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C-V2Xの現在地を、5G Automotive Association CTO マキシム・フラマン氏に聞く

LTE-V2Xは道路インフラとして2019年半ばには利用可能

5GAA CTO(最高技術責任者)マキシム・フラマン氏

 C-V2X(Cellular Vehicle to X:携帯電話回線を利用した路車間、車車間、人車間などの通信技術)は、2018年のCESあたりから急速に注目を集める技術になりつつある。従来、自動車メーカーは欧米では5.9GHz帯、日本では760MHz帯と5.8GHz帯でIEEE802.11pというWi-Fiの延長線上にある技術を使ってV2Xを実現しようとしていたのだが、通信関連の企業が提案を始めたC-V2Xが急に注目を集めてきた。

 その背景には、従来のC-V2Xは5Gから開始と考えられていたため、実現はだいぶ先だと考えられてきたが、携帯電話の標準規格を策定する3GPPのRelease.14(14番目の規格という意味)でLTE-V2Xという現在の4Gに対応した規格が策定され、急速にC-V2Xに舵を切った方がいいのではないかという議論が出てきて、自動車メーカーの中にもIEEE802.11pからC-V2Xへとターゲットを変えるところが増えてきたことがある。

 今回はそのC-V2Xを推進する業界団体である5GAA CTO(最高技術責任者)のマキシム・フラマン氏に、2月25日よりスペイン・バルセロナで行なわれたMWC 2019の会場で5GAAの現状に関してお話をうかがってきた。

5Gに対応したC-V2Xの標準規格策定は今年の末に完了

──5GAAとはどんな団体なのか?

マキシム・フラマン氏:5GAAはC-V2Xの普及を目指して活動している。複数のワーキンググループがあり、スペック、そして相互互換性試験、さらには法律を決める国家機関との意見交換、周波数の割り当ての働きかけなど、さまざまな活動を行なっている。

──現状のC-V2Xの規格策定はどうなっているか教えてほしい。

フラマン氏:5GAAではC-V2Xの規格策定は行なっていない。われわれ自身は規格を決める団体ではないので、3GPPのような標準規格を策定する団体と協調している。具体的にはわれわれが3GPPなどに対して提案を行ない、それを3GPPで議論していただき、標準規格に入れていただく。そうして2017年に策定された3GPPのRelease.14でLTE-V2Xの規格を提案し、標準規格となったのだ。

C-V2Xの規格策定の段階(出典 5G:From Concepts to Reality、Friedhelm Ramme/Ericsson)

 5Gに関しては、2018年に策定された最初の5GNR(筆者注:最初の5Gの標準規格)の標準仕様となるRelease.15でLTE-V2Xの拡張を行ない、2019年末までに策定される予定のRelease.16では5GのV2X(5G-V2X)が標準規格の1つとして採用される予定だ。

 技術的に見ると、LTE-V2Xを搭載した最初の規格である3GPP Release.14ではアプリケーション(V2N、自動車とネットワークの通信機能)を定義して、いくつかの技術的な仕様を定義した。例えばブロードキャスティングモードなどがそれに該当する。次のステップとなる3GPP Release.16では5GでのV2Xに対応し、さらにセンサーのデータをシェアする機能、ネゴシエーション機能などを追加する。

──実際の製品化はどうなるのか?

フラマン氏:3GPP Release.14に基づいたLTE-V2Xに関しては、業界としてすでに準備ができている。Qualcommのようなチップメーカーは対応しているチップをすでに出荷しており、5GAAによる互換性検証イベントが行なわれている状況だ。これにより、異なる自動車メーカーの車両とネットワーク機器などがきちんと動作するかをテストしている。現状では自動車メーカーは基本的な安全機能としてこれを出荷している。BMW、アウディ、ボルボなどがそうで、彼ら自身のITSサービスと連携して提供している。具体的には渋滞情報や、緊急時の警察などの公的機関への通報といった機能を、LTEネットワーク経由で提供している。

 C-V2Xの特徴は、V2Nのようなベーシックな機能から始めて、将来は5.9GHz帯を利用したV2V、V2Iなどに拡張していくことができる拡張性だ。

QualcommはMWC 2019のブースで5G-V2Xのデモを行なっていた

──グローバルでの周波数の割り当てはどうなっているか?

フラマン氏:米国ではLTE-V2XをFCCに提案しており、5.9GHzが割り当てられると考えている。欧州では5.9GHzがどの技術に割り当てられるかはまだ決まっていないが、欧州委員会と話し合っており、そこはC-V2Xに割り当ててほしいと提案している。ただ、欧州では最初にこの周波数はDSRCに割り当てることで話が進んでおり、そこは別の可能性があるのではないかと考えて提案を続けている。

──アジアではどうか?

フラマン氏:中国では5.9GHz帯がLTE-V2Xに割り当てられることがすでに決定している。このため、2019年~2020年のどこかのタイミングで、中国では5.9GHz帯を利用したLTE-V2Xがサービスインするだろう。韓国はまだどの周波数を割り当てるかは決まっていない。しかし、韓国は新しい技術を導入することに前向きな国なので、いずれ何らかの割り当てがあるだろうと考えている。

 日本ではやや状況が異なっている。5.9GHzに関してはまだ議論が進んでおらず、760MHzがDSRCに割り当てられており、主にトヨタ自動車が利用している。だが、760MHzに関しては他の自動車メーカーの活用も進んでおらず、かつ760MHzは9MHzだけとナローバンド(周波数帯が狭すぎて、十分な帯域幅=上限のスピードが出ないこと)過ぎるとわれわれは考えており、自動車が増えると対応するのが難しいのではないだろうか。

LTE-V2Xの製品は2019年半ばから2020年にかけて、5G-V2Xは2021半ば以降の実装予想

LTE-V2Xの開発タイムライン(出典 5G:From Concepts to Reality、Friedhelm Ramme/Ericsson)

──実際の製品への実装はどうなる見通しか?

フラマン氏:すでにLTE-V2Xに対応したチップはQualcomm、HUAWEIが商用出荷している。自動車に関してはもう少し時間がかかるが、2019年半ばには5.9GHzが道路側のインフラとして利用できるようになると考えている。その後、アフターマーケット向けの製品も登場することになるだろう。また、すでに述べたとおり中国では2020年の半ばまでに大量出荷が可能になる見通しだ。

──5G-V2Xへの移行はいつになる見通しか?

フラマン氏:マーケットの動向次第だ。しかし、強調したいのは自動運転への興味が高まっているのと機を同じくして、C-V2Xへの興味も高まっていることだ。このため、ステップバイステップで進めていく必要がある。標準規格(3GPP Release.16)は2019年末までに策定され、その後1~1年半の間にQualcommなどのチップメーカーが対応チップを出荷する見通しだ。このため、2021年の半ばまでには搭載した自動車が商用出荷される可能性があり、その後、2022年や2023年にはもっと広範囲に対応した自動車が登場することになるのではないかと考えている。それ以前に登場した製品でも、例えばOTA(Over the Air)のファームウェアアップグレードで対応するなども予想される。

 CESではフォードが3GPP Release.15に対応した5GNRのC-V2Xを搭載した自動車を2022年に投入すると発表しており、遠からず他のメーカーも搭載した自動車を投入するのではないだろうか。

──DSRCとC-V2Xの違いは?

フラマン氏:すでに述べたとおり、日本でのDSRCの取り組みは760MHzの10MHz分というナローバンドを利用してのサービスだし、グローバルにはIEEE802.11pなどのWi-Fiの延長線上にある技術を使っている。これらとC-V2Xの大きな違いは携帯電話由来の新しい無線方式を利用していることだ。Wi-Fiと携帯電話回線、どちらの方がより長距離をカバーすることが可能で、他の方式からの干渉が少ないかと言えばそれは携帯電話回線の方だ。これまで携帯電話の技術で長い間培ってきた技術をV2Xに適用できることがC-V2Xのアドバンテージだ。