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【Honda Meeting 2017】FCV/PHV/EVを同一プラットフォームで成立させたクラリティ3兄弟を試乗比較

西村直人のホンダ最先端技術レポート FCV/PHV/EV編

 本田技術研究所「四輪R&Dセンター」(栃木県)で開催された「Honda Meeting 2017」では、4月に米国で開催された「2017年ニューヨークオートショー」で世界初公開されたEV(電気自動車)である「クラリティ エレクトリック(CLARITY ELECTRIC)」と、PHV(プラグインハイブリッド車)である「クラリティ プラグイン ハイブリッド(CLARITY PLUG-IN HYBRID)」に各3分程度ながら試乗した。

 また、2車との比較用として2016年3月10日から日本で発売されているFCV(燃料電池車)「クラリティ フューエル セル(CLARITY FUEL CELL)」にも同じ特設コースで試乗している。これらの3車(FCV/PHV/EV)は世界で初めて同一プラットフォームを使って成立させたモデルで、ホンダが2030年までに実現させると発表した「四輪商品ラインアップにおける販売数の3分の2をPHEVとハイブリッド、およびFCV・バッテリーEVなどのゼロエミッションビークルに置き換える」(原文まま)を達成するために必要な基本骨格の1つとして据えられている。

FCV/PHV/EVを世界で初めて同一プラットフォーム(土台)を使って成立させたクラリティシリーズ
クラリティ フューエル セルの基本スペック
クラリティ エレクトリックの基本スペック
クラリティ プラグイン ハイブリッドの基本スペック

クラリティ フューエル セル

クラリティ フューエル セル
ボンネット内には103kWの出力を持つFCスタックと最高出力130kW(174HP)/最大トルク300Nmを発生する交流モーターを搭載

 まずはFCVから試乗する。発売直後に「四輪R&Dセンター(和光)」(埼玉県和光市)近くの一般道路と高速道路で試乗しているが、改めてその動力性能に感心した。パワートレーンであるFCスタックは103kWの出力を持ち、最高出力130kW/最大トルク300Nmの交流モーターを駆動。70MPaの高圧水素貯蔵タンク2本(車体前方が24L/車体後方が117L)に141Lが蓄えられた結果、航続距離は約750km(JC08モード)を達成する。ちなみに水素充填に必要な時間は約3分。この充填時間は水素充填圧および外気温により異なるが、最大でも5分程度だ。

 スタイリングは新世代のホンダを象徴する各部のエッジを強調したもの。ルーフやA/B/Cピラーをブラックアウトさせたことでボディの独創的な形がより際立った印象だ。4915mm×1875mm×1480mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2750mmと、いわゆる“大きなボディサイズ”に分類されるDセグメントに属している。ヘッドライトには9灯式LED(ロー6灯/ハイ3灯)を採用し、テールランプもそれにあわせたLEDに導光処理を与えて光りの広がりを演出した。

 航続距離を伸すため、ボディ各部には空力処理が施された。ラジエターグリルから車体下部のアンダーカバーにスムーズな空気の流れを作りながら、FCスタックが必要とする空気を確実に導入する。また、フロントバンパー下部からフロントタイヤ外側へと整流する「フロントエアカーテン」、リアタイヤホイールハウスの乱流を抑える「リアタイヤカバー」、そして同じくリアタイヤホイールハウス付近の整流効果を狙いリアドア下部に設けられた「リアエアカーテンダクト」など最先端の空力学に基づく対策が講じられた。

 5人乗りのキャビンは広く、インパネまわりも開放的。メーターパネルにはTFT液晶を用いつつ、そのセンターには先代「FCX クラリティ」から採用されているパワーチャージメーターも踏襲された。これは燃料電池発電モニターの役割があり、アクセルペダルを踏み込むと「エネルギーボール」と命名された青い球体が大きくふくらみ、同時に光量も増えドライバーに発電量が増えたことを直感的に示す。こうした表示機構以外にも、8インチのタッチパネル液晶やヘッドアップディスプレイも装備する。

 乗り味は快適性と俊敏性が上手くバランスしている印象が強い。その点、トヨタ自動車のFCV「MIRAI」は快適性が重視されていて、なかでも後席での良好な乗り心地が際立つ。運転手に任せたショーファードリブンにも十分耐えうる出来映えだ。クラリティでの後席試乗は未経験だが、快適性という観点ではMIRAIが優勢だろう。半面、ドライバーが運転を楽しむという点ではクラリティに分がある。

 今回の試乗は往復2km程度の特設コースで、直線路を基本に左に1回30度程度、右に2回90度ステアリングを操舵してUターンしただけなのだが、以前に試乗した印象を加味して判断すれば、しっとりとした乗り味ながら回頭性がとてもよく感じられる。これは前軸の上、つまりボンネットフード下に、FCスタック/昇圧機/駆動モーター/同軸ギヤボックスなどをコンパクトに収めた結果、大きくて重量のかさむ水素タンクを車体後方へと配置することができ、結果として前後の重量配分が最適化されたためだ。さて、肝心の走行性能はどうか。この先の2車(EV/PHV)との比較したい点に絞って解説したい。

往復2km程度の特設コース
発進加速フィール

 すでに慣れ親しんだ電動駆動の滑らかな発進加速が味わえる。ゼロ発進時からモーターは最大トルクである300Nmを発生しているものの、背中からガツンと押されるような力強い加速力ではなく、じんわりとした右足の動きに連動させることで想い描いた躍度を生み出すことができる。これは動力性能をスイッチ操作で任意に切り替えることができる「ノーマルモード」だけでなく、高レスポンスを目的にした「スポーツモード」でも同じだ。細かく見れば速度上昇とともにパワーが20%ほど盛られていくものの、それまではノーマルモードのトルクを太らせた印象で心地よく、過剰な演出がないため扱いやすい。

中間加速フィール

 高速道路での本線合流を模して60-100km/hへの加速を試みる。ノーマルモードでは“もうひと声欲しい!”と感じることもあったが、スポーツモードでは欲しい分だけ加速度が増えてくれる。アクセルペダルをさらに踏み込むと、FCスタックへより多くの空気を送り出す電動ターボ型のエアコンプレッサーが瞬時にフル稼働を始める。が、その際の過給音はとても小さい。先代のFCX クラリティはリショルム型のエアコンプレッサーを採用していたことで明らかに過給音が目立っていたから、その違いは大きい。ただし構造上、ターボは圧力比でリショルムに劣る。そこでクラリティ フューエル セルでは空気取り入れ側とFCスタック側でタービン形状を変更する2段過給を採用し、リショルムを上まわる高圧力で空気を送り込むことに成功した。

回頭性

 優れた前後重量配分により乗り味と回頭性が高い次元でバランスした印象。ただし、そうはいっても車両重量は1890kgもあるため、軽快感が際立つというよりも、ステア操作に忠実な、あくまでしっとりとしたハンドリング性能に終始する。意外なことにステアリングを操舵する際の重さは3車3様だった。「車両重量の違いはkg換算で3桁台に届きません。EPS(電動パワーステアリング)やサス&ダンパーも基本は同じです」(クラリティ開発者)というが、乗り比べると違いは歴然! 前軸重の違いによるステア特性はクラリティ3兄弟それぞれが持つ特徴といえる。ちなみに、タイヤは3車とも共通のミシュラン「ENERGY SAVER A/S」のマッド&スノー仕様で、サイズは235/45 R18だった。

クラリティ エレクトリック

クラリティ エレクトリック
クラリティ エレクトリック
充電口は左フロントフェンダーに用意
モーター出力120kW(161HP)/最大トルク300Nmを発生するモーターを搭載

 次に試乗したのはEVであるクラリティ エレクトリックだ。モーター出力約163HP/最大トルク300NmとFCVより公表数値は劣るが「FCVと基本は同じで、同型式のモーター」(開発者)ということだった。つまりはFCVとEVが搭載するモーターの常用ポテンシャルは163HP程度が最大ということか……。リチウムイオンバッテリーの容量は25.5kWhで充電1回あたりの走行可能距離(=走行レンジ)は約128km以上(ホンダ社内測定値)という。バッテリー容量からすると少し走行レンジが短のでは、と開発者に伺うと、「128km“以上”、というのがミソでして……」と笑みをこぼす。とすると、カタログ値換算では140~150kmまで伸びるのかもしれない。満充電に掛かる時間は240Vで3時間強、急速充電器では30分で80%の充電が可能。さて、試乗フィールはどうか……。

発進加速フィール

 ノーマルモードではガツンと発進するのだが、これには訳がある。このEVは、2017年中にカリフォルニア州とオレゴン州でリース販売されることが決まっているのだが、彼の地では力強い発進加速こそ命! たとえそれがEVであっても、だ。よってこうした特性になっているのだが、正直、日本の道路環境にはマッチしない。そこでシフトセレクター部に配置されたECONスイッチを押してみると性格は一変して乗りやすくなった。

中間加速フィール

 速い! 60-100km/hへの加速は到達時間も満足できるもので、北米市場で今でも現役選手である「Dセグメント/V6エンジン3.0~3.5リッタークラスのセダン」に加速力で負けることはない。FCVと違ってエアコンプレッサーがないため静粛性も高く保たれたままだ。

回頭性

 FCVと比べて、すべてにおいて軽い。同型式のEPSやサス&ダンパー、そして同じタイヤを装着しているとは思えないほど軽快感が先にたつ。もっともこれは当然で、ボンネットフード下にはFCVが搭載しているFCスタックや昇圧機がないからだ。その分、充電器が搭載されているものの、画像でも確認できるようにスペースの半分は空洞になっている。ただ車格を考慮すると、この際立つ軽快感は多くのユーザーに受け入れられるかな、という懸念もある。バッテリーは前席/後席のフロア下と、後輪軸上に分散して搭載されている。

クラリティ プラグイン ハイブリッド

クラリティ プラグイン ハイブリッド
充電口は左フロントフェンダーに用意
燃料の給油口は左リアフェンダーに用意
1.5リッターアトキンソンサイクルエンジンとi-MMD 2モーターハイブリッドシステムを搭載

 最後に試乗したのはPHVであるクラリティ プラグイン ハイブリッドだ。ハイブリッドシステムは、アコードやオデッセイ・ハイブリッドでお馴染みの「i-MMD」と呼ばれる2モーター式のハイブリッドだ。EVモード/ハイブリッドモード/エンジン直結モードの3モードを状況によって使い分けることで、アコードでは31.6km/Lのカタログ燃費数値を達成する。

 今回のPHVでは、このi-MMD(モーター出力約183HP/最大トルク315Nm)に、フィット・ハイブリッドが搭載している直列4気筒1.5リッターアトキンソンサイクルエンジンが組み合わされた。リチウムイオンバッテリーの容量は17kWhで、EV走行時の走行可能距離(=走行レンジ)は約64km以上、ガソリンとバッテリーによる総走行可能距離は約531km以上(数値はいずれもホンダ社内測定値)という。満充電に掛かる時間は240Vで2.5時間だ。さて、試乗フィールはどうか……。

発進加速フィール

 運転席に座るやいなや「試しにアクセルペダルをいっぱいまで踏み込んでください」と開発者の方から告げられる。言われるままに踏み込むと、踏み切るちょっと手前にクリック感がある。いわゆるATのキックダウンスイッチと同じ感触だ。ノーマルモードの場合、このクリック感を感じる位置までは極力EV走行を続けるという。EV走行中のエンジン始動タイミングを知らせる方法はさまざまあるが、インパネ表示などより直感的で分かりやすく、まさに仕向地に応じたHMIなんだな~、と感心。そのEVモードでの発進加速力は、3車中もっともおとなしめ。図式化するとEV>FCV>PHVといったイメージだ。

中間加速フィール

 キックダウンスイッチまでの加速力はどの踏み込み量でもおとなしい。が、その領域を踏み越えてエンジンを始動させると活気が出始める。アクセル全開での60-100km/h加速ではエンジン加勢による「ハイブリッドドライブモード」へと切り替るため、一気に前へ進もうとする印象だ。

 ただ、ここで気になるところが2点。1つ目が絶対的な加速力に勢いが足りないこと。i-MMDは約183HPのモーター出力とのことだが、エンジンは1.5リッター(110PS/134Nm)と控えめなスペックだ。筆者の比較対象が直列2.0リッターアトキンソンサイクル(145PS/175Nm)のアコード(システム出力215PS/車両重量はLXで1580kg)だから、搭載エンジンが500cc小さく、そして1800kg台のクラリティ プラグイン ハイブリッド(システム出力は未公表だが、20PS程度低いか?)の絶対性能が劣ってしまうのは仕方がない。

 気になる2つ目がキャビンへのエンジン透過音の音量と音質だ。状況に応じてエンジンが始動するわけだから透過音の発生は当然ながら、始動時のエンジン回転数が2500rpm程度と高いこと、バイブレーションが比較的大きいこと、こもった音質であり耳障りなこと。以上3点が融合し、結果として運転しているドライバーにはクルマが一生懸命加速していこうとする「がんばっている感」は伝わるものの、どことなくゆとりがないのかな~、という疑念を抱かせる要因になってしまう。これが惜しい。

 今回は短距離/短時間の試乗ということもあり、3車の違いが明確になるようなレポートを心掛けたが、これがもう少し違うシチュエーションで長時間、たとえばFCVで以前試乗した一般道路や高速道路なども走行することができれば新たな発見も多かったと思う。

 日本市場への導入について、お話を伺った各開発者に対して食い下がってみたものの、のらりくらりとかわされてしまった。しかし、各人のコメントを総合すると、EVとPHVのうち導入可能性が高いはPHV! となると気になるのが前述した「加速力」と「エンジン透過音」だ。物理的な変更にはコストが掛かりすぎるが、たとえば「加速力」でいえばノーマルモードの低中速域だけ少し加速方向に振った特性にし、「エンジン透過音」ではスポーツモデルの多くが採用する車内スピーカーからの擬音を出したり、CF型アコードでも採用していた逆位相の音でエンジンノイズを抑えたりするノイズキャンセル機構の復活などでの対処も考えられそうだ。