長期レビュー

高橋敏也のトヨタ「86(ハチロク)」繁盛記

その5:ハチロクの収納をあれこれ試す!

スポーツカーで気になるのが収納。今回はハチロクの収納について取り上げる

 ある日のこと、プリウスに乗っている時とまったく同じ質問を知人から受けた。「ハチロクってさ、ラゲッジルーム小さいでしょ?」と聞かれたのだ。プリウスの時とまったく同じ。プリウスの場合はハイブリッドということで大容量バッテリが搭載されており、それがラゲッジルームを狭めていると思われた。ハチロクの場合はもちろん、そのスポーティな形状から、荷物が載らなさそうに見える。確かに見た目はそうだ。

 プリウスは確かに大容量バッテリを後部に搭載しているが、ラゲッジルームは意外に広い。ハッチバックだから開口部も広く、大きな荷物も楽に出し入れできる。シートバックを前倒しにすれば、そのスペースはさらに大きくなる。ミニバンには負けるだろうが、小型から中型セダンとはいい勝負をするし、あるいはプリウスの勝ちとなる。私のように秋葉原でパソコンの本体ケース(簡単に言ってしまえば、大きな箱)を買い込む人間にも、充分対応してくれた。

 では、ハチロクはどうか? 正直な話、トランクルームの開口部は小さく狭い。また外観からしてそのラゲッジルームが、大きいはずがない。だが、ハチロクのカタログを見ると意外な事実が見えてくる。カタログではゴルフバッグを2つ搭載できるとしているし、サーキットでスポーツ走行を楽しむためのタイヤ4本、工具箱、そしてヘルメットなどが搭載できると示されているのだ。もちろんリヤシートのシートバックを前倒しにした状態での話だが。

 タイヤ4本と工具箱、ヘルメットを積み込むのは、トランクの開口部から見てちょっと手間だろう。しかし、ゴルフバッグ2つというのは意外にすんなり収納できるはずだ。その際、シートバックを畳むのでハチロクは2人乗りとなり、その2人分のゴルフバッグを積む。なるほど、では実際にやってみようと思っても、不肖・高橋、エビ釣りは得意だがゴルフなどやったこともないし、当然のごとくゴルフバッグなど持っていない。さらにサーキットでスポーツ走行というのも、守備範囲外である。なのでここは一つ、別のアプローチを考えてみよう。

後部座席を倒すこと前提ですが……

 ハチロクのラゲッジルーム、その広さを具体的に示すなら「シーズー犬が何匹入るか?」を試すのが一番いいと考えた。だが、我が家にはシーズー犬が2匹しかいないし、シーズー仲間に声をかけても、せいぜい5~6匹程度しか集まらない。よってシーズー犬積み込み計画は断念。

 そんなある日、オフィス近くのギター屋さんへ、エレキギターを2本ほど調整に持っていくことになった。ギター2本というのは結構な荷物になるが、そこに普段持ち歩いている書類などの入った大きめのショルダーバッグが加わる。挙げ句その日は、持っていきたい小物があって、結構な大荷物になってしまった。もちろんそれら全てを、ハチロクに積み込まなくてはならない訳だ。

 しかし考え方を変えれば、これは絶好のチャンス。ギター2本というのは一般的ではないにしても、ラゲッジルームの状況を見せるには、いい具体例になってくれそうだ。そんな訳で、とにかく写真を撮ることにした。

ハチロクの前に勢揃いした「運びたい荷物」。結構なボリュームである

 やはりギターは長かった。エレキギター本体の長さは約1m、そこにケース分の長さが加わる。これがハードケースになると大きく重く、持ち歩くのも重労働となる。今回はハードケース一つとソフトケース一つだったが、持ち運ぶにはクルマが必要だ。ではハチロクに積み込んでみよう。

普段のラゲッジルーム。荷物用の毛布、そして使い捨てのワックスシートが積んである。私の場合、後席は通常倒してある

 ハチロクのラゲッジルームをフルに活用するなら、リアシートのシートバックを前に倒しておく。普段の運転だと我が家のハチロクは私とポニョ嫁、2名乗車なのでリアシートが使えなくても問題はない。むしろラゲッジルームが広い方がメリットになる。ちなみにケース入りのギターは、トランクルーム内に横置きできなかった(モデルによっては横置きも可能だ)。

 長さ1mを超えるギターを入れようとすると、やはりシートバックは倒さなくてはならない。いや、逆の言い方をするとシートバックさえ倒していれば、エレキギターの5本や6本、ハチロクはいとも簡単に格納できるのである。今回は2本しか入れないので、空いたスペースに大きめのバッグを入れても問題ないし、そうしたとしてもかなり余裕がある。

まずはギターを2本入れてみた。ハードケースとソフトケース、ごく普通に入る
さらに普段持ち歩いているショルダーバックを入れてみた。まだまだ余裕がある
助手席側からラゲッジルームの状況を見る。これならシーズー犬が10匹ぐらい住めそうだ。大変なことになるとは思うが

 結局、ギター2本とそのほかの荷物程度では、ハチロクのラゲッジルームがスッカスカになるということだ。いかん、これではいかん! もっと何かこう「ギリギリまで詰めました!」といった雰囲気が欲しいのだ、私は! ということで、また別のアプローチを考えよう。

ハチロクの限界に挑む!

 スポーツカーに慣れている人なら、ハチロクの限界に挑むと言えば、タイトなコーナーを走り抜けてみたり、あるいはサーキットでスポーツ走行にチャレンジするのだろう。しかし私の場合、ハチロクの限界に挑むと言えば、それは「ミドルタワー本体ケースを外箱込みで、何台分積むことができるか?」を意味するのである。いや、こんなことも想定しておく必要のある商売なんですって。

 という訳でオフィスへ行ったついでに、ハチロクのラゲッジルーム、その限界に挑んでみた。積み込むのは先ほども書いたが、自作パソコン用のミドルタワー本体ケース外箱付きである。ミドルタワー本体ケースは拡張性も高く、自作パソコンのユーザにもっとも人気のあるクラス(サイズ)だ。ちなみに外箱のサイズはだいたい似たり寄ったりで、実際に測ってみたところ、幅285mm、奥行き485mm、高さ550mmだった。結構大きい箱である。

まずはトランク、オープン。いつもどおり多目的な毛布と、ワックスシートが入っている。シートバックはほぼ常時、前倒し状態
これが自作パソコンのミドルタワー本体ケース、外箱入り。意外と大きいことが分かる。果たしていくつ、この箱が入るか?

 「倉庫番」の始まりである。本体ケースの外箱は、縦方向に長い直方体だ。角度や順番を考え、さらには「中に入れてから方向転換」をしないと、スペースが無駄になってしまう。それこそ懐かしいあのゲーム、倉庫番状態だ。まるで立体パズルをやっているかのようにしばらく作業を続け、ようやくハチロクの限界が見えてきた。ハチロクのラゲッジルームはミドルタワー本体ケースの外箱を5つ搭載できると判明した!

積み込みを開始、そんなに大量に積める訳もなく、すぐに限界に達する。だが、見てのとおりもう少し余裕があるのだ。そこで「倉庫番」開始
5つ積み込んだ状態で、内部はこうなっている。運転席、助手席のすぐ後ろに箱が迫っている。ちなみにシートポジションは通常位置(普段と同じ)
右に移動、左に移動。縦のものを横にしたり、はたまた回転してみたり……だが、空いているスペースにもう1つ入れることができない
結局、最後の1つ、すなわち6つ目が入らない状態でギブアップ。5つまでは詰め込むことができた
トランクを閉めた状態。こうして見るとラゲッジルームはギチギチに詰まっている……ように見える
外箱5つ、積んでみた。これだけの箱を積み込んだ訳だ。トランクの開口部と比較して、結構な荷物が入る

 外箱を5つ入れても、まだ余裕はある。そこに小さな箱やバックを入れることもできるだろう。トランクの開口部が小さいので、大きなものを入れるのには苦労するが、内部容積はかなり確保されていることが分かる。なお、助手席に外箱を一つ置いてシートベルトで固定するという方法もあるが、あまりにイレギュラーなので考えないことにした。

 ここですっかり忘れていたことを1つ思い出した。そう、シートバックを起こした状態のラゲッジルームを確認していないのである。ものはついでということで、同じ外箱をいくつ積めるか試してみよう……といっても見ただけでなんとなく結果は分かる。そう、シートバックを起こしてしまうと、このサイズの箱は1つしか積めないのである。要するにハチロクの意外と大きなラゲッジルームは、リアシートを活用することで作り出されているということだ。

シートバック起立! 一気に狭くなったラゲッジルーム。これだと1つしか入らない気がする
まあ、当然の結果と言えるだろう。もう少し小さな箱なら2つ入るだろうが、このサイズは1つで限界だ

スポーツカーのユーティリティはシンプルが身上

 不肖・高橋、生まれてから約半世紀、幸いほぼ健やかに生きてきた(物理的にはかなり故障したけど)。だが、今年に入って、ついに花粉症を発症してしまったのである。体内の何かを貯めるタンクがついに溢れたのか、はたまたほかに原因があるのか。いずれにしても今年に入ってから、私の鼻は絶賛鼻水量産中である。

 その結果として、現在の私にとってティッシュは必需品であり、手を伸ばせばそこにティッシュがあるという状態でなくては困るのである。もし私がドラゴンボールを全部集めることが出来て、神龍に望みを聞かれたらギャルのパンティではなく、ティッシュが欲しいと願うだろう。日本男児としてはあるべき姿だと思うが、その用途はあくまで「鼻水処理」である。

 いや、何が言いたいかというと、花粉症のせいで我がハチロクは「ティッシュ常備」を義務づけられたのである。常備するということは、運転席から手の届く範囲にティッシュの箱を置かなくてはならないということ。ハチロクの車内でそんな都合のいい場所は、「フロントコンソールトレイ」しかないのである。

 実はこの場所、付属のフロントカップホルダー(グレードにより異なる)を置くことで、ドリンク置き場に変身する。ホルダーにはカップ、あるいはボトルを2本置くことができる。運転席、助手席から利用するには大変便利なスペースなのだが、同時にそこはティッシュボックスを置くのにも便利な場所なのである。

 ハチロクの場合、左右のドアに組み込まれた形でボトルホルダーが用意されている。ドリンク類はそこに置くこともできるが、ティッシュボックスは別である。フロントカップホルダーを使用せず、それで生じたフロントコンソールトレイに置くしかないのである(もちろん邪魔にならない場所に貼り付けるといった工夫も考えられるのだが、ハチロクの内装ではちょっと難しいだろう)。

フロントコンソールトレイ、ドリンクホルダーを入れていない状態
ここにはアクセサリーソケットが用意されている。私はこのソケットにUSBアダプタポートを取り付けて、スマートフォンなどの充電に使っている
たまたま見つけたものだが、本体がコンパクトなのでじゃまにならない。電源が入るとポート部分が黄色く光るのもお気に入り
脱着可能なフロントカップホルダー。便利なアイテムなのだが、いかんせんその場所はティッシュボックスに使われてしまうのだ
ホルダー底面にはノッチが設けられていて、トレイ内部の前後どちらかに置くことができる。トレイの前後に小さいながらもスペースがある
ドリンクの置き場所、ベストポジションはここだと思っている。だが、残念だけどそこは必需品の場所なのだ……
フロントコンソールトレイに入れているアイテム3種。もっとも大事なティッシュ、ペン、そしてLEDの強力な懐中電灯
まずはペンと懐中電灯を置いて……
その上にティッシュボックスを置く。いつ噴出するか分からない鼻水に対応するには、ここにティッシュを置くしかないのだ

 ハチロクのユーティリティ、すなわち収納スペースは実にシンプルである。メインはグローブボックス、そして先ほどから取り上げているフロントコンソールトレイの2個所だ。このほか本当に小さな小さな小物入れが1つ、そして左右ドアにボトルホルダーが設けられている。また、フロントコンソールトレイの前方に、小物を置くのに使えそうな凹みが用意されているのだが……使い道がよく分からない(収納などはグレードにより異なるので注意)。

 ちなみに私の場合、グローブボックスは車検証を含むファイルとマニュアルでほぼ一杯になっている。そこにサイバーナビから伸びるUSBケーブル(ポート2つ分)があって、一方には通信用のドングル、もう一方にはiPod Touchが接続されている。このほか携帯電話用のUSB充電ケーブル、緊急脱出用のツールが入っている。正直、広いとは言い難いスペースだが、最低限の機能は果たしているのでよしとしよう。

 考えてみれば、そもそもハチロクはスポーツカーなのである。充実したユーティリティが欲しいなら、スポーツカーを選ぶこと自体、間違いの始まりと言っていいだろう。別の言い方をするなら、ハチロクはスポーツカーとしてユーティリティが充実している部類に入るのである(と、ハチロク以上にスパルタンなスポーツカーに乗る知人が言っていた。「ボトルホルダーがあるだけマシ」とのこと)。

 人によって車内に持ち込みたいアイテム、常備したいアイテムは異なるだろう。私の場合、ハチロクの収納スペースで充分だと思っている。今回、収納スペースをあれこれいじっていて、ふと友人の話を思い出した。その記憶力に少しばかり不自由のある友人、ハンバーガーをドライブスルーで買って、置き場所に困り一時的にグローブボックスに入れたそうな。だいたい次の展開は想像できると思うのだが、暑い夏の日、そのことをすっかり忘れてしまった友人。数日後、大変なことになったのは当然の話である(昆虫的な何かとだけ書いておく)。

 そんなことをふと思い出して「ユーティリティ、収納スペースは必要最低限、あればいいのだ」と、ハチロクを見ながら思った次第である。

左右のドアに設けられたボトルホルダー。通常、私はこのホルダーを使っている。使い勝手はわるくない
オープン・ザ・グローブボックス! マニュアルなどはクルマに入れておく派なので、ほぼそれだけで一杯になる
コンソールにある小さな小さな小物入れスペース。奥行きもあまりないし、そもそも小物を入れると取り出しにくい
私は普段あまり使わない、サイバーナビのHUD用リモコンを入れている。この用途にはピッタリのスペースだ
フロントコンソールトレイ前方にある凹み。とりあえずリモコンを置いてみたが、本来は小銭などを置く場所なのか? 結構滑るし浅いので、使い道をあまり思いつかない
おまけ。ボトルホルダーの注意表示。「開いた状態のカップを置いてはいけませんよ」と。分かってるがなー!

高橋敏也

デザイナー、コピーライターを経て、パソコン関連のライターとして独立。SF小説なども上梓している。ライター歴は20年を超えるが、最近10年は真面目なレビュー記事というより、パソコンを面白おかしく改造する記事などを書いている。若い頃はオートバイをこよなく愛していたが、体力の衰えと共にクルマへの興味を持つ。このため自動車免許を取得したのは1998年。現在、クルマはトヨタのハチロク、オートバイはカワサキのNinja 1000とZ1300を所有、都内を縦横無尽に走っている。インプレスジャパン、DOS/V POWER REPORT誌に「高橋敏也の改造バカ一台」を連載中。ほかにImpress Watchでインターネット動画「パーツパラダイス」を配信中。