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ホンダ F1 山本雅史氏、アゼルバイジャンGPで「レッドブル・ホンダとしての総合力を見せつけることができた」

アゼルバイジャンGPで優勝したセルジオ・ペレス選手のトロフィーとシャンパンのボトルを掲げるホンダ F1 マネージングディレクター 山本雅史氏 (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

 F1 第6戦 アゼルバイジャンGPは、レッドブル・ホンダのセルジオ・ペレス選手がキャリア2勝目、レッドブル・ホンダに移籍してからは初優勝という結果となった。

 残り5周までトップを走行していたレッドブル・ホンダのエースであるマックス・フェルスタッペン選手は、ストレート走行中のタイヤバーストにより残り5周でリタイアに終わってしまったため、ホンダにとっての1991年日本GPでのマクラーレン・ホンダ(1位ゲルハルト・ベルガー氏、2位故アイルトン・セナ)以来となる同一チームでの1-2フィニッシュは次戦以降にお預けとなった。

 シーズン全体を見れば、6戦してメルセデスとの対戦成績を3勝3敗(ハミルトン選手3勝、フェルスタッペン選手2勝、ペレス選手1勝)とイーブンに戻し、ホンダF1はメルセデスとハイレベルの戦いを繰り広げている。

 前戦のモナコGP時点で両タイトル(ドライバー選手権、コンストラクターズ選手権)でポイントリーダーとなったレッドブル・ホンダだが、メルセデスのルイス・ハミルトン選手が赤旗中断後の残り2周でのレース再開時に1コーナーを曲がりきれず15位に終わったこともあり、ドライバー選手権ではマックス・フェルスタッペン選手がトップの座を維持した。また、コンストラクターズ選手権でも、ペレス選手の優勝によりレッドブル・ホンダが2位のメルセデスに26点差をつけてランキングトップの座を維持して次のレースに向かうことになった。

F1アゼルバイジャンGP、レッドブル・ホンダのペレスが優勝しアルファタウリ・ホンダのガスリーが3位に 角田は7位入賞

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1329528.html

 また、アルファタウリ・ホンダもピエール・ガスリー選手が3位表彰台を獲得し、開幕戦後4戦でノーポイントが続いていた角田裕毅選手もしっかり7位に入り、チームに貴重なポイントを持ち帰った。

 そうしたホンダのF1活動のエンジニアリング面を統括するホンダF1 テクニカルディレクター 田辺豊治氏、運営面などを統括するホンダ F1 マネージングディレクター 山本雅史氏の2人が、レース後にオンライン会見で記者の質問などに答えた。

レッドブルにせよ、アルファタウリにせよ、2台共に同じようなところを走ることが重要

ホンダF1 テクニカルディレクター 田辺豊治氏(写真はモナコGP時)

――それでは冒頭に田辺TDから今日の振り返りを。

田辺豊治氏:今日のレースでは最初のピットストップで、メルセデスのルイス・ハミルトン選手をオーバーカットして、マックス・フェルスタッペン選手、セルジオ・ペレス選手で1-2体制となった。しかし、終盤にフェルスタッペン選手がクラッシュしてリタイアしたものの、ペレス選手がきっちり走り、最後の2周となったスプリントレースを走りきって優勝した。そして赤旗中断後の再スタートで、ルイス・ハミルトン選手が1コーナーでコースオフしたことも影響して、ピエール・ガスリー選手が3位表彰台に入った。レッドブルとアルファタウリ1名ずつの表彰台で、ホンダとしては非常にいいレースになった。

チェッカーを受けるセルジオ・ペレス選手 (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

 角田裕毅選手は初めてのアゼルバイジャンのレースで、予選でクラッシュはしたけど、週末を通していいクルマに仕上がっており、最後のスプリントレースでは2つ順位は落としたが7位で入賞することができた。フェルスタッペン選手のクラッシュを除けば、4台中3台がポイントを取れたので、よい結果を残せたと感じている。また、今回ドライバー選手権、コンストラクターズ選手権でもそれぞれランキングトップで臨んだが、それをキープして次戦に向かうことができるのもいいことだ。

――ここに来る前に、バクーは比較的メルセデスが得意なサーキットなのでその戦力図に注目したいという話だったが、今回のレース終えた段階でのメルセデスとの戦力図についてどう考えているか教えてほしい。

田辺豊治氏:今日の結果、データは細かく完全に見直していく。結果として4台がQ3へ進み、2台が表彰台という結果になった。1台は不可抗力で失われたものの、両チームの車両、パワーユニットは進化したと感じている。

――今後似たようなスパ、モンツァ、ロシア、フランスなどでいい勝負ができると感じているか?

田辺豊治氏:それは正直分からない。ここは90度の低速度コーナー、中速度のコーナー、そして極端に長いストレートの組み合わせで、スパやモンツァとは違う。ここがいいからというくくりではない。それらのサーキットに関しては今回の結果を含めて見ていき、セッティングを考えて備える。ただ、1つだけ言えることは、メルセデスはただ指をくわえて見ているだけの甘いチームではないということだ。巻き返しは当然あると見ており、今日がいいからこれから先もいいとは思っていない。

――MGU-Hの回生量では他と比べてよいと確認できたか?

田辺豊治氏:今後に向けて勇気付けられる結果だった。ここのサーキットでは長いストレートがあり、(回生量が足りないと)厳しくなる。そのあたりを弱点克服と位置付けて改善し続けてきた効果が確認できたと考えている。

――燃費的には楽なサーキットではないが?

田辺豊治氏:金曜日、土曜日とどのようにマネジメントするかを決めてセッティングしてきた。慌てたり、危惧したりせず走りきることができた。

――ガスリー選手がパワーロスだと言っていたが、どんなことが起きていたのか?

ガスリー選手が3位でチェッカーを受け喜ぶアルファタウリのクルー (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

田辺豊治氏:パワーユニットにデータに表われる部分も含めて問題が出ていた。ただ、ドライバーがスイッチを切り替えたりすることで対処することができた。詳細はこれから見ていく必要があるが、ストレートが走れないなどのそこまでの大きなロスにはなっていなかった。

――ガスリー選手が3位、角田選手7位、アルファタウリのダブル入賞は、どんな意味があるか?

角田裕毅選手も7位入賞 (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

田辺豊治氏:F1は10チームそれぞれが2人のドライバーで戦っている選手権で、両ドライバーがいいポジションで終わることが重要になる。1人だけ飛び抜けていたりしても、チームとしては戦いにくい側面がある。2台がきっちり同じようなところを走ることが重要だ。今日もフェルスタッペン選手に次いでペレス選手が2位を走っていた。そういうことが大事だ。今までで言えば、メルセデスの2台とフェルスタッペン選手というレースだったことを考えるとこのことは大きい。二枚看板で戦略を持って、相手と戦うことができるようになり、向こうも2台で作戦を分けてくることが難しくなった。アルファタウリも同じであり、2台で点をちゃんと取っていくことが重要だ。

――角田選手は今回の結果で落ち着けそうか?

田辺豊治氏:本人もレースをやっている中でいろいろなことを学んでいる。それを糧にして走りに表現していってもらえば戦っていけると思う。

――レース後、ペレスがクルマを止めたのはなぜか?

田辺豊治氏:ドライバーからも話が出ていると思うが、ハイドロの問題があって、フィニッシュ後最低限の走行でクルマを止めた。詳しくはチーム側の説明を聞いてほしい。

――次戦、フランスGPだが、それに向けてどう準備していくか?

田辺豊治氏:今回のレースから2週間ほどあり、その時間を使ってチームと共同で今年のこれまでの結果や、今回得られたデータなどからシミュレーションをかけてPUの使い方を再検討していく。

フェルスタッペン選手とペレス選手の二枚看板で、戦力が拮抗しているメルセデスとのバトルに勝ち「ファンに喜んでもらえる結果」を

3位表彰台を獲得したガスリー選手を祝福する山本MD (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

山本雅史氏:アゼルバイジャンGPはホンダにとっては29年ぶり(1992年のモナコGPの故アイルトン・セナの優勝、カナダGPのゲルハルト・ベルガー氏の優勝以来)の連勝。総じて言えば、マックスのトラブルはあったけど、ガスリー選手が表彰台3位、角田選手も7位で完走し、ペレス選手も優勝した。こちらも2台で勝負できるようになって、しっかりと準備してきた成果が出てきたと言える。フェルスタッペン選手がいなくなってもペレス選手がしっかり勝てる、それが重要だと考えている。

――タイトルを戦う上で、フェルスタッペン選手のリタイアとハミルトン選手のノーポイントはどう受け止めているか?

最後2周のスプリントレースのスタートで、メルセデスのルイス・ハミルトン選手は1コーナーを曲がりきれず直進してしまいノーポイントに終わった (C)Getty Images / Red Bull Content Pool

山本雅史氏:自分はエンジニアではないので、レースを総合的に見た感想を言わせていただく。今年は本当の意味でエンジニアたちが頑張ってくれていて、その結果が出ている。レッドブルとメルセデスは拮抗しており、ハミルトン選手は最後のスプリントレースで、勝って25ポイントを狙いにいったのだと思う。ハミルトン選手が1コーナーで飛び出したときには、レッドブルとメルセデスが拮抗しているからこそそうなったのだと感じた。ハミルトン選手にしてみれば、勝って25点取ればフェルスタッペン選手とランキング順位を逆転して、しかも大差がつけられる。わるくても現状維持と考えたのではないか。今回ペレス選手が勝って(メルセデスはノーポイントに終わったことで)コンストラクター選手権では26点のリードになった。メルセデスをそこまで追い込んでいる、そういうことだと考えている。

――フェルスタッペン選手のリタイアはタイヤのバーストだとすると今後も影響が出てくるものだと思うが、タイトル争いも含めて、どんな影響があると考えているか?

リタイアに終わったマックス・フェルスタッペン選手(C)Getty Images / Red Bull Content Pool

山本雅史氏:フェルスタッペン選手がリタイアした原因はチームに聞いてほしい。私見を述べさせていただければ、ストロール選手がバーストしたのは確認できているし、モニター越しにも明らかにバーストであるように見えた。今後、フランス、オーストリア2戦、イギリスと続いていく。イギリスでは昨年ハミルトン選手のフロントタイヤが壊れたシルバーストーンであり、より慎重にチェックしていくことが大事だ。総じて言えば、タイトル争いに関しては、1戦、1戦落とせない、ポイントの取りこぼしがないようにしていかないと厳しいと思う。

――角田選手は開幕戦以来、4戦苦しんでいて、今回はしっかり走って入賞した。今回のポイント獲得が彼にとってどういう意味を与えることになるか?

角田裕毅選手(C)Getty Images / Red Bull Content Pool

山本雅史氏:角田選手に関しては開幕戦のバーレーンは、昨年F2でも、そして今年の開幕前のテストでも走り込んでいたよく知っているサーキットで、非常によい仕事をして初レースで初ポイントをゲットした。そしてその次のレースのイモラも走り慣れていたので、チャレンジしようとしてQ1でクラッシュしてしまい、そこから歯車がかみ合わなくなってしまった。

 今回のアゼルバイジャンではレッドブルの首脳陣からもアドバイスをもらい、土曜日のFP3までで徐々にペースを上げて進んできた。その結果、Q3 2回目のアタックでクラッシュはあったが、F1で初のQ3へと進んだ。クラッシュしてしまったのは残念だが、まだまだ学ぶことがたくさんあるということだ。今回クルマをきっちり仕上げて3位にまで持っていったガスリー選手といういい先生もいる。決勝レースで言えば、最後2周のスプリントレースで思うようにペースを上げることができず苦しんだようだ。

 大事なことはレースウィーク、3日間通してどうまとめていくかということだ。3日間をどう過ごせば納得できるレースにできるかということを、今後も学んでもらってほしいと考えている。

――角田選手とは昨日の予選後とかレース前後に話をしたか?

山本雅史氏:そんなに多くは話していないが、Q3の2回目のアタックでクラッシュするまではいい流れで来ていたねという話をした。最後のアタックではブレーキが瞬間遅れてクラッシュしてしまい、チームに申し訳ないと言っていた。1つひとつ学んでいく時期だと思うので、ネガティブには取らないで、今日のレースはしっかり走って完走してポイントを取るという結果を残せればいいねという話を本人ともしていた。

――どんな表情だったのか?

山本雅史氏:表情で言うと、自分自身に納得していないという感じだった。自分がコントロールしきれなかったことに怒っている、そういう感じだった。最後の2ラップのスプリントレースでも、自分が思うようにクルマを動かすことができなかったことに対してフラストレーションを感じていたようだ。その意味で、ガスリー選手などはエンジニアからの無線での指示を100%やれている。それに比べると角田選手はまだまだの部分があるので、そこを本人も改善していかないといけないと感じているようだ。

――イタリアに移動したことは効果があったということか?

山本雅史氏:彼本人もイタリアは食事はおいしいし、空は青くてきれいだし、などとポジティブに捉えていたようで、イタリアに行ったことに満足しているようだ。チームにはガスリー選手というよいお手本がいるので、謙虚に学んでいく姿勢で臨んでいけば中盤から後半にかけてよりよい結果を出せていけると思う。

――シンガポールが中止になったという発表があった。その代替がどうなるのか、アナウンスはないが、ホンダにとってレース数が減って22戦になってもいいのか?

山本雅史氏:個人的な意見で言うと、22戦だろうが、23戦だろうが、参加者にとっては同一条件。メルセデスとは拮抗しているレースが続いているので、おのずと結果もいい方向に向かっていくと思っている。レースの開催数は、正直気にしていない。

――その代替に鈴鹿で2連戦とかはあり得ないのだろうか?

山本雅史氏:自分個人としてはそうなってもらえるととてもうれしいが、あくまで個人的な見解とお断りして言わせていただくと、コロナ禍における日本の現況を鑑みれば、フライアウェイでF1の関係者が2週間日本に滞在するというのは、極めてハードルが高いと思う。

 われわれとしてはオリンピックが開催されれば、鈴鹿でもお客さまを入れてレースをすることができるのではないかということに期待をつないでいるが、状況がそこまで改善せずに仮にお客さまを入れるのが難しかったとしても、ホンダ最後の年の日本GPを、テレビを通じてでもファンの皆さまにお届けしたいと願っている。

――今回もう少しで1-2フィニッシュができそうだったが、ペレス選手の活躍でホンダ陣営にとっての戦力アップになっていくのではないか?

表彰台に2台のホンダPU勢が入った表彰台。ペレス選手のチームでの初優勝は今後のメルセデスとの拮抗した戦いで大きな意味を持つ(C)Getty Images / Red Bull Content Pool

山本雅史氏:今年はホンダにとってのF1最終年で、その年にフェルスタッペン選手とペレス選手という二枚看板でいけると信じてきた。その力を最初に発揮できたのがこのアゼルバイジャンになったが、レッドブル・ホンダとしての総合力を見せつけることができた。結果的にはそうはならなかったのだが、レース中にも関係者からショートメッセージなどで、「1-2いけそうだね、いつ以来か」なんていうメッセージが飛び交っていた(レッドブルのフェルスタッペン選手、トロロッソのガスリー選手という組み合わせで2019年のブラジルGPで1-2を果たしており、約2年ぶり。同一チームでの1-2ではマクラーレン・ホンダのゲルハルト・ベルガー氏、故アイルトン・セナの1991年日本GP以来で約30年ぶり)。しかし、モータースポーツというのは終わるまで結果が分からないスポーツで、なかなか楽には勝たせてくれないものだという思いを新たにした。

 ペレス選手にせよ、今日は残念な結果に終わったフェルスタッペン選手にせよ、素晴らしいドライバーで、残り17戦全てでこういったレースができるように毎レース戦っていき、ファンの皆さまにも喜んでいただけるような結果を共有できるようにしていきたい。