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トヨタも参戦した初開催の「バーチャル・ル・マン24時間レース」レポート。総合優勝は1号車 REBELLION WILLIAMS ESPORTで2位にわずか17.7秒差
GTEクラスはニック・タンディ組の93号車ポルシェが優勝、TGRの2台は11位と14位に
2020年6月15日 13:52
- 2020年6月13日~6月14日(現地時間) 開催
伝統のル・マン24時間レースは、本来の予定であれば6月13日~6月14日にかけて決勝レースが行なわれる予定になっていたが、欧州でのCOVID-19の流行による都市封鎖などに伴い9月19日~9月20日に決勝レースが行なわれるスケジュールに延期されて行なわれる。その元々の予定だった6月13日のル・マン時間15時(日本時間6月13日、22時)からは、「Virtual 24 Hours of Le Mans」(バーチャル・ル・マン24時間レース)と名付けられた24時間耐久eSportsレースが行なわれた。
バーチャル・ル・マン24時間レースは、PC用のソフトウェア「rFactor 2」(アールファクターツー)を利用して行なわれ、プロトタイプカークラスはワークスチームのToyota Gazoo Racing(TGR)も含めて全てのチームがLMP2の「Oreca LMP2」を利用し、GTカーを利用するGTEクラスは「Aston Martin Vantage GTE」「Porsche 911 RSR GTE」「Corvette C7.R GTE」「Ferrari 488 GTE」を利用するという仕組みでレースが戦われた(実際のル・マン24時間レースではプロトタイプがLMP1とLMP2、GTクラスがGTE ProとGTE Amの合計4つのクラスになっている)。
6月13日15時(現地時間、日本時間6月13日 22時)にスタートしたレースは、ルイ・デルトラズ選手、ラファエル・マルチェロ選手、ニコデム・ウィスニエスキー選手、クバ・ブレジンスキー選手が操る1号車 REBELLION WILLIAMS ESPORTが最後の燃料セーブレースを制して2位にわずか17.7秒差で総合優勝した。日本のTGRの2台は山下健太選手が乗り込んだ8号車が11位、小林可夢偉選手が乗り込んだ7号車が14位となった。
GTEクラスは2015年のル・マン24時間レース総合勝者のニック・タンディ選手が乗り込んだ93号車 PORSCHE ESPORTS TEAMがスタートからレースを支配し、そのまま優勝を遂げた。
本来であればル・マン24時間レースの決勝が行なわれている週末にバーチャル・ル・マン24時間レースが開催される
バーチャル・ル・マン24時間レースは、プロトタイプカー(LMP)、そしてGTカー(GTE)という2つのカテゴリーによって戦われるというリアルのル・マン24時間レースと同じコンセプトで行なわれるeSportsになる。会場は、もちろんフランスのル・マン市にあるサルト・サーキットで、eSportsのプラットフォームはレースシミュレータソフトウェアとしては定番の1つである「rFactor 2」(アールファクターツー)を利用して行なわれた。
リアルなル・マン時間レースではプロトタイプカーは、ハイブリッドやマニファクチャラーも参加できるLMP1、市販されているシャシーとエンジンを利用して行なわれるLMP2に別れているが、今回はマニファクチャラーのチームであるToyota Gazoo Racing(TGR)も含めて全チームが「Oreca LMP2」を利用して参加することになった(車両のカラーはチーム側でカスタマイズできる)。これは全チームの戦闘力を揃える為の措置だ。
GTクラスにはプロレーサーで戦われるGTE Proと、プロとアマレーサーの混合チームとなるGTE Amの2つのクラスがあるが、今回はGTEクラスのみとプロとアマのカテゴリー分けは行なわれない形で行なわれた。GTEクラスのマシンは「Aston Martin Vantage GTE」「Porsche 911 RSR GTE」「Corvette C7.R GTE」「Ferrari 488 GTE」の4つで、BOP(Blance of Performance、性能調整)により4台の性能は均衡化される仕組みになっている。
レースには4人のドライバーが参加することができ、最低2人のFIA国際ライセンスを持つプロドライバーが入っている必要がある。つまり、全員プロドライバーでもよいし、2人はプロドライバー、残りはeSportsのプレイヤーという構成も可能になる。ほとんどのチームはプロ2人、eSportsプレイヤー2人という構成が多く、全員がプロドライバーだけだったのは、アメリカのチーム・ペンスキーのみという状況になった。というのも、プロレーサーよりも、シミュレータレーシングになれているeSportsプレイヤーの方が有利という状況があり、多くのチームはプロのドライバーを少なくしてきたからだ。
なお、4人のドライバーが最大4時間、最大7時間の間で走ることが決められており、連続する5時間の間で3時間以上連続してドライブしてはいけないというルールも用意されている。
こうしたバーチャル・レースでは車両の接触やダメージなどが再現されないことが多いが、今回のバーチャル・ル・マン24時間レースでは、接触やクラッシュによるダメージは受ける設定になっており、あまりに大きなダメージの場合はピットに止まって修復する必要がある。それによっては10分(約2周半)程度止まる必要があるなど、接触やクラッシュによるダメージがあると、ペナルティを受けるのと同じ扱いになってレースで大きな遅れを取ることになる。つまり、できるだけ接触やクラッシュなどをしないように、安定して走ることがドライバーには求められることになる。
現役に加えて元も含めると多数のF1ドライバーが参戦、日本からはTGRの2台も参戦
今回のバーチャル・24時間レースの大きな特徴は、実際に今年のル・マン24時間レースに参加しているようなドライバーはもちろんのこと、本来であればレースには参加していないF1ドライバー、元F1ドライバーといった多彩なゲストが参加していることだ。
日本のTGRからは、7号車の小林可夢偉選手、ホセ・マリア・ロペス選手、マイク・コンウェイ選手が参加し、8号車のセバスチャン・ブエミ選手、ブレンダン・ハートレー選手のレギュラーに加えて、ル・マン24時間レースにはLMP2クラスに参戦しているトヨタの所属ドライバーである山下健太選手が参加した。今回はレギュラー参戦にはない10号車がTGRアルゼンチンとして参加しており、ネルソン・ピケ Jr選手などが搭乗している。
現役のF1ドライバーとしては、レッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペン選手、マクラーレンのランド・ノリス選手が同じTEAM REDLINEの20号車で参戦し、フェラーリのシャルル・ルクレール選手とアルファロメオのアントニオ・ジョビナッツィ選手がFERRARI - AF CORSE(GTEのフェラーリワークスチーム)からGTEクラスに参戦している。他にもアルファタウリ・ホンダのピエール・ガスリー選手が参加するなど現役のF1ドライバーが5人も参戦している。
また、元F1ドライバーとしてはフェルナンド・アロンソ選手とルーベンス・バリチェロ選手が14号車 FA/RB ALLINSPORTSという2人の名前をとったFA/RB ALLINSPORTSから参加しているほか、メルセデスF1チームのリザーブドライバーを務めるストフェル・バンドーン選手、ジェンソン・バトン選手、ファン・パブロ・モントーヤ選手、オリビエ・パニス選手(息子と参加)、ジャンカルロ・フィジケラ選手、フィリペ・マッサ選手、ヤン・マグネッセン選手など元F1ドライバーの豪華な顔ぶれが参戦した。また、インディカーからもトニー・カナーン選手、昨年のインディ500の勝者サイモン・パジェノー選手などが参加しており、こちらも実に豪華な顔ぶれだ。
このほか、インディカーを走ったこともある女性ドライバーのキャサリン・レッグ選手は、今シーズンスーパーフォーミュラに参戦する予定のタチアナ・カルデロン選手、ソフィア・フローシュ選手などの女性だけで構成された50号車 RICHARD MILLE RACING TEAMで参戦し、こちらも話題を集めている。レッグ選手、カルデロン選手、フローシュ選手は9月のリアルレースにもこのトリオで女性だけのチームとして参戦する予定になっている。
また、YouTubeなどで流されたレース中継(英語コメンタリー)にはル・マン最多勝(8勝)のトム・クリステンセン氏、6勝のジャッキー・イクス氏、5勝のデレック・ベル氏などレジェンド・ドライバーのインタビューが入るなど充実した中継になっていた。
現地時間6月12日夜(日本時間6月13日深夜)には予選が行なわれ、LMPクラスは4号車 BYKOLLES - BURST ESPORTのイェレネジュ・シモンシッチ選手がトップタイムをマークしてポールポジションを獲得した。TGRは8号車が16位、7号車が17位、10号車が22位となっており、予選より決勝重視で臨んでいるように見える。
GTEクラスは93号車 PORSCHE ESPORTS TEAMと91号車 PORSCHE ESPORTS TEAMが1-2でポールポジションを獲得した。シャルル・ルクレール選手とアントニオ・ジョビナッツィ選手が乗る52号車 FERRARI - AF CORSEは総合39位、GTEクラス9位につけている(予選結果PDF:英文)。
レースでは多くのアクシデントが発生し、昨年のインディ500王者サイモン・パジェノー選手はレース中にシート交換?
現地時間6月13日15時(日本時間6月13日22時)に、決勝レースのスタートが切られた。近年のリアルのル・マン24時間レースのスタートと同じように、ピットレーン・ウォールの外側にグリッド順に並べられた各車は、セーフティカーとなる「LMPH2G」という水素自動車に率いられてフォーメーションラップへと向かっていった。
LMPH2Gの実車はすでにブガッティサーキット(サルト・サーキットのクローズサーキット部分)を実際に走行しており、9月に行なわれるリアルのル・マン24時間レースで公開される予定だ。
スタートでは、ポールの4号車 BYKOLLES - BURST ESPORTが飛び出したが、なんとこれがジャンプスタート(フライング)の判定となり、4号車はすぐにピットスルーペナルティを取られることになった。また、スタートしてすぐに、8号車 TOYOTA GAZOO RACINGをドライブするブレンダン・ハートレー選手がバリアに大クラッシュし、そのまま長時間修復に入ることになった。これにより、8号車は2周の周回遅れになってしまい、いきなり優勝争いから脱落してしまった。
また、14号車 FA/RB ALLINSPORTSのフェルナンド・アロンソ選手も1回目のピットストップでトラブルに見舞われた。アロンソ選手はGTEカーと接触してしまい、その後ピットスルーペナルティが出たのだが、そのタイミングというのが給油のためにピットに入ったタイミングで、給油をしなければピットアウトできないが、ピットスルーが出ているためピット作業ができないという、今回のバーチャル・ル・マン24時間レースの特別ルールとゲームの仕組みとの矛盾の穴に落ち込んでしまったのだ。これで、14号車はそれ以上走行できなくなってしまい、リタイア扱いになってしまった。
しかし、スタートから5時間が経過したところで、テクニカルイッシュー(サーバーなどに問題)が発生したとしてレッドフラッグが出され、全車がスタートフィニッシュラインに停止するという措置が取られた。その間にサーバーを再起動するなどの調整が行なわれ、リタイアしたはずの14号車は、特例としてLMPクラスの最後尾に復活するという措置がレースコントロール(通常のWECのレースと同じメンバーにより運営されている)取られ、アロンソ選手、バリチェロ選手の14号車は7周遅れの最後尾でレースに復活することになった。純粋なレースとしてはどうかという議論はもちろんあるとは思うが、チーム側の失敗では無くレースコントロール側の問題であるので、レースコントロールの判断は妥当では無いかと感じた。これも、バーチャル・レースならではの判断と言えるだろう。
また、序盤~中盤に何度もトップを走っていたマックス・フェルスタッペン選手、ランド・ノリス選手が乗る20号車 TEAM REDLINEも序盤にレースをリードするなど活躍したが、フェルスタッペン選手がドライブしている時にポルシェカーブで車がスピンし、そのままピットに入ると動けなくなってしまった。こちらも何らかの技術的なトラブルが発生したと考えられ、結局20号車はそのままリタイアになってしまった。
また、ユニークなトラブルとしては、サイモン・パジェノー選手がドライブしていた6号車 TEAM PENSKEは、ポルシェカーブで車両がストップしてしまったのだが、その原因はなんとハンドルコントローラなどが反応しなくなるというバーチャル・レースならではのトラブル。パジェノー選手はバックアップとして用意してあった機材に自分で交換している様子がカメラに映るなど、バーチャル・レースらしいドタバタもあった。
夜半にトップにたったハースF1テストドライバーのデルトラズ選手が操る1号車がトップに立つ
レースは現地時間22時ごろからナイトセッションに突入し、各車ライトオンにして走行となった。夕暮れのル・マンはバーチャル・レースでも美しく、沢山のマシンが夕焼けの中サーキットを駆け抜けた。
12時間を経過した現地時間6月14日3時の段階でトップを走っていたのは、ルイ・デルトラズ選手、ラファエル・マルチェロ選手、ニコデム・ウィスニエスキー選手、クバ・ブレジンスキー選手が操る1号車 REBELLION WILLIAMS ESPORT。F2のフロントランナーで、ハースF1チームのテスト/リザーブドライバーを務めるデルトラズ選手や、ル・マンではよく知られているラファエル・マルチェロ選手が2人のポーランド出身のeSportsレーサーと組んでいる1号車は、トラブルなくレースを走り、20号車のフェルスタッペン選手組のリタイアなどもあり、トップに立つとレースをリードした。上位を占めているのはREBELLION WILLIAMS ESPORTの3台(1号車、3号車、13号車)で、そこに4号車 BYKOLLES - BURST ESPORTと33号車 2 SEAS MOTORSPORTが絡む形となっており、レースはこの5台で総合優勝が争われる形になっている。
Toyota Gazoo Racing(TGR)の2台は、7号車が14位、8号車が18位を走っており、TGRアルゼンチンの10号車は12時間時点では12位だったが、その後機材にトラブルが発生した模様で188周でピットに止まったままになっており、リタイアしたものと考えられている。
GTEクラスはポルシェチームの独走状態は予選から続き、93号車 PORSCHE ESPORTS TEAMのニック・タンディ選手、アヤハンキャン・ギュビン選手、ジョシュア・ロジャース選手、トミー・オストガード選手組がリードを続けている。これに食い下がっているのはF1ドライバーのロマン・グロージャン選手のチームである80号車 R8G ESPORTS TEAMが2位を走っている。
現地時間5時半ごろからは夜明けを迎え、サーキットは徐々に明るくなっていった。そうした中トップグループの一角を占めていた3号車 REBELLION WILLIAMS ESPORTが、周回遅れになっていた同じチームの2号車がスピンしていたところに止まりきれずつっこんでしまい、クラッシュ。これによりピットに入り修復を行なうことになり、トップ争いからは脱落することになった。この結果レースは18時間経過、残り6時間の時点で1号車と13号車のREBELLION WILLIAMS ESPORTが1-2、4号車 BYKOLLES - BURST ESPORTが2分11秒差で3位を走り、この3台によるトップ争いに絞られることになった。
最終ラップまで激しいトップ争い、2位にわずか17.7秒差という劇的な幕切れで1号車が優勝、GTEは93号車ポルシェ
最後の6時間は、1号車と13号車の2台のREBELLION WILLIAMS ESPORTによるトップ争いになった。ピットタイミングの違いもあったが、一時両車の差は10秒を切るなどしており、非常に接近したレースを繰り広げた。ところが、残り4時間半近くになった段階で、サーバーとの接続の問題から2度目のレッドフラッグが出され、全車がスタート/フィニッシュラインで停止して、レースは再び振り出しに戻ることになった。
1度目のレッドフラッグ時と同じく、全車が新しい車両、タイヤ、燃料を追加することができることになった。現地時間11時25分に切られたリスタート時の順位は1号車と13号車のREBELLION WILLIAMS ESPORTが1-2、4号車 BYKOLLES - BURST ESPORTが3位で、この3位までが同一周回でトップ3の差は2分以上あった差が15秒程度と大きく縮まってリスタートを迎えることになった。なお、このレッドフラッグで、リタイアとなっていた、フェルスタッペン選手、ノリス選手の20号車 TEAM REDLINEがLMPクラスの最後方としてレースに復帰することになった。
総合優勝争いはピットタイミングによる争いとなった。残り15分までに2位だった13号車のREBELLION WILLIAMS ESPORTを抜いて、2位になっていた4号車 BYKOLLES - BURST ESPORTだが、トップに立っていた1号車 REBELLION WILLIAMS ESPORTより後にピットに入ることが出来たため、燃料的にかなり余裕に。それに対して1号車は燃料がかなりギリギリと考えられ、最終ラップまで燃料が持つのかということが懸念になった。
結局はeSportsレーサーのニコデム・ウィスニエスキー選手選手が最終ランナーになった1号車が、最終ラップまで燃料を持たせてそのままゴールした。1号車はゴール後のウイニングラップで燃料が足りないようで、ライバルだった30号車に後ろから押してもらうというゲームらしいウイニングラップを行なうなど、劇的な幕切れになった。2位の4号車との差はわずかに約17.7秒。まさに薄氷の勝利だったと言っていいだろう。3位は1号車のチームメイトだった13号車。
TGRの2台は山下健太選手が乗り込んだ8号車が序盤のハートレー選手のクラッシュにより2周遅れとなったところから追い上げて11位、小林可夢偉選手組の7号車は14位となった。
現役F1ドライバーではピエール・ガスリー選手組の24号車 VELOCE ESPORTS 1が5位、マックス・フェルスタッペン選手/ランド・ノリス組の20号車 TEAM REDLINEは25位、元F1ドライバー組ではジェンソン・バトン選手が乗り込んだ23号車 TEAM ROCKET ZANSHOが9位、フェルナンド・アロンソ選手とルーベンス・バリチェロ選手の14号車 FA/RB ALLINSPORTSは17位でゴールした。
GTEクラスは序盤からレースを支配したニック・タンディ組の93号車 PORSCHE ESPORTS TEAMがそのまま逃げ切って優勝した。2015年のル・マン24時間レースのウイナーでもあるタンディ選手は、史上初めてリアルのル・マン24時間レースと、バーチャル・ル・マン24時間レースの両方に優勝したドライバーとなった。2位は最終版に追い上げて80号車 R8G ESPORTS TEAMを抜いた95号車 ASTON MARTIN RACINGが入り、3位には80号車が入ることになった。