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2019年シーズンに向けたF1タイヤテストレポート。トロロッソ・ホンダが2日間で最長距離を走行

移籍したドライバーも新チームでテストを行なう

2018年11月23日~25日(現地時間) 開催

夕焼けの中を疾走するトロロッソ・ホンダ(写真提供:ホンダ)

 F1世界選手権は、11月23日~25日(現地時間)の3日間に渡ってアラブ首長国連邦 アブダビ首長国にあるヤス・マリーナ・サーキットで行なわれた第21戦「2018 ETIHAD AIRWAYS ABU DHABI GRAND PRIX」(以下アブダビGP、別記事参照)で最終戦を迎え、シーズンは閉幕した。これから2019年の開幕戦となるオーストラリアGP(2019年3月17日[現地時間]決勝)に向けて長いオフシーズンに入ることになる。

 F1ではシーズン中やオフシーズンのテスト走行にはコストカットの観点から制限が付けられており、一部の例外(CMの撮影など)を除けば、公式テストとして行なわれるテストでのみ走行を行なうことが可能になっている。今回のアブダビGP後の11月27日~28日に行なわれたタイヤテストは、年内最後の走行機会となるため、各チームとも2019年にピレリタイヤが利用するコンパウンドを2018年のタイヤと比較するテストなどを行なっていた。

 この中で、トロロッソ・ホンダは各チームの中で最長となる150周(11月27日)、155周(11月28日)と距離を稼ぐ走りに徹してさまざまなテストを行なっていた。また、来シーズンに向けては、チームを移籍するドライバーや来シーズンからデビューする新人ドライバーもテストに参加しており、2019年に向けてのチームやドライバーの活動がすでに開始されている。

華やかな最終戦の後、居残ってタイヤテストが火曜日と水曜日に行なわれる

 F1というと、とても華やかな世界だと思っている人は多いだろう。確かに、グランプリ期間中はとても華やかで、特にF1ドライバーやメカニックなどが集うパドックでは、F1引退後も解説者の形でF1に関わっているドライバーが闊歩していたり、世界的な芸能人が来ていたり(アブダビGPには、ハリウッド俳優のウィル・スミス氏が訪れていた)などと、まるで社交場のような華やかな環境だ。特にアブダビGPは、F1が欧州を出て興業を行なうフライアウェイと呼ばれるレースだが、欧州から近いこともあり、前出のような元F1ドライバーや、ドライバーのマネージメントを行なうマネージャーも大挙して訪れており、2019年に向けた話し合いなども行なわれる環境になっている。

セーフティカーも梱包され、送られる準備がされていた
テストは撤収の準備と共に進められ、各チームの荷物はコンテナにまとめれていた。チームによって外装も違っている

 アブダビGPが日曜日に終了してからは、月曜日に休息日を入れて、火曜日(11月27日)と水曜日(11月28日)にピレリのタイヤテストが行なわれることになった。このタイヤテストは、F1の公式タイヤサプライヤーであるピレリが2019年に導入を計画しているタイヤのコンパウンド(平たく言えばタイヤのゴムの種類)をテストするもので、2018年のタイヤと比較することで各チームは2019年導入されるタイヤコンパウンドのデータを蓄積すると同時に、ピレリの方も2019年のタイヤに関するデータ取りやチームからのフィードバックなどを目的としたものになる。その半面、グランプリ期間中とは異なり、撤収の準備もしながらのテストとなり、やや慌ただしい環境でテストが行なわれていた。

ピレリタイヤ
会場となったヤス・マリーナ・サーキット(写真提供:ホンダ)
夕焼けの中を走行するマシン(写真提供:ホンダ)

 2019年にはF1の規定が変更され、フロントまわりの空力などの規定が変更される予定になっている。それによりオーバーテイクが起きやすいようにすることが目的なのだが、その是非はさておき、チームとしては空力の規定が変更されるので、設計なども見直す必要がある。2018年の車両のデータを2019年に生かすことができないのだが、パワーユニットサプライヤーの側からすれば距離を稼ぐことができるため、信頼性の確認にもなり、得ることは少なくないテストとなる。

チームを移籍するドライバーや昇格した新人ドライバーが新しいチームで走行

 シーズンオフのテストは今回のアブダビと、2019年の2月半ばから後半に予定されているバルセロナテストしかなく、ドライバーにとっても決して多くない走行機会となる。特に2019年は新しいチームに移籍するドライバー、あるいは2019年からF1に昇格する新人ドライバーにとっては大変重要な走行機会となるため、早速新しいチームで走行する様子もうかがえた。

ザウバー・フェラーリをドライブするキミ・ライコネン選手
フェラーリをドライブするシャルル・ルクレール選手
ウィリアムズ・メルセデスをドライブするロバート・クビサ選手

 例えば、2018年にフェラーリで走っていたキミ・ライコネン選手は、2019年からザウバーで走ることがすでに決まっており、テスト初日(11月27日)に早速ザウバー・フェラーリのコックピットに収まって走行していた。ただし、スポンサーの関係などもあるのか、何もロゴが入っていない白いレーシングスーツを着用していた。そして、そのライコネン選手と入れ替わりでフェラーリへ移籍するシャルル・ルクレール選手は、テスト2日目(11月28日)にフェラーリをドライブしており、こちらは正ドライバーに昇格してからは初めてのフェラーリのドライブの機会となった。他にもカルロス・サインツ選手(ルノーからマクラーレン)、ランド・ノリス選手(マクラーレンからデビュー)、ジョージ・ラッセル選手(ウィリアムズからデビュー)、ロバート・クビサ選手(ウィリアムズからF1復帰)、ランス・ストロール選手(ウィリアムズからフォースインディアへと移籍)などの選手が新チームで走行を行なった。

レッドブルをドライブするピエール・ガスリー選手(写真提供:ホンダ)
トロロッソ・ホンダのテストドライバーとなるショーン・ゲラエル選手(写真提供:ホンダ)
2019年のトロロッソ・ホンダの正ドライバーとなるダニール・クビアト選手(写真提供:ホンダ)

 同じ事は、トロロッソ・ホンダから2019年はホンダのパワーユニットを利用するレッドブル・ホンダへの移籍が決まっているピエール・ガスリー選手にも言える。ガスリー選手はテスト2日目(11月28日)にレッドブル・レーシング・タグホイヤーに乗り込んでおり、レッドブルへの移籍決定後に初めてレッドブルのマシンをドライブした。

 トロロッソ・ホンダはガスリー選手がレッドブルへ移籍し、そして11月26日にはもう1人のブレンドン・ハートレー選手も離脱が決定したため、このテストでは2018年の正ドライバー2人がいないという状況になっており、今回のテストではテストドライバーのショーン・ゲラエル選手が初日を、そして2019年からトロロッソへの復帰を決めているダニール・クビアト選手が2日目をドライブした。

トロロッソの2019年の正ドライバーとなったアレクサンダー・アルボン選手(写真提供:ホンダ)

 なお、今回のアブダビGP終了後の11月26日夜には、決定していなかったトロロッソのもう1人の正ドライバーがアレクサンダー・アルボン選手になるとチームから正式に発表された。アルボン選手は2018年にF1直下のジュニアフォーミュラとなるF2で3位に入った実力派で、英国生まれのタイ国籍という22歳の選手だ。タイ人のドライバーとしてはF1の初年度(1950年)から1953年に参戦したタイ王国の王族の1人であるピーラポンパーヌデート親王以来となるので、実に66年ぶりのタイ人ドライバーということになる。2014年に参戦していた小林可夢偉選手がF1を去ってから、この5年はアジア人ドライバー不在になっていたので、5年ぶりのアジア人ドライバーでもある。

 ただ、アルボン選手自身はイギリスで生まれてイギリス育ちということもあり、ライセンスはタイだが母国語は英語で、どちらかと言えばイギリス人ドライバーに近い存在だ。実際、2019年にウィリアムズからデビューするジョージ・ラッセル選手、2019年からフェラーリに昇格するシャルル・ルクレール選手などとはカートで一緒に成長した仲で、現在でも非常に仲がよい。日本人ドライバーで同じく2018年にF2を戦った福住仁嶺選手とは親友だと福住選手が言うほどの存在で、F1の世界でもナイスガイとして知られている。ただし、今回のアブダビテストでは、正式な決定がテスト前日となってしまったこともありドライブする機会はなく、ピットウォールなどでエンジニアの無線を聴くなどして見守っていた。

ホンダスタッフと話し込むアルボン選手(写真提供:ホンダ)
チーム代表のトスト氏(右)と1コーナーから走りを見るアルボン選手(左)(写真提供:ホンダ)

 このアルボン選手がトロロッソ・ホンダの正式ドライバーに決定したことで、2019年のF1のラインアップはほぼ決定となった。唯一決まっていないのは、フォースインディアの1席となっているが、フォースインディアは2018年の半ばに破産した後ランス・ストロール選手の父親を中心とした共同事業体に買収されており、そこにランス・ストロール選手が収まるのは既定路線になっている(編集部注:その後チームより正式発表)。

2019年のF1のドライバーラインアップ表

チームドライバー
メルセデスルイス・ハミルトン/バルテリ・ボッタス
フェラーリセバスチャン・ベッテル/シャルル・ルクレール
レッドブルマックス・フェルスタッペン/ピエール・ガスリー
ルノーダニエル・リカルド/ニコ・ヒュルケンべルグ
ハースケビン・マグヌッセン/ロマン・グロージャン
フォースインディアセルジオ・ペレス/ランス・ストロール
マクラーレンカルロス・サインツ/ランド・ノリス
ザウバーキミ・ライコネン/アントニオ・ジョビナッツィ
トロロッソダニール・クビアト/アレクサンダー・アルボン
ウィリアムズロバート・クビサ/ジョージ・ラッセル

2日間ともフェラーリがトップタイム、トロロッソ・ホンダは両日ともに両ドライバーが最長距離を稼ぐ

 11月27日~28日の2日間にわたって行なわれたタイヤテストでは、前述の通りピレリタイヤの新しいコンパウンドを試すテストとなり、新しいタイヤと2018年のタイヤの比較などが行なわれた。今回のテストは9時~18時の9時間ぶっ通しで行なわれ、チームによっては2人のドライバーを交互に走らせることで休憩時間を少なくしたり、逆にキッチリ昼休みは休んだりと、チームそれぞれのスケジュールでテストを行なっていた。

 11月27日のトップタイムはセバスチャン・ベッテル選手(5号車 フェラーリ)で、途中トラブルが発生して走行距離は稼げなかったものの、1日を通じてトップタイムをマークした。この日にはフェラーリからザウバーへと移籍したキミ・ライコネン選手(7号車 ザウバー・フェラーリ)も走行していたが、夕方にはコース脇にストップしてしまい、赤旗の原因となってしまった。このため、セッションは15分延長された。

11月27日のタイム表

順位カーナンバードライバー車両タイム周回数
15セバスチャン・ベッテルフェラーリ1分36秒81269
277バルテリ・ボッタスメルセデス1分37秒231120
318ランス・ストロールフォースインディア・メルセデス1分37秒41556
433マックス・フェルスタッペンレッドブル・レーシング・タグホイヤー1分37秒947133
511セルジオ・ペレスフォースインディア・メルセデス1分37秒97667
647ランド・ノリスマクラーレン・ルノー1分38秒187136
727ニコ・ヒュルケンべルグルノー1分38秒789128
851ピエトロ・フィッティバルディハース1分39秒02156
940ロバート・クビサウィリアムズ・メルセデス1分39秒25932
1063ジョージ・ラッセルウィリアムズ・メルセデス1分39秒51242
117キミ・ライコネンザウバー1分39秒878102
1238ショーン・ゲラエルトロロッソ・ホンダ1分40秒435150

 11月28日のトップタイムはフェラーリに移籍後の初走行となったシャルル・ルクレール選手(16号車 フェラーリ)で、2番手には同じくレッドブルに移籍後の初テストとなったピエール・ガスリー選手(10号車 レッドブル・レーシング・タグホイヤー)がつけた。

11月28日のタイム表

順位カーナンバードライバー車両タイム周回数
116シャルル・ルクレールフェラーリ1分36秒450135
210ピエール・ガスリーレッドブル・レーシング・タグホイヤー1分37秒916129
318ランス・ストロールフォースインディア・メルセデス1分38秒044122
477バルテリ・ボッタスメルセデス1分38秒448143
555カルロス・サインツマクラーレン・ルノー1分38秒547150
646エータム・マルケロフルノー1分38秒590129
763ジョージ・ラッセルウィリアムズ・メルセデス1分38秒80255
826ダニール・クビアトトロロッソ・ホンダ1分38秒862155
950ルイス・デルトラズハース1分39秒069117
1036アントニオ・ジョビナッツィザウバー1分40秒435128
1140ロバート・クビサウィリアムズ・メルセデス1分44秒20839

 トロロッソ・ホンダは初日にショーン・ゲラエル選手(38号車 スクーデリア・トロロッソ・ホンダ)が、12番手というタイムながらこの日の誰よりも多い150周を走り、順調にテスト走行をこなすことができた。2日目は2019年からチームに復帰するダニール・クビアト選手が8番手のタイムをマークし、こちらも誰よりも多い157周をこなすことができた(ただし、チームとしては2人を走らせたフォースインディアが161周で最長)。2日間合計で307周は、今回のテストで最長になる。

ダニール・クビアト選手がドライブするトロロッソ・ホンダ(写真提供:ホンダ)
ショーン・ゲラエル選手がドライブするトロロッソ・ホンダ(写真提供:ホンダ)
レッドブル、トロロッソ・ホンダのテストの様子(写真提供:ホンダ)

 ここ数戦、パワーユニットにトラブルが発生するなどしていたホンダにとっては、その直後のテストでどのチームよりも多くの走行距離を稼ぐことができたことはよい兆候と言え、今後はパワーユニットを日本に持って帰ってアブダビGPで発生したトラブルを含めて解析を行ない、来シーズンのレッドブルとのパートナーシップに向けてパワーユニットの開発を進めることになる。

夕闇の中を疾走するレッドブル(写真提供:ホンダ)