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日産、無資格検査問題に関する西川社長と山内CCOの記者会見詳報
有資格者の正社員化を促進へ
2017年11月20日 06:00
- 2017年11月17日 開催
日産自動車は11月17日、車両製作工場の完成検査において無資格者による不適切な取り扱いが行なわれた問題について、外部の第三者機関に委託した調査結果を最終報告として取りまとめ、業務を改善する再発防止策を国土交通省に報告。同日に神奈川県横浜市にあるグローバル本社で記者会見を行なった。
なお、調査結果の内容と再発防止策については関連記事(日産、完成検査の不備に関する調査結果と再発防止策を発表)を参照していただきたい。
記者会見では、冒頭で日産自動車 社長兼CEO 西川廣人氏が挨拶。一連の不適切な完成検査の取り扱い、その後の販売停止、自社に対する信頼を裏切ってしまったことなどについて改めて謝罪し、今後の取り組みにおいて信頼を回復できるよう取り組んでいくと述べた。また、同日に国交省に本事案における最終報告を提出し、道路局局長から厳しい声がかけられたと報告した。
国交省に対する報告内容などについては、日産自動車 CCO(チーフ・コンペティティブ・オフィサー)の山内康裕氏から紹介された。
山内氏はプレスリリース内でも紹介されている調査結果の内容と再発防止策の概要について説明したことに加え、完成検査員の教育や試験の運用などがずさんになっており、試験中に回答を教えるといった不適切な行為が行なわれていたことに対する当面の緊急対策として、「全工場の完成検査員全員に対して5時間の再教育を行ない、理解度試験で合格点となる80点に達するまで補習教育」を実施。試験では不正が行なわれないよう、各工場に本社から試験の監督官として管理職を派遣しているという。また、この再教育と理解度試験に加え、完成検査に従事する条件として72時間に渡る正規教育を再受講することを付け加えている。任命教育や試験方法については今後も引き続いて見直しを行ない、受講生の理解向上に努めたいと述べた。
また、今後は完成検査員の人員管理を導入する予定としており、11月8日現在の数値として、国内にある日産の工場における完成検査員は536人在籍。これは生産を再開したときの生産台数で必要とされる完成検査員の380人を上回るものだが、実際には十分な人員が確保されているとはいえない状況だと山内氏は解説。
資格保有者でも業務上でどうしてもほかの業務を行なう必要に迫られていたり、完成ラインのテスター上で勤務するには年齢的に難しいといったケースもあるという。そのため、今後は完成検査員を工場別に把握できるよう、人員マップを作成して適切に把握できるようにする計画とのこと。現状で完成検査員が十分ではないことを把握したため、完成検査員の養成計画を予算に盛り込み、今年度中に107人の完成検査員を育成。今後の有資格者の退職を考慮しても85人前後の増員によって生産台数の増加に対応するという見通しを説明した。
さらに現状の有資格者のうち、57人の期間従業員が含まれていることを明らかにし、有資格者の正社員化を促進して有資格者が離職するリスクを低減していく考えも述べた。このほか、完成検査が確実に実施されるよう、完成検査員の習熟度が上がって人員体制が充実するまでの一定期間、生産工程のラインスピードを通常より低下させるという。
山内氏の説明に続き、西川氏から一連の問題についての認識について語られた。西川氏は完成検査の問題が、データでは1989年に追浜工場で行なわれたものが最も古い記録であるとしつつ、従業員の記憶ではそれより10年前にも行なわれていたという証言を聞いたと発言。1970年代から継続的に問題が起きていたのかどうかは確認できないものの、少なくとも長い年月で習慣化され、常態化してしまったと考えるのが妥当であろうとした。
こうした正規の手順を踏まない完成検査については、本社のみならず工場レベルでも課長以上の職員が指示をしていた形跡は見つからず、工場間をまたぐような形式でも行なわれてはいなかったとしつつ、それは一方で現場責任者である係長以下の職員が「法令に準拠していない」という認識を持ちつつ続けてきた行為を、長年に渡り課長以上の管理層が実態を把握できず「管理不行き届き、管理不十分ということであります」と語った。
なぜ問題が起きたのかについては「なぜそのようなことをしたのか。明確な答えはありませんでした」としつつ、役員や管理層の人間が重大な問題になるとの認識が薄く、それが現場に踏襲されたと分析。それだけに、問題が起きたのは現場レベルながら、西川氏は「単に現場を正せばいいという問題ではない」との認識を示し、再発防止策によって完成検査の持つ意味や重要性を現場から管理職まで含めて再徹底していかなければならないとした。
また、問題が起きた原因として、「過度なコスト削減圧力や工場間での生産効率の競争をあおったことで、現場に無理が生じた“ゴーン流”のコミットメント経営が問題を誘発したのではないか」と一部で取り沙汰されていることについては、「健全な改善意欲については我々のマネージメントで奨励して、目標達成に向けた取り組みも奨励しています。ただし、組織疲労、組織疲弊を招くようなマネージメントは持続可能なものではありません。したがって、これは我々が目指すものとはまったく違うものです」とした。
今後については過去から続いてきた悪しき習慣を正面から見つめて断ち切ること、再発防止策で示された対策を会社全体の課題としてしっかり取り組んでいくこと、日常業務として行なっている、完成検査に止まらない法令で義務化された部分についてプロセスや仕事の仕方を再点検することなどを挙げ、これらを西川氏が中心となって2022年まで続ける中期計画「M.O.V.E.to 2022」のなかで、すべての業務や取り組みの基盤として確実に進めていく計画であると語った。
日産車体京都以外の生産ラインは4割~8割のスピードで稼働中
質疑応答では、現在も日産自動車の代表取締役会長であり、2001年6月から2016年度末まで社長兼CEOを務めていたカルロス・ゴーン氏や現執行部の責任についての質問がたびたび行なわれたが、これに対して西川氏は、一連の問題がゴーン氏の就任以前から長く続いてきたことであり、今回作成された報告書では「現場と経営側に壁があり、現場で起きていた届け出内容と実態の乖離について報告しにくい状況になっていた」という指摘に関して、なぜ自分がトップにいるときに報告してくれなかったのかとゴーン氏が考えているのではないかと述べた。
また、現執行部の責任については自身が問題が表面化したあとの10月から2017年度いっぱいの役員報酬の一部を自主返納しているとコメントし、「自分に与えられた使命としては、とにかくできる限り早く過去を断ち切って、できる限り早く事業を正常化することに尽きると考えています。長く社長を務めたいとか、そんなことは一切考えていません」と回答した。
ゴーン氏の責任については山内氏もコメントし、「現場が人手不足だったという点については、人手不足と我々のオペレーションにおける人員不足というのは少し違って、日本全体が人手不足の状況にあるのは周知の事実ですが、我々の工場という単位で見た場合には人員不足という状態ではありません。ただし、完成検査という部分だけを見ると、そこだけを特別に管理するということはしておらず、経営側には全体で仕事が回っているということが伝えられていましたが、それ以上に我々が突っ込んで調査をすることはしてきていませんでした。クルマを作るにあたって工場を立ち上げるときに、『人員が足りているか』という部分は社長(ゴーン氏)にも報告して理解してもらうのですが、完成検査員という細かい部分までは私たちも報告をしていません。そういった意味で、人員不足の部分でゴーンに責任があるということは少し当たらないのではないかと私は理解しております」と語った。
山内氏が説明した生産工程のラインスピード変更の詳細についても質問され、山内氏は「ラインスピードは工場によってばらつきもありますが、どの工場も少し落としていて、工場によって4割~8割のスピードで動かしています。(調査報告で問題がなかったとされた)日産車体京都だけはこれまでと同じスピードで運営しております。先ほども申し上げたように、まずは間違いのない確実な完成検査を実施することを最優先に置いていまして、このあとに完成検査員の習熟度合いであったり、完成検査員の増員といったことに合わせてスピードを上げていきたいと思います。なるべく早く上げていきたいという思いもありますが、最終的には今年の終わりから今年度いっぱいには(元に戻したい)と考えております。ただ、これは習熟度や増員次第だと思います」と説明した。