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トヨタ、高出力モーターに向けた世界初の新型磁石「省ネオジム耐熱磁石」開発

電動パワステでは2020年代前半に、駆動用モーターでは今後10年内での実用化を目指す

2018年2月20日 発表

4代目プリウスで使われるモーター

 トヨタ自動車は2月20日、電動車に使われる高出力モーターなど、さまざまなモーターに使用されるネオジム磁石において、レアアース(希土類元素)であるネオジムの使用量を削減したうえで高温環境でも使用可能な性能を確保したという、世界初の新型磁石「省ネオジム耐熱磁石」を開発したと発表した。この新型磁石を用いた電動パワーステアリングなどのモーターでは2020年代前半での実用化を、さらに電動車の駆動用モーターでは今後10年内での実用化を目指して開発に取り組んでいくという。

「省ネオジム耐熱磁石」について

 自動車用モーターなどに採用される磁石は、高温でも磁力を高く保つことが重要になる。そのため磁石で使用する元素のうち、レアアースが約30%用いられているという。強力なネオジム磁石を自動車用途など高温で使用するには、テルビウム(Tb)やディスプロシウム(Dy)を添加することにより、高温でも保磁力(磁力を保つ力)が高くなるようにしている。

 しかし、テルビウムやディスプロシウムは希少かつ高価であり、地政学的なリスクの高い金属であるため、これらを使わない磁石の開発が多く取り組まれている。一方、レアアースの中で比較的産出量が多いとされるネオジムは、今後のHV(ハイブリッド車)、EV(電気自動車)などの電動車の普及を想定すると不足することが懸念されているにもかかわらず、その取り組みが少ないのが現状という。

 そこで同社では、この課題を克服するためにテルビウムやディスプロシウムを使わないだけでなく、ネオジムの代わりに豊富で安価なレアアースであるランタン(La)とセリウム(Ce)を使うことでネオジムの使用量を削減しながら高い耐熱性を維持し、磁力の低下を最小限にできる技術の開発に取り組んできたという。

ネオジム磁石におけるレアアース使用状況

 今回発表された新開発の磁石は、高耐熱ネオジム磁石に必要なレアアースの中でも希少なレアメタル(希少金属)に分類されるテルビウムやディスプロシウムを使わないだけでなく、ネオジムの一部をレアアースの中でも安価で豊富なランタンとセリウムに置き換えることでネオジム使用量を削減したもの。

 しかし、ネオジムは強力な磁力と耐熱性を保持する上で大きな役割を占めており、単にネオジム使用量を削減してランタンとセリウムに置き換えただけでは、モーターの性能低下につながってしまうという。そこでランタンとセリウムに置き換えても、磁力・耐熱性の悪化を抑制できる「磁石を構成する粒の微細化」「粒の表面を高特性にした二層構造化」「ランタンとセリウムの特定の配合比」という3つの新技術の採用により、ネオジムを最大50%削減しても従来のネオジム磁石と同等レベルの耐熱性能を持つ磁石を開発。

「磁石を構成する粒の微細化」について。磁石を構成する粒を、従来のネオジム磁石の10分の1以下にまで微細し、粒と粒の間の仕切りの面積を大きくすることで保磁力を高温でも高く保つことができるようになった
「粒の表面を高特性にした二層構造化」について。従来のネオジム磁石ではネオジムが磁石の粒の中にほぼ均等に存在しており、多くの場合、磁力維持に必要な量以上のネオジムが使われているという。そこで保磁力を高めるために必要な部分である磁石の粒の表面のネオジム濃度を高くするとともに、内部を薄くした二層構造化により効率よくネオジムを活用することができ、使用量の削減が可能になった
「ランタンとセリウムの特定の配合比」について。ネオジムにランタン・セリウムなどの軽希土類を単純に混ぜると磁石の特性(耐熱性・磁力)が大きく低下するため、軽希土類の活用は難しいとされていた。これを解決するために産出量が豊富で安価なランタンとセリウムをさまざまな配合比で評価した結果、特定の比率で混ぜると特性悪化を抑制できることを見出したという

 この新型磁石は、自動車やロボットといったさまざまな分野でのモーター使用の拡大と、貴重なレアアース資源の需給バランスを保つのに役立つことが期待される。今後は自動車やロボットなどさまざまな用途のモーターへの早期採用を目指し、さらなる高性能化や商品への適用評価とともに量産技術の開発も進めていくとしている。