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豊田章男 自工会新会長記者会見。「複雑で過重な自動車関係諸税に終止符を打つ」

2018年5月17日 開催

新たにトヨタ自動車の豊田章男氏(中央)が自工会 会長に就任。これまで会長を務めてきた日産自動車の西川廣人氏(中央左)は副会長となり、本田技研工業の八郷隆弘氏(中央右)とマツダの小飼雅道氏(右)、自工会 専務理事の永塚誠一氏(左)の3人は副会長を引き続き務める

 自工会(日本自動車工業会)は5月17日、2018年の定時総会を都内で開催。3月に行なわれた理事会で内定していたとおり、2016年5月から2年間の任期で会長を務めてきた日産自動車の西川廣人氏に代わり、トヨタ自動車の豊田章男氏が新たな会長に就任。これに合わせて副会長、理事などの役員人事を変更し、同日に記者会見を実施した。

 記者会見では最初に、同日付で自工会 会長に就任した豊田氏によるスピーチが行なわれた。

2012年5月~2014年5月に続き、2回目の会長就任になる豊田章男氏

 豊田氏は最初に、「6年ほど前、当時会長だった(日産自動車の)志賀さんからたすきを受けまして、自動車工業会 会長を務めさせていただきました。その後、(本田技研工業の)池さん、(日産自動車の)西川さんと、業界の発展に向けて共に悩み、共に苦労を重ねてまいりました。そして本日の理事会におきまして、日本自動車工業会の18代目会長のたすきを受けとりました。先輩の皆さま方に感謝いたしますとともに、100年に1度と言われます大変革の時代に、身の引き締まる思いを感じております」と切り出した。

「改めて申し上げますと、日本の自動車産業には2つの特徴があると考えております。1つめは、日本には品質に厳しいお客さまがたくさんいらっしゃるということであります。言うまでもなく、自動車はBtoCの産業であり、日本メーカーの品質、技術力は、日本のお客さまから教えていただいたものにほかなりません。日本のお客さまがクルマ、バイクから離れるということは、日本企業であるわれわれが競争力を失うことそのものなのだと思います。お客さまにとって一番よいやり方は何かを、常に考えながら進んでいくことが必要だと考えております」。

「2つめは、自動車はすそ野の広い産業で、たくさんの現場があるということです。2輪や商用車も含め、自動車産業には素材や部品、物流など多くの産業が集積しております。改めて数値で述べさせていただきますと、国内の雇用は540万人で全産業の約1割、輸出金額は16兆円で製造業の約2割、研究開発費・設備投資額は合計で6兆円と製造業の2割を占めます。歴史を振り返りますと、今から50年ほど前の1967年に、日産自動車の川又社長が初代会長を務められました。自動車産業はお客さまや現場に近いからこそ、自動車工業会の会長は現役の社長が就任することが多かったのだと思います。私自身、トヨタ自動車の社長を務めながら、日本のために少しでもお役に立ちたいという思いで今回会長職を全うしたいと考えております」。

「お客さまにとって一番よいやり方は何かを常に考えながら進んでいくことが必要」と語る豊田氏

「世の中の声に耳を傾けますと『自動車産業は今後、安泰とは言えないだろう』。そういった声が聞こえてまいります。自動車メーカーのみならず、いくつかの産業で品質管理をめぐる不正が発覚し、世界有数の技術力を誇る“もの作り大国”日本の根底が崩れかけているのかもしれません。“もの作り不信”というだけではありません。いたるところで世の中の不信が叫ばれております。また、自動車産業を取り巻く環境は、『電動化』『自動化』『コネクティッド』、『第4次産業革命』と呼ばれる『IoT』や『AI』などの技術進展により、異業種も巻き込んだ100年に1度と言われる変革期を迎えております」。

「さらに日本では近い将来、環境や渋滞、事故などの問題が都市化に伴いいっそう深刻化するおそれがございます。世界経済の牽引役不在、保護主義の進展など、為替や輸出に関する不透明さも増しております。モビリティ社会が大きく変わっていく中で、自動車産業は存在感を示せるか、次の100年もクルマやバイクはモビリティの主役でいられるのか。ライバルも競争のルールも変わってきており、まさに『未知の世界での、生きるか死ぬかの戦いが始まっているのだ』と思います。こうした変化の厳しい時代だからこそ、常に原点に立ち戻り、『お客さま視点』と『現場に寄り添う視点』を持って、自工会加盟の全14社、オールジャパンでこの難局を乗り越えていきたいと思います。私自身も私らしく、現場に一番近い自工会会長でありたいと思っております」。

「日本自動車工業会は、言うまでもなく日本で生まれ、日本で育てていただいた産業です。日本のお客さまに、これからもクルマとバイクを愛し続けていただくことが国内の生産台数を支えることにつながります。一定の国内生産台数があるからこそ、われわれは日本でさまざまな先進的なもの作りの挑戦を続けることができるのです。国内マーケットの活性化に向けて、日本の特徴を念頭にこだわっていきたいことが2つございます」。

「1つめは、お客さまにとってクルマ、バイクを購入しやすく、保有しやすい環境を作ることです。そのためには、われわれメーカーが率先して魅力ある商品の提供に取り組むことはもちろんですが、ご承知のとおり、税金、保険代、駐車場代、ガソリン代など、クルマやバイクを保有する上では多くの費用がかかってまいります。シェアリングやカーリース、レンタカーなど保有の形態、乗り方の選択肢も増えております。お客さまにとっては何が最適なのか、これまでの常識にとらわれず、1つひとつチャレンジを重ねていくことが、お客さまとクルマ・バイクの接点を増やすことにつながってまいります。その結果として、代替のタイミングを早めることにもつながります」。

「日本には、4輪だけでも8000万台近い保有がございます。この特徴を生かせれば、マーケットの活性化はまだまだ可能だと考えております。本年は自動車税制改正の論議についても大きな山場を迎えますが、複雑で過重な自動車関係諸税に終止符を打ち、制度の簡素化、お客さまの負担軽減に向けて取り組んでまいりたいと思っております」。

豊田氏は「現場に一番近い自工会会長でありたい」との意気込みを口にした

「もう1つは、“現場力”の再徹底を通じて、もの作りの信頼回復に努めることです。生産現場でのすり合わせや改善、匠の技など、現場が問題や改善を発見し、部門を超えた連携協力を惜しまず、もの作りのプロセスの中でイノベーションを起こしていく。現場での実践をつうじた知恵の積み重ねこそ、まさに日本の強みです。自動運転やAIなど、新しい分野の技術を実用化に落とし込むこれからのステージにおいては、この“日本の現場力”という強みが最も生きてくると考えております。新しい分野での取り組みでもあるが故に課題も出てくるかと思いますが、何かあれば決して焦らず、1度立ち止まり、現地現物でしっかりと真因を追究していくことが日本ブランドの信頼回復につながっていくと考えております」。

「また、今後は海外からの労働者も増え、職場の多様化も進むと思います。だからこそ“現場力”、“現場での人づくり”という日本の強みを、先輩方から継承して大事に育みながら次の世代に伝えていくことが重要だと感じております。日本自動車工業会のメンバー1社1社が、それぞれの“会社のらしさ”“ブランドのらしさ”は何かを突き詰め、磨きをかけていければ、日本らしさという魅力の向上、ひいては日本全体の競争力の底上げになると信じております」。

「最後になりますが、2年後の2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催されます。そして、その前年となる2019年の東京モーターショーは、自動車業界としての変革の真価を問う重要なマイルストーンであると考えております。具体的な検討はこれからではありますが、来年の東京モーターショーでは未来のモビリティ社会の一端をお見せすることで、真に“世界一のテクノロジーショー”となり、2020年、さらにその先に続く先進モビリティ社会・日本への期待感を膨らませていく場にしたいと考えております。繰り返しにはなりますが、日本自動車工業会は日本をふるさとにする企業の集まりです。日本のお客さまのため、一緒に働く従業員やその家族のため、もう1度『日本のもの作りを背負っている』という責任の重さを胸にして、日本経済の持続的発展に貢献できるよう、自動車工業会が一丸となって全力を尽くしてまいりたいと思います」と語った。

豊田氏によるスピーチ後には副会長4人からも挨拶が行なわれ、八郷氏は「100年に1度の大転換期と言われる中、豊田会長のもと、オールジャパンの一員、そしてクルマファン、バイクファンの1人として、まずは2年後の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、副会長として豊田会長の思いに全面協力して自動車産業を盛り上げ、日本の成長に貢献していきたいと思っております」とコメント
西川氏は「2019年、2020年は非常に大事な年になります。2019年の東京モーターショー、そして2020年の東京オリンピック・パラリンピックということで、そこに向けて、お客さまから見て分かりやすい盛り上げ方ができればなぁと思っておりますし、お客さまから見てよりお買い求めやすいクルマ、使っていただきやすい税制といった部分も大きなマイルストーンを迎えますので、集中し、チームワークで豊田会長を支えていきたいと思います」とコメント
小飼氏は「八郷副会長、西川副会長と同様に、これからの日本の自動車産業がイノベーションをリードできるよう、豊田会長を最大限サポートして取り組みたいと思います」とコメント
永塚氏は「会長からもお話がありましたように、課題は山積しております。自動車産業が一丸となって取り組むべき分野、あるいは協調して取り組むべき分野はどんどん増えていき、また複雑になっていくと思います。自工会事業の円滑で効果的な実施に向け、最大限に努力してまいりたいと思います。とくに豊田新会長のスピード感にしっかりついて行けるよう、新会長のリーダーシップのもとで最大限の努力をしていきたいと思っております」とコメント

自動化で交通事故ゼロを目指すことが各社共通の目標

記者会見の後半には質疑応答を実施

 記者会見の後半には質疑応答が行なわれた。記者から豊田氏に2020年までの任期中に取り組んでいく課題と乗り切るための具体策について質問され、豊田氏は「最大の課題は、やはり日本のいろいろな産業において、自動車産業が当てにされる産業になっており、日本の成長を引っぱっていく存在であることにはこだわっていきたいと思っております。日本自動車工業会ではあるものの、日本の自動車メーカーは海外でも戦っております。グローバル企業である自動車メーカーが、国内の活性化、そしてモビリティの未来に貢献できるということが、今回の一番ぶれてはいけない考え方になるかと思います」と回答。

 また、スピーチでも出た「100年に1度と言われる変革期」を迎えていることに対して、電動化や自動化などの取り組み領域で自工会がどのような役割を果たしていくのかについての質問では、「まず、電動化と申しますと、ハイブリッド、PHV(プラグインハイブリッド)、EV(電気自動車)、そしてFCV(燃料電池車)といったものを総称して電動化と言うと思っております。日本の自動車メーカーは、個々にはいろいろな得意不得意がある中で、トータルのオールジャパンで見ると『電動化フルラインアップ』が日本メーカーの特徴になるんじゃないかなと思います。そしてその電動化自体が世界でどれぐらい進んでいるのかと言うと、ノルウェーに次いで2番目に進んでおり、3番手を大きく引き離しております。その意味で、われわれがかつてリードしてきた電動化に、さらに個社の強みを生かしつつ、全体では電動化フルラインアップメーカーということで、電動化にもしっかりと対応していく体制が整っているんじゃないかなと思っております。ただ、中国やテクノロジーカンパニーを中心に、自動化も含めて日本がどれぐらいスピード感を持ってついて行けるかというところで、それは自動車、トラックの各社に加えて、行政やいろいろな方のご理解や協力を得ながらスピード感を持って進めていきたいと思っております」。

ときおり笑顔を見せながら質問に回答する豊田氏

「また、自動化においてもいろいろな競争相手が来ていると思います。そんな中で、われわれ自動車会社出身の者の自動化の考え方は、誰が先に技術を開発するかも大切ですが、安全第一、安全な交通を作って交通事故ゼロを目指すことについては各社共通の目的事項でありますので、その中で新たな競争相手としっかり戦っていきたいと思っております」と豊田氏は回答した。

 また、先だって自工会が発表した市場動向調査の中で、10代~20代の回答で「クルマを購入したくない」との回答が5割を超えたと発表されていることについて、豊田氏は「正しい情報ではありますが、自工会が出す情報としてはいかがなものかな、と(笑)。われわれ自身が若者のクルマ離れなどに対して「クルマって楽しいぞ」「バイクって楽しいぞ」「トラックや商用車も未来だぞ」と、各社の得意分野でどんどんアピールして、それをバックアップして市場を盛り上げていくのが自工会の役割だと思います。正しい情報を正しいタイミングで伝えたことはいいのですが、自動車に関わっている団体なので、私は新たな会長として盛り上げ策の方も引っぱってまいりたいと思います」とコメントした。