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ノキア、日米欧で行なわれたC-V2Xの実証実験について説明

日本でもC-V2X導入の議論が進むことに期待

2018年10月30日 開催

 フィンランドの通信機器メーカー NOKIAの日本法人であるノキアソリューションズアンドネットワークスは10月30日、同社が業界各社と普及を目指している「C-V2X」に関する説明会を開催した。V2XはV2P(人車間)、V2V(車車間)、V2I(路車間)の通信を行ない、さまざまな情報をやりとりすることで、交通ネットワークインフラ全体を安全にする目的で構築される仕組みとなり、より安全な交通社会を実現するために必要な要素だと考えられている。

 V2Xには複数の方式が提案されているが、ノキアなどが提案しているのはV2P/V2V/V2Iにセルラー(携帯電話)回線を利用するC-V2Xで、その現状と実証実験などについての説明が行なわれた。

ショートレンジのV2Xにセルラー回線を利用するC-V2Xを推進するノキア。中国でも導入が決定

NOKIA Car2X事業責任者 ウベ・プュッツラー氏

 NOKIA Car2X事業責任者 ウベ・プュッツラー氏は、ノキアのC-V2X戦略についてのアップデートを説明した。C-V2Xとは“Cellular Vehicle to X”の略で、携帯電話回線を利用した自動車と歩行者(V2P)、自動車と自動車(V2V)、自動車と道路のインフラ(V2I)などの間の通信の方式のことを意味している。

C-V2Xとは
C-V2Xのメリット

 例えば、V2Pでは歩行者が持つスマートフォンとクルマが自動で通信を行ない、歩行者が近づいていることをクルマに自動で通知することが可能になる。それを自動運転に応用すれば、クルマは歩行者が近づいていることを検知して減速したり、場合によっては停止して人が通過するのを待ったりすることが可能になるため、交通事故の削減に役立つほか、安全な自動運転にも必要な技術だと考えられている。現在V2Xには2つの方式が検討されていて、DSRCと呼ばれる現在のETCの延長線上にある技術、そしてもう1つがこのC-V2Xになる。

欧州委員会の発表

 プュッツラー氏は「昨年、欧州委員会が自動運転とコネクテッドカーには統合的なアプローチが重要だと発表した。これまでは自動車業界の自動化には通信はいらないと考えられてきたが、すでに変わりつつある」と述べ、今後の自動車業界にとって、自動運転と通信は切り離せず、両方を統合化して取り組んでいくことが重要だと説明した。また、「欧州においては交通死亡事故の21%は歩行者と自転車の事故、いわゆる交通弱者の事故になっている。日本では2014年の統計で51%が歩行者と自転車になっており、その削減に取り組んでいく必要がある」と述べ、C-V2XなどのV2X技術が有益だと説明した。その上でV2Xにはショートレンジ(V2V、V2Pなど)とロングレンジ(V2Nと呼ばれる車両とクラウドなどのネットワーク)があり、後者はセルラー回線で異論はなくなっているが、前者に関してはそうではなく、ノキアはC-V2Xを積極的に推進していくと説明した。

5GAAについて
5GAAが取り組む分野
5GAAのロードマップ

 そして、先週日本においてC-V2Xを推進していく業界団体5GAAの会合とワークショップがあったことを説明し、「5GAAは2016年に8つの会社で始まった。今年(2018年)の第3四半期にはそれがすでに90を超えており、今は100を超えている。日本でもNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクといった通信キャリアや、本田技研工業、日産自動車といった自動車メーカー、そして三菱電気、パナソニックといった部品メーカーなどが加盟している」と述べ、今後は5Gの導入、V2Nの推進、エコシステム構築、コンシューマ技術の積極的な導入、エッジコンピューティングの推進、そして相互互換性の実現などを目指していくと説明した。

 そうしたC-V2Xの取り組みについてプュッツラー氏は「すでに中国ではLTEを要した周波数の割り当てを行なっているなど、グローバルに取り組みが進展している。われわれが量産車に導入するとしている目標は2020年で変わっていない」と述べ、2020年には量産車にC-V2Xを導入するというこれまでの目標に違いはなく、自動車メーカーには早期の取り組みが必要だと強調した。プュッツラー氏によれば、ワシントンとパリでV2Vの相互互換性のデモが行なわれ、ワシントンではアウディとフォードが、そしてパリではフォード、BMW、PSA(プジョー・シトロエン・グループ)の3社が車両を、そしてBMWはバイクも用意して、それぞれに通信ができる様子をデモしたという。

ワシントンとパリでの実証実験について

日米欧でC-V2Xの実証実験が行なわれ、日本でもC-V2X導入の議論が進むことに期待感を表明

 また、プュッツラー氏はノキアが業界の他社と行なった実証実験について説明した。

 欧州で行なったCar2MECの実験では、モバイルエッジコンピューティング(MEC)と自動車の通信に関する実験が行なわれた。エッジコンピューティングとは、セルラー回線の基地局に専用のサーバーを設置して、地図データや自動車のセンサーからアップロードされるデータから重要なものだけを抜き出すなどすることで、回線への負荷を減らす役割を果たす。こちらの実験ではコンチネンタルのようなティア1の部品メーカーや、独テレコムなどの通信キャリアが参加して行なわれた。また、別のMECの実証実験では、ボッシュのようなティア1の部品メーカー、ダイムラーのような自動車メーカーなどが参加して実施され、HDマップに関する実験が行なわれた。

欧州での実証実験。コンチネンタルなどが参加
欧州での実証実験。ボッシュなどが参加

 また、米国のサンディエゴで行なわれたC-V2Xの実証実験では、Qualcommなどの半導体メーカー、AT&Tなどの通信キャリア、フォードなどの自動車メーカーなどが参加して、C-V2Xが路上で実際に機能するかどうかの実証実験が行なわれた。また、ユニークなところでは、イタリア、オーストラリア、ドイツという3か国にまたがった相互接続性のテストで、欧州のように地続きで国境があるところでも問題がないかどうか確認が行なわれたとのことだ。

米国でのC-V2Xの実証実験
欧州での国をまたいだ実験
ノキアソリューションズアンドネットワークス合同会社 技術統括部 柳橋達也氏

 続いて登壇したノキアソリューションズアンドネットワークス 技術統括部 柳橋達也氏は、日本での実証実験について説明した。日本での実証実験はKDDIと協力して北海道で行なわれたもので、2つのシナリオが試されたという。1つめのユースケースは基地局に設置されたMECを利用することでV2I、V2Vを実現し、より安全な運転が可能になることを実験した。

実証実験が行なわれた場所
実証実験の概要

 もう1つのシナリオでは、ネットワークRTK(Real Time Kinematic)と呼ばれる実証実験が行なわれ、GPSのみでは車両位置がずれてしまうのを、セルラー回線が持つブロードキャスト(広域配信)機能を利用して、基地局ごとに補正データを送ることでより正確な車両位置を特定できるという内容。実際、GPSのみの場合に比べてより高い位置精度を実現できることを確認できたと柳橋氏は説明した。

ネットワークRTKの概要
ネットワークRTKの実証結果

 なお、記者会見終了後には質疑応答が行なわれ、DSRCとC-V2Xの2つの陣営に分かれている現状についての質問が出たが、プュッツラー氏は「ショートレンジに関しては現在不幸にも2つの陣営に分かれているのは事実。あるメーカーはC-V2Xのみに、別のメーカーはDSRCとC-V2Xの両方に取り組んでいるという状況。例えばフォードとPSAはC-V2Xに、トヨタとフォルクスワーゲンはDSRCにといった状況になっている。この状況が自動車業界にとってよい傾向だとは思っていない。しかし、Qualcommとフォードが技術的なアドバンテージはC-V2Xにあるというレポートを発表しており、われわれとしてはC-V2Xの方が優れていると強く信じている。日本においては、5.9GHzの取り扱いをどうするかにかかってくるだろう。それは日本の政府や業界などで決めることだが、日本でも何かを変更すべきだという考え方は出てきている」と述べ、現在は5.9GHzにDSRCを使ってV2Xを導入する方向性で動いている日本も、今後徐々に変わってくるのではないかという期待を表明した。