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日産、11車種 約15万台を新たにリコールする完成検査の不適切事案について記者会見

長年「マザー工場」を務めてきた追浜工場は“背伸びをした”ところがあった

2018年12月7日 開催

記者会見で登壇した日産自動車株式会社の常務執行役員 平田禎治氏(左)、常務執行役員 本田聖二氏(右)

 日産自動車は12月7日、国土交通省に対して12月13日にリコール届出を予定している約15万台の完成検査における新たな不適切事案について記者会見を行なった。

 日産では同日に発表したニュースリリースで、2017年9月に表面化した完成検査の不備に端を発する再発防止策で行なっていた自主点検の中で、聞き取り調査で追浜工場とオートワークス京都の2工場で、一部車両について完成検査の合否判定が不明確な可能性があるとの証言を確認。詳細な調査を行なったところ、後輪ブレーキ制動力の検査やステアリングの切れ角検査など6項目で不適切な事案があると発表した。

 対象となるのは追浜工場、オートワークス京都で2017年11月7日~2018年10月25日に生産された11車種約15万台(正確な台数は精査中)。このほかの詳細は、既報の関連記事「日産、完成検査で新たな不適切事案。約15万台をリコールへ」を参照していただきたい。

 なお、12月7日に行なわれた記者会見は、日産の公式YouTubeチャンネルで生中継を行ない、現在もアーカイブとして動画配信している。

日産自動車 12月7日記者会見(1時間17分秒)
発表内容の詳細を解説する本田氏

 記者会見では冒頭部分で、日産自動車の生産事業本部 日本地域担当である常務執行役員 本田聖二氏から発表内容の詳細が解説された。

 本田氏は新たに発覚した6項目の不適切事案は、再発防止策をより確実に徹底していくため、作業プロセスの詳細な定義を行ない、検査員の確実な理解を点検する全社的な取り組みの中で明らかになったことを説明。

 再発防止策の強化については、9月26日付けで日産が発表している「完成検査における不適切な取扱いへの対応等について」で記載し、すでに進めている77項目の再発防止策を着実に実行していくことが重要であるとしつつ、新たに発覚した不適切な事案については、完成検査工程における完成検査員の動作に関する内容で拡大解釈できる余地があること、禁止事項について完成検査員が理解不足だったことなどが大きな要因になっていることから、作業手順を定めた「標準作業書」に禁止事項を追加するといった「禁止事項の周知」、検査ラインに作業の手順が遵守されているか確認するカメラを新設するといった「チェック機能の強化」の2点を追加。また、今後は明らかになった6項目の不適切事案が物理的に行なえないよう、それぞれに物的対策を用意したと語り、これらによって再発防止策の強化を図ると紹介した。

 最後に本田氏は、日産では車両生産などにに直接関わる部署に限らず、法規・法令遵守に関する仕組みや体制、プロセスの総点検を全社的に徹底して行なっており、法令遵守の徹底を重要な経営課題に位置付け、問題が発見された場合は責任を持って適切な処置を講じ、あらゆる業務における法令遵守、コンプライアンス意識の醸成と徹底を図っていくとコメント。

「今後もこのような取り組みを確実に実施し、お客さまをはじめ、あらゆる関係者の皆さまからの信頼回復に努めてまいる所存です」と語り、一連の問題で多くの人に迷惑をかけていることについてあらためて深くお詫びするとして、同席した日産自動車 常務執行役員 平田禎治氏と共に深く頭を下げた。

発表内容の解説の最後と会見終了時の2回、本田氏と平田氏は深く頭を下げて陳謝した

「今回の行為が不適切であるという認識が本人たちにもなかった」と本田氏

質疑応答の様子

 記者会見後半では質疑応答を実施。不適切な完成検査が行なわれた動機についての質問に対し、本田氏は「まず、追浜工場の検査装置は、他の工場と同じですがやや古くなっているものがあります。40年ほど前の設備になり、その古さが検査員にとって使い勝手がよくないということで、少し工夫しながら検査するところが調べていく中で分かりました。2つめには、検査員の仕事の手順のベースになるものは『標準作業書』というものになります。これには作業の内容と手順、検査規格などがすべて表わされて基準になる、現場にとって非常に大切なものになるのですが、この『標準作業書』が細かくていねいに作り上げられているかという部分で、追浜工場と他の工場でやや違いがあったのかなと思います。そこで、正しくこういった手順で検査の作業をするんだということが上手く伝わりきっていなかったことが6つの点につながったのかなと思います」。

「それに加えて、『標準作業書』にはやるべき手順については記載されているのですが、やってはならないということを微に入り細に入り表現はしていません。今回は、やるべきことはやっているのですが、やってはならないこともちょっとやっていたということがありました。そこはわれわれが『標準作業書』の作り方で、全工場に対して正しいやり方が浸透し切れていなかったというのが反省点です。今後は全工場を見比べて、本来はここまでていねいに作り上げるんだという最もいい形のものに横展開していく活動をしなければならないと考えています」。

「3つめは、追浜工場は長年『マザー工場』の役割を担ってまいりました。あらゆる面でリーダーの役割を長年担ってきて、その中で少し“背伸びをした”ところがあったかもしれないと思います。例えばコストと品質、デリバリーなど生産ではいろいろな指標があるのですが、そこでややコストに偏った部分があったかもしれないと思っています。それについては今年度以降、それぞれの工場の強み、弱みを見ながら、追浜工場が“背伸びをした”部分について手当てをしながら、クオリティを大切にするといった活動を進めているところです」と回答した。

不適切な完成検査が行なわれた動機などについてコメントする本田氏

 また、先だって会長を解任になったカルロス・ゴーン氏が薦めてきた社内改革では、アウトプットを優先してコストカットを追究し、高い目標設定をしてきたが、これらが工場に対して作業をショートカットせざるを得ないようなプレッシャーになっていたのではないかという問いかけに対しては、本田氏は「ゴーンさんがというより、これは私自身の考えでもあるのですが、われわれはクルマを作っています。もの作りに携わっていて、その限りにおいては品質の向上を続け、お客さまにとってリーズナブルな、よりよいコスト、競争力のある価格を追究するために、工場におけるコストをより小さくしていく。そして安定した生産、デリバリーでお客さまに確実な納期でお届けすること。生産現場の安全や環境保全といったことはベースになりますが、そういったことは、ゴーンさんからのプレッシャーと言うより、もの作りの現場としてわれわれは以前から活動を進めていました。これは今後も続けていかなければならないことで、もの作りとして当たり前のことだと考えています」。

「ご質問はゴーンさんが来られて以降、それに拍車がかかったかということだと思いますが、それは一部に強まった傾向はあろうかと思いますが、それと今回の完成検査の問題が直接的に結びつくのかはまだ検証できていません」とコメントしている。

 今回の不適切な取り扱いが、国交省に対して再発防止策を提出した9月よりも後の10月まで続いている点ついては、「そもそも、今回の行為が不適切であるという認識がなかったというのが1つめです。それを周囲の作業員や監督者、管理者がなぜ見つけられなかったのかという点は、まず非常に頻度が低かったということ。日々作業観察を行なっているのですが、それは1日で何回か作業観察していて、その中では不適切な行為が行なわれている場面に出会わなかった。行なっていた作業員も毎回やっていたわけではなかったので抜き取りの作業観察では検出できなかったというのが2つめの理由です。証言として出てこなかったことは前にもご説明したとおり、本人たちもそれが不適切な行為だと認識しておらず、『標準作業書』にもやってはならない行為として記載されていなかったという点があり、要するにやってはならない行為だと教えられていなかった。やるべきことは書かれています」

対象車の安全性についてコメントする平田氏

 リコール対象となっている車両の安全性についての質問には平田氏が回答。「対象となる車両で6項目の不適切な検査方法がございましたが、それに関する市場からの不具合情報は現在のところ上がってきておりません。とは言っても、お客さまにとっては1台1台が非常に大切なクルマですし、1台でも保安基準に適合しないクルマがあってはならないということですので、対象期間のクルマにつきましては、出荷停止を行なって適合性を再検査したものと同様に、お客さまには大変ご迷惑をおかけいたしますが、安心して乗っていただけますようにリコールをするということで、ただいま国土交通省さまと調整させていただいている状況です」と平田氏は述べている。