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自工会 豊田新会長、自動車諸税引き下げについて語る
東京モーターショーでは、eスポーツとしてのeグランプリ開催を検討
2018年6月5日 05:00
2018年5月に自工会(日本自動車工業会)の新会長に就任したトヨタ自動車の豊田章男氏。その豊田新会長が掲げているのが自動車関係諸税の改革だ。
自工会会長就任会見においても、「本年は自動車税制改正の論議についても大きな山場を迎えますが、複雑で過重な自動車関係諸税に終止符を打ち、制度の簡素化、お客さまの負担軽減に向けて取り組んでまいりたいと思っております」と発言し、消費税10%引き上げが視野に入っているこの時期に、自動車ユーザーにとって国際比較で適切な負担にしたいという目標を掲げている。
豊田新会長に自工会新会長としての取り組みについて合同で話を聞く機会があり、そのあたりについて詳しく聞いてみた。
豊田会長が問題意識として持っているのが、ほかの自動車保有国と比べて日本のユーザーの税金負担があまりに重いこと。自工会の発行している「日本の自動車工業 2018」の50ページに関係資料がまとめられているが、180万円のクルマを13年間使用すると、日本の場合の税負担が保有で67.3万円。これは米国の約31倍(2.2万円)、ドイツの約2.8倍(23.8万円)、イギリスの約2.4倍(28.5万円)になる。このように税金が諸外国に比べて高すぎることを是正していきたいという。
この問題意識の背景にあるのが、日本の自動車マーケットの縮小。2011年の震災の年を除けば、近年は乗用車(普通車、小型四輪車、軽四輪車)で約450万台。2014年が約470万台、2015年が約420万台、2016年が約410万台、2017年は少し戻して約440万台という新車販売台数になっている。この徐々に小さくなるマーケットでは、日本での自動車生産台数を維持できなくなり、いずれは……という危機感が発言の裏に強く感じられる。
とくに消費税が10%に引き上げられると、税金に税金がかかるという二重課税の部分が大きくなり、「自動車ユーザー、つまり国民から二重取りになってしまう」と語る。この税負担の大きさを多くの自動車ユーザーに知ってほしいと言い、税負担軽減の1つの解決策として、「全部軽に合わせてくれればよい」と語る。
「軽(の税金)を高くするとか言ってはダメ」「軽は東京に住んでいる人は分からないかもしれないが、公共の乗り物です。軽を上げるとかは絶対ダメ。軽に(登録車を)合わせれば国際基準になります」と言い、税負担軽減によるマーケットの活性化への1つの提案を述べた。
2019年開催の東京モーターショーについて
もちろん、マーケット活性化への提案はそれだけではない。豊田会長は、東京モーターショーにおいて新たな取り組みも行なっていきたいとも言う。豊田会長が自工会会長となるのは2度目だが、前回会長時の「東京モーターショー 2013」において「CEATEC JAPAN 2013」「ITS世界会議東京 2013」の3イベントを連携。ただこの連携も、2013年10月2日 CEATEC JAPAN 2013、10月5日 第20回ITS世界会議東京 2013、11月25日 第43回東京モーターショー 2013とやや間隔を開けての開催だったため、もっと緊密に何かしていくなど、大規模なものにしていきたいという。
1つの例として挙げていたのがCESだ。豊田会長はトヨタ自動車の社長として2018年のCESでプレゼン。自動運転技術を活用したモビリティサービス専用EV「e-Palette Concept」を発表したが、あのような自動車の未来が見られる要素を東京モーターショーにおいても採り入れていきたいという。
これも日本の自動車マーケットの縮小と関係するのだが、「近年の東京モーターショーでは国外自動車メーカー CEOの発表が減っている」「国外メーカーの展示が減っている」とし、この流れに危機感を持っている。日本の自動車マーケットの魅力を税金改革で上げるとともに、2019年の東京モーターショーの盛り上げに向けて仕掛けていくようだ。
そこで、活かせるのではないかというのが、豊田章男として3つの側面を持っていることだという。1つはトヨタ自動車社長として、1つは自工会会長として、そして最後の1つは「モリゾウ」というただのクルマ好きというキャラが知られており、このモリゾウを活かせればと語る。前回の東京モーターショーでも、豊田会長は各自動車メーカーのブースで引っ張りだこで、それはトヨタ自動車社長としてではなく、ただのクルマ好きのモリゾウだからではないのかとし、このモリゾウを何か活かせないかと思っているようだった。
また、eスポーツについても東京モーターショーに採り入れてみたいという。eスポーツはオリンピック種目になる道筋がすでに発表されているが、そのeスポーツの一環として「eグランプリ世界選手権を東京モーターショーの会場でやると面白い」と言う。このeグランプリを東京モーターショーで行なうことで、従来とは異なった客層が東京モーターショーを訪れてくれるほか、モータースポーツのスポーツとしての魅力が伝わっていくことにも期待を示した。
お祭りとしてのモータースポーツ
この合同インタビューの直前に行なわれていたのが、富士スピードウェイで50年ぶりに開催された24時間レース「ピレリスーパー耐久シリーズ2018 第3戦 富士SUPER TEC 24時間レース」。豊田会長はここにも土曜日、日曜日ともに訪れ「モリゾウには誰からもオファーが来ませんでした。チームに訪れて準備運動をしていた。いつでもいいすよーと。でもみんなスルー」と取材陣を笑わせつつ、「(24時間レースは)両方が参加型。参加しているのがドライバーだけでなく、観客も参加している」「お子さま連れ、人によっては宿題をしている人もいた」ところがよかったと語り、「モータースポーツを特別なものにしない」ことが大切だという。
この富士の24時間レースについては、「続けてほしい」と語り、モリゾウ選手として参加したニュルブルクリンク24時間レースのような雰囲気もあったのではないかと語った。
クルマの自動化について
各自動車メーカーが、自動運転の1つのステップとして定めているのが2020年。豊田会長の任期は、2018年5月から2年間と、自動運転の法整備、社会整備へ向けての大切な時期にあたる。この自動化については、「自動車会社出身の人が自動化と考えるときには、安全第一だよねというところはみなさん共通認識として持ちだしたのではないか。すぐクルマ会社に自動運転車を作りなさいというとこもありますが、果たしてそうですか?と。法整備とか、インフラ整備。このあたりがしっかりしてこないと、自動運転を安心・安全なモビリティとして最終顧客は使うだろうか?」と疑念を示す。
「自工会としては、インフラ整備、そしてルール整備。事故を起こしたときに誰の責任になるのか。それは作っているメーカーの責任ですか? 所有者ですか? それすら何も決まっていない」「例えば方向指示器では、3秒待ってからとなっているが、実際の道路上で3秒待っている人はいるだろうか? 法規を守る自動運転だと、3秒待ってから動かないと法令違反になる。ところが、安心・安全というものを最優先したときには、空いているときに誰にもストレスを与えずに入る。これを人間がやっている。そこのところが法律だけ守っていればいいねではなく、安心・安全な交通ルールをみんなで新しく作っていく。そういうところをちょっと多少声高に言っていくのが自工会の役割」だと語る。
そして自工会として絶対にやってはいけないことが、「あの会社はもう出しますけど、おたく遅れているね」といった言葉だと語り、そうすると大変なことになるとし、「安心・安全、交通事故で亡くなる人をゼロにする。ゼロにする道のりは遠いと思うが、ゼロにするということは絶対にぶらしてはいけない軸のような気がします」と、交通事故ゼロ社会に向けて強い思いを述べた。
そのほか、豊田会長が着目しているのが自動車が生み出すデータになる。豊田会長は、「自動車会社として武器になるのはデータ」「日本メーカーの保有台数を世界的に見たらとんでもないことになる。そのデータ数たるや、どこの国よりコンペティティブ」と語り、日本の自動車業界の競争優位性を説く。
しかしながら、「自工会は自工会で個々の会社を意識する。これを(データの一部共通化を図るなどして)どう世界的にコンペティティブにしていくかが、私の(自工会会長としての)仕事なのではないか。答えはまだないですけど」と、日本として共通化を図る難しさを語り、まずは「大変な情報量ですよねということから始めたい」と、自動車が生み出すデータの一部標準化への期待を述べた。
冒頭にも記したように、豊田会長が自工会会長として努める期間は、国内的には消費税値上げのタイムラインがあり、国際的には自動化、電動化、コネクティッド、カーシェアなどの動きがある。これらについて、日本の自動車業界がしっかり競争できるような土台を作っていく(固めていく)のが、2018年~2020年という時期になるだろう。
2度目の登板となる自工会会長だが、前回の経験を活かしつつ、自動車ユーザーがクルマを楽しめる環境作りを期待したい。とくに「複雑で過重な自動車関係諸税に終止符を打つ」という部分は、今後自動車メーカーが世界で競争していく上で、そして日本の自動車マーケットが魅力的になるという面において必須とも言えるものだ。もちろん、自動車ユーザーとしても歓迎したい部分だし、最新の先進安全技術を装備するクルマが普及することで自動車事故ゼロに向かっていくのであれば、社会的にも歓迎されるものになるだろう。
豊田新会長が率いる自工会の今後の活動に期待するとともに、自工会の活動が自動車ユーザーにとって身近なものになるようお伝えしていきたい。