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ZFジャパン、空飛ぶ魔法のじゅうたん「フライングカーペット 2.0」搭載車を日本初披露

多田社長、ZFは「電池以外は全部持っており、そこが強みだ」

「フライングカーペット 2.0」シャシーコンセプトを搭載したクルマが日本で初公開された

 大手サプライヤー「ZF(ゼットエフ)」の日本法人「ゼット・エフ・ジャパン」は、11月18日~11月22日までの5日間にわたって、富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)において「Vision Zero Days Japan」と題した試乗会を開催した。Vision Zeroは交通事故ゼロおよびゼロ・エミッションのモビリティを目指す同社の追求目標。Vision Zero Days Japanには国内自動車メーカー9社から約250名が参加し、同社が提供する自動運転、電動化、統合安全、車体の4つの領域の最新テクノロジを搭載した自動車の試乗などを行なった。

 最終日には報道関係者向けのセッションも行なわれ、レベル2+(ツープラス)自動運転や同社が「フライングカーペット 2.0」(日本語にすると空飛ぶじゅうたん 2.0)と呼んでいる統合システムを搭載した試乗車などが公開された。フライングカーペット 2.0は、ZFのフルアクティブダンピングシステム「sMOTIO」、リアステアを行なう「AKC(Active Kinematics Control)」、統合ブレーキコントロールであるIBC(Integrated Brake Control)などを組み合わせ、車体の動きを事前に予測することで、でこぼこや急カーブ、急ブレーキなどでの乗員への衝撃を和らげ、搭乗者の乗り心地を改善してくれるものだ。

 このフライングカーペット 2.0の試乗車などが公開されたVision Zero Days Japanにおいて、10月3日にゼット・エフ・ジャパン株式会社の代表取締役社長に就任した多田直純氏が記者会見を行なった。

日本メーカーのニーズを本社に伝え、日本市場に合ったものを投入

ゼット・エフ・ジャパン株式会社 代表取締役社長 多田直純氏

 多田氏はZFに入社する前は、中国のEV用バッテリーメーカーであるContemporary Amprex Technology(CATL)の日本法人となる「コンテンポラリー・アンプレックス・テクノロジー・ジャパン株式会社」でリージョナル・プレジデント兼取締役を、その前には独ロバート・ボッシュの日本法人となるボッシュ株式会社で要職を歴任。その前にはボルグワーナーでエンジニアとしてキャリアをスタートするなど自動車産業で三十数年間の長い経験を持っており、この10月からグローバルに展開するメガサプライヤーであるZF日本法人をリードする立場として入社した。

 多田氏は「最初ボルグワーナーではエンジニアとしてスタートし、最後の方にはホンダのS2000用のタイミングドライブを開発した。その後ボッシュへ移籍し、トランスミッション関連の開発を行ない、それからは営業になってCVTの販売などを行なっていた。その後テネコを経て、コンテンポラリー・アンプレックス・テクノロジー・ジャパンを一人で立ち上げて、日本のスタッフを雇ってオフィスを立ち上げたりした。その後、同社を退職して今回のオファーをもらった」と語り、現在のZFのCEOであるウルフ・ヘンイング・シャイダー氏がかつてボッシュ時代に上司だったという縁もあるという。

 多田氏は「これまでのキャリアの中でいろいろなお客さまとのネットワークができていたので、それを活かして新しいプレイヤーとの接点をどんどん作っていきたい。今回のVision Zero Days Japanでは、月曜日から始めて9社のお客さまに来ていただいている。フライングカーペットというアクセティブサスなどのクルマも用意しているが、それは今後自動運転車では人がクルマの中で本を読んだりすることになるが、自動運転よる運転が荒いと快適に読むことができない。そうではなく乗客が穏やかに移動できるシステムを提供していきたい」と述べ、ZFがさまざまな技術を自動車メーカーに提供してより快適な自動運転を実現していきたいと説明した。

──ZFとほかのサプライヤーを比べて、アドバンテージがある部分はどこか?

多田氏:ZFは内燃機関は持っていないが、電動化を考えると電池以外は全部持っており、そこが強みだ。また、TRWを買収して統合したことで、商用車に関してはかなり強い。

──商用車ではワブコ(WABCO)も買収したが、今後どうなるか?

多田氏:ZFはADASでは強いコンピデンスを持っている。ワブコに関しては商用車とのコネクションが強く、そういうことに利用していきたいと考えている。

──フランクフルトショーではEVよりもPHEVに注目が集まっていた。EVはどのようなビジネスになっていくとお考えか?

多田氏:一時期ほどはEV、EVという声は小さくなっている。特に中国経済が鈍化していっているような状況で、中国での優遇が小さくなっているが、中国のメーカーや中国向けのEVをグローバルに展開していっているのは遅れている。EVはどう増えていくかという上で、バックグラウンドになるのは、VPP(Virtual Power Plant)、V2H(Vehicle to Home)といった自動車のバッテリのエネルギーをどう使うかになると思う。この国では災害が多く、それに伴う停電も発生している。電気自動車がどのような活躍をするかを考えていくと新しいビジネスモデルができるのではないだろうか。

──日本での開発についてはどのような方針か?

多田氏:弊社の場合はプラットフォームの開発を日本でやる能力はない。コアは本社で開発してもらい、それを元に自動車メーカーへの採用を呼びかけていく形になる。ただ、この間も日立オートモティブシステムズとホンダ系部品メーカーが統合していくというニュースがあったが、自動車メーカーの側にメガサプライヤーと付き合うのが難しいと気がついた側面があって、系列のサプライヤーをうまく使っていこうという方向性になっているように見える。そして競争領域も、ソフトウェア、サービスへと変わってきており、開発がぎゅっと圧縮され、海外でコアを開発して持ってくるというのではスピードが追いつかない。このため、スタンダードなモノを持ってきて買ってくれという前に、お客さまの要望をうかがいそれを(本社に)こういうものを作ってもらいたいと言わないといけない。

──本社はどのあたりを統合し、どのあたりを開発していくのか?

多田氏:日本には大きなサプライヤーがあり、ボッシュ、コンチネンタルといったメーカーも競合になる。それに対してZFは四百数十人という従業員で、どのように戦っていくかと言えば、プライオリティを決めてやっていかないといけない。

──来年日本で登場するレベル3の自動運転についてどう考えているか。

多田氏:まだ分からない。自動運転と日本の法規の間にどのような課題があるかは完全にはまだ分かっていないと思う。

──日本のOEMメーカーとメガサプライヤーの関係についてもう少し教えてほしい。

多田氏:日本のメーカーと海外のメーカーでは求める品質レベルが全然違う。例えば電動バルブのハウジングに多少汚れがついていても、海外では何も問題ないが、日本ではそれはダメだ。そうした日本ではダメで欧州ではオッケーなものを売ってこいと言われたりする。また、日本の自動車メーカーはスペックを作り、それを系列に落としていく。系列の部品メーカーはそのスペック表には書かれていない行間を読むことができるが、メガサプライヤーはその行間を読むために時間をかけないといけない。また、日本のメーカーはほかの自動車メーカーが必要としないような部品を欲しがったりする。例えば、すごいハイスペックな燃圧インジェクターが欲しいとおっしゃる自動車メーカーがあったりして世界の標準とは全然違う。

──自動車のソフトウェア化について、部品メーカーとしてはどう考えているか?

多田氏:自動車メーカーは走るスケートボードの上に箱を作ろうと考えており、開発のリソースがシフトしている。電動化された車両を作るとなると、アセンブルすればいいと考えている。部品メーカーの強みはまさに部品を持っておりそれを共有できることで、アプリケーションやソフトウェアを作ることは自動車メーカーの役割だ。

Vision Zero DayはSUPER GTとDTMの特別交流戦の週に行なわれたため、モータースポーツ関連の展示も多数行なわれた
左がSUPER GTに供給するクラッチ、右がF1に供給するクラッチ
SUPER GTのクラッチ
F1用のクラッチ
左がFormula E用のダンパー、左がF1用のダンパー
Formula E用のダンパー
F1用のダンパー

空飛ぶ魔法のじゅうたんのような乗り心地を実現する「フライングカーペット 2.0」

「フライングカーペット 2.0」シャシーコンセプトを搭載した車両。日本初公開

「フライングカーペット 2.0」シャシーコンセプトは、ZFが提供する各種の技術を組み合わせて、乗客の乗り心地を大幅に改善したプラットフォームになる。具体的には以下の各技術が利用されている。

sMOTION:油圧制御で動作するアクティブサスペンション
mSARTS Axle Concept:AKCを組み込んだHV/PHEV/EV用のリアまわり
SbW(Steer-by-Wire):電気信号で制御可能なステアリング
IBC(Integrated Brake Control):統合ブレーキ制御、動的にブレーキを制御可能にするシステム
EPBi(Electric Park Brake-Integrated):統合パーキングブレーキ制御
SBM(Secondary Brake Module):2番目のブレーキモジュール
AKC(Active Kinematics Control):リアステアリング制御

 今回ZFが用意したのはフライングカーペット2.0のプラットフォームを採用したフォルクスワーゲン「トゥーラン」をベースとした車両で、いくつかの機能が搭載されている。

凸凹道を乗り越えるデモ

 1つ目の機能は凸凹道を乗り越えるデモで、前面に用意されている3眼のカメラが凸凹を認識すると、sMOTIONの機能を利用してダンパーの油圧を動的に調整したり、IBCの機能を利用してブレーキなどをうまく制御して乗客への衝撃を減らす動作をする。

 こうしたことは人間の運転であれば、凸凹の直前でちょっとブレーキをかけて車速を落とすなどして対応するが、それと同じようなことを自動車が自動で行なうことが可能になる。今後自動運転が普及すると、自動車メーカーの味付けにより乗客の乗り心地が異なってくるが、そうしたときにこうした機能を採用すると、乗客に対して優しい自動運転が可能になる。

AKC

 2つ目はAKCの機能を利用した小回りの機能だ。AKCとは、いわゆるリアステアリング機能のことで、ZFでは4WSのことをAKCと呼んでいる。このAKCをONにすると、フロントのみのステアリング操作よりも小回りができるようになる。

コーナーフィールシェービング

 3つ目の機能としてはsMOTIONの機能などを利用してカーブなどでクルマが右に左に振られたときに乗員への影響を小さくする機能だ。実際にONとOFFを試してみたが、OFFにすると体や首が左右に振られる感じがするのに対して、ONにするとそうした振られる感じがなくなり快適に乗車することができた。

音楽とサスペンションの動作が連動

 4つ目の機能としてはsMOTIONの油圧で動作するアクティブサスペンションの機能を利用した音楽とサスによる縦揺れを同期させる機能だ。ズンドコ系の音楽を鳴らすと、それに合わせてサスペンションが上下に動いて、まるで車がヘッドバンキングしているかのような動きを見せた。

mSARTS Axle Concept