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「『世界一高い』『携帯電話の倍もある』『複雑な』税制など、クルマに乗りにくい環境はもっと変えていきたい」と豊田章男 自工会会長
2019年「自動車工業団体新春賀詞交歓会」にて
2019年1月7日 21:12
- 2019年1月7日 開催
日本自動車工業会、日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会の自動車工業4団体は1月7日、2019年の「自動車工業団体新春賀詞交歓会」を都内で開催した。
今回の賀詞交歓会では、2018年5月から2回目の会長に就任した自工会 会長の豊田章男氏のほか、来賓として参加した石井啓一国土交通大臣、関芳弘経済産業副大臣が新年の挨拶を述べた。
各登壇者のコメント(抜粋)を以下に記す。
日本自動車工業会 会長 豊田章男氏
「われわれからまず一番に申し上げなければならないのは、やはり自動車税に史上初めてとなる恒久減税のご決断をいただいたことへの御礼でございます。もう1つ感謝を述べたいのは、この件に関係する皆さまが『日本の自動車税は世界一高い』『税金だけでも携帯電話使用料よりも高い』、そして『複雑すぎる』というお客さまの思いをワンボイスで訴え続けていただいたことです。今までは『軽自動車』対『登録車』とか、『車体課税』対『地方財源』など、少なからず対立軸があったかと思います。しかし、今回は皆さまがお客さま目線で一枚岩になっていただき、それがこの結果につながりました。昨年われわれは『税金を下げて、下げて』と一貫してお願いしてまいりました。われわれの願いは文字どおり(税金を)下げてほしいというものでしたが、その根底にある本当の思いは『もっと税金を納めていきたい』ということでございます」
「こういったことを申しますと、この部分だけをメディアの方に切り取られて『自工会 豊田会長、減税はもう十分』というような見出しが出てきてしまいそうですが、焦らずにこの先も聞いていただければと思います。自動車産業では、国や国民のためにお役に立ちたいという思いを出発点に、先人たちが国産車を造り、その歴史が始まりました。そしてお国からのご支援もいただき、今、このように大きな産業に成長させていただきました。現在はバイクも含め、8200万台を日本でお乗りいただいており、また、雇用の面では540万人が何らかの形で自動車に関連した仕事をさせていただいております。人々の生活を豊かなものにする、雇用を生み出す。こうして今もお国のお役に立てることを嬉しく思っております。また、納税という面を見ても、企業、就労者、ユーザーの皆さまとそれぞれが納めるものを試算してみますと、全部でおよそ15兆円でございます。国、地方を合わせた税収全体の15%ぐらいになるかと思いますが、この面でも企業市民としての義務を果たしていけるということは、本当に大切なことだと考えております」。
「自動車産業は今、100年に1度の大変革期を迎えております。クルマは街とつながり、社会システムに進化していく、言わばクルマという存在自体がモデルチェンジをしていこうというところでございます。これに向け、今われわれは本当に踏ん張りどころにあると思います。平成を振り返りますと、平成元年には過去最高の市場規模を記録し、以降はずっと右肩下がり。そして東日本大震災をはじめ、さまざまな自然災害にも直面してまいりました。日本のもの作りを必死に守り抜いてきた平成時代だったと思います。ただ、必死に守り抜いてきたもの作りの力こそが、クルマそのもののモデルチェンジを進めていく上でも、われわれの原動力になり続けていくことは間違いございません」。
「そして、そのモデルチェンジの先にあるものは、人々のさらなる笑顔だと信じております。クルマがもっと社会とつながれば、過疎化や高齢化といった日本が抱えるさまざまな悩みへの力になっていけるはずだと信じております。また、貧困や医療など、地球規模で抱える大きな課題にも、もっとお役に立てるとも信じております。日本が世界の笑顔を増やす新たなリード役になっていけるのであれば、われわれ自動車産業はその一翼になるべく力の限りを尽くしたい。そう思っております。そのためにも、われわれが紡いできたもの作りの力をなんとしても守らせてほしい。われわれにはその思いしかございません。そのためにも、もっと多くのお客さまにクルマに乗っていただきたい。もちろんわれわれが、もっと魅力的なクルマを競争して作っていくことなしに、それはなしえません。まずはその努力を続けます。一方で、冒頭で申し上げました、『世界一高い』『携帯電話の倍もある』『複雑な』税制など、クルマに乗りにくい環境はもっと変えていきたいと思っております」。
「今回、1300億円の減税をいただきました。これが多いのか少ないのか。ただ、まだまだ世界一のレベルにあることは変わりがございません。依然としてアメリカの30倍に近いレベルです。販売スタッフが簡単に説明できない複雑さも変わっていないと思います。ぜひこういった改善を実現いただき、クルマにもっとお乗りいただけるように、そして自動車産業に従事するわれわれは、100年に1度の大変革をなんとしてもチャンスに変えていく、そうさせていただければと思っております。もしわれわれがもの作りの力を失ってしまえば、税金を払える産業ではなくなってしまうという危機感さえあります。一方でわれわれは、今、もっとお役に立てるチャンスでもあります。だからこそ、その努力をわれわれにさせてほしい、これが『もっと税金を払い続けていきたい』と申し上げた本当の思いでございます」。
「自動車産業を興した先人たちは、日本という『ホームカントリー』を笑顔にしようと頑張ってまいりした。その後に先輩たちは、世界各国でその地を『ホームタウン』と考えながら、そこに住む人々をも笑顔にするようなクルマ作りを続けてまいりました。2019年からは、クルマそのもののモデルチェンジという今までに経験したことのない、われわれ自身の大きな変革に向かってまいります。クルマがつながるようになった先には『もしかしたら国境など関係ない世界があるのでは』とも考えております。また、空を見上げればそこに国境などはなく、環境問題もみんなのふるさとである地球全体の課題だと思います。そう考えますと、今までの『ホームタウン』『ホームカントリー』という思いは大切に引き継ぎながら、それをオーバーライドする『ホームプラネット』という、大きな傘となる概念が必要になってくるのではないかと考えております。われわれ日本の自動車産業は、『ホームプラネット』という思いも新たに意識しながら、さらに多くの笑顔のために全員で力を尽くす1年にしていければと考えております」。
国土交通大臣 石井啓一氏
「今日、自動車産業は自動運転技術の進展、クルマの電動化、モビリティのサービス化などの新たな動きや変化に象徴されるように、大変革期にあります。国土交通省といたしましても、技術基準の策定や実証実験の実施、戦略的な税制措置などを通じまして、皆さまと連携し、適切に対応をしてまいりたいと存じます。まず、自動運転につきましては、2020年がめどとなる『高速道路におけるレベル3自動運転の実現』といった目標達成に向けまして、車両安全に係る国際基準の策定を主導しております。昨年の10月には『自動で車線変更する機能』に関する基準が発効いたしました。また、物流の生産性向上を図るため、これまでに高速道路でのトラックの隊列走行の実証実験に取り組んでおりまして、今月には新東名高速道路におきまして、『後続車無人システム』の実証実験を行なうこととしております。さらに自動運転車などの設計、製造過程から使用過程における総合的な安全確保に必要な制度整備の方針に関しまして、近く報告書を取りまとめることとしております」。
「地球温暖化対策につきましては、国土交通省といたしましても燃費基準の強化と共に、グリーン化特例やエコカー減税などの支援措置を通じまして、環境性能に優れた自動車の普及促進に努めてまいります。MaaS、モビリティ アズ ア サービスを含む新たなモビリティでは、移動の利便性や効率性の飛躍的な向上をもたらし、都市や地方が抱えるさまざまな諸課題の解決につながる可能性があります。国土交通省といたしましては『日本型MaaS』のあり方や今後の取り組みについて検討を進めていくと共に、新たなモビリティの走行空間の確保、交通ターミナルなどの乗り換え拠点の整備を進めてまいります」。
「なお、一昨年秋以降に相次いで発覚をいたしました完成検査の問題につきましては、ユーザーからの信頼を確固たるものとするためにも、2度と同じ問題を起こさぬよう、強い決意を持って取り組んでいただけますようお願いいたします」。
経済産業副大臣 関芳弘氏
「安倍政権発足から6年が経ち、名目GDPは54兆円、正社員の有効求人倍率は1倍を超え、2%程度の高水準の賃上げが5年連続で実現いたしております。自動車業界につきましては、自動化、電動化など100年に1度の大変革の時代が到来しております。家庭消費の約1割、出荷額、設備投資額、研究開発費共に全製造業の2割を占め、関連雇用534万人を支えて他の産業を牽引する自動車業界が、高い競争力を維持、強化することは日本経済にとりまして極めて重要でございます」。
「まず、業界の長年にわたる悲願でございました車体課税の抜本的見直しにつきましては、平成31年度与党税制改正大綱の決定を踏まえまして、昭和25年の自動車税創設以来、初めて全車種で自動車税を恒久的に引き下げます。とくにボリュームゾーンでは約1割の減税が実現いたします。また、消費税率引き上げ時の需要平準化策といたしましては、1年間限定で自動車、軽自動車の取得価格1%分を軽減するなど、思い切ったユーザー負担の軽減を実現してまいります」。
「CASEへの対応につきましては、自動車産業が直面する大変革を機会と捉えまして、日本としての戦略を皆さまと共有、検討いたします『自動車新時代戦略会議』を昨年4月に設置し、7月には電動化を中心に具体的なアクションプランなどを定めた中間取りまとめを公表いたしました。年度末をめどに開催予定の第3回会議では、アクションプランの進捗や、自動走行、モビリティサービスに関する議論を行なう予定といたしております」。