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ソフトバンク 孫会長、「日本はAI後進国」。世界の先進例としてトヨタも出資するグラブ アンソニー・タンCEOを紹介

「SoftBank World 2019」基調講演

2019年7月18日~19日 開催

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役会長 兼 社長 孫正義氏。「SoftBank World 2019」基調講演でAIを語る

 ソフトバンクグループは7月18日~19日の2日間にわたって、同社の法人向けソリューションを展示・紹介する「SoftBank World 2019」を都内ホテルで開催している。その初日となる7月18日、ソフトバンググループ 代表取締役会長 兼 社長 孫正義氏による基調講演が開催された。

 この基調講演の中で、孫会長はAI(人口知能)がいかにこれからの日本にとって重要であるか説明。とくに日本におけるAI利用の後進性については、中途半端にAIをかじった評論家などがAIの危険性などを説いている現状を危惧。「日本はいつのまにか、AI後進国になった」と強い口調で警告するとともに、世界のAI活用先進例を紹介。ソフトバンクグループが運用する「SoftBank Vision Fund」の出資先の中から4社を紹介。基調講演に各CEOを招き、その現状を具体的に示した。

 ソフトバンクグループが運用する「SoftBank Vision Fund」は、10兆円を運用する世界でも最大級のファンドで、その特徴は「AIに特化」「ユニコーンに投資」「シナジー創出」にあると孫会長はいう。多くのベンチャーキャピタルが、スタートアップ会社に投資をしているのに対し、SoftBank Vision Fundはユニコーン(一角獣)と呼ばれるその分野ですでに頭角を現わし、一番手になっている(もしくはなると孫会長が見抜いた)会社に投資を行なっている。その最大級のものが、IoT(もののインターネット)時代の主役でもあるArmへの3兆円投資だろう。

「SoftBank Vision Fund」による圧倒的な投資額。この投資額で世界を変えていく
投資する企業は決まっているという。AIによるユニコーン企業に投資。この投資ポジションが、世界の自動車メーカーの先を行った
投資する82社。グラブやDiDiなどのロゴら見られる
企業のトップ。1人が世界を変えることもあるという
イメージ映像でクルマが生み出すデータが紹介される
この20年ちょっとでデータは100万倍になった。今後30年で、さらに100万倍になるという
その一つが自動運転車によるデータの爆発的増加

 孫会長は、これらAI企業では日々生み出される膨大なデータをAIによって解析しているという。その例として、女子高生に高級車の広告を出してもマッチしないし、孫会長にドライヤーの広告を出してもマッチしないという。とくに、「最近ドライヤー使っていないしなぁ」と得意の髪ネタで笑いを取っていた。

トヨタも出資したグラブのアンソニー・タンCEO登壇

グラブのアンソニー・タンCEOを紹介

 今回「SoftBank World 2019」基調講演に招いた、シェアモビリティ企業の「Grab(グラブ)」も、AI企業の1つになる。

 グラブはよく知られているように、シンガポールにベースを置く東南アジア最大のシェアモビリティ企業。ビジネスモデルとしてはUberと同様で、東南アジアにおいてUberと激しく争い、その結果勝ち抜いた会社になる。世界第4位の人口となるインドネシアをはじめとした、東南アジア圏で最大のMaaS企業となった。

 このグラブにSoftBank Vision Fundは初期から投資。トヨタ自動車はMaaS事業を進めるにあたって世界各地でMaaS企業に出資してきたが、その前には必ずソフトバンクグループが出資しており、争うより協業するのがベターと考えたトヨタは、ソフトバンクとトヨタで合同出資するMONET Technologiesを設立。このMONET Technologiesに、本田技研工業など日本の多くのメーカーも出資し、日本のMaaSにおけるビッグデータ処理はMONET Technologiesに集約されようとしている。

 そのグラブを作り上げたのが、「SoftBank World 2019」に登壇したアンソニー・タンCEOだ。

最近髪を剃ったと髪ネタからあいさつするアンソニー・タンCEO。もちろん孫会長の髪ネタに反応してのこと。東南アジアを席巻するグラブのCEOは陽気だ

 アンソニー・タンCEOは、グラブの現在の事業を紹介。グラブはシェアモビリティアプリとして日本で知られているが、現在はGrabFoodやGrabPayなどのフード配送サービスや、支払いサービスへ展開。いずれも地域No.1のシェアとなっている。そのグラブの保有するデータは4PB(ペタバイト)で、1日に40TB(テラバイト)のデータを生成。利用する人の位置情報や利用履歴などにマッチする形でサービスを行ない、高い満足度を得ているという。

 もちろんこれらのデータ解析にはAIが活用されており、グラブ運用の大きな力になっている。

グラブの目指すものは、AIによる東南アジアの強化
圧倒的ダウンロード数を誇るグラブのアプリ
アプリが生み出すデータ。これを処理するグラブのAI
人々にマッチするサービスが行なわれる

 そして、アンソニー・タンCEOが、東南アジアにおける次のAI活用分野として挙げたのが「交通渋滞の克服」「食品廃棄物の削減」「貧困層の金融取引」。交通渋滞の克服では、移動経路の最適化や同乗人数を増やすことによってトラフィックを軽減。食品廃棄物の削減も、AIによる最適化で実現していくことができるという。また、貧困層の金融取引については、GrabPayの普及によって誰もが電子取引が可能になる。そして、その電子取引プラットフォームの上で金融商品の販売などは容易になるだろう。個人の支払い履歴データを解析し、個人にマッチした金融商品を電子的にオススメすればよいので、より効率的な営業活動や取り引きが可能になるのは自明の理だ。なんとかペイについては、SuicaなどICカードとのセキュリティ比較が語られることが多いが、なんとかペイの見ている先は、GrabPayに代表されるように銀行・金融業務の革新にある。

グラブが次に目指すのは、AIによる変革。次の3つの分野で起こしていく

インターネット革命に匹敵する、AI時代の到来

 孫会長はグラブのような1つの分野での成功を元にフードサービス、支払いサービスなどで勝利していくアプリを「スーパーアップ」と紹介。その代表例がグラブになるという。

 と同時に、このAIを活用したグラブのような成功を日本の企業にもしてほしいという。日本においてはAI懐疑論があったり、AIへの大規模投資が積極的にされていなかったりと、AIへの取り組みが遅れている現状を嘆く。冒頭で紹介した「日本はいつのまにか、AI後進国になった」という言葉もその流れの中で出ていたものだが、「AIの革命は始まったばかり」で「まだ間に合う」ともいう。

 いまやインターネットの有用性やインターネットが社会に起こした変革について誰も疑う人がいないが、二十数年前は違った。孫会長は「ちょうどインターネットは25年前」と、かつての状況を紹介。25年前の1994年にYahoo!は初期のサービスを開始しており、現在の状況はその辺りだと説明。「まだFacebookはなかった、Googleもなかった。Amzonは生まれたばかり」といった状況で、その後FacebookやGoogleが大きく成長したことを考えると、「今はまだ間に合う。手遅れではない。目覚めないとやばい」と語る。

 ソフトバンクグループは、トヨタ自動車に次ぐ時価総額の企業に育ったが、それもインターネット革命という時流をしっかりつかんだことにある。その孫会長が次に目指すのがAI革命だ。

「農業が機械化されて、それ以外の仕事が生まれた。機械化されて仕事を失ったのか? そうではなくて仕事が生まれていった。情報革命を進めていくが、それはAIが人々をより幸せにしていくため。人間の幸せのためのAI革命を進めていく。人々の幸せのためのAI革命、ありがとうございました」と、孫会長は基調講演を結んだ。