ニュース

モービルアイ シャシュアCEO、自動運転車を実現する新型FMCW LiDARはインテルのシリコンフォトニクスで

ソフトウェア定義レーダーはSoCで高性能化

ドイツ ミュンヘンでテスト走行を行なうモービルアイのSuper Vision搭載自動運転車

 インテル(Intel)のグループ企業であるイスラエルの半導体メーカーモービルアイ(Mobileye)は1月12日、初のデジタル開催として行なわれたCES 2021の記者会見に登場。同社がソフトウェア定義のレーダー、そしてインテルのシリコンフォトニクスを応用したFMCW LiDAR(Light Detection And Ranging、ライダー)を2025年に投入する計画を明らかにした。

 モービルアイはその翌日のプレスカンファレンスにおいて、同社の今後提供していくEyeQ(アイキュー)シリーズを使ったADAS/自動運転の戦略、ソフトウェア定義のレーダーやFMCW LiDARなどの新しい戦略に関して詳細な説明を行なった。

ソフトウェア定義のレーダーやFMCW LiDARについて詳細な説明を行なったMobileye CEO アムノン・シャシュア氏

2020年は前年比10%の成長を実現、Super Visionで自動運転車のテスト走行

モービルアイの2020年、2019年に比べて10%成長

 アムノン・シャシュア氏は「モービルアイの2020年は37のデザインウィンを獲得し、現在49のプロジェクトが走っており、2019年に比べて10%程度の成長を実現した。すでに出荷されたモービルアイベースの自動車は累計3620万台に達している」と述べ、コロナ禍においてもビジネスが堅調に成長したことを明らかにした。

 ビジネスに関しては「ADAS向けの半導体製品、REMなどのデータ関連ビジネス、そして自動運転向けのソリューションという3つの柱から成り立っている」(シャシュア氏)と述べ、今後もADAS向けの半導体、車載システムから道の情報をクラウドにアップロードし、それを元に高精度3次元地図を日々アップデートしていく仕組みであるREMなどのデータ関連ビジネス、そして2025年に向け実現していく一般消費者向け自動運転ソリューションを提供していくと述べた。

モービルアイの3つの柱
モービルアイの戦略
製品群

 シャシュア氏は「我々は多岐にわたる製品のポートフォリオ(製品群)を顧客に提供している。半導体だけや、半導体と基板、さらにはセンサーまで含めたフルスタック、さらにはクラウド側のインフラを含めた自動運転の仕組み、そしてMaaSだ」と述べ、同社が創業以来提供してきた単眼カメラでコンピュータビジョンを実現する半導体「EyeQ(アイキュー)シリーズ」だけでなく、それに基板やソフトウェア、さらにはサービスも含めてADASや自動運転の機能を自動車メーカーが実現するためのソリューションを総合的に提供していくと強調した。

カメラだけを利用したサブシステム

 そして同社がカメラだけで実現した自動運転のシステムを紹介し、7つのカメラ(メインカメラ、長距離カメラ、リアカメラ、サイド×4)と4つのパーキング用カメラを利用した自動運転のシステムを、2020年第4四半期から出荷を開始する次世代チップ「EyeQ5H」を2つ搭載したシステムだけ実現できたと明らかにした。

 EyeQ5シリーズは、同社が現在提供しているEyeQ4シリーズの後継となる製品で、現在のEyeQ4が最大(EyeQ4H)で2.2TOPsであるのに対して、EyeQ5では7.5Wの消費電力のEyeQ5MLで7TOPs、17Wの消費電力のEyeQ5Mで12TOPs、34Wの消費電力のEyeQ5Hでは24TOPsという性能を発揮する。

 今回モービルアイが試作した自動運転システムではEyeQ5Hを2つ搭載しており、REMにより作成された高精度3次元地図を利用して自動運転を行なっている。EyeQ5Hを2つ搭載しているために、冗長性も備えており、仮に1つの半導体が故障したとしてももう1つで最低限のシステムは動かし続けることができるため、MTBF(Mean Time Between Failure、平均故障間隔)の数値は高くすることができ、信頼性を高めることに成功したと説明した。

Super Vision
エルサレムでの試験走行
ミュンヘンでの試験走行
デトロイトでの試験走行

 システム側のベースは、同社が「Super Vision」の名称で提供している、EyeQ5ベースのキットで、L2+のADASや自動運転を実現するための基板やソフトウェアなどがすべてセットになって自動車メーカーや部品メーカーなどに提供される。すでに吉利汽車(Geely)、Lynk & Coなどの中国メーカーが採用を表明している。

 シャシュア氏は「このシステムを利用することで自動車メーカーはADAS向けのシステムと同じコストで自動運転のシステムを構築することができる」と述べ、現在は一部のハイエンドなどにとどまっている自動運転のシステムを低価格に実装する上で大きく役に立つとした。

世界各地での実験

 シャシュア氏によれば、すでにイラスラルのエルサレム、ドイツのミュンヘン、米国のデトロイトの公道で試走をを行なっており、今後東京や上海、さらにはニューヨークといった巨大都市などでの試走が計画されているという。

REMを利用して作る高精度3次元地図、グローバルに正確な地図を提供できるのもモービルアイの強み

REMの必要性

 シャシュア氏は引き続きREMに関しての説明を行なった。REMは、モービルアイの車載システムを搭載しているカメラなどから得た情報をアップロードしてもらい、それを元に高精度3次元地図を作成するシステムだ。シャシュア氏は「我々はこのシステムの構築に2016年から取り組んでいる。我々のシステムを搭載している車両が通行した道路のレーンやランドマークなどのデータを10KBにパックしてクラウドのサーバーに送り、地図を日々更新していく。すでに日産、BMW、フォルクスワーゲンなどのOEMメーカーがこの取り組みに参加している」と述べ、REMの仕組みを説明した。

現在の高精度3次元地図の課題
現状は専用の車両を走らせて地図を作っていく

 シャシュア氏は「現在の高精度3次元地図の課題は、ローカルのマップはあるがグローバルまでカバーするのが難しかったり、最新版にするのに努力が必要だったり、正確性に課題があったりする。そこで、レーダーやLiDAR、カメラなど車載の各種センサーからの情報をクラウドにアップデートしてもらい、それを元によりグローバルをカバーし、日々更新されている、より正確な地図を作ることができる。そうした地図をグローバル規模で作れているのはMobileyeだけだ」と述べ、REMがMobileyeにとって大きな武器になっていると説明した。

現在の高精度3次元地図を作る上での課題

 シャシュア氏によれば、モービルアイのREMでは走行レーン、優先度、レーンの接続性、一時停止や徐行のポイント、実際に車両が走っているスピードなどもデータとして抽象化しており、そうしたデータを地図データと同時に持つことで、ほかの高精度3次元地図と差別化をしているという。

REMでのアプローチ

ソフトウェア定義レーダーと、インテルのシリコンフォトニクスで作るFMCW LiDAR

レーダーとLiDAR

 シャシュア氏はソフトウェア定義(半導体とソフトウェアの組み合わせにより機能を実現すること)のレーダーと、インテルと共同で開発しているシリコンフォトニクスを利用したLiDARに関しての詳細も説明した。

 シャシュア氏はレーダーとLiDARを利用したシステムについて説明し、現在のToF(Time of Flight、光源から発せられた光が物体に反射して戻ってくるまでの時間を測定して距離を計算する方式)のLiDARと中近距離レーダーの組み合わせ、2025年に同社が投入を計画しているソフトウェア定義レーダーとFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave、周波数変調連続波)方式LiDARを組み合わせて利用する場合の違いなどについて語った。

レーダーが目指すところ
現在のレーダーとソフトウェア定義レーダーの違い
ソフトウェア定義のレーダーは10TOPsのSoCとの組み合わせで実現
ソフトウェア定義レーダーのデモ

 ソフトウェア定義のレーダーに関しては、既存の固定機能のレーダーに比べて大幅に性能を引き上げることが可能だとした。具体的には既存の固定機能のレーダーは単純なMIMOを利用したレーダーで192バーチャネルチャネル構成(12×16)、25dBcのSLL(Side Lobe Levels)、60dBのダイナミックレンジをサポートするが、ソフトウェア定義で実現するレーダーは、より強力なMIMOを利用することでバーチャルチャネル数を2304(48×48)に増やし、40dBcのSLLを実現し、100dbのダイナミックレンジをサポートするという。

 シャシュア氏によれば「2304のバーチャルチャネルを実現するには100TOPsの処理能力が必要になるが、ソフトウェアにより最適化することで11TOPsのSoCで実現することが可能になる」と述べ、11TOPsのSoCだけで、2304バーチャネルチャネルを持つソフトウェア定義のレーダーが実現できると説明した。

FMCW LiDARの利点
ToF LiDARとFMCW LiDARの違い

 また、FMCW LiDARに関してはコヒーレント検出とドップラー効果を利用することで、ToF方式と比較して距離も測定速度も引き上げることが可能になると述べ、LiDARを利用してより広いエリアを検出することが可能になると述べた。

 ToF方式ではサンプリングは3Dで、測定距離の上限は200m、干渉にはとても敏感などになっているが、FMCW方式にするとサンプリングは4D(になり、測定距離は300m、干渉にも強くなり、より高い解像度でサンプリングすることができ、ODD(運行設計領域)を拡張できるようになるとシャシュア氏は説明した。

FMCW LiDARの実現にはシリコンフォトニクスが利用される
インテルのシリコンフォトニクスを利用したFMCW LiDARモジュール

 シャシュア氏は同社が計画しているFMCW LiDARの実現には、インテルが開発してきたシリコンフォトニクスが利用されるという。シリコンフォトニクスとは、半導体に直接光学通信インターフェースを統合する方式で、すでにデータセンターの中でチップとチップが光を利用して通信する際などに利用されている。シャシュア氏によれば、この光学ヘッドは1度のスキャンで184垂直線を実現するとのことで、これまでのLiDARに比べて大幅に性能を引き上げることができると説明した。

2025年には一般に購入できるような自動運転車が実現できると、シャシュア氏

RSSの特徴

 その後シャシュア氏はインテルやモービルアイが業界標準としてIEEEに提案しているRSS(Responsibility Sensitive Safety、アールエスエス、責任感知型安全論)についてやMaaSなどについて説明し、それらも含めて様々なソリューションを提案していくとした。

MaaSの取り組み

 最後にシャシュア氏は「こうしたさまざまなソリューションを利用することで、2025年には一般消費者が購入できるような自動運転の機能を実装した自動車をが実現できると考えている。それに乗れば後部座席に乗っていてもどこへでも行きたいところへ行くことができる」と述べ、モービルアイのソリューションで、2025年には多くの人が買えるような価格帯で自動運転車が実現できるようになるだろうと強調した。