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KDDIとノキア、世界初のコネクテッドカー向けLTE一斉同報配信成功。北海道豊頃町で実証実験公開

V2N2Vなどコネクテッド時代に向けたエッジコンピューティング技術

2018年4月16日 公開

世界初のコネクテッドカー向けLTE一斉同報配信実証実験に使用された車両

 KDDIとノキアは4月16日、世界初となるコネクティッドカー向けのLTE一斉同報配信技術について、北海道豊頃町の公道で行なった実証実験を報道公開した。

 今回、KDDI、ノキア、Hexagon、KDDI総合研究所の4社は、スタジアムにおける観客への映像放送などに用途を限定し用いられてきた一斉同報配信を、落下物などの危険情報を後続車両に一斉配信するといった、コネクテッドカー向けの情報配信に用いる世界初の実証実験に成功した。

北海道豊頃町の公道で行なわれた実証実験

 北海道豊頃町の現場を訪れると、商用サービスをしている基地局に併設して、一斉同報配信のための実証実験用システムとMEC(Multi-access Edge Computing)のための設備が設置されていた。

 実験車両を見ると、トランクスペースにLTE通信のためのスマートフォン端末、実験用の車載システムが搭載され、表示用端末としてタブレットが車内に設置された。同システムでは10台の仮想車両を設定して、一斉同報配信させる情報を同時に受信しているかも確認している。

実証実験用の設備
裏側にあるのが商用サービス中の設備
実証実験が行なわれた基地局
基地局のそばに設置されたMEC(Multi-access Edge Computing)の装置。ユーザーに近いモバイルネットワーク内で、データ処理等をする技術により低遅延のサービスを実現する
一斉同報配信された情報はLTE端末で受信
トランクスペースに設置された実験用の車載システム
実験用の車載システムの表示にタブレットを使用。実証実験では仮想車両を設定して複数台で情報を受信ているか確認した

 今回、2つの実証実験が行なわれ、実証実験1では、LTE一斉同報配信によるV2N2V(Vehicle to NW to Vehicle)情報配信を実施。先行車が検知した道路障害物等の情報を後方車両に一斉同報で伝搬して、後方車両に搭載する端末に衝突回避操作を促す表示が示された。

見通しのきかない場所から前方車両が危険情報を発信、後続車両が危険情報を一斉同報配信で受信するというテスト

 実証実験2では、自動運転車の自己位置推定を高精度化するGPS補強信号のLTE一斉同報配信を実施。GPS補強信号なしでは数メートル単位の誤差がでるものが、GPS補強信号をLTEで受信できるエリア内では、センチメートル単位の誤差で自車位置情報を得ることが確認できた。

GPS補強信号のLTE一斉同報配信の実験車両に搭載されたアンテナ
LTEから一斉同報配信されたGPS補強信号を受信する端末では、誤差1cmの位置情報を得ることができる
LTEのカバーエリアを外れてGPS補強信号を受信できなくなると誤差は補強信号なしと同じになる

 実際に試験車両に同乗すると、無線(トランシーバー)による前方車両とのやりとりのなかで、前方車両による危険情報の発信の合図から、後方車両への危険情報の表示までタイムラグを感じさせず、低遅延で実現できていることが確認できた。また、GPS補強信号のLTE一斉同報配信についても、それぞれのクルマに対してGPS補強信号を個別配信するほうが理想的とされるが、基地局のカバーエリアのおいて、複数台の車両で情報をシェアすることでも効果を得られることが確認できた。

 KDDI 技術企画本部 コネクティッド推進室 戦略グループ マネージャー 堀賢治氏によると、今回実証した「一斉同報配信」は、1つの電波帯域を共用して多くの相手に情報配信するもので、1つの電波帯域で1対1の通信を行なう「個別配信」では多くの電波帯域が必要となるのに対して、電波の利用効率を大きく向上。将来、コネクテッドカーの普及台数が1000万台規模に増えても、タイムリーで安定的な情報の受信が期待できるとしている。

コネクティッドカー向けLTE一斉同報配信の実証実験について説明するKDDI株式会社 技術企画本部 コネクティッド推進室 戦略グループ マネージャー 堀賢治氏
実証実験の概要を示すスライド

ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 技術統括部 柳橋達也氏

ノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 技術統括部 柳橋達也氏

 実証実験の公開を前にノキアソリューションズ&ネットワークス合同会社 技術統括部 柳橋達也氏は「V2X海外動向」「ノキアの取り組み」「実証実験の狙い位置づけ」について説明。

 V2X海外動向としては、2020年時点で生産される自動車の80%がインターネットに接続され、約25000万台の自動車がコネクティビティを具備すると予測。HDマップ、フルV2Xコネクティビティ、AI&セルフラーニングの搭載など、高度な自動車アプリケーションにはより高速なコネクティビティが必要となる見込みを示すとともに、コネクティッドカーの普及により、クラウドに上がってくる情報も膨大となり、クラウドのバックエンドに上げる前に情報を処理するエッジクラウド(MEC)技術が必要になってくるとの見通しを示した。

 ノキアの取り組みとしては、自動車に対するセキュリティソリューションを提供する「コネクテッドカー」、自動車会社等のクラウドに対する「コネクテッドカーバックエンド」、それらを無線コミュニケーション技術上でつなげる「コミュニケーションネットワーク」の領域で取り組んでいるという。

 そのコミュニケーションネットワークの領域においては、同社のエッジコンピューティングを含むモバイルネットワークを活用して「V2V」「自動車アナリティクス」「ローカルマップ」「分散型AI」など複数のユースケースを想定。柳橋氏は「コネクテッドカーの情報を全てクラウドに上げてしまうと、クラウドが情報で埋もれてしまう、あるいはクラウドの途中の過程で負荷がかかる。(クラウドの)エッジで下処理をして必要な情報だけをクラウドに上げるといったことが必要となる」などと、分散処理の必要性を説いた。

V2Xにおけるセルラー技術活用のメリット

 今回の実証実験で行なわれたV2Xにおけるセルラー技術の活用については、クルマが持っている安全技術を補完する位置付けといい、柳橋氏は「V2Xにセルラーを使用する優位性は、車車間や路車間で実現するV2Xよりももっと広いところにある。すでにクルマに実装されているレーダーやライダーなどの仕組みや、何らかの方法で実現するV2Vは、比較的狭い領域をカバーするのに対して、セルラーでは広域でカバーできる特徴がある。見通しのきかない場所からも情報を集めて、(エッジコンピューティングによる)高度な制御や判断を加えて、クルマが持っている安全性や効率性にネットワークとして貢献、現在発生している事故の件数を何割か削減していくことを最終的な目的としている」との考えを述べた。

実証実験で評価するV2Xにおけるセルラー技術のの主な優位性
ノキアの取り組みを示すスライド