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ホンダ SUPER GT チーフエンジニア 佐伯氏、「16号車に投入した2基目のエンジンはピークパワー向上を狙った新スペック」
8号車には4連勝でチャンピオンを狙ってほしい
2020年10月4日 07:32
- 2020年10月3日~4日 開催
衝撃的な2021年限りでのF1からの撤退から一夜明け、ホンダのもう1つの4輪モータースポーツの柱と言ってよいSUPER GTは、第5戦富士の予選で8号車 ARTA NSX-GT(野尻智紀/福住仁嶺組)がポールポジションを獲得した。
SUPER GT第5戦富士 予選、第2戦富士同様に8号車 ARTA NSX-GTがポールポジション
https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1280696.html
この8号車のシーズン2回目のポールポジションで、ホンダは5戦して3ポール、そして全レースでフロントローからスタートすることになる。すでに4戦中2レースで17号車 KEIHIN NSX-GT(塚越広大/ベルトラン・バゲット組、BS)が優勝するという結果も残してきている。
そうしたホンダのNSX-GT開発をリードする本田技術研究所 HRD Sakura LPL チーフエンジニア 佐伯昌浩氏による予選後のオンライン会見が行なわれた。その模様をお伝えしていきたい。
5戦して3回ポール、すべてのレースでフロントローからスタート
──佐伯氏から今回(第5銭富士)のレースを振り返っていただきたい。
佐伯氏:今回のレースはやはりウェイトハンデの影響という状況の中、8号車(ARTA NSX-GT)が有利という条件になっており、その中でしっかりと他車を引き離すタイムでポールポジションを獲得することができた。これで5戦中3回のポール(8号車が第2戦と今回、64号車 Modulo NSX-GTが第3戦で)を獲得し、かつ5戦全部でフロントロー(開幕戦では8号車、第4戦では17号車 KEIHIN NSX-GTが予選2位)を獲得しており明日(10月4日の決勝レース)も先頭からミスなく走り、前半戦で取りこぼしたポイントを優勝という形で拾いに行きたいと思っている。
16号車 Red Bull MOTUL MUGEN NSX-GTに関しては前回のレースの後に、エンジンチェック時にトラブルにつながりそうな部分が見つかり、急遽2基目のエンジンに交換している。そのため、午前中は調整などで時間を使ってしまったが、午後は順調に走行してQ2進出をしている。
そのほかのNSX勢に関してはウェイトハンデの影響が大きく、下位に沈んでしまっているが、明日は1ポイントでも多く取れるようにかんばりたい。
──ポイントランキングトップの17号車は下位に沈んだがリストリクターと重量、どちらの影響が大きいのか? 決勝のレースペースに関して上位進出できそうな見通しはあるか?
佐伯氏:富士はパワーが必要になってくる部分が大きく。燃料リストリクターが絞られていることの影響が大きく出たと感じている。Q1を見ても、絞られる量が多いほど下位に沈んでいる。燃リスはハンデとして機能していた。明日かなり苦しい展開になるのではないか考えているので、ミスなくチェッカーまで運びたい。
──逆に考えると8号車にとってはとても有利になってるという理解よいか?
佐伯氏:8号車はほぼポイントを稼いでいない状態で、ウェイトはほぼ積んでしないのでかなり有利なポジションにいると思う。それは日産の12号車(カルソニック IMPUL GT-R)も同様だが。
──金曜日にF1に関しての発表があり、ホンダの八郷社長はF1はこういう形で終了するが、ほかのモータースポーツは続けて行くという言及があった。特に日本ではSUPER GTの人気があるので、ホンダのモータースポーツの中での重要性が上がると思うが、その点に関して佐伯氏はどうお考えになっているか?
佐伯氏:出るカテゴリーによらず、出るからには勝つということに変わりはないので、これまで通り粛々と頑張っていきたい。
──17号車の燃料リストリクターはフルフルで絞られていると思う。過去のNSX-GTではここまで絞られるというのはあまりなかったと思うが、この3段階目まで達した燃料リストリクターに対して佐伯氏はどう見ているか?
佐伯氏:パワーで10%以上なので、60(馬力)とかそれに近い数字になってくるので、さすがにそれだけ絞られるとGT300において行かれるのではないかとちょっと心配なところがあると思う。
ここまで絞られてくると、GT500で上の方に行くのはさすがに厳しく、2段階燃リスダウンの車両との勝負になるのではないかと考えている。
──5戦連続フロントロー、PP3回。ここまで一発が速いというのは予想外だったか?
佐伯氏:通年どおり、4月開幕だったらここまでの成績は残せなかったと思う。シーズンが遅れて開幕することになったので、細かい煮詰めをやることができて、速いクルマができあがった。
それは研究所のみんなのがんばりだと思う。正直レースが始まってみるまでは相手との差も分からなかったが、(始まってみると)思ったよりは結構速いなとびっくりしている。
──富士は3戦目だが、予選一発の速さは2回のポールが証明している。前回富士で話をうかがったときには、レースペースではまだまだと言っていた。今回3回目のレースになるが、明日のロングランに向けた準備具合はどうか?
佐伯氏:集団に入ってしまったときのレースペースは、抜きにくいということもあり、どのメーカーも同じ状況ではないか。その意味ではフロントローからスタートダッシュを決めてという展開が重要だと考えている。
実際、ここまでの4戦でいずれも勝った車両はフロントローからスタートをしている。フロントローから出て、自分のペースで走れば速いレースペースをキープできて、逃げて行くことができる。集団に飲み込まれてしまうと、ペースがある車両でも厳しいというのが今のGT500のレースになっていると感じている。
16号車に投入したのは2基目として計画されていた新スペックのエンジン、燃リスに引っかからない8号車はここから4連勝を狙う
──今回16号車のエンジンを交換したということだが、それは以前言われていた新しい何かが入った2基目なのか、それとも前半で利用した1基目と同じ仕様を入れているのか?
佐伯氏:我々としてはもう少し1基目を引っ張ろうと考えていた。しかし、16号車のエンジンは第4戦もてぎ戦の後のチェックで少しトラブルにつながりそうな兆候が見つかり、そのまま前半戦のエンジンに載せ替えるのも今後のレースを考えると戦闘力が上がっていかないということもあるので、2基目として考えていたスペックのエンジンを急遽仕立てて16号車に搭載している。
──それは2基目のスペックはもう完成していてそれを16号車に積んだということか?
佐伯氏:いろいろやっていれば多分仕上がっていたと思うのだが、エンジンの方を準備したもので、テスト中の部分もあったりして合わせ込みの途中だったものを、現場に持ってきていきなりレース投入してしまったので、今日は午前中から結構バタバタしながらやっていた。
──それはソフトウェアとかそういう部分か?
佐伯氏:いえ、マップとか制御データ関連になる。なんとか今は特に問題なく走れるか、問題は全部出し切ったのかというとまだそこまでは出して切っていないというのが正直な認識。
──それは16号車に投入してテストのような形になっているということか?
佐伯氏:そういう部分がないとはいえないし、仮に5台全部がこうなっていたらもっとパニックになっていたと思う。
──ということは決勝レースで16号車が取るデータは今後の展開に重要になるということか?
佐伯氏:そのとおりだ。今日(予選日)、明日(決勝日)で取れるデータはすごく貴重なデータになると思う。
──この2基目のデータはどんなパフォーマンスアップを狙ったモノになるのか?
佐伯氏:前半戦からのドライバビリティのよさを維持しつつ、よりピークパワーを出せるようなスペックを狙っている。
──ポールポジションを獲得した8号車のドライバー2人は公式会見で、今回セットアップをガラッと変えて、その持ち込みセットがとてもよかったと言っていたが、それはどういうことなのか?
佐伯氏:8号車に関しては、この前半戦を戦ってきた中で、同じブリヂストンを履いた17号車、100号車と同じようにセットアップを進めても、同じようにならないという状況が続いてしまっていた。
そこで今回チームの方で考えられるところをチェックして、怪しいところを確認してすべてクリアにして今回持ち込んでいる。これまで「不思議」と表現するしかない現象が8号車には起きていたのがクリアになったということで、走り始めからドライバー2人とも気持ちよく走ることができていた。
──となると、8号車が抱えていた問題はクリアになり、今後上位争いができる可能性があるということか?
佐伯氏:私としては8号車の2人には4連勝してくれといっている。SUPER GTの規則の中で、後半戦をほぼノーポイントからレースやるとしたら、燃料リストリクターを一度も絞られずに4戦戦えるので8号車にとってはチャンスと言えばチャンスなのだ。
──今から2連勝しても40点、今日のポールポジションの1点を足しても今が5点で45点。7戦目からはハンデが半分になるので、確かに燃リスが絞られる51点には届かない。
佐伯氏:そのとおりだ。今まさにどこのチームも燃料リストリクターがきついということを言っているところに、一度もそれに引っかかることなくチャンピオンというのも計算上はない訳ではない。これから全部勝てば80点(20点×4)だからそれを狙ってほしいと2人には言っている。