも”やりたいですし、ほかの会社さんとも馬が合えばいろいろなことをやりたいと思っている。今回は一例として、デンソーさんの許可もいただいたので、お互いにいいところがあるのではないかということで広報発表させていただきました。

 直感的に分かりやすいところで、カメラで見えにくいところをランプで照らしてやれば見えるようになるよね?という、ストレートな部分での困りどころを、製品化していくためにどうやっていくかは今からやり始めるところで、お伝えしたかったのは、自分たちとは違うところの機能をやっている会社とわれわれが持っている光の技術を組み合わせると、もっといいことが起きるんじゃないかいうところに小糸製作所は積極的な会社ですよという部分を皆さんに認知していただけたら、次にまたいろいろな会社さんと話ができるのではないかと考えて発表させていただきました。

――今後もさらに枠組みを広げていきたいと?

勝田氏:そうです。異種格闘技戦は大好きなので(笑)。いや、格闘技ではないですけど、いろいろな人と異種コラボするのは大変面白そうだと感じます。例えばほかの部品のどこかを光らせるとか、光ることが何かの機能に役立つとか、いろいろな切り口があると思います。ほかの会社さんにも、「光ることだったら1度小糸に相談してみようかな?」と考えてもらえるようになればうれしいですね。

――デンソーと進める「夜間走行時の安全性向上」に向けた協業では、具体的な開発テーマはこれから探索・設定していくとのことですが、両社で何人くらいのスタッフがこのプロジェクトに参加する予定なのでしょうか。

勝田氏:協業については先行開発のごく一部のスタッフになります。デンソーさんでもごく一部の人になります。ただ、具体的にどの車種で何年の発売を目指そうと話が進んだとたんにやらなければいけないことがワッと増えてくるので、そこでは必要に応じて戦力を投入してやることになります。われわれぐらいの企業規模の会社では、忙しいところをみんなでワーッとやって、1つ終わったら次をワーッとというものです。

――協業では夜間の歩行者死亡事故を低減するために、画像センサーが歩行者を従来以上に早く認識できるライティングの実現についても検討するとのことですが、現状では画像センサーはどの程度の認識ができているのでしょうか?

勝田氏:画像センサーの具体的なところはデンソーさんがプロフェッショナルなので、そんなデンソーさんがどんなところに困りごとがあるのか、それに対してわれわれが何をできるのか、これからそんな話し合いを始めることになります。例えば先方から「四六時中昼のように明るくできないか」と言われるとしたら、「そうすると明るすぎて法規違反になってできませんね」と答えて、それならどうしようかと。ここまではできる、ここから先はそれぞれ自分たちでという話し合いがこれから進んでいくのだろうと思います。くどくなりますが、デンソーさんだけではなくいろいろな会社と協業でこんな話をしていきたいと思っているところなんです。

小糸製作所のライティング技術と他社の得意領域を組み合わせることでどんなことができるのか、今後さらに模索していきたいとのこと

――夜間の歩行者死亡事故を低減するというテーマで、どんな会社に加わってほしいといった希望はありますか?

勝田氏:われわれは“夜の会社”で、ランプで夜間走行の安全を高めることはそもそもの本業です。なので、センシングに頼らないところで、ちょうど今日お披露目した高精細ADBのように、常時ハイビームでも周辺の皆さんにご迷惑をかけない、最小限の範囲をまぶしくないようにして残りの範囲を全部ハイビームで照らすという世界をまずは作っていきたい。

 高精細ADBも1万6000個のLEDが載っているデバイスなのでそれほど安くはできませんが、それをどれだけ手ごろにしていけるか、ヘッドライトは外観デザインとも関連するので、最近流行の細いヘッドライトにどうやって入れ込むかなどの新しい技術開発が必要です。そんな自分たちができる範囲を“夜の会社”としてやっています。それ以外のところで、夜間のセンシングのためにどんなことができるのか、というところを考えるのが協業での取り組みになります。

――御社としては、まずはライティングの技術で夜間走行でもドライバーに自発的に事故回避してもらって、そこから先のところをデンソーとの協業で、といったスタンスになるでしょうか。

勝田氏:そうですね。ただ、交通事故に関しては夜だけではなくて、ランプでは可視光以外にも赤外線や紫外線も照射できます。人間の目には見えない光を日中に積極的に出すことでいいことがあるのなら、それによってセンシングを助けるといった使い方もできるでしょう。光は電磁波の一種でもあるので、波長を変えればいろいろなことができます。ただ、基本的な光学技術と同じなので、そのあたりは頭をやわらかくして考えています。

 LiDARについてはすべて赤外線を利用する製品ですし、われわれのような発光素子を扱うメーカーは、白色光から紫外線、赤外線となんでもござれで、例えば浜松ホトニクスさんから買う、日亜さんから買う、オスラムさんから買うといったことが可能で、それぞれの光源を使い切るのがわれわれの光学技術です。

 とにかく、違う会社の人と話をするのが一番楽しいですね。1+1を2ではなく、もっと大きくしていって、「その手があったか!?」って皆さんに言わせたいです。「そこを来ましたか」って言われることが技術者として勝ちだなということで、そんなものを1つでも多く作っていきたいと思っています。

佐久間 秀