ニュース

【F1日本GP 2019】ホンダ F1プロジェクト LPL 浅木泰昭氏、F1 マネージングディレクター 山本雅史氏に聞く

新燃料は、「異常燃焼を避ける、爆発圧力を高める」

株式会社 本田技術研究所 HRD Sakura センター長 兼 F1プロジェクト LPL 浅木泰昭氏

 10月13日、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で「2019 FIA F1世界選手権 シリーズ第17戦 日本グランプリレース」の予選と決勝が行なわれる。これは台風19号の接近に伴う処置で、12日の走行をすべてキャンセル。そのため、予選は13日10時から、決勝は14時10分から開始となる。

 現在のホンダF1はスリートップ体制になっており、現場での技術面を担当するホンダF1 テクニカルディレクター 田辺豊治氏、開発拠点であるHRD Sakuraを担当する本田技術研究所 HRD Sakura センター長 兼 F1プロジェクト LPL 浅木泰昭氏、そしてマーケティング面やFOMとの交渉を担当するホンダF1 マネージングディレクター 山本雅史氏の3人が責任を分担して技術開発、そしてF1関係者との利害調整などを行なっている。

 現場の技術的な責任者である田辺氏の会見は毎日セッション終了後に行なわれているが、11日金曜日の練習走行の後には浅木氏と山本氏の会見が行なわれ、山本氏による今シーズンのここまでの振り返りや、浅木氏による技術面でのアップデートに関しての説明が行なわれた。

ホンダ F1 マネージングディレクター 山本雅史氏

新燃料は異常燃焼を避け、爆発圧力を高めることの両立を目指している

山本氏:今シーズンは2チーム/4台体制になり、オーストラリアでは練習走行からいい流れで表彰台を獲得した。パワーユニットの信頼性とパワーが向上し、私もモナコまでに勝ちたい、平成が終わるまでになんとか1勝と言ってきた。それはレッドブルの車体の優勢を考えて、パワーユニットの伸びしろと総合的に発揮できればと思っていたが、スペインを含めて厳しいレースが続いてモナコまでには勝てなかった。

 だが、オーストリアから大きな進化があって、マックス・フェルスタッペン選手が見事優勝してくれた。それから2勝して、1ポールという成績を収めた。特にハンガリーでのポールポジションはエンジニアの総合力で獲ったもので、前半戦はかなりイケイケだった。

 後半戦もその勢いで加速度的にと思っていたが、モンツアで苦戦して、シンガポールで切り返せるかと思っていたが、フェラーリが速くなっており、そうはならなかった。

 今シーズンを総体的に振り返ると、前半戦はいいレースが続いたが、後半戦はまだまだという展開。これから1歩、2歩前進していきたい。

浅木氏:我々が今シーズンの開発目標としておいてのはメルセデスに追いつくというところにあった。なんとか今年中にメルセデスに追いつこうというターゲットで始めた。

 F1のパワーユニットにおける信頼性ということには2つの種類がある。1つはサーキットで走っている時に粉々にならない信頼性、もう1つは年間3ユニットまでという制限のペナルティをもらわない信頼性だ。前者の信頼性という意味では、コース上でパワーを出したいのでギリギリを責めている。ペナルティに関しては開発との兼ね合いでもらってしまうことになるだろうというのは計画のうちではあったが、残念ながらこの間クビアト選手のパワーユニットが壊れてしまったが、それを除けばコース上での信頼性という意味ではよいところに来ている。

 シーズン前にメルセデスの伸び率を考えてターゲットを設定してきたが、いかんせん他社の伸びもある。特に最近のレースではフェラーリが伸びているので、2チームともに追いついたというところまでではないが、なんとかそれに近い所までは来ている。

 もう1つオールホンダとしての取り組みを行なっており、今回はその一環として本田技術研究所の先端技術研究所が協力してエクソンモービルさんが開発した新しい燃料を入れた。私がSakuraに着任したあたりから、Sakuraだけでなく、オール研究所体制として、治験を全部集めて必要な人材も呼んで戦おうとしている。

 以前もお話しさせていただいたが、ホンダジェットの部門がパワーユニットの開発に協力してもらったのと同じような形で、先端技術研究所の、ジェット機用燃料などを含めて未来の燃料を研究している部署に、協力してもらい開発した。F1に使える燃料としては、既存のガソリンに成分として含まれているものを使って開発する必要があり、ホンダ側である程度あたりをつけて、こんなのがいいのだがという話をエクソンさんとお話しをしながら、パワーユニットのマッチングを行なっていった。

 正直に言えば、そうしてF1に協力してほしいというと、最初はあまりいい顔をされない場合があったのだが、最近では勝つと一緒に喜んでいただき、逆に負けると一緒に悔しがってもらえる仲間になってきている。そうした一体感を出す効果のようなこともある。

──その人達にとって競争が激しい世界で自分の技術を試せるということがモチベーションになっているのか?

浅木氏:ジェットエンジンにしろ、1つのエンジンを作るのに10年という単位がかかり、先進部門の研究所は研究している成果も世に出るのか分からない。それがちゃんと世に出て、オーストリアのように勝ったりすると、やはり担当者としてはうれしい。ほかにも協力してもらっている部分があり、例えば軸受けはもう1年前にやってもらい、空力なんかはフランスGPでよい結果は出なかったけど彼らとても苦しんで、オーストリアで勝ってあーよかったという我々と同じような心の動きがあって仲間になってくれている。

 そういう10年間やっても結果が出るか分からないという先進研究をしている人達とF1が融合することで、一緒に上下して一緒に楽しむ、一緒に悲しむというのが研究者としてはやってよかったと言ってくれていると思う。

──新燃料で燃焼効率が上がったという説明がされていましたが、具体的にはどのようなことをやっているのでしょうか?

浅木泰昭氏

浅木氏:そんなこと言える訳がない(笑)。(それでも言える範囲でと促されて)ノッキングという事象に代表されるように、エンジンにダメージを与えるような燃焼を抑えながら、いかに熱効率というが同じ燃料量の中からピストンを押し下げる力を強くするか、要は筒内圧力を上げていくかということだが、それを両立させることが燃料開発。異常燃焼を避ける、爆発圧力を高めるということだ。

 だが、今そういうことは簡単だが、私が四十数年前に大学で習った内燃機関工学とはちょっと違うような現象を扱おうとしているので、そう単純ではなかったりする。そういうことを一緒に最先端な所をやっていく、その面白さがある。

──そうしたホンダジェットや先端技術研究所との取り組みは過去にもやっていたのか?

浅木氏:私がモータースポーツに関わったのはキャリアの本当の初期と今、最初と最後だけなので、あまり詳しくないが、あまりなかったのではと思う。当初はホンダジェットもなかったし、そうした先端技術研究所もなかった。今は研究している分野が広くなり、細分化され研究所も別の場所にあったりするので。

──従来のHRD Sakuraではそうしたことは行なわれていなかったのか?

浅木氏:私が呼ばれたのもそういうことの一環。現在本田技術研究所 社長を務めている三部(筆者注:三部敏宏氏)をはじめ、このままではまずいという意識があり、センター長のトップの人達から新しい提案をしてもらうようなコミッティを作った。そこでいろいろな提案をしてもらえる中で、さまざまな提案が上がってきて、それが競争力につながっていくことも出始めている。

2018年のシーズン前には「同じ内燃機関でこんなに差が付くのか」と思ったほどの差が今は縮まっている

──2015年に復帰されてから5年になるが、どのぐらい進化しているのか?

浅木氏:具体的な数字は言えないが、私がSakuraに来た2年前、メルセデスとの差を数字で見て、同じ内燃機関でこんなに差が付くのかと思ったと言えば、具体的な説明になるだろうか。どうやったらこんな差が付くのだと、正直その時点では何をやっていいか分からないほどだったが、できることは何でもやれというすごく苦しい状況だったと思う。

──FP1では山本尚貴選手が走行したが?

FP1を走行した山本尚貴選手

山本氏:彼とも話をしたが、これまで彼はF1のシミュレータに2回乗っただけで、初めてのF1の実走行を公式セッションで行なうという難しい状況の中、非常によい仕事をしたと思う。ダニーとはプログラムが違う中で、鈴鹿マイスターという強さを見せることができたと思う。

 本人に聞いたら「やばいっす、加速がすごいです、シートが背中にめり込んでいる感覚」と言っていました。1時間半本当によい仕事をしてくれて、ホンダにとっても、チームにとってもよい機会となった。これから彼が数週間後にスーパーフォーミュラの最終戦でチャンピオンを戦うに当たって、今回の経験が寄与するのではないか。

──山本選手が今後同じようにグランプリの週末に走る計画はあるか?

山本氏:現時点では何も話していないし決めていない。

──ここ数戦見ていると、フェラーリのパワーユニットが最強に見えるが、来年に向けて目標はフェラーリになるのか?

浅木氏:昨年はメルセデスがトップに見えたのでターゲットにした。まだ後半戦があるので、そこをよく見極めながら来年のターゲットを決めていきたい。

──ホンダのパワーユニットは大きく進化をしたが、2021年にはレギュレーションの変更が予定されている。現行のパワーユニットは最後の年になるが、それに向けて来シーズンをどう捉えているか?

浅木氏:現時点ではパワーユニットの概念はそんなに変わらないと聞いている。その意味では変わるであろう箇所は先行していろいろやるが、全体としては現在の路線を継続していくことになる。