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トヨタ、“2030年の電動車550万台以上販売”に向けた世界初の新型「省ネオジム耐熱磁石」説明会

豊富で安価なランタンとセリウムの配合でネオジムを最大50%削減

2018年2月20日 開催

「省ネオジム耐熱磁石」説明会で展示された技術サンプル。左側の各種ボトル内にある素材が混ぜ合わされ、中央の合金や急冷リボンに加工され、右側の焼結体に圧力をかけることで強加工体と表示された最終形になる

 トヨタ自動車は2月20日、ハイブリッドカーやEV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッドカー)といった「電動車」で使われる高出力モーターでも使用可能なネオジム磁石で、耐熱性を維持しつつネオジムの使用量削減を実現した新型の「省ネオジム耐熱磁石」を新開発。同日に東京本社で説明会を実施した。

 新しい省ネオジム耐熱磁石では、これまでのネオジム磁石で耐熱性を高めるために使用されてきたレアメタル(希少金属)であるテルビウム(Tb)やディスプロシウム(Dy)を全く使わないことに加え、豊富に産出される一方で需要が低いことから安価に供給されているレアアース(希土類元素)のランタン(La)とセリウム(Ce)にネオジムの一部を置き換えることを実現。最大でネオジムを50%削減しても従来のネオジム磁石と同等レベルの耐熱性能を持つ磁石となっている。

トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 先端材料技術部 グループ長 庄司哲也氏

 説明会ではトヨタ自動車 先進技術開発カンパニー 先端材料技術部 グループ長の庄司哲也氏が登壇して解説を実施。

 庄司氏は新しい省ネオジム耐熱磁石が開発された背景について、トヨタが掲げる車両電動化のマイルストーンで、2020年以降にEVの本格展開をスタートさせ、2025年ごろまでに全車種で電動グレードを設定。具体的な販売台数の目標として、2030年に電動車で550万台以上、EVとFCVで100万台以上という高い目標を掲げていると語り、この目標を実現しようとすると、電動車に搭載される電池、モーター、インバーターという3つのキーコンポーネントも非常に多くが必要になると説明。そのなかで、磁石はモーターで使われるキーファクターであり、モーターの需要増大に対応するため新しい技術の開発が進められることになったと述べた。

 さらに電動車の増加によって見込まれるネオジムの需要拡大について、調査機関による調査結果を示し、需要予測ではネオジム磁石は電動車以外でもさまざまな用途で使われているということから、2025年~2035年にかけてネオジムの需要が供給を上まわると指摘。リユースやリサイクルである程度がまかなわれることを勘案しても、新たな供給の部分が不足する懸念があるとして、これが自分たちのモチベーションになっていると口にした。

2030年に電動車で550万台以上、EVとFCVで100万台以上を販売するというトヨタの車両電動化マイルストーン
現状のままでいけば、最も楽観的な予測でも2025年にネオジムの新規供給の不足が始まるという
需要増によってコストが増加するだけでなく、モーターの生産量が頭打ちになることも危惧され、これが開発のモチベーションになっているという

 また、電動車における具体的なモーターの利用シーンでは、車両の発進や登坂といったシーンで、モーターをゆっくりと回しながら大きなトルクが必要な場面において大きなトルクを効率よく発生させるために強力な磁石が必ず必要になると説明。強い磁石を作るためにはレアアースをどうしても使う必要があるとした。さらにレアアース、レアメタルについて解説し、レアアースのうち磁石用途に使われるのは約20%の物質で、これらがレアメタルに分類されているが、一方で新しい省ネオジム耐熱磁石で使われるランタンとセリウムは豊富に存在しているが、あまり用途がないことから現時点では安価に流通していることを紹介した。

 庄司氏はネオジム磁石で使われる素材のうち、約70%が鉄(Fe)で、レアアースは残る30%ほどと述べ、実は2代目と3代目の「プリウス」ではレアメタルのテルビウムやディスプロシウムといった重希土類を多く使っていたが、2015年12月に発売した4代目プリウスからは大幅に使用量を削減したことを紹介。ただ、これまでにディスプロシウムの削減については取り組んできたが、さらに将来を考えた場合、ネオジムの使用量も減らしていかなければならないだろうとの考えに至り、これが研究の方向性になっているという。

駆動用モーターでは、電磁石となるコイルの内側にあるローターコアにネオジム磁石が埋め込まれている。説明会では4代目プリウスの駆動用モーターが展示されていた
17種類あるレアアースのうち、ネオジム、テルビウム、ディスプロシウムなどがネオジム磁石として使われ、埋蔵量が少ないテルビウムやディスプロシウムはレアメタルに分類されている
4代目プリウスの駆動用モーターではすでにディスプロシウムなど削減が行なわれてきたが、さらにネオジムの割合も減らすことが新しい技術課題とされた

 具体的な技術の説明に先立ち、既存のネオジム磁石ではネオジムなどのレアアースが全体の約30%を占め、5ミクロンほどの粒によって磁石が構成され、モーターなどの高熱化で使用される磁石には耐熱性を高めるためディスプロシウムやテルビウムといった重希土類が添加されるという基本構成について紹介。

 トヨタの開発陣はそんなネオジム磁石において、もっと安くて豊富に流通している素材を使うことができないか検討し、ネオジムに代えてセリウムやランタンを使えないかと考えたという。これが実現できれば供給量に対してのリスクヘッジとなり、コスト低減も期待できるが、単純にネオジムをセリウムやランタンに置き換えると耐熱性、磁力などが大きく低下。必要な性能を維持しながらセリウムやランタンを活用する工夫が新たに開発した技術のキーになっているという。

 開発ポイントとしては「磁石を構成する粒の微細化」「粒の表面を高特性にした二層構造化」「ランタンとセリウムの特定の配合比」という3点が挙げられ、「磁石を構成する粒の微細化」では、磁石を構成する粒を通常の5ミクロンから0.25ミクロン程度まで微細化。サイズを10分の1以下まで微細化することで、粒と粒を仕切る面積を拡大。1つの粒が持つ保磁力(磁力を保つ力)が高温でも発揮される性質になっているという。この技術については2010年出願の特許技術になっているという。

 しかし、この微細化技術だけでは必要な性能が実現できなかったことから、2013年出願の特許技術として「粒の表面を高特性にした二層構造化」を開発。この技術では、通常はネオジムが粒全体に均一に存在していることに対し、熱処理を行なうことで粒の表面と内側でネオジムの濃度を変化させる2層化に成功。内側を低濃度にすることでネオジムの使用量を削減しつつ、必要とされる磁力が保持できる特性を両立した。

 最後の「ランタンとセリウムの特定の配合比」では、当初はセリウムの配合によって磁力や耐熱性をキープしようとしたところ上手くいかず、ランタンを合金化することで特定の比率で特性悪化を抑制できることが見出されたと庄司氏は解説。2層化した粒の内側にセリウムとランタンを使った合金にすることで、今回発表した高いネオジム低減を実現できたという。

既存のネオジム磁石の構成
新しいネオジム磁石では大幅に安価なランタンとセリウムを使うことで、低コスト化や供給量の安定化を目指した
省ネオジム耐熱磁石で採用されている3つの開発ポイント
磁石の粒をこれまでの10分の1以下まで微細化。仕切りを増やすことで粒を保護し、高温でも保磁力を維持できるようになった
熱処理によって磁石の粒表面にあるネオジムの濃度を高め、磁力を保持しながらネオジムの使用量削減を実現
2層化した磁石の粒内部に、ランタンとセリウムを1:3で混ぜた合金を使って特性悪化を抑制。ネオジムを安価で量の豊富な軽希土類に置き換えることに成功した
省ネオジム耐熱磁石の構造。右の組成分析像で赤くなっている部分はセリウムとランタンが特定比率で配合されており、粒の仕切りとなる緑の部分に濃度の高いネオジムが配置されるよう制御。これによって「ネオジムを減らしても耐熱性の高い世界初の磁石」を実現している

 実際の性能では、モーターで注目される100℃以上の温度域で、従来からあるディスプロシウムを4%ほど使うネオジム磁石と比較して、ネオジムを20%削減した省ネオジム耐熱磁石は温度が上昇しても保磁力の低下が抑制されると説明した。庄司氏は「これまでネオジム磁石といえばとにかくネオジムを使わなければいけない、(使用するレアアースのうち)ネオジムを100%使う、もしくはディスプロシウムを入れなければいけないと考えられてきた。それに対して我々が提案したいのは、ネオジムの一部を軽希土類のようなものに置き換えて、さまざまな用途に応じた性能を設計できる、新たに設計できるようになったということです。省ネオジムでも高温で高い性能が維持できます、用途に応じてネオジムを削減できますという概念が確立できたと思います」とコメント。

 今後については新しい省ネオジム耐熱磁石の磁力をさらに高める開発を継続して行なっていくほか、磁石は車両以外にも多彩な用途に使われており、洗濯機や扇風機といった家電製品からスピーカーなどでの活用も視野に入れて活用を検討していきたいと語り、現状ではラボでは完成したというレベルなので、モーターの商品化に向けた技術開発、量産技術の確立に向けた課題の克服など、実用化に向けた取り組みを考えていきたいと述べた。

 最後に庄司氏は「今回の技術は豊富で安価な軽希土類を上手く活用するもので、将来の電動車やロボティクス、家電などを含めて多くの製品で資源を上手に使いこなす重要な要素技術だと我々は考えております。従いまして早期の実用化を目指した技術開発をこれから推進させていただき、2020年の前半にはパワーステアリングなどの低出力型ユニットに実装、10年以内になんとか駆動用モーターにも使えないかなというところを目指して開発を進めていきたいと思います」と展望を語った。

省ネオジム耐熱磁石の性能表。ネオジムを20%削減した省ネオジム耐熱磁石は100℃前後までの保磁力は既存のネオジム磁石(ディスプロシウムを4%ほど含有)から少し落ちるが、150℃を前に逆転して高温でも保磁力を発揮。赤い破線のネオジムを50%削減した省ネオジム耐熱磁石は100℃前後の保磁力が低いが、温度が高まっても性能低下が低い。このあたりも今後の研究要素とのこと
今後も開発を続け、磁力のアップや早期実用化を目指す
説明会で展示された磁力を比較する技術サンプル。左がフェライト磁石、中央が既存のネオジム磁石、右が省ネオジム耐熱磁石。細かな金属製の粒を使い、中央と右の磁石で大きな差がないとアピールした

 説明会後半で行なわれた質疑応答では製造方法の詳細について質問され、庄司氏が「希土類磁石というのは大きく2つの製造方法があり、1つは合金を作り出して粉砕し、それを焼き固めるという方法。もう1つは磁石の合金を回転する銅ロールの上に噴射して冷却し、微細な組織のもとを作り、これを固めて塑性加工して磁力を高めるやり方があり、今回は後者で造っております」と回答。また、コスト面についても質問されたが、そのあたりまで含めて今後の取り組み課題と回答され、今回の技術についてはコスト面もおろそかにするつもりはないが、今後の電動車の増加に対してネオジムの確保、使用について、自由に設計できるような技術を確立することが主眼になっていると答えている。