ニュース

損保ジャパン日本興亜、約230km離れた自動運転車を都内から見守る事故トラブル対応デモを公開

自動運転する「Milee」車内の豊橋市 佐原市長に呼びかけ

2018年11月17日 開催

トラブル発生(デモ)で停止した自動運転車の車内にいる豊橋市 佐原市長に、都内にいる女性オペレーターが呼びかける

 損害保険ジャパン日本興亜は、愛知県豊橋市の豊橋総合動植物公園で「遠隔型自動運転車を園内バスに導入する可能性」を検証する実証実験に参画。11月17日に行なわれた実証実験で、豊橋総合動植物公園から約230km離れたサポート施設から、園内で走行する自動運転車を遠隔監視。トラブルを想定したオペレーターの対応デモを公開した。

 豊橋総合動植物公園で行なわれる実証実験は、愛知県、アイサンテクノロジー、KDDI、ティアフォー、名古屋大学が共同し、豊橋市も協力しているもの。今回のオペレーターの対応デモは、11月19日~21日に世界で初めて行なわれる「複数台の遠隔型自動運転車の実証実験」の一般参加モニターテストに先立ち、愛知県の大村秀章知事、豊橋市の佐原光一市長が来賓として参加して実施された。

オペレーターの対応デモは、9月27日に損保ジャパンのグループ会社であるプライムアシスタンス内に開設された「コネクテッドサポートセンター」で実施
オペレーターや遠隔運転担当者が離れた場所にいる自動運転車の乗員との対応に集中できるよう、コネクテッドサポートセンターでは半球型の特殊なシートを採用。後方から見ると誰もいないようだが、デモ実施に向け、すでに女性オペレーターがスタンバイしている
今回はオペレーターの対応デモだけとなるので、遠隔運転担当者のシートは無人
コネクテッドサポートセンターでは、大型のモニター画面やPCを設置したサポート席などを追加して設備を増強していた
コネクテッドサポートセンターの内部(20秒)

 今回のデモでは、自動運転車の開発などを行なっているティアフォーが製作したEV(電気自動車)の自動運転車「Milee(マイリー)」と、トヨタ自動車の「エスティマ」をベースにした自動運転車の2台を使い、大村知事と佐原市長がMileeに乗車。先行するエスティマ自動運転車が進路上の障害物を発見して停車し、後続のMileeもストップしたエスティマ自動運転車を検知して停車するというシナリオが用意されていたが、デモの開始直前になってトラブルが発生。それまでコネクテッドサポートセンターに届いていたMileeの映像や音声といったデータがストップし、オペレーターが対応不能になってしまった。

 コネクテッドサポートセンターと現地のスタッフが電話連絡をしたところ、データの転送ではトラブルが起きているものの、自動運転については問題なく作動していることが判明。来賓のうち、大村知事はこれ以降のスケジュールに余裕がないことから、Mileeには大村知事だけが乗車して、世界初となる複数台の遠隔型自動運転車の実証実験だけを体験することになった。この様子は、コネクテッドサポートセンターのモニター画面にデータが届いているエスティマ自動運転車の後方カメラで、少し離れた位置をMileeが続いて走る姿で確認できた。

デモ開始前のリハーサル段階では、エスティマ自動運転車(Vehicle:1)とMilee(Vehicle:2)のどちらからも映像や位置情報が届き、現地でセッティングなどを進めるスタッフともやり取りできていたのだが……
デモ開始直前になって、Mileeからのデータが途絶。復旧すべく作業が進められたが、大村知事の次の予定が迫ってきたことから、大村知事だけがMileeに乗車してデモ走行を体験することになった
自動運転車の走行データの画面表示。映像はリハーサル中のもの(9秒)

 一時はオペレーター対応デモの実施が危ぶまれる状況となったが、コネクテッドサポートセンターに来ていたティアフォーのエンジニアがトラブルの原因究明に成功して、無事にMileeとの接続を復旧。待機していた佐原市長がMileeに乗り込んでデモがスタートした。

 なお、トラブルの原因は、デモの内容が分かりやすくなるよう、コネクテッドサポートセンターと現地に複数のPCとモニター画面を設置して表示を行なったところ、サーバーで処理可能なセッション数の上限を超えてしまい、エラーが発生したとのこと。表示に使うPCを何台か停止し、通信や制御などのシステムを再起動して通常の動作が回復した。

ティアフォーのエンジニアが緊急対応して、Mileeとの接続が復旧。トラブル対応でいろいろな手段を試したことから、車両の表示がVehicle:3になっていた
自動運転で走り始める前に、コネクテッドサポートセンターの女性オペレーターが約230km離れた豊橋総合動植物公園にいる佐原市長に向け、自分が「見守り」を行なうことを説明
自動運転の内容について同乗した解説員に質問したり、動植物公園の景色を眺めたりする佐原市長。走行中の車内の音声は常時コネクテッドサポートセンターにも届いていたが、これは自動運転車を遠隔運転する場合、周辺の映像に加え、音についても乗員と同じ情報を遠隔運転操縦者が把握できるようにするのが規定で定められているから。これは同日の来賓である佐原市長に加え、11月19日から始まる一般モニターにも周知されるとのこと
動植物公園内の通路は幅が広いが、土曜日ということもあって多くの来場者が歩いており、園内の植物などを整備する作業用の車両も時折走っていた。しかし、エスティマ自動運転車とMileeは影響を受けることなく、順調に走行を続けていく
想定のシナリオどおり、障害物の発見でエスティマ自動運転車とMileeが停車。女性オペレーターがMileeの車内にいる佐原市長などの安全確認を行ない、停止の理由を説明。状況がクリアになって再発進することをアナウンスする
コネクテッドサポートセンターの女性オペレーターとMilee車内のやりとり(1分7秒)

 想定されたオペレーター対応を終え、佐原市長を乗せたMileeが約1.5kmのコースを走りきってデモは終了となった。コネクテッドサポートセンターの活動としては、現状では自動運転している車両の見守りがメインとなっており、トラブル発生による緊急停止情報の受信や車両の周辺状況の確認などについては、発生したこと、解消されたことの想定で進められている。今後はデータの画面表示、遠隔運転担当者との連携などを行ない、より実践的な内容に進化させていく予定だが、具体的な開始時期については未定とのこと。

 また、現地の自動運転車との通信は、現状ではLTE回線を使っている。とくに音声についてはLTEでも十分なクオリティを実現しているというが、今回の実証実験の現場である豊橋総合動植物公園にはKDDIの基地局が切り替わるエリアがあり、このハンドオーバーが行なわれるポイントで音声や映像の遅延などが発生。これは現時点での課題になっているとのこと。将来的に使用を想定している5Gでは通信速度の向上と遅延の短縮に加え、LTEなどは対応していないプライオリティ(優先順位)設定が可能になることで、人命に関わる自動運転では通信のクオリティが確保しやすくなるという。しかし、一方で普及していない5Gになると、基地局のハンドオーバーでは不利になる部分もあり、現在はLTE回線で実証実験を行なっていると説明された。

オペレーター対応デモで使われたティアフォーのMilee。写真は「東京モーターフェス 2018」で実施された自動運転試乗会の模様
Mileeはヤマハ発動機の電動ゴルフカートをベースに、すべて3Dプリンターで作った外装を与えた自動運転EV。自動運転には車両の前後左右とルーフ上に設置した計5個のLiDERとNVIDIAの「Drive PX2」などを使う