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TOYO TIRE、短期間で高性能なタイヤの開発を可能にする「T-MODE」技術説明会

シミュレーションデータを蓄積しAIを活用することで開発の速度と精度を向上

2019年7月9日 開催

TOYO TIREがタイヤ設計基盤技術「T-MODE」の技術説明会を開催

 TOYO TIREは7月9日、新しいタイヤ設計基盤技術「T-MODE」を発表し、その技術説明会を報道陣向けに開催した。説明会では、TOYO TIRE 執行役員 技術開発本部長 商品開発本部長の守屋学氏が登壇したほか、質疑応答には同社 技術開発本部 先行技術開発部 部長の大石克敏氏も出席した。

 T-MODEの解説は守屋氏よって行なわれた。守屋氏によれば、TOYO TIREは1987年に国内タイヤメーカーとして初めてスーパーコンピュータを導入し、タイヤの設計基盤技術を独自に開発してきたと言う。

TOYO TIRE株式会社 執行役員 技術開発本部長 商品開発本部長の守屋学氏が解説

 2000年には、今回発表したT-MODEの前身となるタイヤ設計基盤技術「T-mode」を構築。タイヤ設計基盤技術とは、タイヤの形状やトレッドパターンなど、構造設計に関する技術を指す。一方でタイヤの材料となるゴムを開発する、材料設計基盤技術「ナノバランステクノロジー」を2011年に構築。TOYO TIREでは、タイヤの構造を開発するタイヤ設計基盤技術と、材料自体を開発するタイヤ材料設計基盤技術。この2つの基盤技術を両輪としてタイヤの開発を進めているとした。そして今回発表されたT-MODEは、このうち、タイヤ設計基盤技術に相当する。

 TOYO TIREでは、CASEの到来によりモビリティ社会は大きな変革期を迎えており、タイヤにおいてもさらなる進化が求められると考えている。その進化に対応するためには、求められる明確な機能や性能を、高精度、かつスピーディに実現する必要があると言う。

 同社では、これまでのT-modeでもスーパーコンピュータを用いることでシミュレーションを行ない開発してきたが、新たなT-MODEでは、これまでのシミュレーション基盤技術に加え、そこで得られたデータをSPDM(Simulation Process and Data Management)によって自動で蓄積、管理。さらにそのビッグデータとAI(人工知能)技術を組み合わせることで、短期間で高性能タイヤを開発することを可能にしたという。

TOYO TIREのタイヤ開発プロセスの系譜
CASEによってタイヤにもさらなる進化が求められるという
従来のシミュレーションを基本としたT-modeから、データを活用する新たなT-MODEへ
T-MODEでは従来のシミュレーション基盤技術にSPDMを用いて設計支援技術を統合

T-MODEを支える3つの技術

 新たなT-MODEは3つの技術で構成される。まず1つ目は従来のT-modeでも用いていたシミュレーションの基盤技術で、これはすなわちスーパーコンピューティング技術だという。

「タイヤの性能予測はデータが膨大で、現象が複雑なため、スーパーコンピュータによる計算が必要不可欠だと考えている。当社はタイヤ性能を予測するためにタイヤシミュレーションに特化したソフトウェアを自前で開発してきた」と言い、2019年にはこのソフトウェアに合わせて新たなスーパーコンピュータと超並列化技術による「第6世代HPCシステム」を採用した。

 この新システムは従来の約4倍の処理能力を有するという。これにより例えば構造解析においては、従来は2次元のトレッドパターンデータから擬似的に3次元を作り出していたのに対して、3次元のトレッドパターンを忠実に再現することが可能となった。これで溝の形や角度も再現することができるようになり、より正確なシミュレーションを可能にするという。

 加えて新しいT-MODEには欠かせない、機械学習に必要となるデータを自動生成できるようになった。

T-MODEを支える3つの技術のうちの1つがシミュレーション基盤技術
第6世代HPCシステムで処理能力が4倍になり、機械学習データの自動生成も可能に
構造解析もより精度が向上
クルマの形状も踏まえた空力特性も予測可能に

 T-MODEを構成する2つ目の技術が「設計支援技術」となる。

「従来はタイヤの設計者は設計手法の1つとしてシミュレーションを利用してきた。これは各設計者個人のデータとして設計指針を立てるために活用してきたもの」だという。しかし「シミュレーションは膨大な量であり、貴重なビッグデータである」と言い、T-MODEではそうした設計者が実施したシミュレーションデータを共有サーバに自動的に蓄積できるシステムを実装した。

 守屋氏は「そのデータが蓄積されることで機械学習、つまりディープラーニングのデータとして有効活用することができるようになった」と説明する。

2つ目の技術が設計支援技術。蓄積されたシミュレーションデータを元に、機械学習によってタイヤ特性値を抽出し、設計を効率化する

 そして最後が、先のシミュレーション基盤技術と設計支援技術をつなぐSPDMの技術になる。

「設計支援技術によってシミュレーションデータを資産化することは非常に重要だが、このデータの付加価値をさらに高めるためには設計データ、実験データとの紐付けが重要になる」と守屋氏は説明する。

 機械学習するためにはインプットデータとアウトプットデータが必要だと言い、この場合のインプットデータはタイヤの設計データ、アウトプットデータはシミュレーションデータと実験データになる。そしてこの2つを紐付けし、機械学習に必要な付加価値の高いデータを生成するのがSPDMの役割となる。

SPDMがシミュレーションデータとその元となるインプットデータを紐付けし、機械学習に必要なデータとして蓄積、管理する

 TOYO TIREでは、このシミュレーション基盤技術、設計支援技術、SPDM技術という3つの技術を1つのプラットフォームとしてシームレスに利用できる環境を整えてきたと言う。

 これにより、例えば設計者がタイヤ断面形状について何通りか検討したシミュレーションデータは、すべてその設計情報とともにSPDMを介して自動的にデータが資産化され、実験検証を行なったものにおいては、実験データを紐付けされた状態でデータが資産化される。

 この累積された付加価値の高いデータは機械学習によって活用ができる。累積されたビッグデータとAIを組み合わせることで、これまでのようにその都度シミュレーションをするのではなく、設計要因を入れれば即座にそのタイヤの性能を導き出すことが可能になる。

 さらに開発プロセスとして、従来とは逆の手順を用いることも可能となる。目標とするタイヤの性能を入力すれば、そのために必要なタイヤの設計を導きだすことができる。いずれの場合においても、従来とは異なり、リアルタイムに答えを導き出せるのが大きな特徴だ。

3つの技術をシームレスにつなぐことで、リアルタイムなシミュレーション、さらには求める目標から設計を導き出すといった新しい開発の選択肢が実現する

 守屋氏は「この新しいT-MODEによって、当社の開発プロセスは革新的なスピードと高い精度を手に入れることができた」と言い、T-MODEは、これからのCASEの時代において要求されるであろうさまざまなニーズに対して、迅速に、かつ高い要求にも応えられる製品開発を可能にするものだとした。

 この新技術が実際の製品開発に投入されるタイミングが気になるところだが、大石氏によれば、T-MODEに必要なデータの収集も年内にはめどが付くとのことで、年末あるいは2020年初頭に開発を始める製品から投入されるであろうとした。また、AIの活用についても、外部機関の大学と研究をしていて、年末には完成する見込みだとした。

 また、今回発表したT-MODEについては、7月17日~19日にポートメッセ名古屋で開催される「人とくるまのテクノロジー展 2019 名古屋」のTOYO TIREブースでも紹介される。

質疑応答では守屋氏に加え、TOYO TIRE株式会社 技術開発本部 先行技術開発部 部長の大石克敏氏(写真右)も出席した