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トヨタ、発進用ギヤ世界初採用のCVTなどTNGA技術で開発された新型パワートレーン技術説明会

新開発4WDには新統合制御「AIM(エイム)」搭載

2018年2月26日 開催

発進用ギヤを世界初採用した「Direct Shift-CVT」

 トヨタ自動車は2月26日、2021年までに19機種37バリエーションの展開を予定する「TNGA(Toyota New Global Architecture)で一新した新開発パワートレーン」のうち、CVT、6速MT、2.0リッター直噴エンジン、2.0リッターTHS IIと、新たに3機種8バリエーションを今後展開していくことが明らかにされた4WDシステムについて新技術を発表。同日に東京本社で説明会を実施した。

 説明会ではトヨタ自動車 パワートレーンカンパニー パワートレーン製品企画部 チーフエンジニアの山形光正氏がプレゼンテーションを実施。新技術についての解説に先立ち、2017年1月からスタートしたパワートレーンカンパニーにおけるチーフエンジニア制度について紹介した。

トヨタ自動車株式会社 パワートレーンカンパニー パワートレーン製品企画部 チーフエンジニア 山形光正氏
2017年1月からパワートレーンカンパニーでもチーフエンジニア制度を導入

 これまでトヨタでは、車両開発でリーダーシップを発揮するチーフエンジニアというポジションを用意しており、一方でパワートレーンでは、エンジンやトランスミッションといったユニット単位のリーダーが開発を主導してきた。しかし、変化が激しくなってきているパワーユニット開発にはユニット単位での対応では不十分であるとの考えから、パワートレーンカンパニーでもチーフエンジニア制度を設けることになったという。

 これにより、開発段階の初期からエンジン、トランスミッション、ドライブラインまでバランスよくトータルで作り上げて商品力の強化を図ることが可能になり、商品を販売する世界各地域の規制動向、商品ニーズの変化などに迅速に対応できるようになると山形氏は語る。

 また、これまでにも紹介されてきた、2050年までに2010年比で新車によるCO2排出量を90%削減し、グローバル工場CO2排出ゼロなどを目指す「トヨタ環境チャレンジ2050」の取り組みについて改めて説明。トヨタでは2030年に新車販売の10%をEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)にするほか、EVやFCVに加えてハイブリッドカー、PHV(プラグインハイブリッドカー)など、モーターとバッテリーを搭載する「電動車」で全体の50%を占める計画を進めているが、山形氏は「一方では、2030年になっても90%の車両に内燃機関が搭載されることを意味します」と解説。エンジンやトランスミッションを進化させ続けていくこともCO2排出量の削減に大きく資すると語った。

 トヨタの基本スタンスとしては、「省エネルギー」「燃料多様化への対応」「エコカーは普及してこそ環境に貢献する」という3つの要素と同時に、「クルマの楽しさを追求する」ことを両立させることが重要だと考えているとしたほか、生産効率の向上によってユーザーニーズの多様化に対応し、世界各地のユーザーにすばやく商品提供することも目指してると山形氏は説明。このために加工や組み付けの基準を統一して異なる機種を高速でフレキシブルに生産できるラインを開発し、世界各地の生産ラインで仕様を統一してグローバル展開の迅速化を推し進めているという。

 このほかにも開発効率を高めるため、従来はクルマごとのニーズや特性に合わせて選択してきたパワートレーンのデバイスや構造を、TNGAでの開発ではプラットフォームとパワートレーンの刷新を同期。エンジンの燃焼室やシリンダーの設計を統一して、気筒容積と気筒数の組み合わせでエンジンバリエーションを構成するモジュール化を採用。これによってエンジンの開発種類数が約40%削減となり、開発の効率化、生産性能の向上が実現されていると山形氏は明らかにした。

 この結果として、2017年から2021年までの5年という期間に、パワートレーンで19機種37バリエーションを一気に導入。すでに複数の新規パワートレーンが市販化されているとした。

「新車CO2ゼロ」「ライフサイクルCO2ゼロ」などを掲げる「トヨタ環境チャレンジ2050」
2030年でも90%の車両に内燃機関が搭載され、エンジンやトランスミッションの進化は重要だと山形氏
車両の効率化と楽しさを両立させることが重要だというのがトヨタの基本スタンス
製品の仕様、生産ラインの仕様などを統一することで生産効率を高める
TNGAではエンジンの燃焼室やシリンダーの設計を統一。組み合わせでバリエーションを構成するモジュール化を実施している
2021年までに19機種37バリエーションの新型パワートレーンを導入していく

Direct Shift-CVTは高い効率と走る楽しさを両立

 本題となる、同日に発表した2018年に市場導入を予定する新型パワートレーンでは、新型「カムリ」に搭載して市場導入した直列4気筒 2.5リッター直噴エンジンをベースに、排気量を2.0リッターに変更した「2.0L Dynamic Force Engine」を使い、トランスミッションとして新型CVTの「Direct Shift-CVT」、新型「6速MT」、2.0リッターTHS IIを組み合わせる形で構成する。

 山形氏は2.0リッターエンジンにCVTを組み合わせた理由として、TNGAではパワートレーンでの効率を最大化するほか、低回転から高回転まで燃費と走りを向上させることを目指している。このためにエンジンでは熱効率をさらに追究し、低回転領域まで低燃費領域を拡大。同時にエンジントルクを増やしてトランスミッションでワイドギヤレシオ化を実現。より高い熱効率領域を活用できるようにしていく。さらに高応答制御でワイドギヤレシオでの変速ロスを最小化した。

 これにより、新型の2.0L Dynamic Force EngineとDirect Shift-CVTを組み合わせた場合、従来型の「2ZR-FE+CVT」と比較して燃費(北米 Comb.燃費)で18%向上、ハイブリッドの「2ZR-FXE+THS」では同9%向上となり、動力性能を示す加速時間はそれぞれ18%の短縮と山形氏は説明した。

同日に発表された6種類の新技術。パワートレーンは新型の「2.0L Dynamic Force Engine」に3種類のトランスミッションを組み合わせて構成される
CVTは入力トルクが増えるにつれて重く、大きくなる傾向があり、TNGAでは「質量分岐点」を設定してCVTとATを使い分けている
パワートレーンの進化で目指す効率の向上と最大化
2.0L Dynamic Force Engineを使ったパワートレーンでは、ガソリン車、ハイブリッド車のどちらでも大幅に性能向上を果たしている

 このほかに個々の技術面では、カムリ向けの2.5リッターから排気量を縮小した2.0L Dynamic Force Engineで、新たにエンジンピストンのスカート摺動面を鏡面化しつつ、レーザーで刻んだクロスハッチ状の溝で油膜保持を行なう世界初の「レーザーピットスカートピストン」を採用するといったエネルギーロスの低減を実施。2.5L Dynamic Force Engineと同じく40%を超える世界トップレベルの高い熱効率を達成したほか、低回転から高回転まで全域にわたるトルクアップを実現し、排出ガスも今後の規制強化を先取りしてクリアするクリーンさを手に入れているという。

2.5リッターに続いて登場する2.0リッターのDynamic Force Engine
2.0L Dynamic Force Engineでも40%以上の熱効率を達成した
高出力化に加え、今後の規制強化が見込まれる排出ガスのクリーン化にも対応
会場で展示された2.0L Dynamic Force Engineのカットモデル
世界初の「レーザーピットスカートピストン」を採用。鏡面仕上げと樹脂コートで抵抗を抑え、レーザーで刻んだクロスハッチ状の溝で油膜を保持する
2.5L Dynamic Force Engineで導入された「高タンブルポート」「マルチホールインジェクター」などの技術も踏襲している

「お客さまにダイレクト&スムーズな走りを提供する」というテーマで開発されたDirect Shift-CVTでは「伝達効率向上」「エンジン高効率領域の活用」「高応答変速」の3項目を実現するため、世界初の技術として「発進用ギヤ」の搭載と「ベルト狭角化」を実施。CVTでは変速比幅をワイドレンジ化するとローギヤ側とハイギヤ側の双方で伝達効率が悪化する傾向があり、発進時に加速がもたつき、狙ったような燃費向上が得られないといった結果になるという。このためベルトだけを使ったCVTではワイドレンジ化に限界があった。これを解消するため、新しいDirect Shift-CVTでは発進用ギヤを採用してローギヤ側の効率を飛躍的に向上。これによってベルトは変速比幅を保ったままハイギヤ側にシフトさせることが可能になり、従来よりも15%ワイドな変速比幅7.5を実現した。

 さらに発進用ギヤの採用でベルトにかかる負荷が低減され、トルク伝達での高い油圧が不要となったことでハイギヤ側も高効率化。第3世代と呼ばれる従来型のCVTと比較して6%の燃費向上を果たすという。

2つの「世界初」の技術が与えられたDirect Shift-CVT
「伝達効率向上」「エンジン高効率領域の活用」「高応答変速」の3項目がキーワード
開発では「機械損失低減」「ワイドレンジ化」「変速追従性向上」の3点に取り組んだ
CVTをワイド化した場合のデメリット
発進用ギヤを使って発進時の効率を向上
ベルト負荷の低減によってベルト駆動の効率も高まった

 発進用ギヤの採用によるベルト負荷低減は高効率化だけでなく、ベルト角度を従来の11度から9度に狭角化する世界初の技術で変速速度を20%高め、プーリーも小型化が可能となって慣性を40%低減。応答速度の向上を実現し、ダイレクトでリズミカルな変速を手に入れている。

 山形氏はDirect Shift-CVTのポイントとして、「まず1つめは画期的な発進性能の向上です。発進時は高効率な発進用ギヤを使用することで力強くスムーズに加速します。アクセル操作に対して一瞬遅れて動き出すようなもたつき感を改善しています。2つめは画期的な燃費性能の向上です。市街地などでの走行では、発進は高効率なギヤで駆動し、その後にベルト駆動に切り替えて無段変速機のメリットである『常に高効率なエンジン回転域での低燃費走行』が可能となります」と解説。高い効率と走る楽しさを両立していることをアピールした。

発進用ギヤの採用は高効率化だけでなく、走りのダイレクト感向上にも寄与
走行中に行なうギヤとベルトの切替イメージ
発進時はギヤを使ってダイレクトな加速を実現し、定速走行ではシームレスなベルト駆動でエンジンの高効率領域を活用できる
ワイドレンジ化と伝達効率で世界トップクラスだとアピール
これまでの3世代にわたるCVTから飛躍的に燃費性能を向上させる
会場で展示されたDirect Shift-CVTのカットモデル
発進用ギヤはトランスミッション内の上段にレイアウト。駆動力の受け渡しにはATと同じ湿式多板クラッチを使う
発進用ギヤの採用で負荷が低減され、ベルト角度は従来の11度から9度に狭角化

 欧州などのMTがシェアを確立している地域に向けて新規開発された6速MTは、ギヤ配置の最適化などによって重量を7kg低減し、全長も24mm短縮。また、シフト操作をアクセル制御でアシストする「iMT(intelligent Manual Transmission)制御」を採用。クラッチペダルとシフトノブの操作を検知してエンジン回転数を上げ下げしてショックのない変速が可能となる。

世界トップクラスの伝達効率を実現した新型6速MT。7kgの軽量化と24mmの全長短縮に加え、変速時のショックを低減する「iMT(intelligent Manual Transmission)制御」を採用した
会場で展示された新型6速MTのカットモデル

 2.0リッターエンジン向けとなる新しいTHS IIは、新型「プリウス」の1.8リッター向け、新型カムリの2.5リッター向けの技術を継承。1.8リッター向けに用意されたPCU(パワーコントロールユニット)のトランスアクスル直上搭載、平行軸歯車によるリダクションギヤなどを採用し、2.5リッター向けから2.0リッター向けにコンパクト化して低損失化した新型Ni-MH(ニッケル水素)バッテリーを採用している。

 また、加速時の制御に見直しを実施。従来は高速道路などでの追い越しや合流などの加速時に深くアクセルを踏み込むと、エンジン回転数がすばやく上がりすぎ、加速の後半で頭打ち感がある制御になっていた。新型のTHS IIでは加速時のエンジン回転数上昇を抑え、変わりに加速初期からモーターによる加速アシストを高められるようにして全体の加速感を引き上げているという。

 今回発表した2.0リッター系のパワートレーンを加え、2021年までの展開を予定する19機種37バリエーションの新型パワートレーンのうち、11機種が発表されたことになると山形氏は語り、2.0リッター系パワートレーンは日本、中国、北米、南米、欧州の5拠点で生産。TNGAによる新しいパワートレーンは2023年に約80%のトヨタ車に搭載される予定で、このパワートレーンの寄与分だけで新車平均CO2を2015年比で18%以上削減する見込みであるとしている。

2.0リッターエンジン向けの新しいTHS II
高い燃費性能を維持しつつ、“同クラスの過給器付きエンジンにも劣らない動力性能”を目指して開発された
エンジンとモーターの制御を見直し、全体の加速感を引き上げた
会場で展示された新しいTHS IIのコンポーネント
トランスアクスルのリダクションギヤは平行軸歯車に変更
従来型の1.8リッター用から20%小型化し、10%軽量化した新型PCU(パワーコントロールユニット)
新型Ni-MH(ニッケル水素)バッテリーはコンパクト化で低損失化
集中的に市場投入される予定の19機種のうち、11機種のパワートレーンが発表になった
新しい2.0リッター系パワートレーンは世界5拠点で生産
2023年にはTNGAで開発されたパワートレーンがトヨタ車の80%以上に搭載される計画

4WDの新統合制御「AIM(AWD Integrated Management:エイム)」

 最後に紹介された新しい4WDシステムは、前出のように今後3機種8バリエーションを展開していくことを明言。山形氏は近年のSUV人気によって4WDの市場は今後もさらに拡大する傾向にあると語り、「トヨタの4WD車は長い歴史の中で最も多くのお客さまにご愛用されております」と強調。今後トヨタはオンロードにおける旋回性能、オフロードでの悪路走破性能を高め、4WDシステムの損失低減にも取り組んでいくとコメントした。

 新たに紹介された新型4WDシステムは、コンベンショナルなガソリンエンジン車向けの「Dynamic Torque Vectoring AWD」と、ハイブリッドモデル向けの新型「E-Four」の2種類。Dynamic Torque Vectoring AWDでは高い燃費性能と優れた走破性の両立をテーマに、走行状況に応じて後輪のトルク配分を左右独立制御する「トルクベクタリング機構」、前後輪の車輪軸に「ラチェット式ドグクラッチ」を世界初採用し、2WD走行時に後輪に動力を伝達させる駆動系の回転を停止させて損失を80%に低減して燃費を高める「ディスコネクト機構」を搭載。さらに4WDによる走行性を引き上げるため、4WDとエンジン、トランスミッション、ブレーキを組み合わせて制御する新統合制御「AIM(AWD Integrated Management:エイム)」を採用。オフロード、オンロードの両方で優れた操縦安定性を発揮するという。

 また、新型E-Fourではモーター駆動となる後輪のトルクを1.3倍に拡大。より広範囲に前後の駆動力配分がコントロール可能になり、Dynamic Torque Vectoring AWDと同じくAIMによる制御を加えることで、高い走破性と操縦安定性を実現する。

 今後、TNGAによる新しい4WDシステムは、2023年までに4WD車全体の約70%、28車種に拡大する計画になっている。

 プレゼンテーションの最後に山形氏は「我々は今、新世代のパワートレーンを開発しています。それは次のステップである『トヨタ環境チャレンジ2050』を達成するためであり、それぞれに地域のさまざまなニーズに迅速にお応えするためであります。そしてそれらは全て、お客さまの笑顔のためです。今後も環境への貢献とクルマの楽しさの追求を高い次元で両立していきます」とコメントして締めくくった。

4WDシステムでもTNGAによって3機種8バリエーションを展開
ガソリンエンジン車向けの「Dynamic Torque Vectoring AWD」は「トルクベクタリング機構」「ディスコネクト機構」「AIM(AWD Integrated Management:エイム)」を搭載
新型「E-Four」でもAIMを採用するほか、後輪のトルクを1.3倍に拡大。後輪を積極的に駆動させることでベクタリング効果が得られるようになると山形氏は解説
とくにガソリンエンジン車で大きな損失低減を目指す
2023年の新型4WD車で販売の約70%を新しい4WDシステム搭載車にする計画
今後も開発を続け、トヨタ環境チャレンジ2050の達成を目指す

【お詫びと訂正】記事初出時、エンジン排気量で2.5リッターとするべきところを一部で2.4リッターと記載しておりました。お詫びして訂正させていただきます。