イベントレポート
【CES 2019】Qualcomm、デジタルコクピットの実現をさらに加速する第3世代Snapdragon Automotive Cockpit Platform。デンソーやボッシュが採用
C-V2Xは、2022年から市販車に導入
2019年1月9日 01:51
- 2019年1月7日(現地時間)発表
半導体メーカーのQualcommは、1月8日(現地時間)から米ラスベガスで行なわれる世界最大のテクノロジイベント「CES 2019」に先立ち、1月7日に記者会見を実施した。この中でQualcommは同社が第3世代Snapdragon Automotive Cockpit Platformと呼ぶ、最新の自動車向け製品を発表した。
Qualcommは前世代のSnapdragon 820Aで、多くの自動車メーカーからIVI(In-Vehicle Infotainment、車載情報システム)向けに採用されており、第3世代ではそうしたIVIに加えて、メータークラスターへの採用を見込んでいる。
また、Qualcommの強みであるセルラーモデム(携帯電話回線用通信チップ)を活かし、C-V2X(Cellular V2X)と呼ばれる携帯電話回線を利用したV2Xの実現に力を入れているが、2019年のCESではアウディ、ドゥカティ、フォードとC-V2Xの実証デモを行なうと明らかにしたほか、フォードは2022年にC-V2Xを実車に搭載すると明らかにした。
中国の規制当局の許可が下りずNXP買収を断念したQualcomm、自動車戦略を立て直しへ
Qualcommの半導体子会社Qualcomm Technologies 上席副社長 兼 自動車事業本部 事業本部長 パトリック・リトル氏は、Qualcommの自動車事業の状況に説明した。リトル氏は「Qualcommは自動車向けのBluetoothチップやテレマティックス市場のリーダーだ。すでに発売している既存の自動車向けのSnapdragonは18の自動車メーカーに採用されており、今後製品として登場するデザインウインを獲得した製品の売り上げは55億ドル(1ドル=110円換算で6,050億円)に達する」と述べ、同社の自動車事業は好調に推移していることを強調した。
リトル氏の言うとおり、Qualcomm自動車事業は順調に成長していることは疑いないのだが、実は昨年Qualcommは自動車向け戦力の見直しを強いられている。
それはQualcommがNXPの買収を諦めたことだ。
NXPは自動車向けの半導体で、2位のルネサス・エレクトロニクスを上回って1位となっている半導体メーカーだ。その多くはQualcommの強みであるコンピューティングやモデムではなく、マイクロコントローラといった既存の自動車向け製品だ。そうしたNXPの自動車向け半導体と、これからの成長市場であるIVI、メーター、自動運転といったコンピューティング機能を持つ半導体というQualcommの強みを1つにして自動車産業で強みを出すというのが、QualcommがNXPの買収を決めた段階でのシナリオだった。
だが、日本を含む世界中の規制当局に買収の承認を得たものの、中国の規制当局からの認可が下りず、結局NXPの買収を諦めたことを2018年に正式に発表したのだ。これにより、Qualcommは自社だけで、自動車向けのソリューションを拡大していく必要がでてきており、同社の強みであるコンピューティングチップやモデムチップの強化を進める必要がある。
リトル氏は「自動車メーカーの重役の85%がデジタルサービスを搭載することはもっと収益性が上がると考えている」と述べ、自動車をインターネットに常時接続にしたり、デジタルなサービスを搭載したりすることでスマートフォンのように自動車でもコンテンツを楽しめることは重要だというのが自動車メーカーのコンセンサスだと指摘、そこにQualcommのビジネスチャンスがあるとした。
IVI、デジタルメーター向けの第3世代Snapdragon Automotive Cockpit Platform
そうしたQualcommが今回のCESで発表したのが、同社が「第3世代Snapdragon Automotive Cockpit Platform」と呼ぶ、複数の製品から構成されるIVIやメータークラスターをターゲットにした半導体製品だ。
Qualcommは既に3年前のCES 2016でSnapdragon 820A/820Am(関連記事:【CES 2016】Qualcommの「Snapdragon 602A」を採用した「Audi A5」が2017年に登場、LTE Advancedサポート)を発表しており、その後自動車メーカーなどに販売を行なってきた。
Snapdragon 820Aは、元々はスマートフォン用として利用されてきたSnapdragon 820を自動車グレードにした製品で、主にIVI(In-Vehicle Infotainment、車載情報システム)などのセンターコンソールに設置される、カーナビゲーションがインターネット常時接続に進化したデバイス向けの半導体として販売されてきたものだ。
Qualcomm Technologies 自動車製品担当 上席副社長 ナクル・デュガル氏は「Snapdragon 820AではIVIなどで成功を収めた。そしてこれからはそれに加えて、1つのエコシステムでデジタルコクピットをより幅広い価格帯でサポートしていくことが重要だ」と述べ、Qualcommが新しい半導体製品として第3世代Snapdragon Automotive Cockpit Platformを発表し、Paramountというより高い処理能力を必要とするハイエンド向け、Premiereというメインストリーム市場向け、さらにはPerformanceというエントリーレベルの3つのグレードを用意していることを明らかにした。
仮想化アクセラレータ機能に対応したHypervisorで複数のOSを実行可能
Qualcommによれば、第3世代Snapdragon Automotive Cockpit Platform向けに提供されるSnapdragon SoCはCPUに第4世代Kryoプロセッサ、GPUに第6世代Adreno、DSPにHexagon、ISPにSpectra ISPが採用されており、CPUが第4世代Kryo、GPUが第6世代Adrenoということから考えると、Qualcommが2018年12月に発表されたスマートフォン向けSoCであるSnapdragon 855がベースになっていると考えられる。
第3世代Snapdragon Automotive Cockpit PlatformのSoCは、CPU、GPU、DSPを異種混合的に利用するAIエンジンに対応しており、Qualcommから提供されるSDKを利用してマシンラーニングベースのAIソフトウェアを開発することができる。こうしたソフトウェアは3つのグレードで共通に利用することができる。
また、従来世代では対応していなかった仮想化アクセラレータ機能に対応しており、1つのSoCで複数のOSをメモリ空間を分離して安全に走らせることができるHypervisor機能も利用することができる。これにより、例えばエンターテインメント系はAndroid OS上で走らせながら、同時にメーターなどはRTOSやQNXなどのセキュアOSで走らせるなどの使い方が可能になる。
今回Qualcommは記者会見において、メータークラスターで、Amazonの音声サービスである「Alexa」を実行するデモを行なった。Hypervisorを利用すると、こうしたエンタテイメント機能とミッションクリティカルなメーターをSoC 1つで実現できるだけに、自動車メーカーにとってはこの強化点は非常に大きいと言えるだろう。
Qualcommによればすでにサンプル出荷を開始しており、自動車メーカーが評価を行なうことが可能になっているとのことだ。世界中のティア1部品メーカーでの採用が決まっているとデュガル氏は説明した。なお、QualcommのCESでの自動車関連の展示はLVCC ノースホールのブース5609で行なわれる。
アウディ、フォード、ドゥカティとC-V2XをCESでライブデモ、フォードが2022年にC-V2Xを実車に搭載と表明
また、Qualcommは記者会見でC-V2Xソリューションの進展についても説明した。C-V2Xは、携帯電話回線のプロトコル(LTEや5GNRなど)を利用してV2X(車両対車両、車両対人などの通信機能の総称)を実現するもので、DSRCなどの独自のプロトコルを利用する方式とV2Xの標準の座を争っている。C-V2Xのメリットは、携帯電話回線の仕組みを利用するため、DSRCなどの独自の方式に比べてトータルでは低コストでインフラなどを構築することができる。
Qualcommのその普及を目指す5GAAの主要メンバーで、自動車メーカーやティア1の部品メーカーなどと協力して普及を目指している。今回のCESでは、アウディ、フォード、そして2輪車メーカーのドゥカティと共同でC-V2XのライブデモをCESで行なうと発表した。
また、フォード 執行役員(フォードコネクテッドビークルプラットフォーム・製品担当)ドン・バトラー氏がステージに登壇し、「弊社はQualcommと協力してC-V2Xの実証実験を行なっており、2022年から実際の製品に搭載する計画だ」と述べ、フォードはC-V2Xを2022年から市販車に導入していく。