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マイクロソフト、仮想と現実の物体のアライメントを自動で行なう新サービス「Azure Object Anchors」 トヨタが採用

プライベートカンファレンス「Ignite」で発表

2020年9月22日(現地時間)発表

マイクロソフトが発表した「Azure Object Anchors」に対応したトヨタ自動車のHololens向けアプリ(出典:マイクロソフト)

 ITソフトウェア大手の米マイクロソフトは9月22日(現地時間)、プライベートカンファレンス「Ignite」をデジタルで開催している中で、同社のMR(Mixed Reality、複合現実)ソリューションとなるHoloLens(ホロレンズ)向けの新サービスを追加したことを明らかにした。

「Azure Object Anchors」(アジュール・オブジェクト・アンカー)と呼ばれる新しいサービスは、マイクロソフトが提供するパブリッククラウドサービス「Azure」のサービスとして提供されるものだ。従来はプログラムを作成するプログラマーが3Dでレンダリングされるバーチャル世界の物体と、リアル世界の物体の位置合わせをマニュアルで行なっていて、大きな手間がかかっていたり、QRコードなどを表示させてユーザーに手間をかけたり、位置がずれてしまうなどのトラブルが起きやすかったのに対して、Azure Object Anchorsを利用すると位置合わせを行なう物体の位置合わせを自動で行ない、ユーザーの使い勝手やプログラマーのプログラム作成を容易にすることが可能になる。

 このAzure Object Anchorsはトヨタ自動車のHolo-Lensを利用したサービスアプリケーションに採用される計画で、同社によるデモが公開された。

仮想現実と現実を組み合わせて新しいアプリケーションを実現するHoloLensなどのMixed Reality

マイクロソフトのHoloLens 2

 マイクロソフトが推進するMRは、いわゆるVR(Virtual Reality、仮想現実)に現実世界との融合を追加したもの。VRが完全な仮想現実になっているのに対して、MRでは現実世界の上に仮想現実を追加することで、デジタル世界と現実世界の融合を実現する。マイクロソフトが提供するHoloLensというMRヘッドセットは、ディスプレイがシースルーになっており、例えば建設予定地でそれを被ると、今はまだない建設予定のビルが現実世界に重ねて体験できる。そうしたことが可能なのがMRだ。

HoloLens 2ではレンズにMRのコンテンツが表示され、現実と重ね合わせて表示される

 MRはそうした建設のほかにも、自動車のサービス部門や設計部門などでも利用されている。例えば、サービス部門向けであれば、実際の自動車の上に、外からは見えない配線図をバーチャルで重ねて表示させる、といったことが可能。熟練のサービスマンであればそんな配線図は必要ないかもしれないが、例えば新人のサービスマンが学習するとき、あるいは熟練のサービスマンでも新しい車両の配線を勉強するためにそうした機能を使うことができる。マイクロソフトのそうしたMRは、JAL(日本航空)のサービスマンが利用したり(僚誌トラベルWatchの記事を参照)、トヨタもHoloLensをサービスマン向けの修理書の代わりに使っていることなどを明らかにしている(別記事参照)。

 マイクロソフトは、そのHoloLensの第2世代としてHoloLens 2(ホロレンズツー)を2019年2月にスペインで行なわれたMWCで発表(僚誌PC Watchの記事を参照)しており、すでに日本市場で販売が開始されている。

仮想と現実の物体のアライメントを自動で行なう新サービス「Azure Object Anchors」、トヨタが採用

HoloLens 2を装着しているところ

 そうしたHoloLens 2に使われるアプリケーションは、マイクロソフトが提供しているパブリッククラウドサービス「Azure」と連携して動くようになっている。従来からマイクロソフトはいくつかのサービス(例えばRemote Rendering、Spatial Anchorsなど)をHoloLens向けに提供してきたが、マイクロソフトは現在開催しているプライベートイベント「Ignite」において新サービスとして「Azure Object Anchors」を導入することを明らかにした。

 Azure Object Anchorsは簡単に言ってしまうと、バーチャルの物体とリアルの物体の位置合わせを自動で行なうサービスだ。従来はプログラマが手動で位置合わせを行なっており、それを示すための物理的なマーカー(例えばQRコードなど)を置いておく必要があったが、Azure Object Anchorsを使うことでその必要がなくなる。例えば、バーチャルな車両の外形とリアルな車両の外形を一致させることで、その車両内部にあるエンジンや配線などの仮想データを実際の車両に重ねて表示することが可能になる。

 今回のIgniteでマイクロソフトはトヨタの事例を紹介した。トヨタの事例では、車両のモデルと実際の車両を照合し、そこに車両のハーネス(ケーブル配線)を重ね合わせて自動で表示させることが可能になっている。これにより、ユーザーは特に難しい操作をしなくても自然に操作できるし、プログラマも手動でバーチャルの車両と実際の車両の位置合わせをする必要がなくなる。

 トヨタ自動車 エンジニアリング情報管理部 情報管理企画室 主幹 栢野浩一氏は「Azure Object Anchorsのマーカーレスで動的な3Dモデルのアライメントにより、われわれのサービス要員はより迅速かつ正確にサービスを行なうことが可能になる。QRコードのようなマーカーをなくし、アライメントを手動で行なうことによるエラーのリスクを減らすことで、メンテナンスをより高効率に行なうことが可能になる」(原文は英語、筆者訳)と説明しており、HoloLensやHoloLens 2などを利用したメンテナンス作業がこれまでよりも効率よく行なうことができると説明している。