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自動車税の減税論議が大詰めに。消費税率10%引き上げ後の自動車税引き下げはどうあるべきか?
2018年12月5日 05:00
2019年10月に予定されている消費税率10%への引き上げは、10月に閣議決定したことからほぼ間違いない状況となった。そこで注目を集めているのが、自工会(日本自動車工業会)がJAF(日本自動車連盟)やイベントなどでユーザーと一緒に取り組んでいる、自動車の保有減税、つまり自動車税の引き下げについてだ。
自動車ユーザーだけでなく、誰もが実感として持っているのは、日本経済における自動車という商品の存在の大きさだろう。日系自動車メーカーの世界全体における台数シェアは29.8%(2894万台[2017年])になり、売上高は連結ベースで約72兆円。自動車関連の就業人口は539万人(全体の8.3%)で、製造品出荷額は57兆524億円(全体の18.2%、2015年)に達する。
ざくっとした数字で、世界販売台数約9700万台の1/3を日系メーカーが製造しており、さらにその中で969万台が国内で生産されている。
日本の自動車メーカーは世界的な市場の拡大の中で競争を勝ち抜き、1996年は約1600万台だった生産台数を、2017年は約2900万台へと伸長。ただ、この生産台数は生産の現地化などによって大きく伸ばしたもので、国内生産は1035万台から969万台へと減り、さらに国内向け生産台数も665万台から488万台へと減っている。
この国内向け生産が減少した背景にあるのは、自動車の国内販売台数の低下だ。先に挙げた国内販売台数の表を見てもらえば分かるが、ピークは1990年度となり、これは1989年4月1日にクルマの物品税(23%、普通乗用車)が廃止され消費税(3%)が導入されたことをきっかけとしている。
次のピークが1996年度の729万台。これも1997年4月1日から消費税率が5%に引き上がるための駆け込み需要であり、この駆け込み需要後に600万台以上あった国内販売台数のベースが、500万台後半になっているのが分かる。
そして2008年度にリーマンショックが来て470万台へと落ち込み、2010年度に東日本大震災が発生。その後回復を見せるが、これは2014年4月1日から消費税率が8%へ引き上げられるための駆け込み需要であり、その後は500万台前半という数字になった。2018年度の数字は自工会の算出した見込みだが、2017年度からやや減る518万台となっている。
この表から分かるのは、消費税の影響の大きさだ。消費税率が引き上げられる前に駆け込み需要があり、その後に反動減。そして減ったままあまり回復せず販売のベース台数が以前よりも減る。エコカー減税など一時的な販売刺激策もあったが、それは駆け込み需要と反動減に影響を与えるものの、消費税率が引き上げられるたびにベース台数が減っているのは変わらない。
消費税率10%への引き上げは確定、日本のクルマ産業のために必要な税制改革は?
このまま消費税率が10%に引き上げられれば、駆け込み需要&反動減、そしてベース販売台数の低下が起きるのは間違いないだろう。
その結果、国内販売需要は低迷し、国内向けの生産はさらに減る。海外向けの生産は伸びると思われているが、海外向けだけにいずれ海外現地生産へという流れは止められないだろう。すると国内生産量が減少し、工場の縮小、国内技術開発投資の減退など負のスパイラルが始まっていく。
これまで自工会の会見や、各社の決算などを取材してきた中で、とても印象的だったのは、2011年11月8日のトヨタ自動車の決算会見だ。この会見は東日本大震災の発生や、1ドル80円近辺という超円高の状況で行なわれたもので、会見に出席した取締役副社長 小澤哲氏(当時)は、「生産750万台、国内300万台というビジョンの中で、(豊田章男)社長が“石にかじりついても国内300万台は維持をする”と明言している。そのような中で、財務の役割を実践しているわけだが、どのように石にかじりついていくのか、石へのかじりつき方が重要になる」と語っていた。
トヨタはその後も、なんとか国内300万台生産を維持しているが、2018年の計画は前年比97%の308万台。これ以上市場環境が悪化すると“石にかじりつけなくなる”事態も想定できるのが現状だ。
消費税率10%引き上げによる影響を緩和するため、政府もさまざまな対策を打とうとしている。聞こえてくるのは、自動車取得時に環境に優れないとする新車に対して新しく税金を加える環境性能割新税。この税を創設することで、環境によい新車販売を促進しようというものだ。ただ、この税では現在の技術レベルで環境に優れないとする新車に税金がかかり、それより環境的に劣る過去のクルマの代替が進まないこと。新税ができることにより、駆け込み需要&反動減が大きくなりすぎることだろう。
大きな駆け込み需要&反動減がなにをもたらすかは、かつて日本の国内テレビ製造がどうなったかを振り返れば見えてくる。2009年5月15日~2011年3月31日購入分まで「家電エコポイント」制度が行なわれたところ、2008年に約999万台(内863万台が液晶)だった国内テレビ出荷は、2009年には約1366万台(内1363万台が液晶)へ、2010年は約2519万台(この年から薄型テレビへ一本化)へと爆発的に伸びた。しかし家電エコポイントが終わると、2011年は約1983万台、2012年は約645万台へと急減。2017年は約428万台となっている。需要を先食いして急速に減少した結果、国内工場閉鎖や外資の傘下になるなど、テレビ関連産業は大きく変化した(もちろんテレビだけではないが、テレビは地デジ特需もあり劇的だった)。
取得時の需要刺激策は、販売価格にダイレクトに影響するため分かりやすい半面、よい意味でもわるい意味でも劇薬的な効果がある。持続的な成長、安定的な産業育成にとっては、あまり向いていないことになる。
自工会がユーザーとともに働きかけているのは、保有時の税金である自動車税を国際的に妥当なレベルまで引き下げること。日本における保有段階の税負担は、ドイツの約2.8倍、イギリスの約2.4倍と国際的に見て高い。そこで国際水準である軽自動車の税額まで登録車のスタート税額を引き下げ、そこから段階的な(しかしながら従来より低い)税額にするというもの。
しかも、この新しい自動車税は2019年10月以降に購入したクルマにのみ適用することで、購入時点の最新環境対応かつ最新安全技術を搭載したクルマを買う動機となり、ゆるやかな買い換えが進んでいく。
この減税分を補うため、距離による増税などの話も出ているが、世界が新しいモビリティ社会の入口にある中で「移動しない」というトレンドを作るのは、世界的に遅れた社会や産業となるだけだ。
広く薄くシンプルな税制にすることで、人々の動きやものの動きを活動的にし、結果として今より環境に優れたクルマや安全に優れたクルマが日本に普及していけば望ましい。
今後、世界の自動車産業は、CASE(Connected[コネクテッド]、Autonomous[自動運転]、Shared & Services[シェアリング]、Electric[電動化])の大きな波を乗り切っていく必要がある。その波を乗り切る開発をしっかり日本で行ない、日本の自動車産業がこれまでどおり世界と戦い続けられるためにも、日本の国内市場の規模をこれ以上縮小するわけにはいかないだろう。消費税率引き上げに伴う自動車税改革には注目していきたい。