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スカイドライブの「空飛ぶクルマ」有人飛行試験レポート
2023年にはエアタクシーとしての事業化を目指し、2028年頃には機体の市販化も計画
2020年9月2日 17:16
“空飛ぶクルマ”と聞いて思い起こすのは? 映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」で主人公のマーティ(マイケル・J・フォックス)が乗っていたデロリアン。「バットマン」のバッドモービル。「ハリーポッター秘密の部屋」に登場した魔法の力で空を飛ぶ水色のフォード・アングリア。そして古い世代にはお馴染みのTVアニメ「スーパージェッター」に登場したマッハ15の流星号などなど、年代によって頭に浮かんでくるクルマはさまざまだ。
こうしたSFの世界に出てくるような空飛ぶクルマを、実際に開発しているスタートアップ企業が日本にある。SKYDRIVE(スカイドライブ)がそれだ。目指したのは、東京都23区内であればどこへでも10分で移動でき、スマホで予約すればビル、マンション、自宅前などに飛来した空飛ぶクルマに乗り、目的地に到着したら乗り捨てることができる。そんな世界だ。8月末、愛知県豊田市の山中にある同社のテストフィールドで開催された、空飛ぶクルマの有人飛行テストの模様をレポートする。
今回テストに使用したのは「SD-03」と命名された同社で3番目となる最新の“機体”で、4×4×2m(全長×全幅×全高)。パイロット1名が乗った状態で重量は400kg。ボディの四方に2重反転式の3枚プロペラが合計8基あり、フェイルセーフのため8個のモーター、8個のバッテリーで駆動するシステムだ。最高速40km/h、最大飛行時間は5~10分。カテゴリーとしては「eVTOL」という形式になる。
エクステリアデザインは、自動車のクーペを意識したというスマートなもので、ホワイトのベースにブルーのラインとSKYDRIVEのロゴが入っている。ボディ下部には重量物であるタイヤは取り付けられておらず、ヘリコプターでよく見るソリのような形状のアシを装着。跳ね上げ式の1人乗りのコクピット内は、ブラックのシートと13インチほどのインフォメーション画面が1つあるだけで、とてもシンプルだ。画面には左側にナビゲーション、右側に天気、気温、風速、スピード、高度などのデータが表示され、その背景には顔認証による搭乗者の顔の向きに合わせて、見える方角の景色が映しだされる。
テスト開始時は晴れて風もなく、気温は28℃と飛行条件として文句なし。F1ドライバーのようなフルフェイスヘルメットと耐火スーツ姿のパイロットが乗り込むと、8基のプロペラがすぐに回転をはじめ、空飛ぶクルマはふわりと垂直上昇。高度2mを保ちながらテニスコート3面ほどの面積を持つ飛行フィールドを1周し、元の場所にピタリと着陸した。飛行時間は3分ほどで、機体の姿勢は終始とても安定していた。目の前を通過した際は、「ブォーーーーン」というプロペラ音や「キーーーーン」というモーター音、そして400kgの物体を浮かせるための強い風圧が伝わってきたものの、爆音、爆風のヘリコプターなどに比べたら大したことはなく、大きなドローンだと思えば間違いない。無事着陸した瞬間、スタッフや報道陣から思わず拍手が出たのも印象的だった。
「100点満点の飛行ができた」とスカイドライブの福澤代表
スカイドライブの福澤知浩代表は、東大工学部出身で、卒業後はトヨタ自動車に就職。部品調達部門でトヨタ生産方式を用いた“カイゼン”を実施し、賞まで獲得したという経歴を持つ。しかし地上を移動するクルマには信号があったり渋滞があったりで、目的地に早く直線的に行くことができない。
ヘリコプターや航空機では大掛かりな離着陸場が必要だし、そこまでの移動にクルマを使うのでは意味がない。ならば自動車の技術を基にした小型のエアモビリティ(空飛ぶクルマ)」を作り、ダイレクトに空中を移動すればいいのでは。そんな考えから2014年にスタートアップ企業などに勤めるメンバーが集まる「CARTIVATOR(カーティベイター)」に参画。
その中から空飛ぶクルマを作りたいという自動車、飛行機、ドローンなどのスペシャリストが結集し、立ち上げたのが スカイドライブだ。駐車場2台分程度の広さに垂直離着陸できる機体で、内燃機関を使わず騒音が少ない電動の「eVTOL」と呼ばれる形態を目指すことになった。
有人飛行を成功させた福澤代表は「飛行テストは何度も繰り返し見ているのでいつも通りなのですが、それを多くの報道陣に公開できたのが今日の一番の変化。やっとここまできたな、感慨深いな、というのが正直なところです。今回の飛行に点数をつけるとしたら100点満点です。」とコメント。
さらに「実用化までには大きく2つのステップがあり、最初は安全に安定的に飛ぶ、という点。それは今回達成できたと考えていて、次のステップは、実用化。一般の人が乗ることができて、事業として使える機体になることです。今日からその後者の方に挑んでいく段階になりました」。
「実際に飛んでいる場面を見てもらうことで、空飛ぶクルマがある世界のイメージが浮かんでくる、というところも大きいと思っています。現在空飛ぶクルマを開発中の会社は世界で200~300社あります」。
「スカイドライブの機体は、サイズがコンパクトであることが“売り”。ヘリコプターなどに比べるとかなり小さいので、駐車場2台分のスペースがあればどこでも離発着できるし、音も静か。となると、東京、日本、アジア、という比較的狭い国土、地域で使えるというのが一番のアピールポイントです。広いアメリカなんかだと、自宅の庭にヘリの離発着場を作っちゃいますからね」と語る。
「型式証明は安全の保証書」と岸信夫最高技術責任者
また今年4月には、三菱重工で長らく戦闘機や旅客機などの開発に従事し、中型旅客機のMRJ(スペースジェット)開発ではチーフエンジニアと技術担当副社長を歴任した岸信夫氏が、スカイドライブの最高技術責任者に就任した。
スカイドライブには空飛ぶクルマの試作機を飛ばすことができても、国の型式証明の取得という大きなハードルがあって、それができる人材がいない。そこで岸氏が三菱で培って来たその分野での膨大な知見を生かし、そこを突破していこうというわけだ。
「前職のスペースジェットでも経験しましたが、厳密なレギュレーションというものが決められていて、その規定というのは結局自分がいい、と思うだけではダメで、その自分がいいと思っていることを国土交通省に説明して、『そうだね』と言ってもらう必要がある。そうすると、この機体は安全だよ、と国が保証書をつけてくれる形になるのです。一般の方が使うときの“安全の保証書”。これが型式証明ということになります」と説明してくれた。
今回SD-03の操縦を担当したのは、40年以上にわたって水陸空の機体を製作・飛行させたほか、30機以上のオリジナルドローンを製作してきたという安藤寿明チーフエンジニアだ。「SD-03は、前の機体(SD-02)よりかなり静かになりました。フルフェイスのヘルメットをかぶっているけど、ヘッドセットや耳栓はしておらず、音的にはちょっとうるさいスポーツカーのような感じ。乗り心地は高級車とまではいかないが、乗用車で一般道の直線道路を走っているのと変わらない感覚です。空を飛ぶものを作るにあたり、軽量化は1番の大前提ですがお金もかかります。機体はやれる限りやったので、私も10kg減量して臨みました」と笑顔を見せた。