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ホンダ、F1開発を率いる浅木泰昭氏が技術解説。「最低限メルセデスと対等の勝負、その上でチャンピオンを狙う」

2020年6月23日 開催

ホンダのF1 PU(パワーユニット)開発の総責任者である株式会社本田技術研究所 HRD Sakura センター長 兼 F1プロジェクトLPL 浅木泰昭氏

 F1世界選手権は、2020年3月に開催予定だったオーストラリアGPが、一部チームのメンバーにCOVID-19感染者が確認されたことなどにより開催直前でキャンセルされ、開幕は延期になってしまった。新しいスケジュールは7月5日にオーストリアのレッドブル・リンクで開幕戦が行なわれ、その後連続してオーストリアで行なわれ、ハンガリーを挟んでイギリスで2連戦といった変則スケジュールで8戦まで行なわれることが現時点で決まっている。

 そのF1に2015年の復帰後6度目のシーズンに臨もうとしているのが、ホンダだ。マクラーレンと組んだ悪夢の3年間を経て、2018年からトロロッソ(現アルファタウリ)と、2019年からはレッドブル・レーシングともパートナーシップを組み、2019年は3勝を挙げ、ドライバーズ選手権、コンストラクターズ選手権ともに3位という復帰後最高の結果をマークした。それを受け、2020年シーズンはさらなる上位が期待されるところだ。

 そのホンダ F1開発を日本で率いる株式会社本田技術研究所 HRD Sakura センター長 兼 F1プロジェクトLPL 浅木泰昭氏がシーズン開幕を前に記者会見をオンライン開催。その模様をお届けしていく。

初めて挑戦した1960年代の第1期、黄金時代の第2期、苦闘の第3期と挑戦を続けてきたホンダのF1参戦

ホンダ F1の挑戦

 ホンダのF1は参戦は、古くは1964年にさかのぼる。ホンダの創業者である本田宗一郎氏を中心に無謀な挑戦と言われながら、F1への参戦を実現。1964年8月2日にRA271でドイツGPに参戦したのが最初のレースとなる。その後、1965年の最終戦にはリッチー・ギンサーが操るRA272がトップでゴールし、初優勝を果たした。

 2勝目は1967年のイタリアGPで、RA300を操るジョン・サーティスが優勝。その翌年に環境問題などを理由に1968年をもってF1活動を一時中止した(後にこの時期が第1期F1挑戦と呼ばれることになる)。

第1期F1挑戦

 そのF1参戦が再開されたのは1983年。F2というF1直下のカテゴリーでチャンピオンを獲得するなどして経験を積んだ後、新興チームとのテスト参戦を経て、1983年の末からは名門ウイリアムズチームにエンジンを供給。1986年に初めてのコンストラクターズタイトル、翌1987年にはドライバーズ、コンストラクターズ両方でチャンピオンを獲得した。1988年からはマクラーレンに供給先を変更すると、1988年には16戦15勝という信じがたい強さで再び両タイトルを獲得した。その勢いは、1989年、1990年、1991年も両タイトルを獲得し、1992年末を持ってF1活動は再び休止となった(後にこの時期は第2期と呼ばれる)。

第2期F1挑戦

 その後2000年にBARチームにエンジン供給して参戦を再開。2006年にはチームを買収し、同年のハンガリーGPで優勝するなどの結果を残した。その後2008年に起こったリーマンショックに端を発する経済危機の中、2008年をもって再びF1活動は休止されることになった(後にこの時期を第3期と呼んでいる。その呼び方のルールに従うと現在は第4期ということになるが、現在進行形なので第4期とは呼ばれていない)。

第3期F1挑戦

 現在のF1活動につながるF1参戦が再開されたのは2015年、マクラーレンにパワーユニット(現代のF1には内燃機関のエンジンだけでなく、ハイブリッドユニットも一体になっているのでPU[パワーユニット]と呼ばれる)を供給する形で参戦を再開した。しかし、6シーズンF1を離れた影響はホンダとしても取り返すのに時間がかかり、結局マクラーレンとは2017年シーズンで袂を分かつことになった。

現代のF1挑戦
2019年の結果
2020年のF1参戦チーム
ホンダ F1の体制

 そして2018年シーズンに向けては、レッドブルのシスターチームであるトロロッソとパートナーを組むことになり、その時の取り組みがレッドブル側からも評価され、2019年シーズンからはレッドブルにもエンジン供給を開始することになった。

 その結果は、昨年の第9戦オーストリアGP、第11戦ドイツGP、第20戦ブラジルGPでエースドライバーのマックス・フェルスタッペン選手が勝利を挙げ、ドライバー選手権でフェルスタッペン選手が3位、コンストラクターズ選手権でもレッドブルが3位という、2015年に復帰してからはもっともよい成績を収めることができた。

スクーデリア・アルファタウリ・ホンダ
ダニール・クビアト選手
ピエール・ガスリー選手

 今シーズンのF1には、ホンダは昨シーズン同様2チームに供給する。レッドブル系の2チームに供給という大枠は変わらないが、シスターチームのスクーデリア・トロロッソ・ホンダは「スクーデリア・アルファタウリ・ホンダ」とチーム名称を変更する。アルファタウリとは、レッドブルがイタリアなどで販売を開始するファッションブランドで、そのプロモーションを兼ねてチーム名称が変更されたものだ。チーム代表はトロロッソ時代と同じフランツ・トスト氏が務めるなどトロロッソ時代と同じ体制になっている。

アストンマーティン・レッドブル・レーシング
マックス・フェルスタッペン選手
アレクサンダー・アルボン選手

 ドライバーはアストンマーティン・レッドブル・レーシングがマックス・フェルスタッペン選手とアレクサンダー・アルボン選手、アルファタウリがダニール・クビアト選手とピエール・ガスリー選手という昨年後半のラインナップと同じ4人のドライバーとなっている。

元々開催される予定だったサーキット
中止になったオーストラリアGPの様子
新しいスケジュール、第9戦以降は未定

 そのF1だが、本来であれば3月中旬のオーストラリアGPで開幕を迎える予定だったが、直前にチームの関係者の中にもCOVID-19に感染した例が出てしまい、結局オーストラリアGPは金曜日のフリー走行開始直前にキャンセルになることが決定、その後のグランプリもキャンセルないしは延期ということになってしまったのだ。

 F1のプロモーターとFIAが協力して、F1チームの本拠地がある欧州を中心にスケジュールを組み直し、当面は無観客でチーム関係者などへのPCR検査などを行ないながら開催することで、F1シーズンを再開することになった。

 仕切り直しの開幕戦となるのが7月3日~5日のオーストリアGPで、移動などを最小限にするため2週連続でオーストリアのレッドブル・リンクで開催される。

量産車の開発と、F1の開発を行ったり来たりする交流人事がホンダの「レースDNA」

F1と量産車開発を行ったり来たりするのがホンダ流儀。それを象徴している浅木氏の経歴

 ホンダ F1のパワーユニット開発を日本側でリードするのがHRD Sakura HondaF1 PU開発総責任者 浅木泰昭氏だ。ホンダ F1の活動は、チームやプロモーターとの交渉をマネージングダイレクター 山本雅史氏、現地でのテクニカル面をテクニカルダイレクターの田辺豊治氏の2人と浅木氏を含めた3人で分担して担当する形になっている。

 浅木氏はホンダ F1のパワーユニット開発を行なっているHRD Sakuraでセンター長 兼 F1プロジェクト LPLという重責を担っており、ホンダ F1の中で誰よりもパワーユニット開発に精通しているリーダーとなる。

 浅木氏は6月23日の午後に、日本の報道関係者などを対象にした記者説明会を行ない、ホンダ F1の取り組みや昨シーズンの振り返りなどに関しての説明を行なった。以下は、その模様をできるだけ詳細に書き起こしたものとなる。

浅木氏:ホンダにおけるF1開発と量産開発がどういう位置づけなのかは、私のキャリアが分かりやすいので説明したい。入社して1年間は製作所、販売店など実習に入り、その後研究所に正式に配属され、すぐF1開発に配属された。当時はF2の開発がメインで、F1のテストをやっているのは自分と上司の2人だけという状況だった。それから連勝が始まるぐらいまで、F1開発にいて、その後V6エンジンの開発を行なっていた。

 V6エンジンを搭載したアメリカ向けのミニバンの開発に携わっていたが、あの大きさを作るには新しい工場が必要になるのだが、当時のホンダはほかの会社に買収されるのではという噂が出るほど厳しい状態で新しい工場を建てることはできなかった。そこで、なんとか既存の工場で流せるようなミニバンを作ろうと言うことで、初代のオデッセイを作ることになったのだが、当時V6エンジンの開発チームにいたのに、直列4気筒のエンジンを作り、上司に大目玉を食らうことになった。しかし、オデッセイが売れたおかげで、V6エンジンのチームに再び戻ることができた。

 その後VCM(可変シリンダー)のチームにいき、米国でのカムリとアコードとの燃費開発競争に貢献したりしながら、商品企画に移りそれを首になった後、軽自動車担当になりN-BOXの開発を担当した。当時の軽自動車はスズキ、ダイハツの2社が強かったが、円高で輸出も難しいという状況の中で、国内での製造を増やすには国内で売れるクルマ、それは軽自動車を作らないといけないとなってN-BOXを作った。

(第2期)のF1でもゼロから始めて、BMW、ポルシェ、フェラーリと戦って勝ったことが自信になり、違うことをやるときにも「できないことはない」と思って開発してきた。ホンダの量産部門とF1開発部門が行ったり来たりというのはそういう効果があり、よく言われているレースはホンダのDNAだというのはそういうことだと考えている。

 その後執行役員になってグローバルのスモールカー担当になり、後1年で定年かなと思い定年後の人生設計を考えたりしていたのだが、F1の世界ではマクラーレンとの関係が悪化して、お金を払ってブランドを毀損しているのではないかという状況になっている中で、F1をやってくれないかというオファーをいただいた。迷ったのだが、結局引き受けることにした。このように私の経歴を聞いていただけると、ホンダの中でのF1の役割ということが分かっていただけるのではないかと思って紹介した。

パワーユニット開発の競争領域

 続いてF1のパワーユニット開発について紹介していきたい。現代のF1では写真のように、エンジン、ターボのタービン、ハイブリッド関連などさまざまな競争領域がある。レギュレーションに関しては基本昨年と同じだが、2020年に向けてはシーズン中のアップデートは不可になり、2021年に向けてはシーズン中に一度アップデートが可能になる。このため、今シーズンに関してはオーストリアに持ち込んだエンジンでシーズンを戦うことになるが、使えるパワーユニットの数はレース数が確定していないのでまだ決まっていない。

F1 PUレギュレーション

レギュレーションのポイント

熱効率を上げていくことが性能向上のポイント

 現在のレギュレーションの根幹は燃料流量規制になる。もう1つはシーズン中に使えるユニット数に制限があるため、信頼性が重要になる。第2期との大きな違いは、燃料流入制限があることだ。第2期ではどれだけ高回転、高出力にして燃料を燃やすことができるかを競っていた。それに対して現在は燃料流量が決まっているので、できるだけ熱効率を上げていくことが課題になっている。

 F1のパワーユニットはMGU-KとMGU-Hという2つのハイブリッドシステムがある。MGU-Kの方は基本的には市販車で採用されているハイブリッドシステムと同じで、ブレーキ回生からのエネルギーを貯めてそれを放出する。レギュレーションで流入(発電)はラップあたり2MJまで、出力はラップあたり4MJと決まっている。このあたりは、FIAのセンサーで計測しているので、そのセンサーへのデータの入力を調整するという手法なども従来試みたところもあったようだが、昨今はFIAもそれに気がつき厳しくしているので、そういうことはできない方向になっている。

パワーユニットの構造図

MGUの働き

 これに対してMGU-Hはターボにジェネレータがつく形になっており、制限がないためここをいかに効率よくするかということが勝負どころになっている。MGU-Hではそれだけでなく、排気圧力を減らしてエンジンのパワーを上げるという役割もあり、1周単位や数周単位でエネルギーマネジメントをやりながら戦っている。

オールホンダ体制

 ホンダ内部の開発体制に関しては去年どおりだが、昨年別組織から参加してもらっていたジェットエンジンの開発知見を持つホンダジェットのエンジニアや燃料開発のエンジニアは「先進パワーユニット・エネルギー研究所」という新しい組織が立ち上がってそこに参加してもらっている。ただ、名称は変わっているが基本的には同じで、昨年と同じようにオールホンダで戦っていく。

メルセデスに追いついたと感じられた瞬間が昨年のブラジルGPの最終ラップのストレート勝負
復帰後のパワーの状況。フェラーリとメルセデスに昨年ようやく追いついてきた

浅木氏:このスライドは復帰後、なかなか馬力では追いついていないという「言い訳」をグラフにしたものだった。そして昨年は最終戦までにメルセデス、フェラーリに追いつくことを目標としてやってきた。去年は結局3勝した訳だが、それではメルセデスに追いつくという目標は達成したのかどうかが重要になると考えてやってきた。

昨年3勝

 こちらは復帰後初優勝したオーストリアのレースチャート。フェルスタッペン選手は2位グリッドからスタートして7位まで落ちた。その段階で私もそうだったが、フェラーリやメルセデスもフェルスタッペンはレースから脱落してフェラーリとメルセデスのレースになったと考えただろう。

 だがそこからフェルスタッペン選手は順調に挽回し、トップ4のすぐ後ろまで盛り返した。レース中にベッテル選手が仕掛けると、メルセデスはボッタス選手がカバーに入る。それで2台が想定より早くいなくなってくれたことで、フェルスタッペン選手はハミルトン選手にどんどん追いついていった。

 ところが、ハミルトン選手はウィングを壊してピットで想定よりも時間がかかったため、ピットイン時に脱落し、フェルスタッペン選手とボッタス選手、ルクレール選手のレースになった。そしてその後、コース上ではおそらく初めてメルセデスを抜き、ルクレール選手を数周で抜いてレースとしては面白いレースになり最終的に優勝した。

オーストリアGPのラップチャート

Engine 11、Position 5

 ではこのレースでメルセデスに追いつき目標を達成したのかと言うと、それは難しい。ハミルトン選手はウィングを壊しているし、ボッタス選手はタイヤに苦しみ、フェルスタッペン選手はそれよりも新しいタイヤを履いているという違いがあったし、冷却の問題でも苦しんでいた。

 なお、レース中にフェルスタッペン選手に対して「Engine 11、Position ○○」という指示が出ていたが、それはダメージコントロールだ。本来は1ユニットで7レースを行なわないといけないので、できるだけダメージを少なくする設定にして戦う。あのレースではそのダメージを多少使っても勝ちに行くということを優先したレースだった。その結果としてなんとか勝つことができて、HRD Sakuraに来た責任をまずは果たすことができた。

ブラジルGPの最終ラップでの争いで、メルセデスに追いついたことを実感

 そして、「メルセデスと並ぶ」という目標に近づいたと実感することができたのはブラジルGPの最終ラップだった。あのレースではフェルスタッペン選手は1位独走していたが、2位のガスリー選手と3位のハミルトン選手は最後まで並んで最終コーナーから立ち上がってきた。これまでなら、ガスリー選手はストレートでメルセデスのハミルトン選手に易々と抜かれてしまうシーンだった。そこで一度フェルスタッペン選手のチェッカーに国際映像が切り替わった後で、再びこの2位争いが映ると、まだこの位置づけで結局加速では負けずに抜かれなかった。このレースではパワーユニットの観点ではメルセデスに決して負けていない、対等に戦えたと評価できた。

今シーズンの戦い

 今シーズンはフェラーリ、メルセデス、ホンダのどこのパワーユニットが勝ってもおかしくない、特にメルセデスとホンダはどちらが勝ってもおかしくないようにしていきたいと考えている。

今シーズンの目標は最低でもメルセデスに並び、最終的にはチャンピオンを獲ること

 浅木氏のプレゼンテーション終了後には、質疑応答が行なわれた。

──オフシーズンのテストではレッドブル・ホンダが好調だけど、オーストラリアGPは中止になってしまった。その時の気持ちを教えてほしい。

浅木氏:レースが行なわれなかったのは残念だったが、あの状況ではレースはもう無理だろうと思っていた。ただ、もう少し早く決めてもらえると嬉しいなぁと思っていた。というのも、私は(チームメンバーがCOVID-19に感染してしまってレース中止の引き金を引いた)マクラーレンと同じホテルで、日本に帰ってきてからは自主隔離ということで2週間自宅にこもることになったからだ……。

──昨年好調だったレッドブル・リンクでの開幕だけど、目標は?

浅木氏:ゲンのいいサーキットだし、昨年はターボの効率も含めて同等に戦えたサーキットだ。メルセデスは昨年のようなことはなくてしっかり対策してくるだろうし、期待と不安が半々ぐらいだ。今年の目標は、もう2位を目指すという目標はないのでシリーズチャンピオン。最低でもメルセデスと互角のパワーユニットを目指す。

──燃焼効率の上昇について。2015年を100にした場合に、現在はどのくらいか?

浅木氏:言い訳資料に示したグラフがすべてだ。あの縦軸が効率なので、そこから読み解いていただきたい。

──開幕戦だったはずのオーストラリアGPに持ち込まれるパワーユニットに比べてどの程度進化しているのか?

浅木氏:本来はスペック1、スペック2、スペック3という3段階で戦う計画で、本来オーストリアGPでスペック2を投入する計画だった。そこからどれくらい進化したかだが、他社の欧州のファクトリーがCOVID-19の影響でシャットダウンされたのに合わせて、我々のオフィスもフェアプレイの精神から同様にしていたので、大きくは変化していない。オーストリアに持ちこむのはスペック1から少し進化したスペック1.1を持ち込む。

──コースラインアップを見ると、PUにどんな影響があるか?

浅木氏:同じコースで走る場合にはエネルギーマネジメントのシミュレーションは一度で終わる。どちらかと言えば、ロジ(物流)などが大変になる。新しいサーキットではエネルギーマネジメントのシミュレーションが大変になるが、そのあたりが競争の一つになると思う。

──ホンダにとってのホームGPである日本GPがキャンセルになってしまったことへの感想を教えてほしい。

浅木氏:日本の企業であるホンダなので、研究所としても日本の皆様に頑張っている姿を見ていただきたくてこういうことをやっている。その意味では非常に残念だが、さまざま考えるとやむなしと考えている。

──F1技術の量産車へのフィードバックはどんなエリアなのか?

浅木氏:一番近道だと思っているのはモーター類。内燃機関100年の歴史に比べるとEVはまだ歴史が浅い。そこはF1と量産が近いところにある。もう一つは燃料系で、量産ではコストが高くてテストできないし、実用化までに時間がかかるものをなるべく早く量産化にできるというメリットがある。それに対して燃焼系は乖離が大きく、それを量産につなげていくには違うことを考えないといけない。

──活動予算の見直しなどはあるか?

浅木氏:今回のことで直接的な影響はないが、工業系は世界的に大打撃を受けている。苦しい中で脱落者をいかにして出さないで先に進むかということを、FIAもF1もみな配慮しながらコストを下げることを検討している。すべてのチームで活動できる予算が決まってくればそれに合わせて削減していく。開発予算の効率的な使い方が今後は求められると考えていたが、それが想定よりも早く来た。

──テストなしでの実戦に不安は?

浅木氏:不安は当然ある。しかし、それを打ち消す為にSakuraのテストベンチなどで確認して持って行く。みな同条件なので、そこで戦っていくしかない。

──2020年の規則変更で、燃料に関して若干の変更が入るようだが、その影響は?

浅木氏:これまで使っていいとされてきた燃料の技術を使ってはいけないとなれば、何かを失うというのが一般論。その上で、その影響があるかどうかは、それを使っていたかどうかも含めて言わないといけなくなるので、ノーコメントで。

 浅木氏の質疑応答終了後には、7月3日から開催されるオーストリアGPに参加するために、すでに渡英しているHonda F1 マネージングダイレクターの山本雅史氏がサプライズ登場し、最後にまとめのコメントをしてくれた。現在英国では外国から入国した関係者には2週間の自主隔離が求められており、おそらく山本氏もその期間にあると思われるが、すでに渡英しているということは、それが終了すればF1の関係者と一緒にオーストリアやハンガリーなどへの移動が可能になると考えられ、開幕戦にもその姿を確認することができそうだ。

山本氏:7月5日の決勝レースから今シーズンのF1が開幕する。すでに浅木も説明したように、マクラーレンの3年間では、F1に参加していなかった遅れを取り戻す勉強をさせてもらい、18年からトロロッソと、そして19年からはレッドブルとパートナーを組み、4台で開発も加速した。今年は大きな節目の年だと思っている。スタートラインの時点で今年はいい戦いができそうだと考えていて、カタロニアのテストでも毎日が充実していた。ホンダが一丸となって、お客様、ファンの皆様のご期待に応えられるようにシーズン中は戦い、最後には皆様に笑顔をお届けできるようにしたい。

本田技研工業株式会社 Honda F1 マネージングダイレクター 山本雅史氏