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アディエント、CASEを踏まえたロボタクシー「AI19クローバー」公開

将来の自動運転を見据えた「AI19クローバー」

 グローバルで高いシェアを誇るシートメーカーのアディエントが、将来の自動運転を見据えた「AI19クローバー」というデモンストレーターを一部報道陣に初めて公開した。

CASEを踏まえたロボタクシー

将来の自動運転を見据えた「AI19クローバー」(写真:アディエント)

 AI19は現在アディエントが保有する製品のポートフォリオとともに、関係各社との共同開発で実現したもの。即ち現在の技術ですべて実現可能なもので、最新のイノベーションを組み合わせることで同社の技術力をアピールするために作成された。今回、報道陣に対して初めて公開された。

 AI19のコンセプトは、「CASEを踏まえレベル5の自動運転を想定したロボタクシーです」と紹介するのはアディエントのダイレクターでインダストリアルデザイン、リサーチ&クラフトマンシップを担当するトーマス・ゴールド氏だ。「これまでシートはドライバーのために作っていましたが、自動運転になってくるとさまざまな違う課題が出てきます」という。「シートはこれまで以上に“コマンドセンター”になるでしょう。そこでAI19ではクルマを操作するためのインストルメンタルやコンソール、ドアパネルもありません。全てシートで覆われているのです」と話す。そして、「例えば航空機や列車やバスといったモビリティからヒントを得ながら、(自動運転中の)乗員の体験とはどういうものであるべきかを検討しているのです」と述べた。

運転する時間をほかに置き換えるということ

4人乗車(最大6人乗車)をメインに想定したAI19

 その乗員の体験を良好にするためのデザインクライテリアは次のように定められた。「運転しなくても済むということで、車内で過ごす時間にさまざまな使い方が出てきました。例えば仕事をしたり、映画を見たり、会話を楽しむと、あるいは休んだりもできるようになります」。

 次に、「サービスプロバイダーもわれわれのお客様になってくることが想定できます。例えばUber(ウーバー)などです。そこで、ビジネスモデルとして例えば航空機メーカーがエアライン会社に提供しているようなイメージです。航空機のシェルを購入し、われわれはその内装を作り上げるイメージです」。

 3つ目は、「プライバシーです。個人として楽しめる事を配慮しながら、グループで共通の時間を過ごすということも決して忘れてはいけません」。

 また、「メンテナンスのしやすさも忘れてはいけません。AI19の場合、乗員は車両の所有者ではないので丁寧に使わないこともありえます。従って汚れたりダメージを受けたりした場合は時間のロスなくすぐに取り替えられるように工夫しなければいけません」。

 最後は、「パーソナライゼーションです。シェアリングなども考えていますので、車両自体は変えられないものの、車内での体験はパーソナライゼーションできるようにしていく必要があるのです」。

20分がキー

マルチメディアスクリーンなどを操作するスイッチ

 こういったことを踏まえ、さまざまな仕様が盛り込まれたが、具体的な案を作るにあたり、乗車時間を基準に考えられた。それは20分以上か以下かだ。

 トーマス氏は、「20分を境にショートトリップとロングトリップを分けています。この数字自体はわれわれの研究や調査の中で見出したものです。20分以下だとぼんやりとしたり、周り景色を眺めていることが多いのですが、それ以上になると仕事をしたり昼寝をしたり、あるいは映画を見たりするようになります」とその状況を分析。

 そこでAI19では、ショートトリップ利用の場合は電話利用を踏まえビデオコールなどができる機能が供えられた。ロングトリップの場合は、シートの姿勢が変更できゆっくりと休めるようにしたほか、マルチメディアを駆使し、動画や映画を楽しめるよう乗員の正面のスクリーンに映し出せるようにもした。そこで重要でかつ難しいのは、「乗車中の体験で何が大事かは、乗車する人次第であるということなのです。ウーバーなどのサービスプロバイダーは、そういった乗車時間に合わせていろいろな提案をするコースが出てくると考えています」とコメントした。

スクリーンに表示されるコンテンツのメニュー

 そして安全性も重要だ。レベル5が実現したとしても同時にレベル0のクルマも走っていることだろう。そういった時にシートはどうなっているのか。トーマス氏は、「今と変わらない部分と大きく変わる部分があるでしょう。例えば前作のAI17の場合には深くリクライニングした場合にもエアバッグが包み込むように出てくる仕組みを作りました。われわれはオートリブとも共同開発しており、そういった課題を解決するために、パートナーシップの関係は重要だと考えています」と説明。

 また、「レベル5が実現してもシートは残るでしょう。安全性という意味でも、車内での姿勢を保つためにもシートは重要です。椅子に座った方が楽ですし、運転しなくても済むことからその乗車時間を有効に使うために、仕事をしたり映画を楽しんだりするのは立ったままではリラックスできませんよね。従ってシートは引き続き重要になるでしょう」と語った。

 同時にアディエントAPACエンジニアリングのバイスプレジデント、マーク・サットン氏も、「完全に自動運転の時代になっても、例えばバスなどのトランスポーターから、自動運転のエントリーレベルや、高度な自動運転車までさまざまなカテゴリーのクルマが走っているでしょう。そういった中では色々なシートの形が考えられます。例えば立ったままのものもあるかもしれません。しかし、共通点は2つあり、その1つは安全性です。これを第一に保たなければいけません。その重要性を認識しているからこそ、オートリブと一緒に共同開発をしているのです。そして2つ目はコネクティビティです。日々の生活の延長として、車内での時間を過ごせることが重要なのです。例えばステアリングがなく、運転するという“楽しさ”に代わるものが得られなければいけない。運転することの代わりに得た時間を自由に使うということが重要なのです」とコメントした。

パートナーと共に重要な課題を解決

 では、AI19に実際に乗り込んでみよう。これはあくまでもデモンストレーターだが、ほとんどのスイッチ類は稼働し、実際に今ある技術が組み合わされていることがよく分かる。

 その説明をしてくれたのは、アディエントアドバンスドデザインマネージャーのジョン・ゴメス氏だ。このAI19はLGやオムロン、オートリブなどとパートナーを組み開発された。その点について、「自動運転車の中で求められている機能が増えてきており、シートというものも複雑化していることを認識しているからです。例えばオートリブと一緒に安全性を検討しながら共同開発しており、LGは電気的なもの、オムロンはシートの動きを制御する装置を一緒に開発しています」と説明。

 そのシートはそれぞれ手下のスイッチで全てのポジションが変えられるほか、温度管理も3か所(座面、背面等)で行なわれており、その全てで温度調整が可能だ。また、頭をヘッドレストにつけると高レベルなサウンドシステムを楽しむことができるほか、正面のスクリーンで映画を見ることも可能だ。AI19は4人乗車(最大6人)をメインに想定しているので、その画面を分割し、かつそれぞれの乗員ごとのサウンドゾーンをヘッドレストで作り出し楽しむこともできる。

 シートのセンター下にはスナックバーが用意されており、天井にあるカメラでそこから何かを取り出したかどうかを認識し、課金も可能だ。

ドリンクのメニュー
シートのセンター下に用意されるスナックバー
天井にあるカメラで認識

 そのシートレイアウトもそれぞれが15度内向きにセットされている。これは車名のAI19“クローバー”が由来で、四葉のクローバーをイメージ。その姿勢で真っ直ぐに前を見ると誰とも視線が交わらないのだ。「例えば知らない人同士で乗ったとしても、正面同士であれば気まずい雰囲気が漂うかもしれないが、このようになっていれば、自然にセンター部分に視線が行きます。一方、知っている人同士であれば自然に頭を動かして会話ができるようになるでしょう。英語ではキャンプファイヤーアレンジメントというものです」と関係者は説明した。

四葉のクローバーをイメージしたエンブレム

 そしてゴメス氏は、「シートメーカーとして、このような機能を盛り込むことへの重要性が高まっていると認識しています。AI19の車内のほとんどを占めているのがシートです。そういった点からもシートの役割は重要なのです」という。

 また、前述のメンテナンス性についても、「シートなどは交換しやすく、簡単に取り外せますし、大きなドアもそのために役立っています。また、ファブリック部分は耐久性が高い他に、撥水性も高い特殊なコーティングが施されており、抗菌機能もあります。これはアディエントのアルティジンというファブリックを使用しており、すぐにでも提供できるものです」と話す。

 安全性においては、「サイドにエアバッグが搭載され、シートベルトと合わせてエアバッグが座っている姿勢に合わせて最適な開き方や締まり方がなされますが、引き続き設計上の課題としてオートリブとともに、エアバックとシートベルトの組み合わせ方については研究開発していきます」と述べる。また、トーマス氏も、「天井のカメラで体の全ての関節や骨の位置を検知できるので、それも1つの重要な要素となり、人の姿勢などからエアバッグの展開方法やシートベルトの最適な張り具合などもできるようになるでしょう」と説明。

 アディエントとしては、「AI19は現在提供できることが可能な技術ばかりで作り上げていますので、次のクルマまでには短時間で開発できるものです」とジョン氏。しかし、「技術面とは別にインフラや法規などさまざまな要素が揃っていかないとレベル5の自動運転は実現できないでしょう。われわれはおおよそ2030年ぐらいのイメージで取り組んでいます」と述べた

 最後にジョン氏は、「もちろん普通に運転するためのシートも忘れないで開発をします。われわれは運転が大好きです。その運転の楽しさがあるにも関わらず、自動運転になりますから、その運転をしない時間で得られるものがあるように目指しました」とコメントし、運転する楽しさと同等かそれ以上の楽しさや時間の使い方が求められ、それを踏まえて開発していくことを語った。