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日産グローバル本社ギャラリーに1泊する「#日産でやってみよう車中泊」開催

2人の専門家に指導を受けつつ、災害避難を想定した車中泊を体験

2019年3月2日~3日 開催

車中泊体験プログラム「#日産でやってみよう車中泊」で使われた、EV(電気自動車)の「リーフ」と100V出力が取り出せる「リーフ to 100V」。電気を使った煮炊きが長時間可能となる

 日産自動車は、神奈川県横浜市にある日産グローバル本社 ギャラリーにて、3月2日~3日にかけて車中泊体験プログラム「#日産でやってみよう車中泊」を開催した。その模様をお届けする。

 このイベントは、災害時にマイカーに避難することも視野に入れ、実際に車中泊を体験してみて、安全・安心に行なえる正しい知識を身に付けようというもの。講師にクルマ旅専門家の稲垣朝則氏と、災害リスクアドバイザーの松島康生氏を迎えてワークショップ形式で進められた。バッテリーをたくさん搭載するEV(電気自動車)の特性を生かし、日産「リーフ」を使った避難食調理の体験もあった。

車中泊体験プログラム「#日産でやってみよう車中泊」が開催された日産グローバル本社 ギャラリーの一角
車中泊に使われたのは、主にEVのリーフ。一番手前は「リーフ NISMO」
リーフはコンパクトハッチバックのEV。40kWhバッテリー搭載車に加え、新たに62kWhバッテリー搭載の「リーフ e+」が加わっている
ブルーのリップスポイラーが「e+」の特徴
リーフと充電コンセントの展示
充電はフロントから行なう。右が200Vまでの通常充電口。左は急速充電用
SUVの「エクストレイル」も使われた
「エクストレイル NISMO」
「セレナ e-POWER ハイウェイスター」。これなら車中泊は余裕なはず
「NV350 キャラバン」も使われた。これなら車中泊はまったく問題ないはず
ステージ上には1947年製の「たま電気自動車」が。東京電機自動車が開発。EVの歴史は意外と長い
EVの内部構造を解説するモックアップ

 イベントの開始時には、クルマ旅専門家 稲垣朝則氏と災害リスクアドバイザー 松島康生氏からあいさつがあった。

 稲垣氏は“車中泊オピニオン”として、いわゆる車中泊とオートキャンプのどちらも楽しむ手法を「オート・パッカー」と名付け、釣りなどのアウトドアレジャー、絶景や秘湯を巡る旅、名物の食べ歩きなどを効率的に楽しむことを提案。雑誌などに記事を寄稿している。さらにこれを災害での避難時にも活用して、あくまでも消極的な車中泊ではあるが「避難のための車中泊」の手法を正確に伝えていきたいと語った。

 松島氏は、地理情報システム(GIS)の専門家から災害リスク評価研究所を起ち上げ、被害想定調査や避難調査、防災施策アドバイスなどを行なっている災害リスクアドバイザー。新潟県中越地震から避難所を離れて車中泊を選ぶ人が注目され、東日本大震災や熊本地震で一般的に行なわれるようになったとし、車中泊ならではの脱水や一酸化炭素中毒、急性ストレス障害などに注意が必要だと語った。最も多いエコノミークラス症候群をマッサージなどで予防する方法についてもアドバイスしていた。

クルマ旅専門家 稲垣朝則氏があいさつ
車中泊とオートキャンプを合わせた「オート・パッカー」を楽しむ
車中泊で白川郷を楽しむ提案を記事化
災害リスクアドバイザー 松島康生氏があいさつ
災害時に車中泊する時の注意事項
エコノミークラス症候群をマッサージなどで予防

 あいさつの後はリーフの横でレクチャーが行なわれた。プライバシーの守り方では、どこででも手に入れやすいレジャーシートを活用した目隠し方法を提案。レジャーシートは100円ショップなどでも入手可能で、小さく折り畳めるので常備しておくことも容易。そして横になる時のために、車中泊用に開発されたエアーマットをなるべく水平に設置する方法がレクチャーされた。

リーフを題材に、実際にどうやるのかを稲垣氏がレクチャーする
避難のための車中泊は72時間を目標
プライバシーを守るにはフロントウィンドウのサンシェードを使うのがベスト
サイドは、このようなポップアップタイプの製品が使いやすい
今回は入手性を考えてレジャーシートをフル活用する
車体外側に、上はマグネットで固定し、下をワイパーで押さえる方法が手軽。ただし、盗難のリスクがある
内側に取り付けるのが盗難のリスクもなく無難。ウィンドウのサイズに折ってから洗濯ばさみでサンバイザーに固定
外から見るとこのような感じになる
フロントウィンドウ内側の様子
ダッシュボード上ではタオルなどを丸めて押さえる
サイドはこのように目隠しする予定
ウェザーストリップのゴムに小さなクリップを使って止めている
クリップ部分。ゴム部分をうまく挟み込む。無理に横に引くとゴムを痛めるので注意
サイドウィンドウを外側から見たところ
サイドウィンドウを内側から見たところ。断熱シートを使ったので遮光は完璧
車中泊やオートキャンプ向けのエアマット。持ち運びを重視した縦走キャンプ用よりもかなり大きめ。写真で写っているのはフィールドア製の車中泊マット
広げた直後はこのような感じ
バルブを緩めてしばらく放置しておくと自動的にエアが入る
ある程度膨らんだらバルブ3か所を締め、1か所から空気を入れるとさらに膨らんでいく
マットレスの完成。エアが入り切るまで時間がかかるので、これは先にやっておくとよい
ヘッドレストを外してシートをすべて倒す
カゴを置いて高低差をなくす。これは荷物入れとしても便利
スノコで安定性を出す。これは無くてもなんとかなる
その上にマットを敷く
前席にはカゴやマット、タオルなどを置いて高さを合わせる
試しに寝てみたところ。意外と快適そうだ
車内を運転席側から見た様子
高さはタオルなどで微調整する
ベッドの完成
フロント側から見たところ
さぁ、次は自分で実践してみよう

 ひととおり作成手順を教わった後は、参加者がおのおの実際の車両を使って実践。講師の稲垣氏がサポートしつつ問題点を解決していくというワークショップ形式で進められた。

 参加者はみな飲み込みが早く、すぐに要領よく車内を車中泊スタイルに変身させていた。リーフの車内に寝袋を入れると、ちょうどコンパクトな2人用テント程度のタイトな室内感で、なかなか雰囲気がいい。コンパクトカーでもこのように足を伸ばせる状態が作れるのは、なかなか勉強になる。車中泊では足が伸ばせるかどうか、少しでも寝返りができるかという点はとても重要なのだ。記者はキャンプ用エアマットを持っているので、ぜひ実践してみたい。

各参加者向けに用意された用品
参加者も割り振られた車両で実践開始
先にエアーマットのバルブを緩めて放置
フロントのプライバシーを確保
悩む部分は講師の稲垣氏がサポートする
プライバシーの確保がほぼ完成
車内の状態。シートがカラフル
ヘッドレストを外してシートを倒す
フロント側のカサ増しも手慣れたもの
ファミリーは助け合って作業
マットを車内に投入するのはリアハッチから
リーフでの車中泊ベッド完成
スペーサーとして置いたカゴに自分たちの荷物を入れておく
寝袋を敷くと車中泊の雰囲気が高まる
リーフの車内ではUSB端子とシガーソケットを電源として使うことが可能
セレナは2列目と3列目のシートを使ってベッドにする。隙間の段差をタオルでうまく埋めている
寝心地を確かめてみる。セレナでのスペースは十分な広さ
セレナの後部にはドリンクホルダーもあり、便利に使えそうだ
エクストレイルはラゲッジスペースとリアシートがフラットになるので簡単
当然ながらキャラバンは余裕のラゲッジスペース

1500Wの電力が無音で長時間使える光景は感動的

リーフから100V出力する「リーフ to 100V」を使う

 夕食の時間には、リーフのバッテリーから100Vコンセントの出力が得られる可搬型EVパワーコンディショナーの「リーフ to 100V」を活用して、災害用保存食を調理する実践も行なわれた。IHヒーターを使ってお湯を沸かし、アルファ米にお湯を入れ、レトルトカレーは湯煎をする。ギャラリー内では飲食ができないので作るまでを行ない、別室にて試食をした。

 災害時を含めて車中泊では、火を使う調理は制限が多くなる。その点で電気を使う調理であれば、火災の危険もなく活用場所も広がってくる。リーフ to 100Vは1500Wまでの出力を持っているので、IHヒーターや電子レンジ、電気湯沸かし、電気炊飯器など家庭用の電気調理器を屋外で活用することもできる。このほか自宅に「V2H(Vehicle to Home)」の設備を整えておけば、リーフのバッテリーで家庭内の電力供給を行なうことも可能だ。避難をする必要がない単なる停電の際にもとても役立つ。この場合にはエアコンや冷蔵庫、200VのIHコンロなどの動作も可能になる。

 屋外で電源を得るにはエンジン式の発電機を使うこともよくあるが、その作動音に慣れていると、まったくの無音で1500Wの電力が長時間使える光景を目の当たりにすると、ちょっとだけ革命的で感動する。EVが増えてくると、このような光景が当たり前になっていくのだろう。

 災害時には、温かい食べ物が手に入りにくくなるのがとても厳しい。その時に湯煎という手段は最適な調理法になると松島氏は教えてくれた。貴重な水を何度でも温めて再利用できることも理由の1つ。カップラーメンの場合はその都度にお湯を消費してしまう。湯煎で調理できる保存食材の種類もとても増えてきている。

 また、稲垣氏いわく、調理で最も幅広く活用できるのはアルミ製でテフロン加工されたフライパンとのこと。これがあればほとんどの調理で困らないそうだ。

リーフの100V出力を使ってIHヒーターでお湯を沸かす。もちろんまったくの無音
非常用レトルトカレーを湯煎
電子レンジももちろん使用可能。調理の幅が広がる
アルファ米とレトルトカレーの組み合わせ
非常食とは思えない出来栄え。水は日産オリジナル 富士山のバナジウム天然水のケンメリバージョン(日産オンラインショップで販売中)
避難所で出される食事は不満が多いと松島氏
避難時には湯煎が調理方法としてベスト
テフロン加工されたフライパンがもっとも使いやすいとのこと
イベントで使用されたオートモーティブエナジーサプライの「リーフ to 100V
フロントウィンドウ内側にインジケータがあり、使用中は外からでもおおよその電力量が分かる
シガーソケットに接続してアースとして使っている
急速充電のCHAdeMO(チャデモ)ポートから電力を供給している
使用時には主電源を入れると
まず、出力ランプが点灯
開始ボタンを押すと100Vがコンセントから出力される
電力量のランプが点灯すれば出力中
3口のコンセントが利用可能

事前に1回でも体験しておくことが重要

松島氏が防災に関しての講義を行なった

 就寝前には、松島氏から防災に関しての講義が行なわれた。地震の正しい知識と理解、室内の地震対策、防災グッズの選び方、災害時の帰宅困難に備えるといった話題に関して詳しく解説された。

参加者は円陣を組む感じで座り講義を聞いた
参考に並べられた防災グッズ
首都直下地震でM7クラスが予想される19パターン
19パターンを重ね合わせた図。つまり、首都圏のほぼどこでも震度6強で被災する可能性があるとのこと
ハザードマップはあくまでも目安。実際の被害はより広範囲に及んでいる
地震の震度は地形と大きな相関関係がある。地盤がしっかりしている場所は震度が低い
阪神大震災で倒壊した阪神高速道路は印象的だったが、よく見ると倒れたのはここだけ
この場所は扇状地の外で、しかも盛土された場所だった
日産グローバル本社のある横浜も埋立地
1988年の空撮写真。この場所は線路の引き込み線があった
1909年ごろまでの地図。引き込み線もない
古地図では完全に海。住んでいる場所の成り立ちと地震リスクを知ることは重要
川の近辺でも被害は起きやすい。利根川周辺で液状化があった千葉県我孫子市
川を埋め立てて土地が作られている
昭和55年までの旧耐震基準で建てられた木造家屋は地震に弱い
高層マンションに被害をもたらす長周期地震動は広範囲に影響する
耐震ポールは壁側に設置するのが基本
面で支えるとさらに家具の転倒を抑制できる。硬いダンボール箱なども有効
家具の扉にはストッパーを付けておく
防災グッズは避難用品と備蓄品に分けて考える
避難が想定されなければ備蓄品の用意に力を入れるとよい
ライトはLEDで、自宅用の大型と避難用の小型を分けて用意
ランタンも2種類ある
情報収集用にラジオは重要。手回し型はハンドルのしっかりしたものを
大判のビニール袋はさまざまな用途に活用できて便利
避難用品選択のポイントリスト。自分が使う、共有できないものを中心に
とくにお薦めの備蓄食料はレトルトのおかゆ。普段から使える食事の備蓄がベスト
スマートフォンの電源確保も重要
子供向けに、特別に夜のギャラリー案内も実施された
22時の消灯に向けてギャラリーのブラインドが閉まった

 ギャラリーは22時に消灯され、各自で作成した車中泊仕様の車両に乗り込んでいった。朝には、起床後にエコノミークラス症候群予防のためストレッチ体操などを行ない、朝食を食べて解散となる。

 災害時にはかなり気が動転するので、このような体験を1度でもしていると、焦らず慌てずに準備ができるだろう。もちろん普段の旅行でも、例えば渋滞が予想される時間をずらして動くといった目的でも車中泊は活用できる。

22時にギャラリー内は消灯された。おやすみなさ~い。記者はこれにて退場しました