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ITS Japan、「2019年度通常総会・総会シンポジウム」で自動運転や先進安全に関する最新の取り組みを紹介

2019年6月17日 開催

特定非営利活動法人ITS Japan 会長 佐々木眞一氏

 ITS Japanは6月17日、東京都千代田区の経団連会館で2019年度の通常総会と、最新の取り組みを紹介する総会シンポジウムを開催した。

 総会の冒頭で、ITS Japan会長の佐々木眞一氏があいさつを行なった。佐々木氏は、「自律型の自動運転やMaaS(Mobility as a Service)などを社会のシステムとして実装し、顧客の安心・安全で豊かな生活を実現するには、まだスピードや展開力に改善の余地がある」と語った。特に、ITS Japanの活動の中でも重要な「交通事故の防止」に関しては、全体的には事故件数や死者数が減っているものの、歩行者を巻き込んでの重大事故や、高齢者の運転ミスが原因と考えられる事故について、ITS Japanとしてはもっと積極的に事故防止の方策に関する情報発信や政策提言をしていかなくてはならないと考えているという。

 ITS Japanが進めている第3期中期計画では、少子高齢化や地方の衰退、東京一極集中、災害への備えなどに対して、ITS基盤の整備によって社会課題の解決に貢献していく方針で、今後はさらに力を入れていく必要がある。また、多くの自治体やNPOが進めているITSの社会実装については、現地に勉強に行き、その活動主体と交流を図ることによって、日本全体のITSの社会実装を進めることに貢献したいと考えているとした。

 さらに、海外のITS関連団体との連携についても重要なテーマで、国際的に通信やITSの利活用に関する技術標準や法規制が進められている現在、日本もその中でイニシアティブを取った議論を進められるように、また、日本が孤立化することのないように、情報・連携活動に力を入れていく方針であると語った。

国土交通省 自動車局 次長 島雅之氏

 来賓を代表して登壇した国土交通省 自動車局 次長の島雅之氏は、2014年から毎年発行している「官民ITS 構想・ロードマップ」において、自家用車については2020年に高速道路での自動運転、人の移動サービスについては2020年までの限定地域での無人自動車実現といった目標を掲げており、道の駅などを拠点とした自動運転サービスやラストマイル自動運転について、SIPなどの事業を通じて必要な技術開発や社会実装に向けた取り組みを産官学連携で実施していると語った。

 また、自動運転車に関する交通ルールのあり方や、保険などを含めた責任関係の明確化、クルマの安全など、関係する法整備も不可欠とし、2018年に政府で取りまとめた「自動運転に係る制度整備大綱」を踏まえ、自動運転に関しての設計から開発、ユーザーの使用まで一貫した自動車の安全確保の整備を目的とした「道路交通法の一部を改正する法律案」が5月に成立したと報告した。今後は自動運行装置などについて、国際的な議論を踏まえながら具体的な基準の整備を進めていきたいと考えているといい、ITSの分野で日本が制度的な役割を果たしていくためには、ITSのノウハウを世界各国と共有して、アイディアを育てていくことが重要だと語った。

 2019年度の総会では、例年のとおり前年度の収支決算と次年度の予算案の審議が議案となった。また、本田技研工業 専務取締役の竹中弘平氏のITS Japan 監事退任および、同社の執行役員を務める森澤治郎氏の新任を含めた計3点が議案として取り上げられ、全て賛成多数で承認となった。

 なお、総会後に行なわれた第35回理事会では、常務理事にITS Japan 理事・企画グループ長の宇津木年典氏、常任理事に住友電気工業 常務執行役員の柿井俊昭氏、デンソー 経営役員の竹内裕嗣氏、日立製作所 執行役常務の鈴木教洋氏、富士通 シニアフェローの宮田一雄氏、本田技研工業 常務執行役員の三部敏宏氏の選任が議案として取り上げられ、すべて承認された。

2018年度に取り組んだ活動内容の紹介
2018年度の収支決算(案)
2019年度の取り組み概要
「ITS Japanが目指す姿」
本田技研工業 執行役員 森澤治郎氏を幹事に選任
総会後に行なわれた第35回理事会では、常務理事1名と常任理事5名を選任

総会シンポジウムでは自動運転に関する研究会の取り組みなどを紹介

特定非営利活動法人ITS Japan 内村孝彦氏

 通常総会後に行なわれた総会シンポジウムでは、ITS Japan 常務理事の宇津木氏と大月誠氏、内村孝彦氏、ITS Japan理事の鈴木薫氏、「ITS世界会議シンガポール2019」組織委員会 委員長を務めるチン・ケン・キョン(Chin Kian Keong)氏の5名が登壇した。

 宇津木氏は、ITS Japanが取り組む第3期中期計画の概要を解説。「多様性に対応した新たな交通手段の実現」「情報利活用のための基盤作り」「多様な地域の実状に合ったITSの社会実装」の3つを挙げて、2016年度からこれらのテーマを軸に委員会活動を推進してきたと語った。大月氏はスマートシティ情報基盤作りに向けた取り組みを、鈴木氏は統合的移動サービスの実現に向けた活動を、内村氏は自動運転の取り組みをそれぞれ報告。チン氏は、10月21日~25日に開催される「ITS世界会議シンガポール2019」の見どころについて紹介した。

宇津木年典氏は第3期中期計画について解説
大月誠氏はスマートシティ情報基盤作りに向けた取り組みを紹介
鈴木薫氏は統合的移動サービス実現への取り組みを説明
チン・ケン・キョン氏は「ITS世界会議シンガポール2019」の見どころを紹介

 このうち内村氏は、2008年から始まったITS Japanにおける自動運転のこれまでの取り組みを紹介した上で、2015年からスタートした自動運転研究会を紹介。研究会では、3次元地図の試作・評価を行なう「マップ付加価値」「ダイナミックマップPF(プラットフォーム)検討」「HMI(ヒューマンマシンインターフェース)」「交差点」「自動運転支援センター」などのさまざまなサブワーキンググループを作り、検討を重ねてきた。

 欧米では統合移動サービスへの取り組みが始まっており、米国ではMOD(Mobility on Demand)、欧州ではMaaSの統合移動サービスにおいて自動運転を活用することが期待されている。このような状況を考慮して、ITS Japan自動運転研究会としては、モビリティサービスにおける自動運転に取り組む方針で、「自動運転を活用した移動の将来像検討」のサブワーキンググループを立ち上げて、レベル 4モビリティサービスの実用化を焦点として課題を検討しているとした。

 このワーキンググループでは、新宿などの具体的都市への自動運転導入案を作成して課題を検討し、ラストマイル自動走行等社会実装連携会議への参画、自動運転実用化に向けた国際連携活動などを行なってきた。さらに、現在の課題としては、地域特性を考慮した車両仕様の検討や、利用地域による実用化案の検討、eスクーターなど新しいモビリティの実現などを挙げた。

 新しいモビリティについては、事故の発生などを契機に利用が規制されるケースもあり、便利なモビリティの導入が妨げられる可能性もあるため、導入についてはモビリティの特徴を理解し、社会と協調して安全なモビリティとして活用していけるように、関係各所との連携が必要となる。自動運転研究会では、このような新しい取り組みが重要であると考えており、今後も継続して取り組んでいく方針だと語った。

内村氏のプレゼンテーション内容