ニュース
TOYO TIRE、AIの推定モデルで“タイヤ力”を見える化するタイヤセンシング技術発表会
パートナーとの協業でタイヤに新しい付加価値を生み出したい
2020年2月8日 09:00
- 2020年2月7日 開催
TOYO TIREは2月7日、同日に発表した新しいタイヤセンシング技術コンセプトについて解説する技術発表会を都内で開催した。
発表会では最初に、TOYO TIRE 執行役員 技術統括部門管掌 守屋学氏が登壇。新しいタイヤセンシング技術コンセプトを開発した背景として、100年に一度と言われる自動車業界の変革期の象徴となっている「CASE」(Connected、Autonomous、Shared、Electric)の概念が誕生し、これを受けてタイヤでも、さらなる高機能化が求められていることを説明した。
コネクテッドに対応するインテリジェント化、自動運転やEVで必要となる高度な車両制御の支援、シェアリングでの管理やメンテナンスの支援といった機能をタイヤに持たせるため、タイヤを装着する車両やタイヤを使うユーザー、車両の管理会社などにタイヤの情報をアウトプットする視点が必要になる。
この実現に向け、タイヤを路面と車体をつなぐ接点としてだけでなく、「情報を吸い上げるデバイス」として機能させていくことが必要だと述べ、TOYO TIREだけでなく、タイヤ業界全体で推し進められているという。守屋氏は「当社独自の切り口から、ユニークで新しいモビリティの創造につなげていきたい」との意気込みを語りつつ、革新的な技術は単純に技術的なハードルを乗り越えるだけでは実現できないと解説。
その技術によって生み出される商品やサービスが消費者のニーズにどれだけマッチしているのか、実際の需要規模がどこまで見込まれるのかといった見極めや、現在流通している規制やルールを変更する必要がある場合には、どの地域から、どのようなスピードで進めていけばいいのかといった調整、最終的に関与する企業が十分に利益を確保できるスキームになるのかなど、さまざまな要素をしっかりと整えていく必要があるとした。
CASEのようなデジタル革新が速いスピードで自動車産業の骨格にあたる部分を変えていくことに疑いを挟む余地はないと守屋氏は語り、一方で技術の革新に加え、キーになるさまざまなファクターを組み合わせていく作業も重要になってきているという。
今回の発表は完成した技術を公開するといった従来型のものではなく、現在進行している技術を披露し、その可能性についてゲストや取材に集まった記者などとディスカッションすることで、興味を持った専門的な知見を持つ人とコラボレーションすることを目的にしていると語った。
新技術の具体的な解説は、TOYO TIRE 技術開発本部 先行技術開発部 設計研究・技術企画グループ担当リーダー 榊原一泰氏が担当。
新技術は、CASE社会の次世代モビリティに求められる「より安全で安心な移動を支援する」というタイヤの付加価値を実現するための手段として開発。コネクテッド化やメンテナンス支援などに共通するテーマとして、リアルタイムのタイヤ情報、タイヤを介して得られる情報を検知し、アウトプットすることを新技術の主目的としている。
タイヤの先進技術では、タイヤの空気圧や温度などを監視する「TPMS」(タイヤ空気圧監視システム)が実用化されており、メーカー各社で「路面判別」「荷重」「摩耗」「異常」などの検知技術を開発してきている。
TOYO TIREではセンシング技術によって検知した各パラメーターのデータを取りまとめ、新しい概念である「タイヤ力」として定義。タイヤにかかる力を総合的に表現しつつ、リアルタイムに検知した情報を車両や乗員に提供するという。
具体的には、まず路面が「乾いている」「濡れている」「凍っている」といった路面判別を実施。これにタイヤの状態や車両の走行速度、今後の荷重変化などの情報を組み合わせることにより、現状とタイヤが今後どうなるのかを判定。直進状態で走っているクルマが、この先のコーナーを安全に曲がりきれるのか、凍結した路面で安全に停止できるのかなど、ドライバーが欲しい情報をタイヤ力として「見える化」するという。
ハード面では4輪のホイールにセンサーと無線モジュールが取り付けられ、タイヤのリアルタイム情報を測定。車内に置かれたエッジ処理機器にデータが送られる仕組みとなる。新技術の開発では、ホイールのセンサーで計測したデータに加え、車両の出力軸に計測機器を設置してデータを同期取得。2種類のデータを組み合わせ、AI(人工知能)にディープラーニング(深層学習)で教え込むことによって「タイヤ力推定モデル」が構築されている。PoC(概念検証)によってタイヤ力推定モデルに実現可能性があることが判明したことから、2019年から宮崎県にあるTOYO TIREのテストコースで走行実験を実施。データの蓄積を進めているという。
スライド内では雨天時にテストコースを走行するムービーが使われたが、このほかにもテストでは積雪路やプロドライバーによる限界付近の走行など、さまざまな走行状況で走行実験を行なってデータ蓄積を進めていることも紹介された。
タイヤ力の見える化を行なうことのメリットとしては、障害物を検知した場合に衝突被害軽減ブレーキが作動する場合に必要となる制動距離が明示されることや、道路の先にあるコーナーを安全にクリアするために必要となる減速のアラート、装着しているタイヤで積雪路を経由する経路で目的地まで安全にたどり着けるか、データを蓄積することによりトラブルが発生した時の原因の推測など、ユーザーが求めるさまざま新サービスを提供できるようになると解説された。
地図やカーシェアとの連動で新たな付加価値を生み出したい
発表会の後半では、TOYO TIREの登壇者2人に加え、データサイエンスの活用で新技術の開発に協力したSAS Institute Japan ソリューション統括本部 執行役員 森秀之氏、車両販売における市場動向の調査・分析、需要予想などを行なっているIHSマークイット 日本・韓国ビークル・セールス・フォーキャスト マネージャー 川野義昭氏がゲストとして参加。4人によるディスカッションが行なわれた。
この中で、SASの森氏は新技術の開発にあたり、計測対象となるタイヤ力はこれまでにない新しい概念だけに、どんな要素が求められるのかをTOYO TIRE側と精査して、しっかりと理解するため時間を割いたと説明。また、一般的にIoT機器を使って収集した情報はクラウドに蓄積されて処理されるケースが多いが、今回は車内のエッジ機器でリアルタイムに処理を行なって利用するという想定で、これは非常にチャレンジングな取り組みだったとコメント。しかし、同社のデータサイエンティストではこうした取り組みをやってみたいと考えていた人材が多く、高い実績を持つスタッフを選抜して臨めたと明かした。
IHSマークイットの川野氏は新技術の活用について、刻々と変わる路面状況をクルマの中で唯一接するタイヤによってセンシングすると、タイヤ自体がより進化していくことに加え、実用化に向けて開発が進んでいる自動運転の分野で、人間が運転して心地よく感じる運転と自動運転で生じる感覚的なギャップを埋めることにも利用できるだろうと分析。また、膨大な情報をその場で処理して活用できることも、今後の自動車の進化に向けて大きなステップになるだろうと述べた。
TOYO TIREの守屋氏は、新技術の独自性について「現在、いろいろなメーカーさんで同様の取り組みをしているかと思いますが、ここまで踏み込んで進めているのはわれわれだけかなと思います。技術単体としては先行して発表されていても、実際に運転するドライバーの皆さんにも非常に興味を持っていただけるような、あるいは今後のクルマ社会の発展につながっていく、そんな技術になっていると私は考えています」と語った。
TOYO TIREの榊原氏は今後の展開について「車載されているエッジの部分でデータを車内で完結させる必要があります。その一方で、情報をデータ化してクラウドで共有することでさらなる付加価値を生み出すといったサイクルも考えていて、そういった仕組みに入っていただけるパートナーさんと共用していきたいです。そこから横展開して、データの活用や管理、コネクテッドなどと広がっていくと、このタイヤ力という概念がデータとしての価値を持るようになると思います」。
「活用例で示したように、地図データと連動していくと、スリップが起きた地点を記録してマップ情報を豊かにできたり、カーシェアでユーザーごとに異なるタイヤの使い方をチェックして、カーシェアのポイントなどの形で還元したりといった形、または保険会社さんで活用してもらうとか、まだ会社として具体的に進めていることではありませんが、いろいろなコラボレーションで新しい付加価値を生み出していけるのではないかと期待しています」と述べている。