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自工会 豊田章男会長、世界一高いレベルの自動車税に対し抜本的な税制改正に取り組む
自動車税は国際水準の軽自動車税を起点に引き下げ
2018年9月25日 10:08
- 2018年9月20日 開催
自工会(日本自動車工業会)は9月20日、9月度の会長記者会見を実施。自工会会長の豊田章男氏は、同日自工会が発表した「平成31年度税制改正に関する要望書」に込めた思いなどについて語った。
豊田氏は会見の冒頭、北海道胆振東部地震、台風21号、西日本を中心とした豪雨など相次いだ自然災害で被災したすべての人に対してお見舞いの言葉を述べ、自動車産業にあり方について語った。
「7月の西日本豪雨や先日の北海道胆振東部地震の際にも、私たちの仲間が店舗や工場の復旧のみならず、地域の皆さんへの支援物資の配達や備蓄備品の配給など、『自分たちにできることが何か』を考え、即断即決、即実行してくれました。『企業城下町』という言葉がありますが、自動車産業はすそ野が広く、関わる人が非常の多いこともあり、『おらが町の会社』として、国や地域と共に成長、発展してきた歴史があります。自動車産業に従事する人たちの中にある、『国や地域と共にある』という気持ちが、不測の事態が起こった時の自立的な動きを可能にするのだと思います」。
「企業という観点でも同じことが言えると思います。私自身が最初に自工会の会長を務めた時、『超円高』をはじめ、6重苦と呼ばれる経営環境に直面いたしました。この時に、計算上は決して成り立たない国内生産を必死の思いで守ってきたのも、『地域と共にある』『日本と共にある』という意識があったからだと思います。まさに理屈を超えたところで、石にかじりついて守ってきたと自負しております。その結果、現在でも自動車産業が生み出す雇用は全就業人口の1割を占め、乗用車7社の設備投資、研究開発費は日本の公共投資と同じ規模に上ります」。
「しかしながら、コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化といった、いわゆる『CASE(ケース)』と呼ばれる新技術の登場により、自動車の概念が大きく変わり、私たちの競争相手も、競争のルールも大きく変化をしています。100年に1度と呼ばれるこの変化は、6重苦とは比べものにならない大きさとスピードで私たちに変革を迫っております。海外に目を向けますと、こうした変化をチャンスと捉え、中国をはじめとする各国は自動車政策を大きく変更し、新しいモビリティ社会をリードするべく積極的に動き出しております」。
「また、米国を中心に保護主義が台頭し、自国の利益を守るために通商問題が過熱しているのは皆さんご承知のとおりです。今、私たちに問われておりますのは、大きく変化する世界の中で、日本の自動車産業はどう存在感を示していくのか。『日本のもの作りの最後の砦』として、競争力を維持し、雇用を守り続けることができるか。そういったことだと認識しております」。
「今回、私が申し上げたいのは、自動車ならびに自動車産業そのもののあり方が大きく変わろうとしている時代に、従来の延長線上で自動車税制を議論していては、競争力、雇用維持力のある自動車産業であり続けるのは難しくなる一方だ、ということでございます。日本の自動車ユーザーが“世界一高いレベルの税金を負担している”という事実を踏まえた上で、今年こそ抜本的な税制改正に取り組んでまいりたいと考えております」。
「“世界一高いレベル”の税金を負担しているのは、国民であるユーザーであるという点を強く申し上げたい」と豊田会長
これまでとの違いについて質問があり、それについて豊田会長は「今年の車体課税(についての要望書)は何が重要かと言いますと、10%の消費税導入が来年に迫っているということが一番大きな点だと思います。かつて、消費税の増税によって新車市場は縮小してきております。例えば1997年に消費税が3%から5%に上がった時に市場は101万台ほど縮小し、その後は2度と以前のレベルに戻ってきておりません。2014年にありました5%から8%への消費増税の時には75万台が減少し、その後は約500万台レベルの日本市場になってしまったという事実がございます。今回の8%から10%の消費増税による市場に対する影響見通しで、約30万台程度、経済効果にして約2兆円のマイナスで、雇用に対して9万人減という影響があるだろうと予想されております。ですから、まず“世界一高いレベル”の税金を負担しているのは、国民であるユーザーであるという点を強く申し上げたいと思います」。
「そしてもう1つは、日本の税収は約100兆円だと思います。その中で自動車関係諸税は8兆円を占めているわけですが、元々は『道路特定財源』であった取得税と重量税が一般財源化されているということで、自動車ユーザーが毎年4兆円以上も一般財源化された税金を負担しているということです。それによって自動車関係諸税が地方財政を補填しておりまして、いつも『自動車関係諸税vs地方財政』という(構図になって)『地方財政はいったいどうなるんだ』となる。地方では公共の乗り物としてクルマやバイク、大型バスというものが国民の足として必要なものとなり、いわば生活インフラです。そして災害が起きた時には情報インフラの役割も果たしているのがモビリティだと思います。そのようなクルマを買い求めやすいようにしていくということは、自動車業界としてのことだけではなくて、過度な税金はそのような動きを止めることにもなります。私は自動車工業会の会長として言っていますが、私は自動車ユーザーの声を代弁しているつもりであります。技術革新にあまり遅れを取ることなく、生活インフラであるモビリティをサイクルとして回っていくような運動を重ねてまいりたいと思っておりますので、ぜひとも皆さんのご理解と応援をお願いしたいと思っております」と回答した。
過去の「6重苦」と比べても変化が大きいという現在の自動車業界で、2012年以降も日本国内での生産台数は900万台~1000万台の規模を維持している状態から、今後はどのように推移していくと考えているのかという質問に、豊田会長が回答。
豊田会長は「日本メーカーの生産についてですが、2000年に入ってからはずっと国内生産は1000万台規模を維持しており、その間には6重苦などいろいろなことがあって、2008年度から2009年度に1000万台を切って以来、1000万台には到達していないのが現状で、“1000万台レベルを確保している”という状況です。一方で海外生産は非常に伸びておりまして、今は国内で作っている倍を海外で生産して、全部で3000万台ぐらいを全世界で生産しております。国内の生産は1000万台を必死になって作っている。その内訳でも国内需要が落ち込んでまいりますと、1000万台の内の行き先が海外になることになるのですが、昨今の保護主義といった動きを見ますと『より売れているところで作っていこう』となるかと思います。今申し上げているのは車両の単位です」。
「部品やエンジンといった各コンポーネントでは、グローバル化が叫ばれている現代で、自動車はご存じのとおり『B to C』のビジネストゥコンシュマーの商品です。そこで、最終的な価格というのはお客さまと市場が決めていくものになっていくと思います。いかに先端技術や新技術を入れてみたところで、最後のクルマ単位の価格は市場や相場で決まってしまう。そうなると、各メーカーで競争力をいかに磨いていくかが大切になると思います。ですから、各ユニット単位の部品は世界で競争力のあるところで集中して生産していくという考えで各社臨んでいると思っています。そんな中で“日本という場”をどれだけ競争力があるものにしていくか。今後は海外生産が増えていくにせよ、競争力をどうやって維持していくかがキーになっていくんじゃないかなと思っています」との見方を示した。
“世界一高い税金を払っている”とされた日本の車体課税について、自工会だけでなくユーザーの意見を取り入れていくため、ソーシャルのハッシュタグを活用していくといったような手法を考えているかといった問いかけに、豊田会長は「ユーザーの声を広く集めて、または拡散していくといったことは、われわれも努力していきますが、まさに(報道の)皆さんに応援いただくことになるんじゃないかと思っています。われわれ自動車工業会のみならず、JAFさんとか、自動車総連さんとか、いろいろな形はあると思いますが、要は自動車ユーザーというのは母体になるところがないので、そういった業界団体をつうじて声を届けるように努力しております。どうしても業界団体の名前が先に立ってしまいがちになりますが、どこの団体でも、今年はユーザー目線に立った、ユーザー側に立った発信をしていこうよと、同じ方向を見ながら心ひとつにやっているつもりです」。
「自動車ユーザーにより安全で快適な新しいクルマにこれからも乗り換えていただくため、お求めやすい環境作りというのが必要になると思います。そんなお求めやすい環境を作るというのは、日本の生産が多少でも維持していけることになり、地方財源がとは言うものの、地方の工場では雇用と税収に貢献させていただいておりますので、『地方財源 vs. 自動車課税』という対立軸を作らない形で情報発信していきたいと思います」と答えた。
また、過去の「6重苦」の時代に「石にかじりついて守ってきた」と表現した国内生産だが、自工会が現在提案しているような改革が成功しなかった場合にどのような将来像があると自工会として考えているのかという質問に対して豊田会長は、「企業の最大の社会貢献は、企業活動をつうじて利潤を得て、その利潤から税金を払っていくというのが一番の社会貢献だと私は思っています。その意味で、利潤が出ない、社会貢献活動である税金が払えないという状況に陥ってしまうと、私たち自動車産業がどうやってこの国に貢献したらいいのかというのが非常に不透明、不確実になっていくので、お客さまがより快適で、より魅力ある商品に買い換えていけるような税体系を、今年こそ本当によろしくお願いしたいということです」とコメントした。
このほか、国内の販売台数で近年はトラックの減少が大きいのではないかという指摘に対しては自工会 副会長の永塚誠一氏が回答。永塚副会長は「大型トラックについては、確かに足下で弱い数字、対前年比の数字が出ているかと思いますが、昨年はやや特殊な状況がありまして、環境規制の強化を控えて(それ以前に)駆け込み的に登録されたクルマがあったのではないかと考えております。その反動で数字が少なくなった面があるのかなと思っております」と説明した。
また、会長会見に先立って、同日発表の平成31年度税制改正に関する要望書についての解説も行なわれ、そこでも質疑応答の時間が用意された。
要望書内で「自動車税は国際水準である現行の軽自動車税を起点に引下げ」と税負担の軽減を求めていることについて、この「起点」という表現が、一律で軽自動車水準まで下げてほしいという意味か、自動車税の最低ラインである「1000cc以下」(乗用車で2万9500円)を軽自動車税(乗用 自家用で1万800円)並みにしてほしいという意味なのかという点について質問され、これについては「起点」という表現がそこを出発点にするという意味で、現状の自動車税と同じく段階的に上がっていくことをイメージしたものであり、排気量に応じて上がっていくことはこれまでどおりとしつつ、スタートとなる具体的な金額や金額の上昇する幅については現在も議論しているところと回答された。