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モリゾウ選手にGRヤリスでラリー参戦する理由を聞いてみた 副会長の早川茂氏も86で参戦中
2021年3月19日 05:05
- 2021年3月14日 開催
モリゾウ選手とGRヤリスがラリーフィールドに登場
3月14日に開催された「TOYOTA GAZOO Racing ラリーチャレンジ カップ in 安芸高田」にてMORIZO/勝又義信組の「GRヤリス」がデビューウィンを果たした。登録名のMORIZO選手はモリゾウ選手であり、トヨタ自動車の社長でもある豊田章男氏だ。ラリーはTSタカタサーキットとグラベルコースのテクニックステージタカタをスペシャルステージ(競技区間)とし、2つのコースをリエゾンで結ぶ形で開催され、GRヤリスを駆るモリゾウ選手はターマック、グラベルどちらのステージでもトップタイムをマークするなど、ニューモデルの戦闘力を開幕戦から証明した形となった。
今大会はチーム名「TGR MORIZO GRヤリス」としてエントリーしたMORIZO/勝又義信組のほか、豊田章男氏が自らのプライベートチームとして立ち上げた「ルーキーレーシング」から2台の86がチャレンジクラスに参戦している。117号車 早川茂/山内理恵子組、118号車 大森文彦/山本正裕組の2台だ。117号車のドライバー早川茂氏はトヨタ自動車の副会長、そして経団連の副会長も務めている人物で、モリゾウ選手のコ・ドライバーとしてラリーのキャリアをスタートさせている。
ちなみにTGR MORIZO GRヤリスの「104」は「トヨタ」の「トヨ」。「タ」に当たる数字がないんですよと周囲を笑わせていたのは2012年、この年に登場した86で同じ104のゼッケンをつけ初めてラリーに挑戦したときだ。
そこからモリゾウ選手は8年半ものラリーのキャリアを積み、その間にトヨタ自動車はWRC(世界ラリー選手権)への参戦を果たし、GRヤリスという量産市販車が生まれたことは多くの人が知るところだ。これまでFR車でラリーの経験を積んできたモリゾウ選手にとって、今回は初めて異なるタイプのマシンでの参戦となったわけだが、会場ではそのあたりについて語ってくれた。
モリゾウ選手「モータースポーツとは安全に速く走ること」
「私は86でアクセルワークの感覚を学びました。今回のようなグラベルコースではていねいに運転しないとクルッと回っちゃうんです。個人的にはFR車で身に着けた基本があったからこそ4駆に乗り換えたときグッとタイムが上がったと思っています。私の考えでは、モータースポーツとは安全に速く走ることなんです。でも現実問題として速度を増していけば危険も増してしまうようなところもあります。だからこそ私のような普段ほかの仕事をしている人が週末だけモータースポーツに参加するのであればなおさら安全を第一に考え基本を身に着けてほしいと思っています」(モリゾウ選手)。
週末にモリゾウ選手として活動する多忙な豊田章男氏にとってその基本を学んだのが86というFR車での経験だったというのだ。インタビュー中、若い人にはスポーツの魅力一杯のGRヤリスに乗ってほしいと語りながらも、その速さを操るだけの基礎もしっかり学んで安全に楽しんでほしいとの思いが滲み出ていたのは印象深い。
続いて、ニュルブルクリンク24時間レースなどでレーシングドライバーとして走っていたモリゾウ選手が国内ラリーを始めたころについて聞いた。
「生意気な言い方になっちゃうかもしれませんが、私が参加してからラリーが村おこしのような存在になったところもあると思います。ラリーの会場に村長さんが来る。市長さんが来る。あるときは県知事さん、そして国会議員の方まで来る。そして、家族連れの方や今までラリーにあまり興味のなかった人も来てくれました。そしてラリーって面白いじゃないかって感じてくれたと思っています。でも、私がいくらプライベーターで出場していると言っても、やっぱりマニュファクチャラーの香りがするじゃないですか。スバルや三菱が今まで支えてきたラリーに、長年このジャンルの競技に適したクルマを出してこなかった大手が急に86で出て来たな、という感じは持たれたくなかったんです。だから、ものすごく気を遣ったことを覚えています」(モリゾウ選手のようだが豊田章男氏としての発言か?)。
モリゾウ選手のラリーデビュー戦となった2012年当時の新城ラリーでは豊田氏の心配が杞憂に終わるような歓迎ムードにあふれていたのを会場に足を運んだファンは覚えているのではなかろうか。また、当時会場に設けられた大人から子供まで楽しめるラリーパークは見事なもので、今回の安芸高田でも規模はもちろんコロナ禍における対策などで違いなどは見られたものの、さまざまなアトラクションが用意されていた。
「その後われわれはWRCに行きましたでしょ。F1は残念ながらああいう結果になったけど、もっといろんな裾野を、もっといろんな入り口をね、敷居を低くしてまずは増やそうと思いました。裾野が広がったら今度はガズーレーシングで世界トップレベルにつながる道を作ってあげたいんです。ルーキーレーシングではプライベーターとしてドライバーはもちろんメカニックやエンジニアへのキャリアプランを提案できたらいいなと思っているんです」(モリゾウ選手)。
GRヤリスのデビュー戦でF1の話にまで触れるのは少々意外な感じもしたが、モリゾウ選手がこれから先の思いを語る上で避けては通れない出来事ではあったのかもしれない。
さてGRヤリスといえばWRCだが、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamは参戦2年目の2017年にはマニュファクチャラーズチャンピオン、以降、O.タナックやS.オジェのドライバーズチャンピオン獲得など、素晴らしい結果を残している。そこでWRCの活動から生まれたと公言するGRヤリスが、今後ワークスチーム以外に供給される可能性について尋ねてみた。
国内のイベントでデビューウィンという段階の会場で時期尚早かと思われたが。モリゾウ選手の答えは「WRC2、WRC3はやりたいと思ってます」と即答。えっ、思わず聞き返してしまったが「WRC2、WRC3は絶対いつかやりたい」と再び。
長いブランクを経てWRCへ復帰したトヨタにとっても簡単ではないであろう挑戦もいつか実現してくれるだろうとの期待感を抱かせてくれる力強いコメントが嬉しい。
トヨタ自動車 副会長 兼 経団連副会長 早川氏もラリー参戦
モリゾウ選手同様経済界での重責をも担う1人の週末ドライバーがトヨタ自動車の副会長、そして経団連の副会長を務める早川茂氏。こちらは本名でのエントリーだ。
学生時代はモータースポーツ未経験。6年ほど前にモリゾウ選手のコ・ドライバーに急遽抜擢され右も左も分からぬままラリーの世界へ。そんな状況下で「今まで全戦完走しているから」とのひと言はコ・ドライバーにとってかなりのプレッシャーだったが、すさまじい集中力でルールと道を覚えて臨んだことを考えると、そんな強いプレッシャーもわるくなかったと当時を振り返る。
その後86で20戦程度のラリーに出場している早川氏は競技終了後、次のようにラリーについて語ってくれた。
「普段は普通のオートマチック車に乗っています。ラリーを始めたときすでに60歳を超えていましたので実は長距離の運転はしんどいな、とか、ちょっと運転が下手になってきたかな、って思い始めたころでした。でもコレ(ラリーのこと)をはじめてから運転が面白いんですね。考えながら運転するんですよ。ゆっくり走っていても自車に位置とセンターラインの距離とか、前後左右の状況とかいろいろと考えながら走るんです。プロの方からそう教わったから。それ以来長距離運転が全く苦にならなくなりました。ドライバーとして一気に若返った感じがします」。
今回参戦したルーキーレーシングの2台は、86は大森文彦/山本正裕組がチャレンジクラス3位、早川茂/山内理恵子組はチャレンジクラス5位と表彰台には届かなかったが「コレは入賞できなくても、やってるだけでプラスがものすごく大きいと思います。プロの人に話をうかがったり教えてもらったりする機会もありますが、言われること1つひとつがすごく理にかなっているんです。そういうこともあり、僕はエンジニアではありませんが、何となくクルマのいろんなところを気にするようになってきました」と語ってくれた。
「私自身、最初ラリーはどうかなと思ったのですが、やればやるほど自分の運転に対する意識が高まって、普段街で乗っているのも楽しいのはさっきお話ししたとおりです。今ではずっと乗っていたいって思うほどです。最近は世間では免許返納についても話題になることも少なくありませんが、やっぱり外に出かける楽しさってすごく大きいと思います。そのためには安全運転がとても大切です。そもそも、そういう気持ちもクルマ自体が楽しくなければ長続きしないので、(仕事では)ソッチにつなげて行きたいと思っています。ラリーやってるとついつい面白いクルマに乗っていたいなって思っちゃうんですよ」と話す姿も楽しげだ。
早川氏が語る、もっと速く、もっと上位に、とは違うモータースポーツとの関わり方はモリゾウ(豊田)氏が語る「敷居を下げてもっと増やそう、裾野を広げよう」というコメントの裾野そのもの。
GAZOOラリーチャレンジカップは、北は北海道から南は九州までの全国行脚。もちろん上位を目指して出場するのももちろんアリだし、早川氏のように日常の運転がもっと楽しくなるようにという目的もアリかもしれない。いづれにしても、まずはラリーに興味のある人もそうでない人もWRCとも全日本ラリー選手権とも違う雰囲気の会場に一度会場に足を運んでみてはいかがだろう。