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コンパクトカー販売No.1を獲得した「ノート e-POWER」の“新発想”を日産が解説

「走り」「操作」「燃費」「騒音」の開発に込めたこだわりとは?

2017年3月29日 開催

「ノート e-POWER」の“新発想”について語った日産自動車の開発担当者

 日産自動車は3月29日、2016年11月発売の「ノート e-POWER」に関する技術説明会を行なった。

 ノートは2016年10月から2017年2月末までの5カ月累計で5万8928台を販売し、3月末までの「2016年度下期」にコンパクト車種における販売台数No.1を達成する公算が高まった(編集部注:4月6日に1位獲得のニュースリリースを発表)ことを受け、この人気の要因をいくつかの技術的ポイントに絞って紹介したもの。「質の高い走り」「楽なアクセル操作」「低燃費」「静粛性」という4点について、各担当技術者が詳細に語った。

社内の「技術うんちく大会」で高評価を受けた発表内容をベースに解説した

 なお、各解説は、販売促進や情報共有のために同社の社内で開かれた「技術うんちく大会」で披露した内容から、高評価を受けたものを元にしているとのこと。

「上質な加速」を得る「リーフ」の技術も取り入れた緻密なモーター制御

 ノート e-POWERは、エンジンで発電してバッテリーに蓄電し、その電気の力でモーターを動かして走らせるという、これまでの乗用車にはない独特の機構を持つクルマだ。同社によれば、最大の特徴の1つであるこの発電用エンジン+モーター+バッテリーの組み合わせによって「なめらかで反応のいい上質な走り」を目指したという。

 モーターを動力として用いるEV(電気自動車)は、エンジン車と比較したときの優位性として、一般的に「ゼロ発進から最大トルクを発揮できること」「変速が不要で息継ぎのない加減速ができること」などが挙げられる。ノート e-POWERもモーターのみを使って駆動する構造であることから、そうしたEVのメリットを最大限に活かすことで「アクセル操作に対する反応のよさ」を実現するとともに、さらに独自の工夫を加えて「上質な加速」も得られたという。

電気自動車ともハイブリッドカーとも異なる構造を持つノート e-POWER
モーター制御について解説する日産自動車株式会社 パワートレイン技術開発本部の向善之介氏

「アクセル操作に対する反応」については、エンジン車の場合、アクセルON→スロットル開放→吸気量増加→燃焼噴射量増加→ピストンの上下動スピードアップ→タイヤに動力が伝わって加速という経過をたどる。一方、ノート e-POWERのようなEVは、アクセルON→インバーターへのトルクアップ指示→モーターの電流増加→タイヤに動力が伝わって加速という流れになり、必要なプロセスが圧倒的に少ないため、レスポンスにダイレクト感を出しやすいとした。

「上質な加速」は、同社のEV「リーフ」の開発を通じて得た知見や技術を取り入れていることが大きい。実は、ゼロから最大トルクを発生できるモーターとはいえ、正直に最初から一定以上のパワーをかけようとすると、車体の構造上の問題で「駆動トルクの伝達系にねじり振動が発生する」という。それによって加速度に大きなブレが生じてしまい、滑らかな加速が得られなくなるのだ。

 ノート e-POWERでは、この問題を「1万分の1秒単位の緻密な電流制御でモータートルクのコントロールする」という手法で解決した。瞬時に出力を高めたとき、直後にねじれを打ち消すように一瞬だけ出力を落とし、再度そこから出力を大きくすることで、一定に近い加速度で違和感なく加速できるようにしたという。

アクセル操作だけで停止もできる「e-POWER Drive」の操作性の秘密

「e-POWER Drive」について解説した日産自動車株式会社 EV-HEV技術開発本部の關(せき)義則氏

 ノート e-POWERでは、アクセル操作だけで発進・加速だけでなく、減速から停止まで行なえる「e-POWER Drive」も特徴の1つだ。これは、アクセルペダルをOFFにしたときにフットブレーキを使用しなくても、車両が完全に停止するまでエネルギー回生システムが働く(ドライブモードが「ECO」または「S」のとき)ことによる。通常のAT車よりもかなり強力に、エンジンブレーキならぬ回生ブレーキを効かせて、そこで発生するエネルギーを積極的に充電に利用しているのだ。

 この関係で「ノーマル」以外のドライブモードを選んでいるときは、一般的なAT車やMT車の運転に親しんできた人にとって、回生ブレーキが強く働く独特の操作感に慣れが必要なところもある。しかし、下り坂などをゆっくり進みながら右左折する交差点といったシチュエーションではアクセルとブレーキを踏み替える必要がなく、安全確認を十分にしながらアクセルワークだけでスムーズに通過できる。また、単純に最大限の回生エネルギーが得られるようにしているわけではなく、開発側としては「自然な停止性」にこだわったことがこうした扱いやすさにつながっている。

 もう1つ例を挙げると、クルマの運転が苦手な人の場合、ブレーキを最初から最後まで一定の力で踏んでしまい、車両が停止する瞬間につんのめるような“おつり”をもらうことがある。これを防ぐには、完全に停止する直前にブレーキを“抜く”動作が必要だ。そこでノート e-POWERの回生ブレーキでは、「運転が上手な人のブレーキ操作」を参考にモーターを制御。アクセルOFFによる減速時に“抜く”動作も考慮したエネルギー回生を行ない、スムーズで違和感のない減速と停止を可能にしている。

 また、アクセルOFFだけで強力な回生ブレーキによって減速できることから、ノート e-POWERでは2012年に改定された法規要件に則ってブレーキランプが点灯する仕組みを取り入れている。例えば、車両の減速度が大きくなる(減速が強まる)方向について、0~1.3m/s2に収まる範囲内ではブレーキランプはそのままで、1.3m/s2以上になると点灯する。また、1.3m/s2以上の減速度から小さくなる(減速が緩やかになる)方向について、1.3~0.7m/s2までは点灯を維持し、0.7m/s2以下になると消灯するというように、一定の基準を定めて安全性を担保しているという。

ノート e-POWERのアクセルOFFによる車両減速度に応じたブレーキランプとの連動

 なお、ブレーキペダルを踏んで減速する場合は、ブレーキパッドが摩擦で熱にする分のエネルギーが回生に使われない。つまり、可能な限りアクセル操作のみで減速した方が回生発電でバッテリーに充電できる量は多くなるわけだ。ただ、ノート e-POWERはブレーキペダルを使って停車した場合はブレーキペダルをOFFにするとクリープ走行を行ない、アクセルOFFだけで停車したときはそのまま停車を維持する仕組みとなっている。アクセルOFFでの停車が平坦なところであればとくに問題ないが、例えば坂道のように路面に傾斜があると、上り坂では後退しないよう前進方向に、下り坂では前進しないよう後退方向にモーターをわずかに働かせて停車状態を維持する制御になっている。停車中にブレーキペダルを踏み続けている必要がない代わりに、それほど多くない量とはいえ、バッテリーの電気を消費している状態であることは確かだ。

 一方で、ブレーキを使用して減速し、そのまま停車した場合、エネルギーを回生発電に使う量が減るかわりに、停車中はモーター制御が少なくなるか、場合によってはゼロになるという。したがって、ゆっくり減速してクリアしていく交差点や一時停止するような場面はアクセルOFFのみでコントロールし、信号待ちや踏切での電車の通過待ちといったような長時間の停車が予想できる場合はブレーキを使って停車することで、より低燃費で効率的な走りが期待できると考えられる。

短時間集中で発電。効率よくエンジンを使って高めた燃費性能

高い燃費性能について解説した日産自動車株式会社 第一パワートレイン開発本部の野口隆三氏

「S」「X」「MEDALIST」と3つのグレードを擁するノート e-POWERは、「S」がJC08モード燃費で37.2km/L、それ以外も34.0km/Lと、コンパクトカーとしてはクラストップレベルの燃費性能を誇る。この低燃費の秘密は「エンジンとタイヤが切り離されていることによる、効率のいいエンジンの使い方ができる」からにほかならない。

 ガソリンエンジンで燃費を向上させるには、燃料から(燃焼によって)取り出せるエネルギーを最大化する、つまりは効率を高めることが重要となる。しかし、エンジンの仕組み上、最も効率よく燃焼してエネルギーに変換できる領域(エンジン回転数や吸気量など)は限られている。通常のガソリンエンジン車では変速が必要だったり、速度に応じたエンジン負荷が必要となってしまう以上、効率のいい領域から外れて使うことがどうしても多くなる。原理的な効率とは関係なく、「走行に必要な仕事=エンジンの仕事」だからだ。

 一方、ノート e-POWERはガソリンを燃焼させるエンジンを使っているという点で通常のガソリンエンジン車と変わるところはないが、そのエンジンはタイヤ(駆動系)を直接動かすためではなく、あくまでもモーターとバッテリーに電力供給するための発電機である点で全く異なる。車両の走らせ方や速度に関係なく、要は最も多くの電力を生み出せる方法でエンジンを動かせばいいわけだ。そのため、ノート e-POWERでは走行状況が変化しても可能な限り発電効率が最も高くなるよう、エンジンの「いいところだけを選んで使っている」という。

 また、効率が高い領域というのは、多くの走行シーンで使われがちな低回転状態よりも、実際にはもっと高い回転域となっている。そのため、ノート e-POWERは、発電するときはある程度高い回転域でエンジンを動かし、短時間で集中的に効率よく発電するというメリハリある方法をとっている。エンジンが動いている時間が短いのに、それでも長距離を走れるカラクリはこういったところにある。

 ただし、ノート e-POWERが燃費面で本領を発揮するのはストップ&ゴーが多い市街地のシチュエーションだ。一定速度で高速走行するようなシチュエーションは、元々ガソリンエンジン車などでも効率のよいエンジンの使い方ができる領域になるため、80km/h以上の速度域の巡航では差がなくなるか、反対にノート e-POWERの方が燃料消費が多い場合もある。

静かに感じる秘密は、消せないノイズを“隠した”こと

静粛性について解説した日産自動車株式会社 Nissan 第一製品開発本部の餌取秀一氏

 純粋なEVは静粛性の面でガソリン車に比べて大きなアドバンテージがある。ところが、ノート e-POWERもモーターで走るEVの一種とはいえ、発電用のエンジンを備えるためエンジンノイズと無縁ではいられない。前出のとおり、効率よく発電するために一般的な走行シーンよりも高い回転数でエンジンを動かすことが多々あるため、場合によっては通常のガソリンエンジン車より騒音が大きく感じてしまうケースもありそうだ。

 この課題に対して日産は、低速域ではエンジン音が目立つものの、速度が上がるにつれてロードノイズや風切り音が増え、エンジンノイズが気にならなくなる点に着目。「木を隠すなら森」ということで、停車時や低速走行時は可能な限りエンジンを動かさず、速度が乗ってきたところで積極的にエンジンを動かして発電することにより、感覚的にエンジン音が目立ちにくくなるようにした。

 さらに、フロントガラスに遮音ガラスを使い、ダッシュボード内に吸音・遮音材を追加して通常のガソリンエンジン車よりも静粛性を高める工夫を行なっている。上級グレードの「MEDALIST」では高剛性アルミホイールなどを採用することによりロードノイズをいちだんと低減し、高速巡航時の静かさを2クラスアップさせているとのこと。

 エンジン音が気になるシーンで極力エンジンを動かさないようにできた理由は、単純にモーターの最高出力とバッテリー容量が大きいからだ。他社のコンパクトクラスのハイブリッドカーと比べ、最高出力は2~4倍の80kW(109PS)、バッテリー容量は同1.5倍以上の1.5kWh。高性能のパワーユニットだからこそ、コストパフォーマンスの追求が必要なノート e-POWERでも静粛性を十分に高めることにつながったようだ。

2016年度下期の販売台数No.1を2017年度以降につなげられるか

ノート e-POWERに試乗。加速感やレスポンスのよさ、静粛性を実感できた

 レスポンスのいいスムーズな走り、加減速を自在に操れるコントロール性の高いアクセル、低燃費に高度な静粛性。ノート e-POWERは単にEVの新提案として訴求しているだけでなく、実用性や快適性をも追求するべく性能を総合的に高め、それがユーザーに認められたことでさらなる販売促進に結びついているのだろう。2016年度下期だけでなく、2017年度以降にその販売台数をどう伸ばしていくか、そして将来的にまた新たなモデルが登場することになるのかという点にも注目したい。