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【SUPER GTインタビュー】ブリヂストン 寺田浩司氏に聞いた2019シーズンのタイヤ戦略

GT500クラスは最低限チャンピオン。GT300クラスは1戦1戦確実に

ブリヂストンを装着する38号車 ZENT CERUMO LC500

 日本のトップタイヤメーカー「ブリヂストン」は、仏ミシュラン、米グッドイヤーと並ぶ世界の3大タイヤメーカーの1つで、1997年~2010年にはF1世界選手権にタイヤを供給。多数の勝利とタイトルを獲得するなど、モータースポーツ活動に熱心に取り組む企業として知られている。現在でも、インディ500を頂点としたインディーカー・シリーズに「ファイアストン」ブランドでワンメイク供給するとともに、SUPER GTにもシリーズの開始当初から参戦して、これまで多数の勝利やタイトルを獲得したチームへタイヤを供給してきた。

 ブリヂストンのSUPER GT活動の特色は、GT500クラスではレクサス5台、日産1台、ホンダ3台と、15台中9台にタイヤを供給しており、GT500クラスの最大勢力となっていることだ。また、近年はGT300クラスにも積極的にタイヤを供給しており、2018年はGT500クラスとGT300クラスの両方でブリヂストン装着車両がチャンピオンを獲得した。

 そうしたブリヂストンのSUPER GTの活動に関して、ブリヂストン MSタイヤ開発部長 寺田浩司氏に話をうかがってきた。

株式会社ブリヂストン MSタイヤ開発部長 寺田浩司氏

2018年はGT500クラス、GT300クラスの両クラスでチャンピオンを獲得した絶対王者ブリヂストン

 ブリヂストンは、SUPER GTの前身である全日本GT選手権が立ち上げられたころからタイヤ供給を続けており、多くの年で装着車両がチャンピオンを獲得してきた。そうした歴史もあり、現在でもGT500クラス車両へのタイヤ供給は、全タイヤメーカーで最多の9台となっている。また、後述するGT300クラスの5台を入れると、実に14台の車両に対してタイヤを供給しており、この台数は横浜ゴムの24台に次いで多い供給台数となる。

2019年 GT500クラスのブリヂストン装着マシン

1号車 RAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/ジェンソン・バトン組)
6号車 WAKO'S 4CR LC500(大嶋和也/山下健太組)
8号車 ARTA NSX-GT(野尻智紀/伊沢拓也組)
12号車 カルソニック IMPUL GT-R(佐々木大樹/ジェームス・ロシター組)
17号車 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット組)
36号車 au TOM'S LC500(中嶋一貴/関口雄飛組)
37号車 KeePer TOM'S LC500(平川亮/ニック・キャシディ組)
38号車 ZENT CERUMO LC500(立川祐路/石浦宏明組)
39号車 DENSO KOBELCO SARD LC500(ヘイキ・コバライネン/中山雄一組)

39号車 DENSO KOBELCO SARD LC500(左)と1号車 RAYBRIG NSX-GT(右)

 2018年のブリヂストンのGT500クラスでの戦績は、前年は100号車だったRAYBRIG NSX-GT(山本尚貴/ジェンソン・バトン組)がシリーズチャンピオンを獲得して、2019年の1号車となった。さらに、全8戦のうち7勝をブリヂストンチームが獲得するという年でもあった。2016年の39号車DENSO KOBELCO SARD RC F、2017年の37号車KeePer TOM'S LC500に続き、3年連続でチャンピオンカーにタイヤを供給するという栄誉に輝いただけに、成功した1年だったと言っていいだろう。2019年はディフェンディングチャンピオンとして4年連続のタイトル獲得を目指す年になる。

 GT300クラスに関しては、2018年より1台増えた5台の車両にタイヤを供給する。昨シーズンはユーザーチームの1つである65号車 LEON CVSTOS AMG(黒澤治樹/蒲生尚弥組)が最終戦で勝利してチャンピオンとなっており、ドライバーランキングでも1位~3位をブリヂストンのユーザーチームが独占した。

2019年 GT300クラスのブリヂストン装着マシン

31号車 TOYOTA GR SPORT PRIUS PHV apr GT(嵯峨宏紀/中山友貴組)
52号車 埼玉トヨペットGB マークX MC(脇阪薫一/吉田広樹組)
55号車 ARTA NSX GT3(高木真一/福住仁嶺組)
65号車 LEON PYRAMID AMG(黒澤治樹/蒲生尚弥組)
96号車 K-tunes RC F GT3(新田守男/阪口晴南組)

96号車 K-tunes RC F GT3(奥)と55号車 ARTA NSX GT3(手前)

 2019年から増えた52号車 埼玉トヨペットGB マークX MC(脇阪薫一/吉田広樹組)は、岡山国際サーキットで行なわれた開幕戦でいきなり予選3位に入り、決勝レースでも3位に入る活躍を見せた。昨年他メーカーのタイヤを履いていた時にはなかなか上位に顔を見せることがなかっただけに、他の陣営に対しても強い印象を与えたと言ってよい。

 2019年シーズンのブリヂストンのGT300クラスは、開幕戦と第3戦で96号車 K-tunes RC F GT3(新田守男/阪口晴南組)が優勝しており、ここまで2勝と上々の滑り出しを見せている。

GT500クラスは最低限チャンピオン。GT300クラスは「普通にやっているだけ」でも最終戦までチャンピオン争いが目標

──2018年シーズンを振り返っていかがだったでしょうか? 両クラス共にチャンピオンを獲得し、上位を独占というよい年だったと思いますが

寺田氏:GT500クラスに関しては2015年シーズンから4年間と考えますと、2016年5月の富士、2017年の鈴鹿でいずれもタイヤバーストを経験しています。その影響としては、GT500クラスの車両が毎年速くなっていることにあると思います。昨年からローダウンフォースになりましたが、タイヤへの入力は厳しくなるばかりです。われわれが何よりも重視していることは、壊れないタイヤを作ることです。そうした故障が起きることなく1年が終わった、それがチャンピオンシップにいい影響を与えたのではないでしょうか。

──岡山の開幕戦のレースを振り返っていかがでしょうか?

寺田氏:岡山のレースではウェットレースになり、走れている時は赤旗ギリギリのコンディションだったので、タイヤの優劣を語るにはあまり意味がないと考えています。ホンダ勢はウォームアップがよかったのは見ていてもお分かりいただけたと思いますが、実は岡山からウェットタイヤを新スペックにしています。日産 GT-Rの12号車もウォームアップはよかったと言っていただいています。水量が少なくなってロングランになっていたら、ミシュランさんの23号車との戦いがどうなっていたかは分かりませんが、これはタラレバになってしまうので、なんとも言えません。

 シーズン前のテストでも冬の岡山がわるく、寒くなるとグレーニング(ささくれ)が出ると言われていたので、そこを意識した開発とスペックの持ち込みを行ないました。

開幕戦の岡山からウェットタイヤが新スペックに

──昨年は現行規定になってから初めてNSX-GTがチャンピオンを獲りました。そのNSX-GTの3台にタイヤを供給しているブリヂストンとしてはいかがでしょうか?

寺田氏:NSX-GT向けの開発に関しては、本田技術研究所四輪R&Dセンターさくら研究所と地道にやってきた成果が出ています。ホンダさんは技術的なものをお持ちで、新しいことにトライされるので、こちらもそれに応じた開発をしています。具体的なことは説明できないのですが、とてもイノベーティブな開発をされていると思います。

──GT500クラスでは唯一のミッドシップになりますが、その影響はどの程度あるでしょうか? ミッドシップ向けにタイヤを変えていることはありますか?

寺田氏:それに関してはここ数年ほぼ同じです。変えてよくなるなら変えたいのですが、今のところはそうではないです。ミッドシップはやはりタイヤへの入力という点では厳しくなっています。例えば、2017年の鈴鹿1000kmが端的な例ですが、レクサスさんの車両では壊れないタイヤが、ホンダさんでは壊れるということが起きています。どうしてもリアが重くなり、フロントが軽くなるということが影響しているかもしれません。ただ、今年は開幕戦からミッドシップハンデのウェイトを搭載するところが変わり、それがフロントのハブ線より前に搭載されているので、それで変わってくる可能性はあると考えています。

 具体的に何が違うのかというと、リアタイヤもフロントタイヤもほぼ同じで、持っていくスペックの違いが生じる時があるという状況です。

唯一のミッドシップとなるNSX-GT

──GT300クラスに関してはいかがでしょうか?

寺田氏:昨年もご説明させていただいたと思いますが、GT300クラスに関しては本当に普通にやっているだけなのです。開幕戦でポールを獲ったNSX GT3(55号車)の高木選手に「ミッドシップに合うタイヤを作ってくれた」とリップサービスでおっしゃっていただきましたが、そんな大したことをやっていないというのが実情です。フロントは細く、GT500クラスと同じサイズでGT300クラスに合わせたタイヤになりますが、65号車 LEON RACINGのメルセデスと同じなので、それがあうか、これで大丈夫かという程度で合わせているだけなのですが、最初からそこそこ走っていただけていると思います。

GT300クラスに向けては「すごいことはやっていない」という

──GT500クラスのタイヤとGT300クラスのタイヤに共通性はあるのでしょうか?

寺田氏:共通性はあります。確かにGT300クラスはGT500クラスと比べて、車重が重くコーナリングスピードは遅いといった厳しさもあるのですが、ABSやトラクションコントロールなども付いているので、開発の難易度としてはそこまで高くないという状況です。ただ、GT500クラスで使ってみてよかったものは、当然GT300クラスでも使っています。タイヤメーカーテストだと2台までしか走ってもらえず、ユーザーチームの皆さまには走っていただけない状況です。そんな中でスペックを選んでいただいたり、開発をしていくのは簡単ではありません。GTAのテストでも、レースに向けてコンパウンドのチェックをロングランでやっている状況となっています。タイヤメーカーテストは公平を期すため、ユーザーチームに順番に2台ずつ来ていただいています。

──今シーズンのタイヤ開発の方向性は?

寺田氏:基本的にはピークグリップを上げていき、かつ温度的にワイドレンジであること目指します。つまり、暑かろうが寒かろうがグリップを上げるという、レースタイヤとしては当たり前の方向性だと思っています。ちょっと前まではひたすらピークグリップを上げようとしていたのですが、今回(富士500kmレース)だと3スティント、8セット、フリーで2セット使います。ちょっとでも温度レンジを外したタイヤを作ってしまうとなかなか戦いにくいので、多少暑くても寒くても、今までのものよりは作動しますよ、という方向性で開発をしています。そうした開発の方向性をユーザーチームの皆さまにも説明してご理解いただいています。そうしないと、路面温度が変わったので慌ててソフトにしようなどとなってしまうので。以前のように、金曜日の天気を見て慌ててタイヤを変えるということがないような意識でやっています。

天気によって慌ててタイヤを変える必要がないような方向性のタイヤづくりを目指す

──最近のトレンドとして、デグラデーション(ゴムの劣化)への対策を打ち出すタイヤメーカーが多いのですが、ブリヂストンはいかがでしょうか?

寺田氏:もちろん対策しています。開発の中でやってることはお話できませんが、弊社以上にやってるところはないと思っています。コストもかけていますし、やれることは何でもやっています。それはゴムも構造も何もかもです。コンパウンドに関してはゴムの最適化を行なったり、難易度の高い新しい原材料を試したり、やれることは何でもやって作り込んでいます。もちろん製造に関してもハードルになるので、工場側とやりとりしながら落とし込んでいきます。もちろんそれには時間がかかりますので、それをできるだけ早いサイクルで回していく、それがレースタイヤ開発の現状です。

──最後に今シーズンの目標をお願いします。

寺田氏:GT500クラスに関しては最低限チャンピオンです。LC500、GT-R、NSXという3メーカーの車両が最終戦でチャンピオンを争うような状況に持ち込みたいです。GT300クラスに関しては得意なレース、苦手なレースに一喜一憂しないで、1戦1戦確実に戦っていき、やはり最終戦でいい結果になるようにしたいです。