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損保ジャパン日本興亜、日本初となる自動運転車のトラブル対応サービス研究拠点「コネクテッドサポートセンター」開所式
トラブルで停止したレベル4自動運転車の遠隔操作デモも公開
2018年9月28日 00:00
- 2018年9月27日 開催
損害保険ジャパン日本興亜は9月27日、今後迎える「自動運転社会」で損保会社が果たすべき社会的役割について研究する新たな拠点「コネクテッドサポートセンター」を、同社のグループ会社でロードアシスタンスのコールセンター業務などを行なっているプライムアシスタンス内に開設。同日からレベル3、レベル4相当の自動運転車を使い、ティアフォー、アイサンテクノロジー、KDDI、マクニカと共同で実証実験をスタートさせた。
同日にコネクテッドサポートセンターが新設されたプライムアシスタンスで開所式、並びに実証実験のデモンストレーションが行なわれ、報道向けに公開された。
実証実験のデモでは、遠隔地で乗客を乗せSAE レベル4(完全自動運転)相当の自動運転車にトラブルが発生。自動運転車の前方を走るクルマが事故で停車し、自車も動けなくなってしまったという想定でコネクテッドサポートセンターにトラブル発生の連絡が入る。
センターでは最初に車両の遠隔運転担当者がトラブル発生を確認。車内にいる乗客に対して「危険回避のため、操舵介入します」と通知。続けてオペレーターが車両が停止した原因を説明し、あらためて遠隔運転担当者が車両を操作する旨を乗員にアナウンスする。しかし、遠隔運転がスタートした直後に、車両が異物に乗り上げた(想定)衝撃で再停車。オペレーターが乗客の安否確認を行ないつつ、タイヤ空気圧の低下からタイヤがパンクしたと判断。遠隔運転担当者が「この車両でこのまま移動することが難しい」と判断して、乗員に替わりの車両が手配され、次の車両が10分ほどで到着する旨が乗客に伝えられたほか、今後の対応として「事故受付に関するメール」が乗客に送信され、後から体に痛みなどが出て通院することになった場合は、前出のメールに記載された連絡先に電話するようアナウンスされ、最後に不明点や不安なことなどがないかの聞き取りも行なわれてデモは終了した。
「見守られている」安心感が自動運転が社会に受容されていくキー
開所式では最初に、損害保険ジャパン日本興亜 取締役専務執行役員 飯豊聡氏があいさつを行ない、同社で自動運転社会に向けてこれまでも進めてきた保険会社としてのサポートの取り組みを、このコネクテッドサポートセンターの解説でさらに1歩進めることを目指していると説明。
自動運転車を遠隔運転によってサポートする施設となっており、自動運転の技術はグローバルで加速度的に進んでいるが、同時に運転者不在の自動運転車を利用するユーザー、運行事業者、自動運転車が走行する地域の住民などから、自動運転が安全で安心な存在であることをアピールし、利便性が高いことを理解して受け入れてもらうことが重要になると解説。そのために、自動運転車が走行している途中で起きたトラブルに適切に対応し、走行中も乗客が「見守られている」という安心感をいかに表現するかといった部分がすべてパッケージとして提供されることが、これから自動運転が社会に受容されていくキーになると語った。
また、実証実験ではデモで披露したレベル4相当の自動運転に加え、複数のレベル3相当の車両で隊列走行する実証も行なっていき、このコネクテッドサポートセンターでこれから全国各地で行なわれる自動運転の実証実験に連携して対応力のレベルアップを図り、自動運転の社会受容性を高めていきたいとの意気込みを述べた。
また、コネクテッドサポートセンターで利用される遠隔監視システムとオペレーターシステムを開発して実証実験に提供しているティアフォー 取締役CTO 加藤真平氏からもプレゼンテーションが行なわれた。
加藤氏は「昨今は自動運転の実証実験が日本各地で展開されるようになってきて、われわれも自動運転の技術を提供してきました。そこでよく質問を受けるようになったのは、将来自動運転車が実用されて、無人の自動運転車で事故が起きたらどうするんですか?というものです。今日お見せしたデモがわれわれとしての1つの答えになります」。
「今日行なう自動運転自体は、われわれが各地で行なわれている実証実験に提供しているものと同じですが、1つ新しい試みとなるのは、自動運転車とサポートセンターをモバイル通信でつなげるということです。自動運転社会が訪れて事故が起きた時にどういった対応ができるかというのは、事故が起きた後にどれだけ迅速にサポートできるかというところだと思います。これから無人の自動運転の実証実験が行なわれていく中で、おそらくこのシステムがたくさん活用されていくだろうと思っております。われわれも自動運転の研究開発を続けていきますが、これから行なわれる各地の実証実験でも活用していただき、支援をいただいて、2020年の自動運転実用化に向けて日本全体で進めていけたらいいなと考えております」とコメントした。
また、終盤では質疑応答も行なわれ、コネクテッドサポートセンターの規模とこれからについての質問に加藤氏が回答。現状では1台の自動運転車に対してオペレーター1人が対応する形式となっているが、年内を目処に複数の自動運転車を1人のオペレーターがサポートする実証実験を行なう予定となっており、次年度以降に対応数を増やしていって、将来的には1人のオペレーターで10台の自動運転車をサポートできるようなシステムに作り上げていきたいと回答した。
保険商品としていつごろの商品化を目指しているかという質問には飯豊氏が回答。飯豊氏は「保険会社ですので事故があった時にどうサポートするかも重要ですが、今回の実証実験では常時監視による『見守られている』という安心感、事故の発生を未然に防ぐためのサポートといった部分がポイントになってくるかと思います。そういったコネクテッドサポートで、どれだけサポート品質を高めることができるかといったところが保険商品としての商品性で優劣になるかと思います。そこの品質に磨きをかけていく準備をこれからも進めていきたいと考えております」と述べた。
今後目指していくビジネスモデルについても飯豊氏が回答し、「自動運転が進んでいくとクルマの台数が少なくなって事故も少なくなると言われていて、これは社会にとっては非常にいいことですが、保険会社にとっては従来のような形でのビジネスチャンスは減っていくという懸念が出ています。ただ、すでに私どももご契約をいただいたお客さまに対して事故が起きた時のサポートだけでなく、事故を起こさないためにどうしたらいいかという支援を行なっており、これが自動運転の技術と相まって、積極的な実証実験を重ねることによって、いち早くこの分野でも新たな商品やサービスを開発していくこと。これこそが新しいビジネスモデルを生み出すチャンスだと思っております」。
「具体的には自動運転に加えてカーシェアリングやライドシェアが相まっていくと、クルマ社会のあり方が変わっていくと思います。そうすると、自動車保険でも『乗っても乗らなくても1年間の保険料があまり変わらない』というあり方が根本的に変わっていくことも想定しており、自動運転で使用者や乗客とクルマのありようが変わっていくところをチャンスと捉えて社内検討を進めております」と回答した。
コネクテッドサポートセンターで目指す、常時監視による安心・安全を実現するためには途切れることのない通信が必須になるところで、これをどのように実現していくかという質問には、加藤氏に加えてKDDI 執行役員常務 赤木篤志氏が回答。
まず加藤氏が「これからどんどん通信の精度や耐久性が高くなっていくと思いますが、システムとしては2重、3重に冗長系を組み込んでいく。仮に1つの回線が途切れた時でもすぐにバックアップの回線がつながるようなシステムを組んでいくことがわれわれとして考えているところです」と回答。
続いて赤木氏が「今のご質問にある『絶対に』というところは、なかなかしんどいところがあります。また、加藤先生がおっしゃったようにバックアップという考え方もありますし、2重ネットという方法ができるのであれば、シェアしておくことでどちらかが落ちた時にもう一方で助けることもできます。例えば無線であれば、周波数を変えて使う手法もあります。センター側との間で有線系が当然ありますので、有線のダイバーシティとしていくつかのダイバーシティの取り方が技術の進展と共にやり方が出てきます。これを経済性と合わせて終着点が出てくるのではないかというのが回答になります」と述べた。
自動運転車とコネクテッドサポートセンターの通信については、KDDIのLTE回線でデータの送受信を行なっているとのこと。今後の2020年以降については5Gに期待していると加藤氏から解説された。
また、遠隔運転でコネクテッドサポートセンター側から送られる運転に関するデータの通信量は、「5個搭載しているカメラの映像(VGA)やレーザーレーダー、車内監視用のカメラの映像などのデータ量と比べて10分の1程度。また、乗客とオペレーターの音声通話と比べると10倍ぐらい」と説明された。