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自工会 、豊田章男新会長の就任インタビュー

高すぎる車体課税の低減やクルマの楽しさのアピールに取り組むと豊田新会長

2018年5月18日 開催

5月17日付けで自工会の会長に就任した豊田章男氏。前日の記者会見と2日続けて“クルマ柄”のネクタイを着用して登壇した

 自工会(日本自動車工業会)は、5月17日に都内で開催した2018年の定時総会ならびに理事会で、トヨタ自動車の豊田章男氏が新しく会長に就任したことを発表。翌5月18日には報道機関向けに新会長の就任インタビューが実施された。

 冒頭の質問では、前日に行なわれた記者会見で豊田氏から出た「一定の国内生産台数があるからこそ国内で先進的なもの作りができる」とのコメントを引き合いに出し、上向きの状態ながら1000万台を割り込んでいる国内生産台数について、自工会の会長としてはどの程度の台数規模を目指すのかについて質問され、豊田氏は「国内生産台数は、長年1000万台前後で推移してきたと思います。3~4年ほど続いた『超円高時代』に、私の記憶では800万台ぐらいに下がってしまったと覚えているのですが、自動車業界は非常にすそ野の広い産業でもあります。素材や設備なども含めると、『ある程度の規模』と表現していますが、そのある程度というのは1000万台ぐらいが、長年その規模でやってきたインフラがありますので、それぐらいはできれば国内生産したいというイメージを持っています。トヨタの場合はずっと300万台という言い方をしております。このトヨタの300万台だけで日本の自動車産業を守っていくことは無理ですが、トヨタと(ほかの国内メーカーが)共に1000万台規模があれば、コンペティティブな自動車産業としてこれからも世界で戦っていけるんじゃないかという思いで申し上げております」と回答。

 また、生産台数に関連して、同じく前日の会見で豊田氏はシェアリングサービスについても取り上げており、シェアリングが拡大すると生産台数に影響が出るのではないかとの問いかけに対して、豊田氏は「クルマというものが、『保有』から『使用』に、その中の1つにシェアリングがあるという風に使い方が変わってきている面は確かにあると思います。しかし、使い方は変われど、やはりクルマがモビリティの中心であること、そしてクルマが世の中から必要とされるものであることにはこだわっていきたいと思っております。ただ、なぜ保有から使用になってきたかと言えば、やはり保有にかかるコストが大変高いものになっていることがあると思います」。

「自動車各社でもいろいろな先進技術や安全技術、環境対応などを盛り込んでいくことでコストアップしていることも現実としてありますが、それにも増して、車体課税を中心に、保険や東京などでは駐車場代などいろいろな形で持つ(保有する)ということに対して大変なコスト負担になっている現状があると思います。これは自工会や会員各社がどうしたというだけでは解決しない部分ですが、自動車というものが公共の移動手段であり、それだけではなく『愛』が付く乗り物として大変必要なものだと思っていますので、所有しやすい、保有しやすい環境作りに自工会でもリーダーシップを持って取り組んでまいりますので、ぜひとも皆さま方のご支援、ご理解、応援をいただけますようお願いしたいと思っております」とコメント。シェアリングサービスが注目されるようになってきた背景の1つに、日本におけるクルマの保有コストの高さが関係しているとした。

「自動車は公共の移動手段であり、『愛』が付く乗り物として大変必要なもの」と語る豊田氏

 自動車の税制については、2019年秋に消費税が増税になるタイミングで9種類あると言われる自動車関連の税金のうち、自動車取得税が廃止され、換わって燃費課税が導入されることになっているが、これに対する自工会としてどのような要望を持っているのか質問され、「税制についてですが、まず『世界で一番高い税金を払っている国ですよ』という認識を持っていただきたいと思います。車体課税に対する減税などはJAF(日本自動車連盟)さんとも一緒になって働きかけをしているのですが、必ず出てくるのが『地方財源はどうするんだ』というもので、車体課税VS地方財源という図式。私どもも工場やいろいろな会社をいろいろなところでやっていますので、地方財源も非常に重要だと思います。ですから、なにかクルマ対地方財源みたいな対立軸として考えられることは非常に残念です。せひとも『クルマのユーザーも国民である』『クルマのユーザー負担は世界で一番高いんですよ』という認識を持っていただきたいと思います」。

「日本では一時期は700万台を超えた新車市場がありましたが、今は半減以下です。保有台数という意味では8000万台という数字があり、現在はあまりに保有コストが高いということで保有期間が伸びています。この期間がもう少し短くなるご尽力が行なわれて市場が回転するようになれば、日本の市場が非常にコンペティティブになり、先ほども申し上げた1000万台規模の生産もできるようになります。また、為替が今後どのように推移するか分からない中で、ある程度の国内需要や国内生産が私どもの経営をいろいろな形で支える糧になります。日本の車体課税が高いということ、そしてそれを下げるという議論になったときに変な対立軸で見るのはぜひ止めていただきたい」と語り、車体課税の減税をユーザーの声としても後押ししてほしいと求めた。

 国内販売台数を拡大するために必要な取り組みについての質問に対して、豊田氏は「まず、われわれ自動車メーカーに求められるのは魅力ある商品作りだと思います。思わず乗ってみたくなる、思わず買い替えたくなるといったクルマやバイク、トラックを作ることではないでしょうか。それにプラス、やはり保有するコストがあまりにも膨大だと思います。そんな中で、消費税増税に伴って車体課税の、とくに自動車重量税が今後どうなっていくのか。われわれ、自動車のユーザー側から見て二重に取られているように感じますので、これ以上高くすることは絶対にだめですし、世界との比較で日本は本当に税金が高いです。それを、せめて国際基準(のレベル)にするような取り組みが必要だと思っています。まずはそこなんじゃないかと思っています」と回答した。

 また、NAFTA(北米自由貿易協定)の見直し、米国における輸入車関税の引き上げといった通商ルールの変更については、質疑応答に同席した自工会 副会長の永塚誠一氏に回答をバトンタッチ。永塚氏は「言うまでもありませんが、われわれはグローバルな経済活動をしている産業です。とくに自動車は部品点数も多く、サプライチェーンが複数の国にまたがったり、複雑なルートをつうじて行なわれることもあるビジネスです。通商に関しましてはできる限り自由貿易を維持、発展させる方向でルールを決めていただくことが基本的に不可欠だと考えております。関税を下げることもその一部ではありますが、通商や投資に関わるルールがしっかりと国際的に確立され、透明性のある予見可能なビジネス環境が整備されることが、自動車産業の発展に不可欠であるというのが、私どもの基本的な考え方です」と回答した。

通商ルールについての質問は、豊田氏から質疑応答に同席した自工会 副会長の永塚誠一氏に不意に回答をパス。「これからこのコンビでいかなきゃいけないんだからね」と豊田氏
自工会 専務理事で副会長も務める永塚誠一氏
質疑応答には多数の記者が参加した

 来年の2019年に開催される東京モーターショーに関連し、近年では海外メーカーの出展数が減り、来場者数の減少と合わせて「東京モーターショーは地盤沈下している」と言われる現状をどのように認識しているか。さらに来年の開催に向けて会長としての活性化策などを質問され、豊田氏は「『東京モーターショーは地盤沈下している』というのはずいぶんと前から言われているかと思います。その言われ始めた時期に比べて一番大きな変化点は、お隣の中国市場の伸び、そして中国での自動車の発展のスピードといったものが大きな要素かと思います。あと、海外メーカーが市場規模としてより魅力を感じているのが中国だと思います。その結果、例えばワールドプレミアだとか、海外メーカーのCEOがどこでプレゼンテーションをするのかという点で、残念ながらお隣の中国がメインになってきていることが現実だと思います」。

「あと、来場者数もずっと下がっていて、会場を千葉県(幕張メッセ)からこちら(東京ビッグサイト)に移したときに、時間帯を少し長くするなどの策でなんとか現状維持しているのですが、皆さんが東京モーターショーに期待しているのはそういったものじゃなくて、かつてモータリゼーションが起きたときのように、そして日本にはこれだけ多くのカーメーカー、トラックメーカー、バイクメーカーが頑張っているじゃないか、と。それを世界に対して『オレたち頑張ってるよ』と示すために何をやってくれるんだ、ということだと思うんですよね。それは例えば、東京モーターショーもさることながら、東京オートサロンのような場で、オートサロンは開催日程は短いのですが多くの人が来場していますし、中身を見るとご家族連れ、子供連れで、いかにも訪れる人の顔ぶれが変わってきていると思います」。

「アメリカにおいても、デトロイトモーターショーよりCESといった動きが自動車メーカーでも行なわれています。ですから、自動車業界だけでやっていくことがいいのか、と。日本にも電機系のインダストリーで『オレたちも頑張っているぞ』というところもありますので、そんなところと連合して“日本のもの作り”といった形で発信するようなチャンスをなんとかいただきたいと思っております。とにかく何でもやってみようということで、(東京モーターショーについて)決まり次第お伝えしてまいります」とコメント。他業種も巻き込むことも視野に入れて積極的に進めていく考えを示した。

「モリゾー」の活動で若い世代にアピール

 自工会の会長として、若い世代を中心に増えているといわれるクルマに関心の薄い人にどのようにアプローチしていくかという質問に、豊田氏は「私が自工会の会長としてできる一番のことは、各社のトップもクルマが好きな人なのですが、私の場合は“世間に認められたクルマ好き”だと思います。『あのおじさん本当にクルマ好きだよね』『別にトヨタのクルマに限らないじゃない』と。これは私が言っているんじゃなくて、世間がそう認めているんだと思っています。それなら、生意気な言い方になりますが、そのアイコンを十二分に活用させていただきたいなと思っております。トヨタの社長というよりは『モリゾー』の部分を活用して、私自身が『クルマってこんなに楽しいんだよ』という姿を見せることなんじゃないでしょうか」。

「現に、私自身がラリーチャレンジに参加しておりますが、なぜラリーなのかと言うと、『モリゾー』というドライバーがラリーに参加している姿を見たいという人が昨今は増えています。非常に生意気に聞こえるかもしれませんが、そういった人が来ることで、もっと生意気に言えば村おこし的な、町おこし的なムーブメントが起きているんじゃないかと。そんな姿を見に来る人が、家族が増え、お子さんを連れてきています。そんな人と写真を撮ったり、ステッカーを配ったり、そんなことしか私にはできませんが、私自身が行動することでモータースポーツやモビリティの世界が少しずつですが変化があると思いますので、微力ではありますが、まずはクルマの楽しさ、クルマの必要性、クルマがやるべきミッションといったものをよく分かっている私が、『クルマが好きだ』ということを隠さずに全面的に出してまいりますので応援してくださいね」とコメント。レース活動を行なう「モリゾー」としてもクルマをアピールしていくと語った。

「私の場合は“世間に認められたクルマ好き”」と語る豊田氏

 また、2輪車について、販売の苦戦や電動化の足踏みなどについての質問では、豊田氏は「確かに、私が答えるのが最適かは分かりませんが」と前置きしつつ、「今、モビリティというものが大きな変化点にあると思います。バスやトラックがベストな場所、4輪車がベストな場所、そしてラストワンマイルではないですが、そんなところのモビリティとして2輪車、電動車。充電時間などの面から見ると、2輪車であればかなりコンビニエントな形ができるかと思います。電動化などいろいろな形で2輪車が、今までの延長線上ではなく、新しいモビリティの1つの役割として各社が絶対に考えていると思います。それがどのタイミングで、どのように出てくるのか、どう打ち出すのか。それをわれわれがどのように応援できるかということだと思います。すみません、もうちょっと勉強して、次回にお答えします」と回答した。

 最後に出た自動運転についての質問の回答で、豊田氏は「実は私は、自動運転という言葉が最初に出はじめたころに、社内でも私は一番の抵抗勢力というか、反対派だったような気がします。よく社内で話していたのは、「私が24時間レースに出たときに自動運転のクルマが僕に勝ったら、自動運転のことをもう少し信用してあげるよ」と言っておりました。誰も走っていないような道を安全に走るといったことは、もう技術的に現在でも可能です。しかし、実際の交通流というのはいろいろな場所で分岐・合流があり、同じ道を人、バイク、自転車、大きいクルマや小さいクルマなどが混在しております。それをレースに例えて言っていたのだと思います」。

「その考えが大きく変わったのが、オリンピック・パラリンピックとの出会いでありました。あるパラリンピアンの人から『私の未来を奪ったのは交通事故でした』というお話しを伺いました。ところが、オリンピック・パラリンピックと深く関わる者の1人として、さらに『私が未来を失ったのは交通事故でしたけど、未来を一緒に作ってくれるのも自動車ですね』と言われたときに、全ての方々に移動の自由をということで、自動運転というものは大きな武器、大きな支援になると思って、それ以降、私の自動運転への取り組みは大きくギヤが変わりました。私が自動運転の目的はあくまでも安全運転、交通死亡事故ゼロを目指したいと言っているのはそういったことです」。

「それともう1つ、自動運転はクルマだけを自動で動くようにしても済むものではありません。それを扱うドライバー、そして運ぶ道、インフラの3つが相まっていかなければ安全なモビリティ社会は作れないと思います。その3つがシンクロナイズした深さで開発が進んでいかないと難しいと思いますので、難しい話ですが当事者の1人として推進していきたいと思っております」とコメント。パラリンピアンとの会話から自動運転に対する取り組みの姿勢が変化したというエピソードを明かした。