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NTTドコモと未来シェア、「AI運行バス」の共同開発で基本合意。共同記者会見と運用デモを実施

少子高齢化の社会ニーズに対応

2017年3月9日 発表

3月9日に行なわれた発表会でのフォトセッション。左から株式会社未来シェア 代表取締役社長、公立はこだて未来大学 副理事長 兼 システム情報科学部 教授 松原仁氏、株式会社未来シェア 取締役会長、公立はこだて未来大学 名誉学長、東京大学特任教授 中島秀之氏、株式会社NTTドコモ 取締役常務執行役員 法人ビジネス本部長 古川浩司氏、株式会社NTTドコモ IoTビジネス部長 谷直樹氏

 NTTドコモと未来シェアは3月9日、「AI運行バス」の提供実現に向けたモビリティサービスプラットフォームを共同開発する基本合意書を締結したと発表した。

 未来シェアは函館大学発のベンチャー企業で、「SAV(Smart Access Vehicle)」と呼ばれる配車システムの開発を行なっている。その未来シェアが持つSAVと、NTTドコモの「リアルタイム移動需要予測」を組み合わせることで、より効率の高い交通社会を実現するモビリティサービスプラットフォームを2018年度中に実用化することを目指している。

 3月9日に東京都内で行なわれた両社による共同記者会見では、それぞれの関係者からプレゼンテーションが行なわれたほか、開発中のシステムを活用したAI運行バスのデモ走行が披露された。

少子高齢化で労働人口は減るが、公共交通へのニーズが高まる二律背反に対策が必要

株式会社NTTドコモ 取締役常務執行役員 法人ビジネス本部長 古川浩司氏

 記者会見の冒頭では、NTTドコモと未来シェアそれぞれの代表者による挨拶が行なわれた。NTTドコモ 取締役常務執行役員 法人ビジネス本部長の古川浩司氏は「少子高齢化という状況のなかで、公共交通機関の従業員確保などが難しくなってきている。それとは逆に、高齢化に伴い、公共交通機関を使いたいというニーズが高まっており、そうしたニーズにミスマッチが起きている。そこをなんとかしたいという思いがある」と述べ、今後日本の社会が少子高齢化に向かっていくなかで、その社会状況に即した技術を開発していくことが大事だと指摘した。

 また、NTTドコモは交通システム関連で2つの実証実験を行なっており、1つは九州大学、福岡市、DeNAなどと共同で九州大学の構内で行なっているバスの自動運転、もう1つは東京無線、富士通などと共同で行なっているAIタクシーの実証実験に取り組んでいるという。

 古川氏は「そうした実証実験で一定の成果を上げているが、今回の未来シェアとの共同開発では、高度な運行管理のプラットフォームを開発していく。未来シェアはSAVと呼ばれる走行ルートの計算、配車システムを持っており、そこにドコモが持つリアルタイム移動需要予測を組み合わせていくことで、バス事業者にとってもメリットがある仕組みを作っていきたい。未来シェアのアセットに、ドコモの持つIoT、AI技術を付加していく、弊社で『+D』と呼んでいるビジネスモデルになる。IoTは無限の可能性を秘めており、さまざまなコラボレーションをつうじてさらに発展させていきたい」と述べ、各種の共同研究で交通システムの発展に寄与していきたいと述べた。

株式会社未来シェア 取締役会長、公立はこだて未来大学 名誉学長、東京大学特任教授 中島秀之氏

 続いて登壇したのは、未来シェア 取締役会長であり、はこだて未来大学 名誉学長、東京大学 特任教授の中島秀之氏。中島氏は「元の研究は2001年ごろから始めている。僻地では乗り合いバスが使われているが、都市型は従来のバスがいいとされてきた。しかし、実際に研究を進めてみると、都市でも乗り合いバスがいいということが分かってきた。そこで、高齢化では日本で1位とも言われていて、公共交通機関の運用が難しくなっている函館で実証実験を行なってきた。それがタクシーとバスを利用したリアルタイム配車で、研究開発が終わって実装できる段階に来たので、NTTドコモさんからお話があって一緒にやろうということになった」と語り、NTTドコモと未来シェアが一緒に研究開発を行なうことになった経緯を説明した。

それぞれの技術を持ち寄ってAIを利用する配車システムを実現

株式会社未来シェア 代表取締役社長、公立はこだて未来大学 副理事長 兼 システム情報科学部 教授 松原仁氏

 続いて、未来シェア 代表取締役社長で、はこだて未来大学 副理事長 兼 システム情報科学部 教授の松原仁氏が、未来シェアの取り組みについて説明した。

 松原氏は「現在、AIは3回目のブームになっており、仕事や生活のあり方を変えようという段階まで来ている。そこで我々は、AIを利用して人と物の移動のあり方を根本から変えていきたいと思い、昨年の7月に公立はこだて未来大学の初のベンチャーとして設立された」と、未来シェアが設立された経緯について説明した。

AIの開発を進めている背景
未来シェアの会社概要

 同社が開発しているSAVは路線バス、タクシーの長所を融合したシステムだと松原氏は語る。多くの乗客が乗るところはバスが、乗客が少ないところはタクシーがカバーする。このためにクラウドにあるAIシステムが乗客のデマンドを集約し、最適なルートを演算してリアルタイムに配車の指示を出す。従来であれば、こうした配車などは人間が行なっていたところだが、AIが行なうことで、より動的に適時に行なえるとする。すでに「Uber」などが米国で行なっているようなライドシェアを、タクシーだけでなくバスも含めて行なうのがSAVということになる。

SAVのシステム概要と具体的な仕組み

 松原氏は「SAVを利用することで路線バスは需要に応じて運行できる。現在のタクシーの『流し』はロスになっている部分があるが、SAVを利用すると最短経路で迎車できるようになる。これにより、乗客にも運行会社にもメリットがある。また、自治体にとっても公共交通機関を運行するために補助金を出している場合もあるが、それを減らしたり、将来的にはゼロにできる」と述べ、公共交通機関の効率化により、乗客、運行会社、地方自治体のそれぞれにメリットがあると説明。また、環境保全という意味でもメリットがあると解説した。

未来シェアの行なっている取り組み
株式会社NTTドコモ IoTビジネス部長 谷直樹氏

 続いて登壇したのは、NTTドコモ IoTビジネス部長の谷直樹氏。谷氏はNTTドコモが行なっている交通課題の解決に向けた取り組みに関して説明した。

 谷氏は「少子高齢化への対応が交通における課題となりつつある。公共交通機関の利用は減っており、大都市以外のバス会社の9割は赤字と言われているほどだ。コミュニティバスを増やすなどの取り組みも行なわれているが、効率性、利便性では課題が残っている。そこで、弊社が開発しているAI、IoTの技術を組み合わせて課題を解決してきたい」と述べ、未来シェアとNTTドコモの技術を組み合わせてAI運行バスを実現することで、交通課題を解決していきたいとした。

交通における課題
交通における現状
AIとIoTの研究を組み合わせていく

 谷氏によれば、現在開発しているシステムは、未来シェアのSAVにNTTドコモが提供するリアルタイム移動需要予測の技術を組み合わせてAI運行を実現していくという。スマートフォンのアプリで目的地を設定するといった作業は必要になるが、将来的にはスマホアプリを利用しなくても乗れるような仕組みも考えていきたいと語った。

未来シェアとNTTドコモが研究しているAI運行バスのイメージムービー

 また、NTTドコモでは、JTBコーポレートセールスと観光地での移動手段として、つばめタクシーグループと相乗りや乗り合いでの活用などの用途にこのシステムを利用し、それぞれで実証実験ができないか話し合っているという。谷氏は「今後、交通課題の解決に留まらず、物流企業への応用に、AI×IoTの高度な運行管制を行なうモビリティプラットフォームの共同開発を目指す」と述べ、今後もさまざまな形で発展させていきたいとの意欲を示した。

AI運行バスの目指す将来的な姿
ドコモの技術と未来シェアの技術を組み合わせる
ほかにも具体的な検証ができないか、すでに複数の企業と協議中
今後の方向性

将来的にはスマートフォンを持っていないユーザーにも対応していきたい

 記者会見の終了後には質疑応答が行なわれた。以下はその模様だ。

――スマートフォンが使えない高齢者にはどうしていくのか?

中島氏:実証実験ではスマートフォンを使っているが、実際の導入にはスマートフォンが使えない方にも配慮しなければいけないため、電話のコールセンターを用意するなどの必要があるだろう。ただ、5年も経てば私も71歳になるが、そのころには高齢者の方でもスマートフォンを使っている方は増えると思う。

谷氏:ドコモとしてはスマートフォンを利用するお客様が増えてほしいが、交通過疎地のシニアの方にも(乗ってほしい)と考えていくと、スマートフォンがなければ利用できないというハードルは下げていく必要があると認識している。

――アプリの画面で10分前後は到着時間が変わると表示されていたが、実際に途中で別の乗客を乗せる場合などは、すでに乗っている乗客に通知したりするのか?

中島氏:10分というのは仮にそうしている。現在は実証実験中なので詳しいことはこれから決めるが、10分を過ぎたら新しいお客さんは乗せないなどの対応になると思う。乗客に乗せるかどうかということは聞かない。乗り合いであることが前提だから。乗り合いにしないということなら、単なるタクシーと同じになってしまう。例えばタクシーと同じように乗り合いにはしないでほしいときには、そういう料金設定にするなどが必要だと思う。

――物流への応用について話していたが、どのようなことを考えているのか?

谷氏:現時点では今後の可能性ということで検討している、まだ実証実験などを行なっている訳ではない。

――JTBとの提携なども話が出ていたが、いつからやるのか?

谷氏:どのようなことをやるのかも含めて、まだこれから議論していく段階。できるだけ早い時期からやっていきたいと思っている。

――AI運行バスとなっているが、法制度や規制、ルートを自由に変えるといった面で法制度の改正が必要か?

古川氏:法制度もさまざまな研究をしたが、確かにそのままストレートには運行できない。バスの運行などは自治体ベースで決まっているので、自治体側と連携が取れれば可能だと認識している。

――予約不要で乗れるようにしたいということだったが?

谷氏:そういったところまでいければいいけど、(当初は)“お年寄りの方が定期的に買い物や病院にいく”といったシチュエーションを想定している。今後はより検討していく必要がある。

――DeNAと無人運転バスをやっているが、それをこのプロジェクトと合体させるつもりがあるのか?

谷氏:九州大学のキャンパスでDeNAと実証実験をしている。そこでもバスの運行システムをやっている。そこでの自動運転バスの運行システムに、この取り組みを適用していくのだろうと考えている。

現状はライドシェアと同じようなシステムに留まるが、将来の開発進展に期待

AI運行バスのデモに利用されたワゴン車。日本交通のハイヤーを複数貸し切ってデモが行なわれ、普通のタクシーと同じように運転手が車両を運転する

 記者会見終了後には、SAVを利用したAI運行バスのデモが行なわれた。デモは日本交通のハイヤーを貸し切る形で行なわれ、エキストラの男性がスマホを操作してシステムに配車を頼むという形で行なわれた。

 筆者が乗ったAI運行バス(に見立てたワゴン車)には、クラウド上にあるAI配車サーバーからの指示を表示するタブレットが用意されており、そのタブレットがGPSを利用して計測した自車位置をセンターにリアルタイムに報告する。乗客がスマホから配車を要求すると、複数あるAI運行バスの中から最適な車両に対して配車指示が送られ、運転手はその支持に従って乗客が待つ場所まで車両を移動。到着後に運転手が乗客に「●×さんですか?」と確認して乗車する。これはUberと同じような一連の流れで、配車から乗車までのデモが紹介された。

 現状ではUberと同じようなサービスという印象だが、未来シェアの説明では、将来的にはこれがバスとタクシーの両方を上手く使って配車するスタイルになるということなので、より効率的な交通システムが実現されそうだと感じた。

デモに利用されたタブレット。配車情報などが表示される
乗客(役のエキストラ)を迎えにいく車内
ピックアップ地点に到着すると乗客役のエキストラが乗車してくる、このときに名前で依頼者であるかを確認。この手順は米国のUberやLyftそのものだ
乗客を乗せて目的地に向かう
乗客が目的地でクルマを下り、一連の流れのデモが完了