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2019年シーズンに向けたF1タイヤテストレポート。トロロッソ・ホンダが2日間で最長距離を走行
移籍したドライバーも新チームでテストを行なう
2018年12月4日 16:14
- 2018年11月23日~25日(現地時間) 開催
F1世界選手権は、11月23日~25日(現地時間)の3日間に渡ってアラブ首長国連邦 アブダビ首長国にあるヤス・マリーナ・サーキットで行なわれた第21戦「2018 ETIHAD AIRWAYS ABU DHABI GRAND PRIX」(以下アブダビGP、別記事参照)で最終戦を迎え、シーズンは閉幕した。これから2019年の開幕戦となるオーストラリアGP(2019年3月17日[現地時間]決勝)に向けて長いオフシーズンに入ることになる。
F1ではシーズン中やオフシーズンのテスト走行にはコストカットの観点から制限が付けられており、一部の例外(CMの撮影など)を除けば、公式テストとして行なわれるテストでのみ走行を行なうことが可能になっている。今回のアブダビGP後の11月27日~28日に行なわれたタイヤテストは、年内最後の走行機会となるため、各チームとも2019年にピレリタイヤが利用するコンパウンドを2018年のタイヤと比較するテストなどを行なっていた。
この中で、トロロッソ・ホンダは各チームの中で最長となる150周(11月27日)、155周(11月28日)と距離を稼ぐ走りに徹してさまざまなテストを行なっていた。また、来シーズンに向けては、チームを移籍するドライバーや来シーズンからデビューする新人ドライバーもテストに参加しており、2019年に向けてのチームやドライバーの活動がすでに開始されている。
華やかな最終戦の後、居残ってタイヤテストが火曜日と水曜日に行なわれる
F1というと、とても華やかな世界だと思っている人は多いだろう。確かに、グランプリ期間中はとても華やかで、特にF1ドライバーやメカニックなどが集うパドックでは、F1引退後も解説者の形でF1に関わっているドライバーが闊歩していたり、世界的な芸能人が来ていたり(アブダビGPには、ハリウッド俳優のウィル・スミス氏が訪れていた)などと、まるで社交場のような華やかな環境だ。特にアブダビGPは、F1が欧州を出て興業を行なうフライアウェイと呼ばれるレースだが、欧州から近いこともあり、前出のような元F1ドライバーや、ドライバーのマネージメントを行なうマネージャーも大挙して訪れており、2019年に向けた話し合いなども行なわれる環境になっている。
アブダビGPが日曜日に終了してからは、月曜日に休息日を入れて、火曜日(11月27日)と水曜日(11月28日)にピレリのタイヤテストが行なわれることになった。このタイヤテストは、F1の公式タイヤサプライヤーであるピレリが2019年に導入を計画しているタイヤのコンパウンド(平たく言えばタイヤのゴムの種類)をテストするもので、2018年のタイヤと比較することで各チームは2019年導入されるタイヤコンパウンドのデータを蓄積すると同時に、ピレリの方も2019年のタイヤに関するデータ取りやチームからのフィードバックなどを目的としたものになる。その半面、グランプリ期間中とは異なり、撤収の準備もしながらのテストとなり、やや慌ただしい環境でテストが行なわれていた。
2019年にはF1の規定が変更され、フロントまわりの空力などの規定が変更される予定になっている。それによりオーバーテイクが起きやすいようにすることが目的なのだが、その是非はさておき、チームとしては空力の規定が変更されるので、設計なども見直す必要がある。2018年の車両のデータを2019年に生かすことができないのだが、パワーユニットサプライヤーの側からすれば距離を稼ぐことができるため、信頼性の確認にもなり、得ることは少なくないテストとなる。
チームを移籍するドライバーや昇格した新人ドライバーが新しいチームで走行
シーズンオフのテストは今回のアブダビと、2019年の2月半ばから後半に予定されているバルセロナテストしかなく、ドライバーにとっても決して多くない走行機会となる。特に2019年は新しいチームに移籍するドライバー、あるいは2019年からF1に昇格する新人ドライバーにとっては大変重要な走行機会となるため、早速新しいチームで走行する様子もうかがえた。
例えば、2018年にフェラーリで走っていたキミ・ライコネン選手は、2019年からザウバーで走ることがすでに決まっており、テスト初日(11月27日)に早速ザウバー・フェラーリのコックピットに収まって走行していた。ただし、スポンサーの関係などもあるのか、何もロゴが入っていない白いレーシングスーツを着用していた。そして、そのライコネン選手と入れ替わりでフェラーリへ移籍するシャルル・ルクレール選手は、テスト2日目(11月28日)にフェラーリをドライブしており、こちらは正ドライバーに昇格してからは初めてのフェラーリのドライブの機会となった。他にもカルロス・サインツ選手(ルノーからマクラーレン)、ランド・ノリス選手(マクラーレンからデビュー)、ジョージ・ラッセル選手(ウィリアムズからデビュー)、ロバート・クビサ選手(ウィリアムズからF1復帰)、ランス・ストロール選手(ウィリアムズからフォースインディアへと移籍)などの選手が新チームで走行を行なった。
同じ事は、トロロッソ・ホンダから2019年はホンダのパワーユニットを利用するレッドブル・ホンダへの移籍が決まっているピエール・ガスリー選手にも言える。ガスリー選手はテスト2日目(11月28日)にレッドブル・レーシング・タグホイヤーに乗り込んでおり、レッドブルへの移籍決定後に初めてレッドブルのマシンをドライブした。
トロロッソ・ホンダはガスリー選手がレッドブルへ移籍し、そして11月26日にはもう1人のブレンドン・ハートレー選手も離脱が決定したため、このテストでは2018年の正ドライバー2人がいないという状況になっており、今回のテストではテストドライバーのショーン・ゲラエル選手が初日を、そして2019年からトロロッソへの復帰を決めているダニール・クビアト選手が2日目をドライブした。
なお、今回のアブダビGP終了後の11月26日夜には、決定していなかったトロロッソのもう1人の正ドライバーがアレクサンダー・アルボン選手になるとチームから正式に発表された。アルボン選手は2018年にF1直下のジュニアフォーミュラとなるF2で3位に入った実力派で、英国生まれのタイ国籍という22歳の選手だ。タイ人のドライバーとしてはF1の初年度(1950年)から1953年に参戦したタイ王国の王族の1人であるピーラポンパーヌデート親王以来となるので、実に66年ぶりのタイ人ドライバーということになる。2014年に参戦していた小林可夢偉選手がF1を去ってから、この5年はアジア人ドライバー不在になっていたので、5年ぶりのアジア人ドライバーでもある。
ただ、アルボン選手自身はイギリスで生まれてイギリス育ちということもあり、ライセンスはタイだが母国語は英語で、どちらかと言えばイギリス人ドライバーに近い存在だ。実際、2019年にウィリアムズからデビューするジョージ・ラッセル選手、2019年からフェラーリに昇格するシャルル・ルクレール選手などとはカートで一緒に成長した仲で、現在でも非常に仲がよい。日本人ドライバーで同じく2018年にF2を戦った福住仁嶺選手とは親友だと福住選手が言うほどの存在で、F1の世界でもナイスガイとして知られている。ただし、今回のアブダビテストでは、正式な決定がテスト前日となってしまったこともありドライブする機会はなく、ピットウォールなどでエンジニアの無線を聴くなどして見守っていた。
このアルボン選手がトロロッソ・ホンダの正式ドライバーに決定したことで、2019年のF1のラインアップはほぼ決定となった。唯一決まっていないのは、フォースインディアの1席となっているが、フォースインディアは2018年の半ばに破産した後ランス・ストロール選手の父親を中心とした共同事業体に買収されており、そこにランス・ストロール選手が収まるのは既定路線になっている(編集部注:その後チームより正式発表)。
2019年のF1のドライバーラインアップ表
チーム | ドライバー |
---|---|
メルセデス | ルイス・ハミルトン/バルテリ・ボッタス |
フェラーリ | セバスチャン・ベッテル/シャルル・ルクレール |
レッドブル | マックス・フェルスタッペン/ピエール・ガスリー |
ルノー | ダニエル・リカルド/ニコ・ヒュルケンべルグ |
ハース | ケビン・マグヌッセン/ロマン・グロージャン |
フォースインディア | セルジオ・ペレス/ランス・ストロール |
マクラーレン | カルロス・サインツ/ランド・ノリス |
ザウバー | キミ・ライコネン/アントニオ・ジョビナッツィ |
トロロッソ | ダニール・クビアト/アレクサンダー・アルボン |
ウィリアムズ | ロバート・クビサ/ジョージ・ラッセル |
2日間ともフェラーリがトップタイム、トロロッソ・ホンダは両日ともに両ドライバーが最長距離を稼ぐ
11月27日~28日の2日間にわたって行なわれたタイヤテストでは、前述の通りピレリタイヤの新しいコンパウンドを試すテストとなり、新しいタイヤと2018年のタイヤの比較などが行なわれた。今回のテストは9時~18時の9時間ぶっ通しで行なわれ、チームによっては2人のドライバーを交互に走らせることで休憩時間を少なくしたり、逆にキッチリ昼休みは休んだりと、チームそれぞれのスケジュールでテストを行なっていた。
11月27日のトップタイムはセバスチャン・ベッテル選手(5号車 フェラーリ)で、途中トラブルが発生して走行距離は稼げなかったものの、1日を通じてトップタイムをマークした。この日にはフェラーリからザウバーへと移籍したキミ・ライコネン選手(7号車 ザウバー・フェラーリ)も走行していたが、夕方にはコース脇にストップしてしまい、赤旗の原因となってしまった。このため、セッションは15分延長された。
11月27日のタイム表
順位 | カーナンバー | ドライバー | 車両 | タイム | 周回数 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 5 | セバスチャン・ベッテル | フェラーリ | 1分36秒812 | 69 |
2 | 77 | バルテリ・ボッタス | メルセデス | 1分37秒231 | 120 |
3 | 18 | ランス・ストロール | フォースインディア・メルセデス | 1分37秒415 | 56 |
4 | 33 | マックス・フェルスタッペン | レッドブル・レーシング・タグホイヤー | 1分37秒947 | 133 |
5 | 11 | セルジオ・ペレス | フォースインディア・メルセデス | 1分37秒976 | 67 |
6 | 47 | ランド・ノリス | マクラーレン・ルノー | 1分38秒187 | 136 |
7 | 27 | ニコ・ヒュルケンべルグ | ルノー | 1分38秒789 | 128 |
8 | 51 | ピエトロ・フィッティバルディ | ハース | 1分39秒021 | 56 |
9 | 40 | ロバート・クビサ | ウィリアムズ・メルセデス | 1分39秒259 | 32 |
10 | 63 | ジョージ・ラッセル | ウィリアムズ・メルセデス | 1分39秒512 | 42 |
11 | 7 | キミ・ライコネン | ザウバー | 1分39秒878 | 102 |
12 | 38 | ショーン・ゲラエル | トロロッソ・ホンダ | 1分40秒435 | 150 |
11月28日のトップタイムはフェラーリに移籍後の初走行となったシャルル・ルクレール選手(16号車 フェラーリ)で、2番手には同じくレッドブルに移籍後の初テストとなったピエール・ガスリー選手(10号車 レッドブル・レーシング・タグホイヤー)がつけた。
11月28日のタイム表
順位 | カーナンバー | ドライバー | 車両 | タイム | 周回数 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 16 | シャルル・ルクレール | フェラーリ | 1分36秒450 | 135 |
2 | 10 | ピエール・ガスリー | レッドブル・レーシング・タグホイヤー | 1分37秒916 | 129 |
3 | 18 | ランス・ストロール | フォースインディア・メルセデス | 1分38秒044 | 122 |
4 | 77 | バルテリ・ボッタス | メルセデス | 1分38秒448 | 143 |
5 | 55 | カルロス・サインツ | マクラーレン・ルノー | 1分38秒547 | 150 |
6 | 46 | エータム・マルケロフ | ルノー | 1分38秒590 | 129 |
7 | 63 | ジョージ・ラッセル | ウィリアムズ・メルセデス | 1分38秒802 | 55 |
8 | 26 | ダニール・クビアト | トロロッソ・ホンダ | 1分38秒862 | 155 |
9 | 50 | ルイス・デルトラズ | ハース | 1分39秒069 | 117 |
10 | 36 | アントニオ・ジョビナッツィ | ザウバー | 1分40秒435 | 128 |
11 | 40 | ロバート・クビサ | ウィリアムズ・メルセデス | 1分44秒208 | 39 |
トロロッソ・ホンダは初日にショーン・ゲラエル選手(38号車 スクーデリア・トロロッソ・ホンダ)が、12番手というタイムながらこの日の誰よりも多い150周を走り、順調にテスト走行をこなすことができた。2日目は2019年からチームに復帰するダニール・クビアト選手が8番手のタイムをマークし、こちらも誰よりも多い157周をこなすことができた(ただし、チームとしては2人を走らせたフォースインディアが161周で最長)。2日間合計で307周は、今回のテストで最長になる。
ここ数戦、パワーユニットにトラブルが発生するなどしていたホンダにとっては、その直後のテストでどのチームよりも多くの走行距離を稼ぐことができたことはよい兆候と言え、今後はパワーユニットを日本に持って帰ってアブダビGPで発生したトラブルを含めて解析を行ない、来シーズンのレッドブルとのパートナーシップに向けてパワーユニットの開発を進めることになる。