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2019年のDTM最終戦・レース2はニコ・ミューラー選手がアウディ独占の表彰台の頂点に立つ
ハンコックのウェットタイヤに困惑するSUPER GT勢最上位はジェンソン・バトン選手のNSX-GTで16位
2019年10月7日 17:35
- 2019年10月5日~6日(現地時間) 開催
ドイツ・ホッケンハイムリンクで10月5日~6日(現地時間)、ドイツのツーリングカー選手権であるDTMの最終戦が2日間に渡って開催された。このレースに、DTMの歴史上初めて日本の自動車メーカーのレーシングカーが参戦しており、「クラス1」という新しいレーシングカーの規定を策定してきた両者のコラボレーションは新しい時代に突入した。10月5日にはレース1(別記事参照)が行なわれ、10月6日の13時半からはレース2が行なわれた。
このレースで優勝したのは、シリーズランキングの2位で前日のレース1ではレース終盤にペナルティを受けて17位に終わったニコ・ミューラー選手(51号車 Castrol EDGE Audi RS 5 DTM)で、これによりシリーズランキング2位を確定して2019年シーズンを終えた。2位は午前中に行なわれた予選でポールポジションを獲得したマイク・ロッケンフェラー選手(99号車 Akrapovic Audi RS 5 DTM)、3位はレース1の勝者で今年のDTM王者であるレネ・ラスト選手(33号車 Audi Sport RS 5 DTM)となり、アウディ勢が1-2-3とポディウムを独占した。
日本からやってきたSUPER GT勢は、前日に引き続いて走行したジェンソン・バトン選手(1号車 Honda NSX-GT)が16位、ロニー・クインタレッリ選手(35号車 MOTUL AUTECH GT-R)が17位と2台が完走し、ニック・キャシディ選手(37号車 LEXUS TEAM TOM'S LC500)はオープニングラップの混乱で他車に追突され、ガードレールに激突してレースを終えることになった。
ドライでは戦えた日本勢だが、ウェットではタイヤがまったく動作せず厳しい戦いに
前日のレース後に行なわれた記者会見において、日本勢の最上位となる9位でゴールしたジェンソン・バトン選手をはじめ日本のチームのドライバーは異口同音に「ドライだと戦えるが、雨になってウェットタイヤになると作動温度レンジに入れることができず、まったく走れない」と語っており、雨が予想されていたレース2へ向けての懸念を口にしていた。
通常、SUPER GTではブリヂストン、ミシュラン、ダンロップ、横浜ゴムといったタイヤメーカーが競争を行なっており、それだけにグリップ力が高かったり、「デグラデーション」と呼ばれるタイヤの性能劣化が比較的少ないタイヤで、かつ作動温度レンジ(タイヤが最高の性能を発揮するタイヤ自体の温度)も予想される現地の気温に合わせ込んでサーキットに持ち込んでくる。このため、日本のSUPER GTでは、おそらく世界最高の性能を持つタイヤを利用してレースを行なっている。
それに対してDTMは韓国のハンコックタイヤのワンメイクになっており、性能もわざと高くせず、デグラデーションもある程度発生するようになっている。グリップ力も日本のSUPER GTで使われているタイヤと比較すれば低くなっているし、何より作動温度レンジも大きく異なっている。DTMをレギュラーで走るチームやドライバーはこのあたりの情報に精通しており、データもたくさん持っているが、日本のチームやドライバーは4月に富士スピードウェイで行なわれたテストで1度使っただけ。ほとんど初めてこのハンコックタイヤを履くような状態で、このホッケンハイムリンクでハンコックタイヤを使うのはもちろん初めての経験となる。
このため、木曜日の走行開始から日本の3チームは非常に苦戦しており、こうしたハンコックタイヤ攻略に時間をかけることになった。それでもドライ路面では徐々にパフォーマンスは向上していった。土曜日に行なわれたレース1ではジェンソン・バトン選手(1号車 Honda NSX-GT)が予選6位につけ、レースではどんどんタイムを向上。途中のピットストップで想定外の10秒をロスしたため順位を下げてしまったが、その時点まで走っていた順位で前後にいたドライバーを見てみると、最終的に4位~6位あたりに入賞してもおかしくないパフォーマンスを発揮していた。
このため、ドライに関しては戦えそうな感触を得ていたが、ウェットについては金曜日に行なわれた練習走行で、ウェット路面で走行した日本の3台のうち2台がクラッシュしてしまうなど苦しい状況に置かれていた。チーム側としては、タイヤの内圧やさまざまなセッティングを変えることにトライしたが、ドイツ側がウェットタイヤでは日本のチームが戦える状況にはないことを認めるほど明白に厳しい状況に置かれてしまっていたのだ。
予選はマイク・ロッケンフェラー選手がポール獲得。ランキング2位のニコ・ミューラー選手は2位からスタート
このため、バトン選手をはじめとしたSUPER GTのドライバーは全員レース2に向けてウェットタイヤへの懸念を語っていたが、残念ながら予報通りに天候は雨。朝から徐々に雨量が増えていき、予選が始まる段階では路面は完全に濡れてフルウェットになった。DTMのタイヤはドライ6セット、ウェット3セットのそれぞれ1種類がハンコックより各チームに渡されており、雨量が多いレースでも1種類のウェットタイヤを利用して戦う必要がある。
そんなウェットの予選においてポールポジションを獲得したのは、前日のレース1で3位となったアウディ・スポーツ・チーム・フェニックスのマイク・ロッケンフェラー選手(99号車 Akrapovic Audi RS 5 DTM)だ。ロッケンフェラー選手はこの時点でランキング4位につけており、ランキング5位のアウディ・スポーツ・チーム・アプト・スポーツラインのロビン・フラインス選手(4号車 Aral Ultimate Audi RS 5 DTM)とは6点差の僅差。ランキング4位を確保するために、ポールポジションに与えられる3点を手に入れて有利な位置を得た。
予選2位は前日のレース1では接触によるドライブスルーペナルティを受けてポイント圏外でゴールすることになったアウディ・スポーツ・チーム・アプト・スポーツラインのニコ・ミューラー選手(51号車 Castrol EDGE Audi RS 5 DTM)。ランキング2位にいるミューラー選手は、この時点でランキング3位になっているBMW チーム RMRのマルコ・ウィットマン選手(11号車 Schaeffler BMW M4 DTM)とは21点差。予選2位に対して与えられる2点を加えたことでポイント差を23点に広げており、自身がリタイアしない限りほぼランキング2位が確実な状況だ。そのBMWのウィットマン選手は予選6位で最終レースを迎えることになる。
BMW勢の予選最上位となったのは、ウィットマン選手のチームメイトで日本ではトヨタのF1参戦時に活躍した元F1ドライバーとしてもよく知られているティモ・グロック選手(16号車 JIVS BMW M4 DTM)だ。
なお、前日の勝者で今季のDTM王者となったアウディ・スポーツ・チーム・ロズベルグのレネ・ラスト選手(33号車 Audi Sport RS 5 DTM)は予選8位とやや低迷し、決勝レースで追い上げを期すことになった。
注目の日本勢はニック・キャシディ選手(37号車 LEXUS TEAM TOM'S LC500)が最上位で16位、前日に続いて走行したジェンソン・バトン選手(1号車 Honda NSX-GT)が19位、ロニー・クインタレッリ選手(35号車 MOTUL AUTECH GT-R)が21位と、予想通り厳しい展開になってしまった。全車が共通してウェットタイヤを使いこなせていない状況が続くことになった。
順位 | カーナンバー | ドライバー | チーム | マシン名 | タイム | 周回数 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 99 | Mike Rockenfeller (DEU) | Audi Sport Team Phoenix | Akrapovic Audi RS 5 DTM | 1分50秒800 | 12 |
2 | 51 | Nico Muller (CHE) | Audi Sport Team Abt Sportsline | Castrol EDGE Audi RS 5 DTM | 1分50秒813 | 11 |
3 | 16 | Timo Glock (DEU) | BMW Team RMR | JIVS BMW M4 DTM | 1分51秒260 | 10 |
4 | 53 | Jamie Green (GBR) | Audi Sport Team Rosberg | Hoffmann Group Audi RS 5 DTM | 1分51秒391 | 11 |
5 | 47 | Joel Eriksson (SWE) | BMW Team RBM | CATL BMW M4 DTM | 1分51秒489 | 10 |
6 | 11 | Marco Wittmann (DEU) | BMW Team RMG | Schaeffler BMW M4 DTM | 1分51秒788 | 11 |
7 | 25 | Philipp Eng (AUT) | BMW Team RMR | ZF BMW M4 DTM | 1分51秒807 | 11 |
8 | 33 | Rene Rast (DEU) | Audi Sport Team Rosberg | Audi Sport RS 5 DTM | 1分51秒873 | 11 |
9 | 4 | Robin Frijns (NLD) | Audi Sport Team Abt Sportsline | Aral Ultimate Audi RS 5 DTM | 1分51秒990 | 11 |
10 | 28 | Loic Duval (FRA) | Audi Sport Team Phoenix | MASCOT WORKWEAR Audi RS 5 DTM | 1分51秒994 | 11 |
11 | 76 | Jake Dennis (GBR) | R-Motorsport 1 | Aston Martin Vantage DTM | 1分52秒242 | 12 |
12 | 62 | Ferdinand von Habsburg (AUT) | R-Motorsport 2 | Aston Martin Vantage DTM | 1分52秒374 | 12 |
13 | 27 | Jonathan Aberdein (RSA) | WRT Team Audi Sport WRT | Audi RS 5 DTM | 1分52秒483 | 11 |
14 | 7 | Bruno Spengler (CAN) | BMW Team RMG | BMW Bank M4 DTM | 1分52秒491 | 11 |
15 | 31 | Sheldon Van der Linde (RSA) | BMW Team RBM | Shell BMW M4 DTM | 1分52秒511 | 11 |
16 | 37 | Nick Cassidy (NZL) | Lexus Team KeePer TOM'S | LEXUS TEAM TOM'S LC500 | 1分52秒527 | 11 |
17 | 3 | Paul Di Resta (GBR) | R-Motorsport 1 | Aston Martin Vantage DTM | 1分52秒534 | 12 |
18 | 23 | Daniel Juncadella (ESP) | R-Motorsport 2 | Aston Martin Vantage DTM | 1分52秒652 | 12 |
19 | 1 | Jenson Button (GBR) | Team Kunimitsu | Honda NSX-GT | 1分52秒787 | 11 |
20 | 21 | Pietro Fittipaldi (BRA) | WRT Team Audi Sport | WRT Audi RS 5 DTM | 1分53秒410 | 11 |
21 | 35 | Ronnie Quintarelli (ITA) | Nismo | MOTUL AUTECH GT-R | 1分53秒875 | 11 |
1周目にキャシディ選手が追突されてクラッシュし、アストンマーティンのトラブルで赤旗中断に
雨が上がってドライになってほしいという日本チームの希望を打ち砕くように、お昼からレーススタートの13時半に向けて雨は強くなるばかり。結局、レースは雨が強くなっていく状況の中で行なわれることになった。
レースではフォーメーションラップが1周追加されて2周行なわれることになり、その逆にレース時間が60分+1周から52分+1周に短縮されることになった。しかし、2周目のフォーメーションラップの途中で、今年から参戦しているアストンマーティンをドライブするポール・ディ・レスタ選手(3号車 Aston Martin Vantage DTM)のマシンがコース脇に止まってしまい、それを排除する時間を稼ぐためにフォーメーションラップがもう1周追加され、最終的には49分+1周でレースが行なわれることになった。
3周のフォーメーションラップの後にレースはスタートが切られた。多くの車両が1コーナーのアウト側に飛び出すなど混乱のスタートになったが、その中で予選2位からスタートしたミューラー選手が抜群のスタートを見せ、隊列をリードして1コーナーに入っていた。それに次ぐ2位に上がってきたのは、なんと予選8位からスタートしたラスト選手。ラスト選手は1コーナーの混乱を利用して3位まで上がり、ヘアピンに差しかかるまでにポールからスタートして2位に落ちていたロッケンフェラー選手に並び、抜き去って2位に上がった。
ところが、そのオープニングラップの後半で、ニック・キャシディ選手が後続車に追突され、なすすべなくガードレースにぶつかってクラッシュ。キャシディ選手がケガもなくマシンを降りたことは安堵されたところだが、これでリタイアになってしまった。
このクラッシュによりセーフティカーが出され、レースはセーフティカー先導で行なわれるかと思われた瞬間、今度はダニエル・ジュンカデラ選手(23号車 Aston Martin Vantage DTM)がコース脇にマシンを停め、エンジンルームから煙を出しており、その処理を行なうために赤旗が出され、レースは中断することになった。
赤旗から約10分後の現地時間13時54分にレースはリスタート。セーフティカー先導でレースは再開され、その周の終わりにローリングスタートが行なわれた。そこからは1位ミューラー選手、2位ラスト選手、3位ロッケンフェラー選手、4位が予選から順位を上げたBMWのエースであるウィットマン選手、5位がグロック選手、6位にラスト選手のチームメイトになるジェイミー・グリーン選手(53号車 Hoffmann Group Audi RS 5 DTM)という順位で周回を重ねていった。
この中で1位のミューラー選手、3位のロッケンフェラー選手、4位のウィットマン選手は義務付けとなっているタイヤ交換を序盤でいち早く終える。そうした中でトップに上がったラスト選手の対応がどうなるかに注目が集まったが、結局ラスト選手はそれらの選手から2周引っ張ってピットに入り、それまで現在履いてるタイヤを使ってタイムを縮める作戦に出た。
タイヤ交換までにタイムを稼いだ王者ラスト選手が1度は前に出るが、ミューラー選手が抜き返してそのまま優勝
これが功を奏してラスト選手がピットストップを終えると、ラスト選手はピットインを終えた中でのトップとなる4位でコースに戻ることに成功する。しかし、後方からはタイヤが暖まっているミューラー選手が迫っており、タイヤが暖まらないラスト選手はなすすべなく抜かれてしまった。そして同じく後続から追い上げてきたロッケンフェラー選手にも抜かれ、タイヤ交換をした中で3位まで落ちてしまった。実はこの時、ラスト選手は雨が少なくなるということを予想してタイヤの内圧を調整しており、それがこのタイヤがなかなか暖まらないという状況につながってしまったのだ。
そうして上位勢がピットストップを終えた後、レースをリードしたのはグリーン選手とジョエル・エリクソン選手(47号車 CATL BMW M4 DTM)。2人は実に最終ラップまで義務付けされているピットストップを遅らせる作戦に出て、タイヤ交換を終えたトップ勢とほぼ同じタイムで走ることにも成功して順位を上げた。上位を走っていたBMWのエースとなるウィットマン選手がピット作業時の「アンセーフリリース」でペナルティを受けたことも相まって、最終的には5位と6位でゴールすることになった。
結局、レースはスタートで予選2位からトップに上がったニコ・ミューラー選手が優勝。すでにほぼ確実にしていたシリーズランキング2位の座を確保した。2位はマイク・ロッケンフェラー選手、3位はレネ・ラスト選手で、アウディ勢が1-2-3となり表彰台を独占する結果を得た。4位はBMW勢の最上位となるティモ・グロック選手で、変則ピットストップ作戦を敢行したジェイミー・グリーン選手とジョエル・エリクソン選手が5位、6位となっている。
使いこなせないウェットタイヤに手こずり、DTM勢から2~3秒遅いラップでしか周回できないという状況に陥ってしまったSUPER GT勢の最上位は、それでも確実な走りを見せたジェンソン・バトン選手が16位で、ロニー・クインタレッリ選手は1周遅れの17位に終わった。富士スピードウェイで行なわれる交流戦でもこのハンコックのウェットタイヤは使われるため、仮に富士のレースでも雨が降ったとしたら同じ状況の再現になるだろうと考えられるだけに、DTM勢を迎え撃つSUPER GT勢としては何らかの対策が必要になるだろう。
順位 | カーナンバー | ドライバー | 車両 | タイム | 周回数 |
---|---|---|---|---|---|
1 | 51 | Nico Mueller (CH) | Audi RS 5 DTM | 1時間04分45秒023 | 27 |
2 | 99 | Mike Rockenfeller (GER) | Audi RS 5 DTM | 1時間04分48秒858 | 27 |
3 | 33 | Rene Rast (GER) | Audi RS 5 DTM | 1時間04分53秒426 | 27 |
4 | 16 | Timo Glock (GER) | BMW M4 DTM | 1時間04分56秒872 | 27 |
5 | 53 | Jamie Green (GBR) | Audi RS 5 DTM | 1時間04分58秒117 | 27 |
6 | 47 | Joel Eriksson (SWE) | BMW M4 DTM | 1時間05分01秒271 | 27 |
7 | 4 | Robin Frijns (NED) | Audi RS 5 DTM | 1時間05分07秒195 | 27 |
8 | 76 | Jake Dennis (GBR) | Aston Martin Vantage DTM | 1時間05分21秒977 | 27 |
9 | 7 | Bruno Spengler (CDN) | BMW M4 DTM | 1時間05分36秒342 | 27 |
10 | 28 | Loic Duval (FRA) | Audi RS 5 DTM | 1時間05分40秒900 | 27 |
11 | 62 | Ferdinand von Habsburg (AUT) | Aston Martin Vantage DTM | 1時間05分43秒861 | 27 |
12 | 11 | Marco Wittmann (GER) | BMW M4 DTM | 1時間05分44秒790 | 27 |
13 | 31 | Sheldon van der Linde (RSA) | BMW M4 DTM | 1時間05分45秒440 | 27 |
14 | 25 | Philipp Eng (AUT) | BMW M4 DTM | 1時間05分46秒896 | 27 |
15 | 21 | Pietro Fittipaldi (BRA) | Audi RS 5 DTM | 1時間06分15秒074 | 27 |
16 | 1 | Jenson Button (GBR) | Raybrig NSX-GT | 1時間06分40秒266 | 27 |
17 | 35 | Ronnie Quintarelli (ITA) | Motul Autech GT-R | 1時間05分52秒908 | 26 |
DNF | 27 | Jonathan Aberdein (RSA) | Audi RS 5 DTM | 42分18秒347 | 14 |
DNF | 23 | Daniel Juncadella (ESP) | Aston Martin Vantage DTM | ー | 0 |
DNF | 37 | Nick Cassidy (NZL) | KeePer TOM’s LC500 | - | 0 |